ビデオグラファースタイルと「地方」は切っても切れない関係
仕事と作品のバランスをうまくとっていく
取材・文/編集部 一柳
伊納達也さん https://www.inahofilm.com/
伊納さんの作品
『お祭り組織論』
鹿沼市の秋祭りをテーマにした6分の短編ドキュメンタリー。海外映画祭等で上映。職業も年齢も違った人々が集まってどうやってこの祭りは続けられてきたのか? 祭りの姿から、変わっていく人々の関係性を探っていく。
『inaho Portrait Documentary Series』
1分〜2分の短い尺で肖像画のようにその人の今の姿を映すドキュメンタリーのシリーズ。スタジオがある栃木県の方々を中心に個人的なライフワークとして制作し、YouTubeで公開中。
『介護3.0の挑戦(「その人らしいまま最期を迎えるために」—当たり前にとらわれない介護の挑戦)』
「Yahoo! JAPAN クリエイターズプログラム」で公開されている3分のショートドキュメンタリー。「最後までその人らしく生き抜ける」介護クリエイター横木淳平の活動を取り上げた作品。
なぜ鹿沼なのか?
デジタル一眼ムービーとともに始まったビデオグラファーの勃興。その黎明期から活躍する伊納達也さんは、これまで本誌に何度か登場してきた。もともと東京で活動していた伊納さんが、栃木県鹿沼市にスタジオを作ったのが2019年。どうして鹿沼だったのだろうか?
「ビデオグラファーとして依頼仕事を受けながら、自分の作品もちゃんと作りたいと思っていたんです。仕事はどうしてもこれまで作ったものを見て依頼されるので、それを打開するためにも違うものを事例として作りたかった。そこでこの鹿沼の近くで短編ドキュメンタリーを撮ったのですが、それが楽しかったので、次の作品でもこのあたりに何度か来るようになって。当時はゲストハウスに泊まっていたのですが、知り合った人からいい物件があるよと言われて…」
ただ、今でこそ打ち合わせはZoomで行い、撮影でクライアントと初めて会うということもあるそうだが、当時は仕事に支障をきたすのではないかという不安はなかったのだろうか?
「東京からそんなに遠くないので、いざとなれば電車1本で行けます。仕事がなくなるということはなさそうだなと保険をかけたところもあります」
仕事はどうしても東京起点だが、撮影のロケ地や活動の場所としては地方に魅力がある。そのバランスがとれるのがこの鹿沼の近辺だったということだろうか。
スタジオのある鹿沼の環境
スタジオのある通りは「銀座通り」という鹿沼の中心街。長らくシャッター街だったのだが、この1、2年でカフェ、ゲストハウスができ、通りを歩くと知り合いに会うことも増えてきたという。郊外には田園風景が広がる。
地方×ビデオグラファー
「昔からのトラディショナルな日本文化はやはり地方に残っていて自分の作品でもそういうものを取り上げることが多いし、評価されてきた。そもそもビデオグラファーの成長と日本の地方の良いモノを紹介しようという潮流は関連していて、以前は地方ロケでクオリティの高い映像を作るというのは予算がかかって難しかったのが、ビデオグラファーの登場でそれが可能になって、どんどん映像で発信されるようになったのがこの10年だと思うんです」
最近の仕事は、企業の取り組みを映像で表現するムービーが多いという。クライアントは企業だが、ブランディングムービーでもなく、商品の説明やCMでもなく一言で表現するのが難しいが、世界的にもそういうムービーの需要が増えている。伊納さんは「プロジェクトフィルム」と呼ぶ。
個人の作品としては、「祭り」をテーマにした作品や地元にいる仏像を修理している人のドキュメンタリーを撮影中。クライアントワークと自分の作品をどうやってバランス良く回していくかという点で、ビデオグラファーのトップランナーである伊納さんの活動は参考になりそうだ。
鹿沼スカイウォーカーランチ
「僕が映像を志したきっかけは『スター・ウォーズ』なんですけど、ルーカスがスカイウォーカーランチという自分たちのスタジオを作って、ハリウッドのメジャースタジオとちょっと距離をおいて活動しているのに憧れている人は多いんじゃないでしょうか?」
日本各地に”スカイウォーカーランチ”ができていくのが、ビデオグラファームーブメントの理想スタイルと言えるかもしれない。
スタジオと制作機材
鹿沼市の中心街にあるかつて園芸の肥料店だった物件。そのままでは使える状態ではなかったので自分でリフォームしてスタジオに作り替えた。その様子は2020年12月号の「プライベートスタジオ強化計画」でも紹介している。
現在のカメラはBMPCCシリーズ、ソニーFX3、富士フイルムX-T4で、案件によって使い分ける。
主な機材リスト