斎賀教授のアフターファイブ研究室〜同じレンズ焦点距離でも画角が違う?


同じレンズ焦点距離でも画角が違う?

Report◎斎賀和彦

 

きっかけは新しいレンズを買ったことでした。キヤノンの EF70-300mm F4-5.6 IS II 。高価なLレンズではない普及型の望遠ズームですが、ナノUSMによる高速高精度なAFが特徴です。

さっそく以前から持っていた EF70-200mm F4L IS と撮り比べをして画質の違いを見ようと思ったら……なんと映っている範囲が違う。

同じ 70mm や 200mm なのに被写体の大きさが違うのです。別のレンズの 70mm を持ち出すと、これもわずかながら違います(図1)。

図1 左:EF24-70mm F4L IS、中:EF70-300mm F4-5.6 IS II、右:EF70-200mm F4L IS。すべて70mm時に近接撮影。レンズによって画角が違います。

え? レンズの画角表示ってけっこういい加減なんでしょうか? いやいや、まさか、ですよねえ。そして、よく見るとピント位置が無限遠(∞)に近いときはレンズごとの画角差は小さく、ピント位置が近いと差が大きいことに気がつきます。同じ焦点距離でもレンズによってレンズ本体の大きさも違うし、ズーミングによってレンズ全長が変わるもの変わらないものがあり、そのような構造上の違いに起因するのだろうとなんとなく理解するものの、すっきりしないので実際にメーカーの方に訊いてみるのが一番と取材を申し込みました。

お話を伺ったのはキヤノン株式会社イメージコミュニケーション事業本部 ICB光学事業部副事業部長の早川慎吾氏。EFレンズを例にしつつ、キヤノン製にこだわらずカメラのレンズ全体についてお話しいただきました。

▲お話を伺ったキヤノン株式会社イメージコミュニケーション事業本部ICB光学事業部副事業部長の早川慎吾氏。

まず単刀直入にレンズによって同じミリ数でも画角が変わるのか? についてはYes。レンズの構造上の違いに起因するのはその通りだけど、もっと具体的にはフォーカス方式による部分が大きいのだと言います。レンズは近距離から無限遠までピント位置を移動させる必要があるため、フォーカス用のレンズ群を物理的に前後に動かします。全部のレンズを動かす全群繰り出しや前玉繰り出し方式が以前のベーシックで今も使われますが、ズームレンズ(特に望遠系)ではレンズ全長が変化して重量バランスも移動してしまいます。さらにレンズ駆動はモーターの力によって行われるためフォーカスレンズ群は軽いほうが望ましい(AFが高速になる)等の理由により、中間部や後群の比較的小さいレンズを動かすインナーフォーカス、リアフォーカスが多く採用されるのだそうです。

AF速度、レスポンスに優れ、レンズをコンパクトにしやすいインナーフォーカスですが、その代わり焦点距離によって画角が変化してしまうものもあるのです。ちなみに無限遠焦点ではどのレンズも同じ画角だったのは理由があって、レンズの焦点距離を無限遠で測定する測定方法がJIS規格に定められているのだとか。なるほど、メーカーごとに勝手に決めているようなものではないのですね。

AFを高速にかつクイックに駆動するには、高トルクで俊敏なアクチュエータが重要です。キヤノンはそのために超音波モーターを開発。レンズサイズや重さによってリングUSMとマイクロUSMを使い分けていましたが、AFが速ければいいわけではない時代がやってきました。それがわたしの守備範囲である、一眼ムービーの世界です。

例えば喫茶店のシーンがあるとしましょう。手前の珈琲カップから奥の人物にフォーカスが移動するとき、EOS得意の高速AFでシュン! とピントがあったら興ざめです。ここはゆっくりとピントが動かなければ情緒がありません。でも、元々スチルレンズは高速化に集中し、ゆっくりレンズを動かすことなど考えられていませんでした(当たり前ですね)。

多くの動画ユーザーが要望を出し続けた結果(?)、2014年のEOS 7D Mark II で動画サーボAF速度の5段階調整が搭載され、2016年の EOS-1D X Mark II では10段階のカスタマイズが実装されているのですが、この低速ピント送りに対応するのは2009年以降に発売されたEFレンズ。7D2の5年前、さらに言えば初のフルサイズ一眼動画機である EOS 5D Mark II(2008年11月)の翌年には将来のAF速度カスタマイズに備えた機構が仕込まれていたことになります。

▲2009年以降のEFレンズは動画撮影時のフォーカス速度をカスタマイズできる機構が搭載されていた。(EOS 5D Mark IVでの動画作例)

これについて訊いてみたのですが早川氏はにこにこと笑って、それがなんだったのかは教えてくれませんでした。唯一、新しいナノUSMは小型でありながら高トルクかつ制御性に優れた動画撮影を意識したアクチュエータであるというのみ。もしかしたら何年後かに実用化される新機能に備えた技術が、いまのレンズにはもう搭載されているのかもしれないと思うと楽しくなります。

そんなことを考えさせてくれたレンズのお話しでした。

【写真1〜4】
(すべて 上段:
EF70-300mm F4-5.6 IS II、下段:EF70-200mm F4L IS)

【1】70mm時に遠景にピントを合わせたもの。画角はほぼ同一。

【2】同じ70mm時に近景(およそ1.5m)にピントを合わせると下(70-200mm)のほうが画角が狭い(大きく映る)。

【3】200mm時に遠景にピントを合わせると画角はほぼ同じ。

【4】70mm時と同様に近接焦点では70-200mmのほうが大きく映る。