Report◉LimeTec (ライムテック)栁下隆之

AF-S 20mm F1.8で撮影。4K/30pの動画素材からの切り出し。20mmという広角レンズが画角いっぱい活かせるようになった。

AF-S 28mm f1.8で撮影した4K/30p動画からの切り出し

AF-S 85mm f1.8で撮影した4K/30p動画からの切り出し。35mmフルサイズで動画撮影できるようになったことで、レンズの味を隅々まで活かせるようになった。

筆者はニコン使いのビデオグラファーで、ビデオの世界では珍しいと周囲の人から言われることが多い。自身としては、写真業界からの転身で動画を始めた経緯もあって、学生の頃からニコンを使い続けていて大きな不満はない。

音声のことなどを考えると、取材の現場などではソニー製の業務機やα系のボディを選択することもあるが、自分の好みの質感描写で勝負したいときはニコンを選択することが多い。 

筆者の現状として、HD収録の時にはD810D5が活躍してくれている。これらの使い勝手の良さとして上げたいのが、センサークロップによる画角選択で、FXフォーマット(フルサイズ)とDXフォーマット(APS-C)を切り替えて撮影できる。単焦点レンズは1本が2本分の画角、ズームならばレンズ交換に迷うような微妙な画角の際に、クロップを切り替えてレンズで寄り引きしたような使い方ができる。応用的な使い方としては、深度が欲しい時にはDXにして広角側で絞るなど、1台で2センサーサイズ分の使い方ができるというわけだ。これ以前の機種では、DXクロップ時に画質低下が生じていただが、D810D5ではそれを感じたことはない。

クロップ機能については、ソニーα7系でも同様の使い方ができるので、便利と感じている読者の方もいることだろう。

もう一つがタイムラプス撮影機能の充実ぶりだ。インターバル撮影に関しては、他社に先駆けて機能の充実を図ってきた同社だか、D800以降の機種ではカメラ内部でフルHD動画を生成することまでできる。事前に仕上がりイメージを予想しておく必要があるが、コマ撮り撮影したデータをカメラ内部で動画ファイルにしてくれるという機能だ。タイムラプスと聞くと、露出のバラツキによるフリッカーの様な症状を気にしてしまうが、これを露出平均化という前後のフレームとの差分を修正する機能で、ほぼ感じないように撮影することができる。筆者は過去に、イベントの撮って出しでこの機能を使って撮影・編集したことがあるが、鬼のようなレンダリングをまったく要せずにタイムラプス動画を即座に素材として使えるというのは斬新で視聴者の目を引いたようだった。

当然通常のインターバル撮影もできるので、凝ったタイムラプス動画を制作するなら通常の静止画連番で撮影すればよい。この場合でも露出平均化機能は使えるので、露出のバラツキに難儀したユーザーなら恩恵を感じるだろう。

さて、D850以前の機種について、便利な機能を紹介してきたが、実はこの2つの機能が大幅に向上したので詳しく紹介してみたい。

まずセンサークロップの機能だが、D850は同社で始めてFXフォーマットで4K動画の撮影が可能になった。これにより、4K撮影時でもクロップ切り替えの撮影が可能になったことで、効率良く収録ができるようになった。センサークロップと聞くと、画質の面で心配してしまう方もいると思うが、同機は両画角においてラインスキップをせず、ジャギーの無い高精細な動画を実現しているとのことで、これだけの高解像度のセンサーのボディで、この機能を実装している訳だから、動画の画質に拘るニコンの本気度が伝わって来る。FX&DXの両画角での高精細な4K動画の実現できた事により、レンズ資産の有効活用に加えて、現場のスピード感アップにも貢献してくれる訳で、現場で使わない手はないというわけだ。

