HPのWindowsのワークステーションZシリーズは、
写真、3DCG、映像などプロフェッショナルの現場で使える最先端のマシンだ。
今回は、映像制作業界で活躍される高野光太郎さん(Cosaelu Inc.)を中心に
最近の映像制作の現場を想定してRAW素材を中心にテストしていただいた。



――まずは自己紹介をお願いします。
高野 映像制作全般をやっています。ディレクションだけでなく編集、グレーディングまで。内容的には子供番組やビデオパッケージなどです。編集環境としては、テープはほとんどなく、ファイルベースでPCだけでやっている状況です。ファイルベースにするのが早かったですね。最近の仕事のなかでは、REDとかBlackmagic Cinema Camera(BMCC)といったグレーディングができるカメラが出てきたので、自分の環境でグレーディングするのも楽しくなってきました。アプリケーションは主にAfter Effectsで、編集はPremiereですね。あとグレーディングするときはDaVinci Resolveを使っています。
――4Kの素材は?
高野 たまにCMの仕事ではREDの4Kの素材が来る時があります。4K納品ではなくても、4Kで素材を残しておきたいという意図がプロデューサーにあるので。あと僕は特殊な使い方として、4Kの素材から切り出して寄ったりといったことも多いですね。
――今回、HPのワークステーション、HP Z820を扱うにあたって、どういうテストをされましたか?
高野 僕だけではそれほどカバーできる範囲は広くないので、一緒に仕事をしている方々に声をかけました。REDに詳しい撮影の倉田良太さん、グレーディングに詳しい田巻源太さん(インターセプター)、ファイルベースの環境で昔から一緒にやっている田中一成さんにもいろいろ意見を聞きながら検証してみました。
 僕がHPのマシンに求めたのは、どれだけアドビのソフトが快適に動くのかという点ですね。それ以外の部分は他の方にお任せしました。

▲写真左から、田中一成さん、田巻源太さん(インターセプター)、高野光太郎さん、倉田良太さん。
田巻 インターセプターという会社は目黒に編集室とMAルームを持っています。ポスプロ設備をもっている制作会社という立ち位置ですね。PVなどはディレクションから全部やったりしますので。自分の作業で一番多いのは映画の編集技師としての仕事です。自分で編集したものをカメラマンと一緒にグレーディング作業をして、最後DCP用に書き出しするという作業が一番多いです。
――今回のワークステーションのテストではどういう部分を担当されましたか?
田巻 セットアップの部分から全部一通りやりました。Windows環境の中で映画、ビデオ作品を作るという作業がどこまでスムーズにできるのかというところがポイントでした。ワークフローが組めたら、あとはパフォーマンスになるのですが、自由度が高いのがWindows環境の利点だと思うので、その点でどこまで力を発揮するのか楽しみでした。
倉田 僕は基本的にはカメラマンです。フリーで撮影の仕事をしています。フィルムでテレシネ時に使われていたDaVinciがDaVinci Resolveというソフトになって、カラーグレーディングがMacでもWindowsでも自分のところでPCベースでできるのは凄いことだと思います。ここ数年注目しているところです。今回Windows環境でというところがポイントで、Mac Proは成長がストップしているのに対して、Windowsは進化している。その中で映像編集やグレーディングがよりスピーディにできるのかどうか、データが重くなってきているなかで、どこまで快適にできるのかということに興味があります。
――今は撮影の人でもカラーグレーディングソフトを触るということも増えてきているのですか?
倉田 全体的にはどうかわかりませんが、ポスプロでカラリストにやってもらうという以外に、自分の手元にそういう環境があれば、こうしてみたらどうかな、ということが時間をかけてできるので、いいと思いますね。ポスプロに入っているとどうしても時間が気になるので。それがPC環境にあれば、ある意味落ち着いてできますよね。
田中 僕は高野さんの後輩になるのですが、編集が7割くらいで3割が撮影。その撮影はEOS 5Dクラスでやることが多いですね。内容はCMとPVとウェブですね。撮影から編集、カラーグレーディングまでファイルベース環境でやっています。カラコレは当初Colorを使っていたのですが、編集でのやりとりがスムーズではなかったので、After Effectsを使っています。今回、Blackmagic Cinema CameraとDaVinci Resolveのワークフローを試すということでしたので、興味をもって参加しました。

