映画監督・武 正晴の「ご存知だとは思いますが」 第28回『ザ・ドライバー』


中・高・大と映画に明け暮れた日々。
あの頃、作り手ではなかった自分が
なぜそこまで映画に夢中になれたのか?
作り手になった今、その視点から
忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に
改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『イン・ザ・ヒーロー』『百円の恋』がある。2017年秋に最新作『リングサイド・ストーリー』、2018年に『嘘八百』が公開予定。

第28回『ザ・ドライバー』

イラスト●死後くん
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犯罪者の逃亡を手助けする超一流の腕を持つプロの逃し屋「ドライバー」と彼を逮捕しようと躍起になって追いかける「刑事」を描いたハードボイルドカーアクション。脚本家としても有名なウォルター・ヒル監督の代表作。

原題 The Driver
製作年 1967年
製作国 アメリカ
上映時間 91分
アスペクト比 ビスタ
監督・脚本 ウォルター・ヒル
制作 ジョルジュ・カサティ
撮影 フィリップ・H・ラスロップ
編集 ティナ・ハーシュ,ロバート・K・ランバート
音楽 マイケル・スモール
出演 ライアン・オニール,ブルース・ダーン,イザベル・アジャーニ 他
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※この連載はビデオ2017年8月号に掲載した内容を転載しています。

 

8月19日公開のエドガーライト監督の新作を一足先に試写で観させてもらった。”ベイビー”と呼ばれる、犯罪者の「逃し屋」青年ドライバーの物語だ。『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ』のエドガー・ライト監督がハリウッドにいよいよ殴り込みをかけた作品を僕は存分に堪能した。

 

センスの塊、エドガー・ライトに嫉妬してしまう

センスの塊、エドガーの相変わらずの音楽オタクぶりが嬉しい。幼い頃の自動車事故で、耳鳴りの後遺症に苦しむ”ベイビー”はそれを克服するために、iPodを手放せない。『ベルボトムズ』が鳴り出し”ベイビー”は車内で銀行ギャング達の到着を待つ。何という選曲だ。

車が走り出し、覚醒した天才「逃し屋」ドライバーのテクニックに圧倒される。『ハーレム シャッフル』が奏でるご機嫌なオープニングタイトルシーンも羨ましい。嫉妬してしまう。観て欲しい。

対決シーンには毎度最高のご機嫌なナンバーを用意してくれるエドガー・ライト監督は今回もやってくれた。クイーンのあの曲を使うとは。使えるとは、またもや嫉妬してしまう。久しぶりの痛快「逃し屋」映画に嫉妬しまくり、少しいじけ気味の僕は、LAの無口なデスペラード(無法者)の映画を想い出した。

『ベイビー・ドライバー』
新宿バルト9ほかにて全国ロードショー
8/19〜公開
監督・脚本:エドガー・ライト 出演:アンセル・エルゴート、ケヴィン・スペイシーほか
原題:Baby Driver 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

ウォルター・ヒルの『ザ・ドライバー』を思い出す

ウォルター・ヒル監督の2作目の劇場映画『ザ・ドライバー』を僕が観たのは1980年6月4日だった。テレビの「水曜ロードショー」で水野晴郎さんの解説だった。中学一年の時だ。夜のロサンゼルスで、ギャングや強盗の逃亡を助けるプロのドライバーの物語。”ザ・ドライバー”に『ペーパームーン』の詐欺師モーゼ役を演じる、ライアン・オニール。僕が大好きなテータム・オニールのお父さん。

無口な主人公は映画が始まって15分間喋らない。夜のLAをひたすら走り、パトカーを出し抜き破壊させる。群を抜いたカーチェイスに姿勢を正して見るしかなかった。逃げ果せた賭博場強盗コンビが、また次も頼むなと分け前を渡すと「二度とやらない。お前達は遅れた」と札束を数えながら言い放つ。最初に喋った言葉だったと思う。

主人公を執拗に追い回す”ザ・ディテクティブ(刑事)”に『ブラックサンデー』のテロリスト、マイケル・J・ランダー役のブルース・ダーン。ローラ・ダーンのお父さん。劇中で最も台詞の多いクソ刑事を好演する。