実は、スペック的には高感度撮影時において、FXに比べてDX時にはS/Nがやや劣るそうなのだか、今回テストした範囲では画質的優劣を感じることはなかった。

尚、クロップの切り替えは、背面液晶の右にあるiボタンを押す事で最小限の操作で呼び出せるので、実用的な機能としてまとまっている。

iボタンを押せば、解像度やフレームレート、マイクやヘッドホンの音量調整など、切り替えたい機能の大半に瞬時にアクセスできる。

そして、タイムラプス撮影機能も大幅に強化された。もっとも注目すべきはサイレント撮影モードの採用で、D800シリーズがライムラプス撮影用途でメカシャッターを酷使されている現状への回答である。筆者が知る限りでも、多くのタイムラプス動画コンテンツがD800810で撮影されている。メーカーとしてこの現状を把握しての新機能搭載だと感じた。

サイレント撮影はローリングシャッターで撮影しているので、高速で動く被写体の歪みや、人口光下でフリッカーの影響を受ける場合があり、これらのデメリットが生じる。

ただし、機械動作の振動によるブレから解放され、かつシャッターの耐久性を気にすることなく大量の撮影が出来るなど、大きなメリットが得られることを考えると、問題は微々たるものだ。加えて、このサイレント撮影に露出平均化を併用すると低輝度の限界を拡張できるので、マニュアル露出での撮影では不可能な、夕景から夜の星空、星空から夜明けのなどを、AE(絞り優先モード)撮影時で一気に撮影する事が出来る。

少し前なら特別な存在感のあったタイムラプス撮影だが、今では素材としてごく当たり前に使われる様になっている。取り分け時間軸での場面転換には必須の感もあり、良質なタイムラプス動画を簡単に撮影できるのは、全ての映像制作者が恩恵に預かれるだろう。

大きな欠点が無い訳ではない。動画撮影時のオートフォーカス性能は他社に大きく遅れをとっており、動体追尾AFなどはお世辞にも使える性能だとは言えない。この点おいて動画には不向きだという印象を持っているユーザーの方々も多いと思うが、前述の2点の機能を挙げただけでも、ニコンの一眼レフの動画性能が他社製品と大きな差は無いどころか、優秀な面をいくつも持ち合わせていると思う。

さらにいくつかの機能を紹介しておこう。

意外かと思うだろうが、ニコンのカメラは外部レコーダと相性が良い。

D5の時にも驚いたのだが、D850も同様に4K解像度でHDMI出力中に内部のカードで4K収録していても、カメラの背面液晶に映像が表示可能となっている。

ピントがシビアな4K撮影時に、カメラの背面液晶で全体の構図を確認しつつ、ATOMOS等のモニターレコーダーで拡大表示してピントを確認しながら撮影できる。

カメラ内部+外部レコーダーでのバックアップ収録もされている訳だから、安心感の高い収録システムを構築できる。

今回のテストでは設定し忘れてしまったが、HDMI接続機器のRECトリガー機能と、その動作状態が背面液晶のアイコンで確認できるようになった。

この手のフラッグシップ級の一眼レフカメラには珍しく可動式の背面液晶を採用。可動範囲も広く使いやすかった。

XQDカードとSDカードが併用できる。動画を2枚のカードに同時に書き込むことはできないが、SDカードが使える点で導入のハードルは低い。

書き込みと読み出しの早いXQDカードなら、撮影後のバックアップ時間を大幅に短縮できる。

仕事が立て込んでいる時期にテスト機お借りしたので、少々触り足りてない感はあるが、短期間ながら実写してみた感じでは画質も操作性も想像以上に良好であった。

編集作業の合間に、アトリエから足を伸ばして浜辺で夕焼けを狙ってみた。画質と機能面を中心に動画をまとめてみたので、文書中で紹介した機能の補足になれば幸いです。

最後に一点、ニコンのレンズは一般的な動画用レンズとフォーカスリングの回転方向が逆である。しかし、最近では安価でリバース(逆回転)対応のフォローフォーカスも出回ってきているので、それを気にすることなく使えるようにリグを組んでしまえば解決できる。

レンズを含めての導入となると、なかなかハードルが高いのが現状ではあるが、食わず嫌いをせずに一度体験してみては如何だろうか。