DNxHDコーデックを活用するのがポイントになる


――今回のテストの内容を教えていただけますか?
高野 素材としてはBMCCの2.5K RAWデータとRED ONEの4K のR3Dデータを用意しました。通常のHDのデータはこういったRAWのデータが処理できるのであれば問題なく動きますから。
田巻 WindowsマシンでBMCCで撮影したSSD(HFS+フォーマット*注)から素材を読み込むには、MacDriveなどのユーティリティソフトをインストールする必要があります。次にアプリとしてはアドビのPremiere、After Effectsを入れて、DaVinci Resolveを入れ、その後、NVIDIAのドライバを更新しました。
(*注:2月1日のVer.2.0により、Windows 上で ExFATフォーマットされたSSD もサポートされるようになり HFS+ または ExFATどちらのフォーマットでも使用できるようになった/2月7日追記)
 BMCCのRAW素材はそのまま編集することが現時点ではできないし、読み込めたとしてもひじょうに重いので非現実的ですからDaVinci Resolveで中間コーデックに変換してから編集します。そのときにどういったコーデックにしたらいいのかというのが、多くの人がひっかかる部分だと思います。というのもMac環境ではProResが業界では普及しているのですが、WindowsではProResのデコードはできても、エンコードができないからです。ということで試行錯誤した結果、アビッドのコーデックであるDNxHDを利用すれば、DaVinciから書き出し、それをPremiereで読み込んで編集することができました。

――DNxHDコーデックはMedia Composerを入れなくても入れられるのですか?
田巻 大丈夫です。無償でウェブサイトからコーデックをダウンロードすることができます。作業に携わる各メンバーそれぞれがコーデックを落としておけばいいのです。
 プレミアで編集した後はXMLで書き出し、それをDaVinci Resolveで読み込み、グレーディングしてプレミアに戻すというラウンドトリップが可能なことが分かりました。
高野WindowsのPremiere環境でDNxHDがちゃんと動くのかという心配がありましたが、まったく問題なかったですね。
――Windowsのワークステーションを映像制作の現場に導入するには、DNxHDが一つのポイントになるということですね。
高野 Windows環境では、ひとつ間違うとアニメーションコーデックで渡してしまうことがあります。あと8ビットのTIFF連番とか。少し前は正しかったのですが、今はやめておいたほうがいいですね。そもそも色空間が違いますし、RAWデータで撮っても8ビットになってしまうし、タイムコードもなくなる。TIFFの連番で欲しいと言われても、15秒や20秒ならいいですけど、90分や120分となると、それは無理ですからね。
田巻 DNxHDのような10ビットの優秀な中間コーデックをうまく活用するということですね。
ただ、DNxHDは、アビッドの世界では普通に使われていますが、他の編集ソフトではそれほど使われていないので、このコーデックを使った場合の検証を引き続きやっていく必要はあると思います。特にAfter EffectsなどRGB系の合成ソフトとやりとりをした場合に色が大丈夫かということなどきっちり確認したほうがいいと思いました。
倉田 DNxHDでいえば、現場用の収録機器ではProResだけでなくDNxHDを採用するものが増えてきたので、収録の段階ではそれほど負担はないですね。場合によっては、業界のスタンダードになるかもしれません。

グラフィックボードの選択で快適さは格段にアップ


――現状普及しているMac Proと比較すると、マシンの快適さという意味ではどうでしょうか?
田巻 何の問題もなく2.5KのRAW素材を扱うことができました。相当ノードを重ねてもフルフレームで動くでしょう。いい意味で差はないですね。オペレーションでの違和感はショートカットキーが違うくらいなもので、特にDaVinci Resolveでコントロールパネルを使用する場合は、違いを感じることはありません。自分のスタジオに入れたとしても、プレビューモニターを見ながらコントロールパネルを触るということになるので。つまりOSは重要ではなく、快適に動いてさえくれればいいのです。特にHP Z820はDaVinci Resolveの認証がとれているマシンなので、なお良いですね。

▲RAWの素材であってもフルフレームで再生するのでストレスがない。
――REDの4K RAWデータはいかがでしたでしょうか?
高野 それも同じワークフローですが、PremiereではGPU、それもNVIDIAのアーキテクチャであるCUDAに頼っている部分が大きいので、最適なグラフィックボードを選択することによって、格段にパフォーマンスが上がることがわかりました。
倉田 4Kのデータが1/2解像度ではありますが、リアルタイムで30コマ動いたので、これには感動しましたね。RED ROCKET(RED社が提供する専用のボード/4KのRAWデータをR3Dファイルから直接レンダリングすることなくリアルタイムで再生可能なボード。ただし538,650円と高価)なしでこれができるということでコストパフォーマンスは高いと思います。
高野 4Kを最終的にHD用途で使う場合は、1/2表示でまったく問題ないですからね。
倉田 30コマ再生はなかなかできないですよ。これはCPUのパワー、最適なGPUの選択、ストレージの速さ含めてトータルで可能になっているんでしょうね。
高野 特に映像の場合は各ソフトウェア側でGPUでの処理の比重が高くなっているのでGPUに何を選ぶかがポイントになってくるわけです。
田巻 DaVinci Resolveの場合、パフォーマンスを出すには、画面を出すためのGPUのために1枚、レンダリングのGPUが1枚以上のグラフィックボードが必要になります。最初に検証したQuadro 6000+Teslaという構成では、4K、1/2解像度、30コマというのは走らなかったのですが、それをレンダリング用に手持ちのGeForce GTX 580に換えたところ問題なくクリアできるようになりました。