一度も逮捕されたことのない”ドライバー”をカウボーイと呼び、逮捕するためには手段を選ばず、他にもやるべきことがあるだろうと、部下の刑事からもたしなめられる。

賭博場で “ザ・ドライバー” を目撃するが警察に偽証する謎の女 “ザ・プレイヤー(賭博師)” にイザベル・アジャーニ。僕は一目ボレした。当時23歳、後に『アデルの恋の物語』を観て僕は彼女に完全にイカレテしまうこととなる。

“ザ・ドライバー” に近づく彼女との間にロマンスは生まれない。生まれないから気楽に観られる。彼女を助手席に乗せ、LAの夜を疾走するだけだ。夜のLAを魔法のように魅せてくれた撮影は名匠フィリップ・H・ラスロップ。

編集の教科書的なカーチェイスシーン

88分の作品の3分の1がカースタントだ。LAの夜道を赤信号関係なしに疾走するのが心地よい。全ての路地が頭の中に叩き込まれているかのように裏路地に潜み、地下駐車場、倉庫でのカーテクニックに魅せられる。

ティナ・ハーシュ、ロバート・Kランバートの編集が素晴らしい。車外と車内のカッティングのリズムとタイミングが絶妙なのだ。これは教科書になる。だが、僕にとってカーチェイスは「観るもので、撮るものではない」とも思ってしまう。今の日本では絶対に撮ることが不可能だし、撮る必要を求められていないのかとも思える。

 

名もなき登場人物に物思う

他の登場人物、銀行強盗の “グラス(眼鏡)” 、“ザ・コネクション(仲介人)” 、“ザ・エクスチェンジャー(両替屋)” にも名前がついていない。夜のLAに暗躍する住人達にとって、もはや名前など意味を為さないのか。都市の中での役割と生きる術こそ重要ということなのか。

 

無口な主人公の憂鬱を音楽が慰める

ウォルター・ヒル監督はこの後、『ウォリアーズ』『ストリート・オブ・ファイヤー』という夜の住人達の傑作映画を連発させていく。僕は10代でそんな映画を観て育っていく。無口な映画、主人公の憂鬱に浸っていった。

そんな映画には主人公の憂鬱を慰める、音楽がいつも流れていた。“ザ・ドライバー” のポータブルラジオからもカントリーミュージックが流れていた。彼の過去も正体も説明はない。強盗達の到着を待つ間、彼は音楽を聴く。

僕にはこの間、彼の過去を少し想像する猶予が与えられる。友人も恋人も定職も持たず、盗んだ車で夜のLAを好き勝手駆け巡る。そんな彼を”刑事”はカウボーイ、ディスぺラード(無法者)と呼び、嫉妬して執拗に追いまくる。無口な無法者と饒舌な悪徳保安官の映画はたくさん観てきた。これは現代の西部劇なのだ。

 

『ザ・ドライバー』の毒にやられた映画たち

デンマークの鬼才、ニニコラス・ウィンディング・レフン監督を世に知らしめた『ドライヴ』も優鬱な「逃し屋」の継承作品だ。こちらは自動車修理工で映画のスタントドライバーの「逃し屋」。人妻とのロマンスもある。ロマンスがあるから気楽に観れない。人妻、キャリー・ マリガンとドライバー、ライアン・ゴズリングのエレベーターシーンは切なく、感動的な美しさだった。

『ベイビードライバー』の「逃し屋」 “ベイビー” 青年にもしっかりロマンスが用意されている。ダイナーのキュートなウェイトレスがお相手だ。どんなロマンスかはここでは書けないが、決してお気楽には観られない。

エドガー・ライト監督も『ザ・ドライバー』の毒にしっかりやられているようで、僕にはアメリカン・ニューシネマの匂いも感じとれて嬉しかった。映画は継承されていく。おかげで僕は、ここのところ連日『ベイビードライバー』のサントラを聴きながら、歓喜と嫉妬に明け暮れている毎日なのだ。

●この記事はビデオSALON2017年8月号より転載