航空カメラマン・野口克也の 前略、空からお邪魔します vol.16 「ドローンと”風”について」


vol.16「ドローンと”風”について」
文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空 撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/

 

※この連載は2017年5月号に掲載した内容を転載しています。

 

春は「風」の季節です。日射のエネルギーが日増しに強くなってきていますが、まだ冷たい空気も大陸から流れてくる春は大気の状態が不安定になったり、定期的な低気圧が通ったりして、突風なども吹きやすい季節です。突然の不安定な風で墜落するモーターパラグライダーの事故も、春先が多かった記憶があります。

ドローンは空気をプロペラで掻いて空中に浮く航空機の一種です。当然、風の影響を多く受けます。どんな風では飛ばすことができて、フライトを中止したほうがいいのかについてお話しましょう。

ドローンはどのくらいの風の強さまで飛ばせる?

風の強さというものは一般的には風の速さで表されます。日本では秒速(1秒間に進む距離[m])の数字に3600をかけると、一般的な時速(時間 × 距離[km])になります。1m/sは3.6km/h、36km/hは10m/sです。毎秒10mの風は時速36kmの風と読みかえられます。

「ドローンはどのくらいの強さの風まで飛べるのか?」という質問を多く受けます。初期のドローンは、モーターや機体を制御するコントローラーの性能が低かったため、不安定な風の中では容易に機体がひっくり返るようなことがありました。その頃のドローンでは、フライト自体は7〜8m/s以下、撮影だと5m/s以下が望ましいと答えていました。現在、新機種のドローンでは大型機を除いて、飛行中に突然機体がひっくり返るような心配はほぼなくなってきています。フライトだけでいうと10m/s以下、撮影でも7m/s以下くらいでしょうか。

風速は「m/秒(秒速)」で記載されるが、
「km/時間(時速)」に置き換えるとイメージしやすい

▲風速は日本では秒速で記載される。秒速に3600をかけると時速になる。10m/sならば36km/hの風が吹いているということ。自動車などの運転は時速で表記されることから、時速に換算したほうがイメージはつかみやすいだろう。

 

ただこれは、空中でのドローンの能力の話であり、パイロットの技量とはまた別の話です。実際のフライトでパイロットが気をつけるべきポイントは離発着時の挙動と、高度管理です。

離発着時はプロペラの回転がまだ上がりきっていなかったり、地面やその他障害物がそばにあったりするので、風でふらついた機体がそれらに接触する可能性があります。どうしても強風下で飛ばす必要がある場合は、①建物や、大型の車の風下など、無風地帯を利用して離陸させる。②高度数mまで一気に離陸させてしまう。ーーーこの、どちらかが有効かと思います。

いずれにしても飛ばしたら、風の中でしばらくの間、機体の挙動の様子を見る事をお勧めいたします。また、きちんと安全対策をした上でのハンドキャッチ、ハンドリリースも有効です。

風は一般的に高度が高くなるにつれ強く吹く傾向があります。地上では7〜8m/s程度かな、という風でも、100mもあがると10m/s以上吹いているということがほとんどです。地上付近の風速ですでに運用限界に近いなと感じたら、高度を上げることは控えましょう。

スペックシートから読み解く耐風性能

DJI のPhantom4 Proを例に挙げてみます。スペックシートには最大速度が速度重視のSport(S)モードで72km/h、GPSや障害物センサーが有効に働くPモードで50km/hと書かれています。これはSモード20m/s、Pモード13.9m/sと読み替える事ができます。

つまり、14m/sの風の中でPモードで飛ばした場合は、「少しでも風下に流れた瞬間に、離陸した地点までは戻ってこられなくなる」という事を意味しています。

「平均風速」という言葉があるように風は一定のスピードで吹いているものではありません。地形や建物の影響で風速が上がることもあります。そういうことも考慮すると、各モードの性能公表速度の半分から2/3程度の風が空中での運用限界の目安になると思います。

また、公表速度はあくまでも「飛んでいられる」という点においての限界なので、ジンバルが風でブレたり、意図したような空撮ができるかできないかは、技量によるところも考慮すべきでしょう。

プロペラガードと風

プロペラガードは風がない屋内での撮影や風が弱く障害物が多い低空での撮影では安全面で効果があります。しかし一般的なプロペラガード、つまり重心位置から遠い場所で風を受けやすい形状をしているもの、が四方向についている場合は、それ自体が風を受けて、機体を不安定にする要因になりかねないと考えています。風が強い時はプロペラガードを外すほうが機体が安定し、墜落するリスクを減らすことになる時もあります。

地形による風速変化

山や崖、大きな建物の障害物の周りでは、それらに風が当たることにより、風に変化が起きます。風上側では気流は上昇し、風下側では下降します。そして乱流による渦ができます。風上側での変化は比較的穏やかですが、風下側の乱流は、時に機体の姿勢や高度を維持できないほどの激しさになります。ドローンパイロットは常に風の強さ、方向と地形に目を配り、できることならば風下側には近づかないなどの、プランニングが必要です。

風…それ自身は人間の目には見えないものですが、風が起こす変化は木々や枝葉の動きなど見えることも多いものです。降雨や日照などのように見えやすいものではありませんが、ドローンの飛行における天候状態の一番重要なファクターなので、その変化を見逃さない目を養い、安全なフライトを心がけてください。

地形によって起こる風の変化に注意

▲風は乱気流の一種。強い風が建物や木などにぶつかった場合、風下側、山の頂上の風下側などに図のような渦が発生することもある。山や谷、大きな建物があるような場所の飛行にはこうした特性を理解した上で飛ばすのが望ましい。