▲テストの途中でグラフィックボードを交換。スペースも広いので作業もしやすく、ボード選択の自由度は高い。
Mac Proだとスロットのサイズや内部の電源容量の問題もあって、自由には組み替えられないんですよ。HP Z820の場合は、スロット自体が大きめに作られているのもあって、選択肢が広いのはいいですね。たとえばGeForce GTX 680を2枚挿してRAIDカードを追加することも可能ですね。筐体の中にSSDを5台入れられるので、そのうち4台でRAIDを組むこともできます。とにかく自由度が高いのがメリットではないでしょうか。
 グラフィックボードに関しては、一応HPさんのホームページでカスタマイズできるなかで選択してみましたが、これがPremiereやDaVinciでベストというわけではありません。自分でグラフィックボードを入れる場合は、個々人で検証していく必要があるでしょうね。

▲HPワークステーションのページでは、
見積もり段階でマシン構成を検討できる。


▲映像業界への導入を前提に選択肢の中からグラフィックボードを選んでみる。
倉田 今回テストしてみて実感したのですが、これで持てるパフォーマンスを全部出しきっているかどうかわからない。もっと出るような気がします。

これからの4K時代は拡張性、自由度の高さが重要になる


――最後に、今回テストされてみて、今後の展望含めた感想を聞かせてください。
倉田 REDの4Kの素材が1/2解像度であっても30コマで再生するというのには驚きました。あとはWindows環境をどう考えるかですね。映像作りのワークフローのなかで、一か所ですべてが終わるのか、複数の場所で作り上げていくのかで話は変わってきます。僕の場合、撮影したデータをある程度カラコレしてからProResに書き出して監督に渡すという作業が大半です。受け手がDNxHDでよければ、DNxHDにすればいいのですが、現状はProResで済んでいる。だからみんながWindows環境でDNxHDのほうがいいとなれば、一気に変わっていくと思います。
高野 もしかしたらDNxHDというよりも、ソニーのXAVC(ソニーが提案する4KからHDまでカバーするH.264ベースのコーデック)のほうが早いかもしれませんね。
田巻 4Kへの転換点ということで、今はまさに時代の変わり目だと思います。そのときに自由度の高いシステムのほうがメリットがあるのであれば、Windowsのほうに流れがいく可能性は充分あると思います。
高野 マシンとしては、やはりボードが何枚を挿せるというのは大きなポイントだなと思いました。現状のMacでは外付けせざるを得ないところもあるので。HP Z820はグラフィックカードやCUDAのバージョンを合わせることで、今よりももっとパフォーマンスを引き出せる気がするので、最高パフォーマンス時でのAfter Effectsを試してみたいですね。そう思わせる潜在能力の高さを感じました。
田中 これまでMac環境でやってきたのですが、これからWindowsに乗り換えるとすると、今のMacよりも2倍速ければ、2倍の価格であってもいくと思います。
高野 そういうマシンを組めるのであれば、喜ぶ人は多いでしょうね。
倉田 これから4Kの素材は増える一方だと思います。最終的にHDに仕上げだとしても、4Kオリジナル素材から切り出すことも多い。とすると、速いに越したことはないでしょう。
田巻 Mac Proがそれほど進化していないこともあり、ハイパフォーマンスを求めるのであれば、選択肢として魅力的だと思います。カスタマイズの自由度が高いので、追い求めればパフォーマンスを上げていくことができることも好感触を得ました。DaVinci Resolveは現行の最新版のグラフィックボードを入れればかなりパフォーマンスが上がると思います。そのベストな解にたどり着くまでの検証の過程、組み合わせのパターンというのはかなりあるので、そこは大変な作業になると思います。グラフィックボードにしてもメーカーや販社が推奨として売っているもの以外を挿すとなると、サポート外になるので、どこかが完全な組み合わせでサポートも含めて提供してくれれば、爆発的に普及するのではないでしょうか。それに見合うだけの価値、可能性はあると思います。
――検証もかなり時間をかけていただいて、貴重なデータが得られました。
ありがとうございました。


◎HPワークステーション Zシリーズの情報はこちらから