映画監督・武 正晴の「ご存知だとは思いますが」 第30回『暁の七人』


中・高・大と映画に明け暮れた日々。
あの頃、作り手ではなかった自分が
なぜそこまで映画に夢中になれたのか?
作り手になった今、その視点から
忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に
改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『イン・ザ・ヒーロー』『百円の恋』がある。2017年秋に最新作『リングサイド・ストーリー』、2018年に『嘘八百』が公開予定。

第30回『暁の七人』

イラスト●死後くん
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第2次世界大戦中、ドイツに占領されたチェコスロバキアを舞台に、ナチス親衛隊大将で、この地の統治者であったラインハルト・ハイドリヒの暗殺を実行するチェコ解放軍兵士達の姿を史実を元に描いた、アラン・バージェスの同名ベストセラー小説を映画化した作品。

原題 Operation Daybreak
製作年 1975年
製作国 アメリカ
上映時間 118分
アスペクト比 スタンダード
監督 ルイス・ギルバート
脚本 ロナルド・ハーウッド
原作 アラン・バージェス
制作 カーター・デ・ヘイヴン,スタンリー・オトゥール
撮影 アンリ・ドカエ
編集 セルマ・コネル
音楽 デヴィッド・ヘンチェル
出演 ティモシー・ボトムズ,アンソニー・アンドリュース,マーティン・ショー,ジョス・アクランド,ニコラ・パジェット他
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※この連載はビデオ2017年10月号に掲載した内容を転載しています。

 

72回目の8月15日。僕は例年のように戦争に関する映画を観て過ごした。毎年戦争の愚かさと平和の尊さを顧みることができる記念日は貴重だ。

最新作『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』(最近の邦題は長すぎでどうかと思う…)を劇場にて観てきた。1942年5月27日チェコ、プラハでのナチス親衛隊大将ラインハルト・ハイドリヒ暗殺狙撃、「エンスラポイド(類人猿)作戦」の戦争サスペンスだ。

ロンドンからチェコに決死のパラシュート潜入した2人のコマンドー、ヨゼフ・ガプチークとヤン・クビシュの物語の映画を観るのは僕にとってはこれが2本目だった。

最初に見たエンスラポイド作戦の物語

僕が最初にヤンとヨゼフの物語を知ったのは1980年の2月8日だった。テレビでのゴールデン洋画劇場で『暁の七人』(原題:Operation Daybreak)を見た。中学一年の時だった。チェコを統治するナチの長官ハイドリヒが宮殿からナチの制服に包まれて出勤して出て行くタイトルシーンから始まるこの映画に僕は引き込まれていった。

「金髪の野獣」「プラハの絞首人」と呼ばれた38歳のナチ・エリートが子煩悩な父親である場面もあった。29歳の主人公・ヤン軍曹を演じるのが『ジョニーは戦場へ行った』のティモシー・ボトムズ。『ジェット・ローラー・コースター』の爆弾魔も良かった。僕が『ラスト・ショー』を観るのは高校生になってからだ。実際のヤン本人によく似ている。ヨゼフ曹長役のアンソニー・アンドリュースも本人にそっくりだ。

プラハに潜入したヤンとヨゼフを匿うのは気のいいおばさんとその家族。おばさんと息子アタはレジスタンスの連絡係だ。夫には内緒のようだ。レジスタンスのアンナはヤンとヨゼフと行動を共にし、プラハの街並みを歩きハイドリヒの情報を探る。

ほぼ全編をプラハで撮影。映画の中の街並に魅せられる

1975年公開の本作品は、ほぼ実際のプラハで撮影されている。古い街並がそのまま残るプラハに僕は魅せられた。ヤンとアンナが歩く石畳の路。ヤンとヨゼフがおばさんの娘さんから借りた自転車に乗って走る小道が素敵だった。この路を自転車で走ってみたいと思った。

撮影は名匠アンリ・トガエ。プラハの街を見事に撮っている。暗殺計画を推し進めるヤン。アンナとの束の間のロマンスが切ない。エルトン・ジョンのキーボード演奏やジェネシスの音楽を手がけてきたデヴィッド・ヘンチェルのサウンドトラックが緊張感と叙情感を際立たせる。

襲撃場面からクライマックスまで圧倒される展開

ハイドリヒの車がいつもの通勤経路で減速してゆっくりと角を曲がる時に襲撃する計画を練る。ハイドリヒがベルリンに戻される予定が分かり、いよいよ作戦が決行される。

ここから映画のクライマックスまで僕は圧倒された。新作でも凄まじい襲撃場面が描かれていた。プラハではこの襲撃が行われた場所に軽機関銃を構えたヨゼフと手榴弾を投げつけたヤンの銅像が立っているらしいのだ。トラム(路面電車)が止まり、破損して止まったハイドリヒのオープンカーも再現されているとのことだ。いつか写真で見て驚いた。

壮絶なナチスの報復。村ごと地図上から消滅

ナチスの報復が始まる。気のいいおばさん達も秘密警察に襲撃される。何も知らなかった夫とおばさんのやりとりが哀しかった。バイオリン好きの息子のアタも拷問にあう。

重傷を負ったハイドリヒが死んだ。プラハ城に向かう葬列の場面が圧巻だ。霧の中のナチス兵の橋の上の行進。アンリ・トガエのカメラがこれから始まる恐怖を予感させる。

ヒトラーは報復としてチェコの小村・リディツェ村を地図の上から消滅させる命令を下す。襲撃犯を村に匿ったという出鱈目な罪を負わされた村民の15歳以上の男子は射殺され、女子供は全員収容所に送られた。『将軍たちの夜』でもピーター・オトゥールの将軍が虐殺と完全なる破壊を指揮した場面は強烈だった。

『暁の七人』の邦題が素晴らしい

ヤンとヨゼフは他にプラハに潜入したパラシュートコマンドー達が匿われている聖ツィリル・メトデイ正教大聖堂に隠れた。密告者カレル・チュルダと拷問されたアタによって居場所を親衛隊に突き止められ包囲される7人のコマンドー達。撮影の外観は実際の教会で行われている。700人の親衛隊との壮絶な銃撃戦の中コマンドー達は自滅していく。再現された教会内の美術が凄い。

地下の納骨堂に立て籠もったヤンとヨゼフは地下道を掘って脱出を計る。放水され水攻めで地下室が浸水して追い詰められる2人。史実では6時間戦闘が続いたそうだ。監督のルイス・ギルバートはラストシーンを史実と異なる夜ではなく朝にした。地下室の小窓から差し込む朝日、絶望の中に差し込む希望。最後の銃弾を放つ2人。さすが『007私を愛したスパイ』の監督だ。

気のいいおばさんの娘さんとアンナの涙が哀しかった。夜明けのプラハの路を行く少女達の後ろ姿に鳩が飛ぶラストカットは永遠だ。『暁の七人』の邦題が素晴らしい。

無知な僕にとって映画が必要なんだと教えてくれた作品

登場人物達のその後が紹介されて、この映画は終わっていく。最後まで目を背けずに観て欲しい。リディツェという名前は地図上から消されることはなく、戦後この惨劇を知った世界中の街でリディツェと改名する村、街が続出したことをこの映画は知らせてくれる。

無知な僕にとって映画が必要なんだと知らしめてくれた作品だ。父親が持っていたアラン・バージェスの原作を貪るように読んだ。あの教会の地下室は今7人の記念館になっているそうだ。

未だ僕はプラハに行けていない。そろそろ少年の時の想いを実現しなくてはと、映画を観終わった僕は劇場の階段を降りながらそんな事を考えていた。

●この記事はビデオSALON2017年10月号より転載