vol.14「室内におけるドローン空撮」
文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空 撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/

先日、テレビ番組『日本を空から見てみよう』の撮影で栃木県那須高原にある「那須とりっくあーとぴあ」でシスティーナ礼拝堂を3/5のスケールで再現した室内をドローンで空撮しました。
数年前のミラーレス一眼を吊り下げて飛ぶDJI S800クラスの大型ドローンであれば、完全にマニュアル飛行しかできず、飛行できる空間にも余裕がなさすぎてお断りしたであろう案件でした。
しかし近年のドローンではGPSの助けがなくとも、かなりの精度で停止ができます。また、手に載るような小型のドローンでもそこそこの映像が撮れるようになってきたので、飛行させてみました。

Mavic Proにプロペラガードを装着して、屋内で飛行させた。

Mavic Proで前方センサーはオフにして撮影

撮影に投入したのはDJI Mavic Pro。少々頼りないとも感じる小ささなのですが、室内の撮影ではそれなりに大きさを感じます。今回の撮影対象は奥行30m、横幅が10m、高さが10m程度の空間。
まずは大聖堂に入っていくシーンを空撮。「幅90cmのドアの手前から飛ばし、そこを抜けての大聖堂」というカットを撮りたかったので、買ってから一度も使っていなかったプロペラガードをさすがに装着しました(笑)。
想定はしていたのですが、ドアをすり抜ける際に前方に設置された障害物検出用のステレオビジョンセンサーが反応してドアの手前で止まってしまい、すんなりと通り抜けられません。
結局、前方センサーをオフにしてすり抜けましたが、すーっと気持ちよく通り抜けるには両側のクリアランス(間隔)が狭く、少しドアの手前で躊躇するような動きの残るカットしか撮影できなかったのが心残りです。また、ドアの前と部屋の中の輝度差が相当あり、露出はオートで撮影せざるを得ませんでした。

室内でもピタリと止まるビジョンポジショニングシステム

続いて内観の撮影…と言っても、限られた狭い空間なので、機体はむやみに動かさず、空間と壁画を見せるためのドローン操作となります。すなわち、長辺に向かってのドリーカットと短辺(正面の絵画)に向かってのヨリとヒキもしくは、そのアレンジのカメラワークに限定されるわけです。
大聖堂室内に入り、離陸。室内で全くGPSが受信できない条件なのに、機体下に備えられた超音波センサーやポジショニングカメラによるビジョンポジショニングシステムのおかげで機体はピタリと止まります。ほぼ自作の大型機でドローン黎明期から飛ばしてきた人間にとっては驚きの止まり具合です。
横ドリーや正面の絵画向けのヨリやヒキなどの面白くはないけれど基本のカットを撮影していく。下部のビジョンポジショニングのおかげでピタリと決まり、ピタリと止まってくれる…。今だかつてない感覚の撮影で、うれしくて様々なカットを撮影しました。

「那須とりっくあーとぴあ」施設内に再現されたシスティーナ礼拝堂。

思っていたよりも舵が効かないビジョンポジショニングの限界?

被写体が近距離にある場所での撮影は、わずかな速度ムラや角度ズレ、水平ズレ、位置ズレなどがとても気になるものです。完璧なカットを撮ったつもりがわずかに中心を外していたり、速度ムラなどがあったりすると、見る方は大変気持ちが悪いので、何度もやり直しをしながら撮影をします。しかし、ここで問題発生!
主題となる人物の絵が礼拝堂の一番奥、高さ7m程度の場所にあります。そこから一番離れた位置からその人物の絵に寄るために、低空から上昇しながらのカットを撮影していた時です。正面の壁に近づいていき、そろそろ止めというところでプロポのエレベータ(前後移動)を引いたのですが、止まらない。想定の停止位置から3m程度も手前から逆の舵を入れているにも関わらず、進んでしまう。むー…。
室内の比較的高い高度(7m程)での後進でも、同じような現象が確認されました。撮影時間や他の見学客の都合もあり、その場で原因の特定までは行えませんでしたが、考えられるのは、【1】「スペック上は13mまで有効なビジョンポジショニングの動作高度が、実際は7〜8mだった」【2】「床面が幾何学模様だったため誤認していた」【3】「Mavicの設定で急ブレーキがジンバルに与える影響を抑えるため、ブレーキ設定を最弱にしていた」などが挙げられると思います。
仮にビジョンポジショニングの限界高度まで来たのなら、Attitude(A)モードに移行してくれれば、舵通りに止まるはずなのですが、Pモードとそれが圏外になった時の挙動は、もう少しチューニング精度を上げて欲しいものです。そして読者のみなさんも同様の撮影を行う際にはこれらに注意し、事前にテストすることをおすすめします。

もうひと声! のレンズ性能

この時の動画撮影は、薄暗い室内のために感度をISO1600〜ISO3200に上げざるを得なく、こういった精緻な絵画を撮影するには若干ノイズが気になりました。もう一段明るいレンズや撮像素子の大型化などで暗部撮影が有利になると、室内撮影のバリエーションが増えると思います。またレンズの焦点距離は35mm判換算で26mm程。このような場所ではもう数mmワイドが欲しいと思いました。
この時は同時に、スチル撮影も試してみました。ぴたりと止まるホバリング性能とジンバルのおかげで、ISO100・シャッタースピード1秒などというような、従来の飛ぶモノからの設定では考えられないスローシャッター撮影も、いとも簡単にできるようになっていました。これならば、風が弱い夜間の屋外でも同様の撮影ができそうです。

今回撮影を行なった「那須とりっくあーとぴあ」は3つの美術館からなる日本最大のトリックアートのテーマパーク。
公式サイトはこちらhttp://www.trick-art.jp/