7月8日(日)、横浜美術館レクチャーホールのおいて、日本ビクターが主催する東京ビデオフェスティバル(TVF)の作品を元にした、TVF市民ビデオフォーラムが開催された。TVFは約30年の歴史を持つビデオコンテストだが、今年3月に初めて横浜市で発表・表彰式を開催。これを記念してのイベントとなった。テーマは「いま、市民ビデオジャーナリズムがおもしろい」。最近の傾向として、身のまわりの出来事にカメラを向けながらも社会への普遍的なメッセージとなっている作品が多いという。TVF2007の作品を上映しながら、市民ビデオジャーナリズムの効果について、トークセッションが行われた。
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TVF2007ビデオ大賞の「漢字テストのふしぎ」をベースにトークセッション
 
まず第一部は、TVF2007ビデオ大賞を獲得した「漢字テストのふしぎ」(長野県梓川高校放送部)を上映した後、梓川高校放送部の森本菜津美さん、放送部顧問の林直哉先生、元NHKディレクターで愛知東邦大学教授の戸崎賢二氏の3名が壇上にあがり、ディスカッション。司会はTVFの審査員でもある佐藤博昭氏が務めた。「漢字テストのふしぎ」は、漢字表記の曖昧さに着目した高校生が、小中高の先生や教育委員会、文部科学省の担当者にインタビューしながら、問題点をあざやかに浮き彫りにしていくというもの。見る人によってさまざまな捉え方ができる作品で、漢字教育だけでなく、教育行政、教師像など多面的なものが見えてくる。戸崎氏は、この作品を「日常の中にある未解決の問題を提示し、さまざまな人につきつきていくけれども、最後になってもそれは解決されていない。テレビ番組ではあり得ない構成であり、ある意味、ショックを受けた」と評価した。また、「基準が曖昧である」という点から、表現に関わる教育=映像教育にまで話は及んだ。映像教育は、、自分たちで企画を立て、ロケなどの実践を行い、結果を自分たちで評価するという、一つのサイクルがすべて自分たちに任されている。それが他の教科とまったく違うところであり、サイクル(循環)があるということが、人間を成長させる、という意見も出された。
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市民ビデオで世の中は果たして良くなるのか?
第ニ部は、市民ビデオジャーナリズムとこれからの広がりについてのトークセッション。ゲストは、農村からのビデオレポートを放映しているグリーンチャンネル・アグリネット・ディレクターの小森憂子氏、日本映像学会会長の波多野哲朗氏、キャスターで市民メディアアドバイザーの下村健一氏、映像教育に携わる東海大学文学部准教授の五嶋正治氏。各人が市民ビデオらしい映像を持ち寄り、上映しながらの話となった。
 たとえばアグリネットでは、当初は農家の人に地元の特産を地域が人が撮ってくれればラクだなという発想だったのが、思わぬ成果があったという。撮影を任された地元の人が楽しんで映像を作るようになり、徐々にその人なりの視点が出てきた、つまり作家性が出てきたのだという。映像というツールが、単に情報を送る・伝えるというだけにとどまらず、「作品」になっていったという好例である。
 最後に会場から、「市民ビデオ作品は増えているのに、世の中が良くなっていっているとは思えない。本当に機能しているのか」という辛らつな質問があがった。
 五嶋氏は、「映像メディア教育には、送り手側の教育と同時に、受け手側の教育も必要であり、市民側の目が肥えていかなければ変わらない。子供たちにメディアリテラシー教育をし、受け手のレベルが上がっていけば、改善されていくだろう」と語った。
 下村氏は、「市民メディアといっても、知らない人が多い。現にこの会場も満杯にはなっていない。良質な市民メディアが、世の中が悪くなっていっているスピードを止めていることは確かだが、もっと知らしめる努力をしないといけない。自分のホームページでも紹介しているので、チェックしてほしい」とまとめた。
 さまざまな話題がテーマにのぼり、時間の関係でそれぞれを掘り下げられなかったのは残念だが、全体として、市民メディア、映像教育の将来に希望を抱かせる内容だった。
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