コラージュや多重エフェクトなどの特徴的な作品は、彼のどこから生まれているのか?

取材・文●村松美紀 撮影●編集部 片柳

PROFILE
2003年生まれ。koe Inc.所属、映像クリエイター。武蔵野美術大学映像学科在学中。人気アーティストらのMV制作を手がける。影響を受けた作家は、GIFアニメーターのcyriakや映像制作ユニットのAC部。

 

 

マルルーン′s PROJECT introduction

チープだけど新しい? 共同監督によって生まれた違和感の集大成

Mega Shinnosuke 『未来時代』 MV

2022年5月20日(金)に配信リリースされたMega Shinnosuke『未来時代』のMV。マルルーンさんは、CGでディレクターのYuya Utamuraさんと共同監督として携わる。制作初期にMega Shinnosukeさんからマルルーンさん宛てに送付された資料に、映画『メン・イン・ブラック』を彷彿とさせるものがあったことから、SF要素を盛り込んだ。

「本作では、新しい制作方法に挑戦しました。今までは、グリーンバックに固定カメラでの撮影だったので、人物が平面でペラっとしていましたが、今回3Dトラッキングをすることで、人物に立体感と動きが生まれました。粗い雰囲気なのに新しい技術を使用することのギャップで面白くなったと思います。車が道を走るシーンは、共同監督のYuya UtamuraさんがBlenderを使ってCG背景を作り、車は僕がAfterEffectsの3Dレイヤーで作ったので、チープな見た目です。そのクオリティの違和感も見てもらえたらと。

毎カット、全てのレイヤーをコピーして作ったので膨大なレイヤー数になってしまい、素材がスムーズに再生できず、編集は今までで一番キツかったです(笑)」

 

Kabanagu + 諭吉佳作/men『すなばピクニック』MV

得意の多重エフェクトをかけながも、色彩学に乗っ取り洗練されたレイアウトとデザインを意識した意欲作。

 

 

 

◆マルルーンとはどんなクリエイター?

『サンダーバード』や『仮面ライダー』が好きな少年だったマルルーンさん。クリエイターである両親の影響も受けながら、小学4年生の時に絆創膏がモチーフのヒーロー作品を撮影したことが映像クリエイターへの第一歩。都立総合芸術高校に在学中、「どうせ作るならバズらせたい」とコラージュ動画作品『モーション』をTwitterに公開。これをきっかけに音楽業界から声がかかり、映像制作の仕事がスタートした。

最初の仕事はMega Shinnosukeさんの『O.W.A.』MV撮影。学業もこなしながら、撮影から編集までに要した期間は1カ月弱。アドビAfter Effectsで複数のエフェクトをかけ、チープな粗さを出す独自の手法と、サイケな配色で繰り出すシュールな世界観を持ち味とした。

マルルーンさんの作風として特徴的なのは、インターネット黎明期を彷彿とさせる低画質や4:3の画面サイズの映像。「素材が4Kでも720pまで落としたりします。よく使うエフェクトはカラーエンボスで、複数重ねて色みを調整。また、構図や画面の切り取りなど4:3の編集が得意です。古いビデオを意識して作成しています」

MV制作開始から1年足らずで、でんぱ組.inc、ゆずといった人気アーティストからオファーが入り、その後きゃりーぱみゅぱみゅ、SHISHAMOからも。MV制作で大事にしていることは、「自分に依頼された意味を考えて作成する」こと。シュールな世界観で作られる独特のMVは、視聴者に違和感や中毒性を与え、アーティストの新しい一面を引き出すことに成功している。

現在は武蔵野美術大学に通っており、この夏に初めて自主制作映画を撮った。映像に対して幅広い興味を持ち、手を動かしながら試し、自らの作風の模索は続く。「今のまま続けると飽きられるのではないか。また、作風に変化を与えることで違う表現ができることもアピールしたいです」

 

主な機材・ツール

▲愛用カメラのソニー MHS-CM5。

 

 

●VIDEO SALON2022年11月号より転載