【連載 映画作家主義】ふるいちやすし 第6回「ディテール表現」の違いで長い時間見ていると 視聴者の受ける印象が違ってくる


プロフィール
脚本、監督、撮影、編集、音楽を一人でこなす映画作家。モナコ国際映画祭:最優秀撮影監督、脚本、音楽、アートフィルム賞。ロンドンフィルムメーカー国際映画祭:最優秀監督賞。アジア国際映画祭:最優秀監督賞。最新作『千年の糸姫/1000 Year Princess 』はアメリカSMGグループから世界配信中。

第6回

「ディテール表現」の違いで長い時間見ていると
視聴者の受ける印象が違ってくる

画のトーン(ルック)を自分で作るとはどういう事か?  それはピカソやゴッホの筆のタッチのようにドラスティックなものではなく、レンズやカメラのコントロールによる微細な色調やシャープネス、コントラストなどの変化の積み重ねにより、空気感とも言えるほどの“なんとなく漂うムード”を作る事だ。このムードというものは映画や映像作品のように長時間視聴者を包み込む作品にとっては大切な要素であり、瞬間的に一枚で見せる絵画や写真のインパクトとは違う。ただ作品のテーマ性や作家のオリジナリティーを伝える大きな要素になるものだ。ストーリーや現実の中で起こる出来事や役者の表情や動きのような目の前に在るものをただ伝えるのではなく“どう伝えるか?”という作家の意志を表すためにはなくてはならないのだ。逆にこの要素がない作品は表現ではなくただの記録でしかない。

さぁ、トーンを作って行こう。ストーリーのテーマや直感といった超文系の感覚をカメラのパラメーターやレンズといった理系の操作に置き換えるという事は大概の人はどちらか一方が得意で他方が苦手だと思う。それでも腹を決めてやるしかない。我々の道具は画家の筆やダンサーの身体とは違うのだ。今回から数回にわたってカメラのパラメーター、ピクチャープロファイルについて一つ一つ解説するのでモノにしていってほしい。

初回はディテール(シャープネス)について。“そりゃぁシャープな方がいい”と思ってしまう人も多いだろうが、“柔らかさ・硬さ”と言い換えると言葉の印象も違ってくるだろう。もちろんこれはディテールだけで決まるものではなく、レンズや解像度、コントラスや時には彩度でも変わってくる。特に4K、8Kと画質の印象が硬質になっている時代に、このコントロールはとても重要なものだと言える。

▲ ソニーの業務用ビデオカメラに搭載されているピクチャープロファイルはパラメーターが実に豊富で、ディテールに関するものだけでもこれだけある。中には大型モニターを使っても変化がはっきり分からないものもあるが、いずれにしてもカメラに付いているモニターでは見えないほどの小さな変化だ。画作りをする際には少なくともちゃんとしたモニターを見ながらやるべきだろう。

そもそもディテールとは何なのだろう?  これは明暗の境界に輪郭のような線を追加することでシャープに見せようという機能だ。カメラによってはその線を明るい線にするか暗い線にするかをコントロールできるものもある。そしてこの線を薄くするか濃くするかのコントロールがディテールだと覚えてほしい。ただこれは、かつてのビデオカメラがまだグズグズの画しか撮れなかった頃に、特に文字などをはっきりさせる目的で考えられた機能で、ここまで鮮明に撮れる時代に漫画のような輪郭線など必要ないと個人的には考えているのだが、ほとんどのカメラはデフォルトである程度のディテールが入っていることが多いので、 真っ先にOFFにするのが私のやり方だ。

また、特に大判センサーや明るいレンズを使ってボケを多用する場合、フォーカスが合っている被写体がどの程度背景に溶け込むか、あるいは浮き上がるかもこれで調整できる。いずれにしても微細な変化だ。よっぽど注意しないとその違いは分からないだろう。

だが普段からそれを意識して、細かいコントロールをしていると、その違いが見えるようになってくる。目も養われていくものだ。こういう変化が積み重なって、画の空気感が変わり、あなたの求めるトーンができていく。初めは一つずつ機能を理解し、試行錯誤していくしかない。そうして感覚と機能が結びついた時、その道具は本当の意味であなたの物になり、愛機と呼べるようになるだろう。注意してほしいのは、最近LogやRAWで撮ることを大前提に、このようなパラメーターを持たないカメラも増えてきているし、カタログやホームページを見ても、どんなコントロールができるかまでは分からないことが多い。カメラを買う時には必ずどこかで実機に触れ、どんなパラメーターがあり、それぞれのコントロールがどの程度の幅で可能かを実際試してほしい。

◉私はカメラのディテールはOFF=最小にする

印刷やweb動画でその差が分かるかは微妙だが、動画で見てみるとエッジだけではなく波のちらつきにも差が出るのが分かる。動きがある被写体ではディテールを下げた方がスムーズに見えることが多い。また、ボケた背景の中ではフォーカスが合っている物の溶け込み方、浮き出方に違いが出てくる。一枚の写真では分からないほどの差でも、長い時間見ていると視聴者の受ける印象は違ってくる。

 

ビデオSALON2018年9月号より転載。他にも充実した記事が盛りだくさん!