スーパー戦隊シリーズの第47作目として、テレビ朝日系にて放送中の『王様戦隊キングオージャー』。5人全員が王様という、これまでに類を見ない設定もさることながら、CG技術を駆使したハイクオリティな映像はファンだけでなく、業界からも大きな注目を集めている。それもそのはず、現場ではバーチャルプロダクションを活用した撮影をしているという。今回は、日々撮影が行われている「清澄白河BASE」にて上堀内佳寿也監督をはじめ5名の制作陣に新システムを導入した作品作りの感触を語ってもらった。

取材・文◎編集部 伊藤

王様戦隊キングオージャー

©テレビ朝日・東映AG・東映

物語の舞台となるのは5つの国からなる「チキュー」。5人の王様がヒーローとなって、昆虫モチーフのロボとともに敵と戦う。CG技術を駆使した映像とともに、平和のために奮闘する王様たちの姿を描くファンタジー大作。

 

今回お話をうかがったみなさん

左から、ソニーPCLバーチャルプロダクションプロデューサーの大賀英資氏、東映バーチャルプロダクション部プロデューサーの樋口純一氏、東映テレビ企画制作部プロデューサーの大森敬仁氏、メイン監督を務めている上堀内佳寿也氏、東映テレビプロダクションの佐々木幸司氏の5名。

インタビューは終始和気あいあいとした空気のなかで進行し、現場でのチームワークのよさが垣間見えた。制作の舞台裏は公式サイトで1話ごとに公開されているプロダクションノートにも資料を交え詳細が綴られている。

 

バーチャルプロダクションを導入した経緯

きっかけはコロナ禍での苦い思い

大森 当初はこれまでのようにロケを中心とした制作でやろうとしていたんです。それが3年前に『仮面ライダーゼロワン』という作品のとき、ちょうどコロナにぶつかって6話分くらい放送が飛んで相当悔しい思いをしたんです。

東映ではコロナ禍、スーパー戦隊や仮面ライダーシリーズで、合成技術を使ったセット撮影をいろいろ試していました。

佐々木 最初に僕たちプロダクション側がアセット制作に関わったのが『機界戦隊ゼンカイジャー』という作品です。ロケがやりにくい時勢でも撮影を止めないために、今まで美術さんがレギュラーでセットで作っていたものをCG化していくというところからでした。撮影所にツークン研究所という映像技術の研究組織があったのでそこに相談をして、CG背景のアセットを作る技術にトライすることにしました。

樋口 当時はグリーンバックでの撮影をリアルタイムで合成し、その場で撮り切るというシステムでした。次の『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』でも引き続きグリーンバックにCGを使うやり方をしていました。

大森 ライブ合成と呼ぶその技術の延長で、東映でLEDウォールを導入する流れができたんです。ちょうどキングオージャーの企画にアタックしていたので、企画とファンタジー的な世界感が合致して、技術的にもそれがマックスでやれるかもとなり、企画が始まりました。

ポスプロ重視の制作からプリプロ重視の制作へ

大森 通常の戦隊シリーズは撮影とポスプロに時間と予算をかけますが、今回は準備期間があり、プリプロに重きを置いています。ロケに行くのをやめたりセットを組まずに必要なアイテムだけ美術で作ったり、その分の予算をプリプロにかけるという考え方です。特に特撮は1年間やるので1年分の話数で割るとそれを取り戻すことができます。

佐々木 それまで2年間アセットを作ってきた実績や数字的データもあったので、事前にやりたいことに対して、このぐらいの予算を見ておかなければと話をしました。予算を回収するためには撮影ラインはこういう風に進めていかないといけないなどと事前に相談しています。

大森 あとは天候に左右されないことや、撮影順の調整がスムーズで、スケジュールをかなり精密に守れるのもバーチャルプロダクション(以下、VP)の利点だと感じています。

 

鍵となるアセット制作と現場での運用

アセット作りは撮影開始の半年以上前にスタート

大森 僕が今回この作品の企画中に「アセットを作るのであれば早めに言ってください」と東映のVP部に呼び出されたので、撮影開始の半年以上前にはスタートしました。

樋口 これまで時間がないなかでUnreal Engineの運用をしてきて、苦労や反省がたくさんあったんです。

上堀内 最初にオファーもらったときに、5つの国を舞台にファンタジーをやりますと言われたんです。アセットの話もされていて、国が5つだとロケ中心の撮影は厳しいのでアセットを使ったセット撮影メインでいこうと決めました。

物語の舞台である「チキュー」の地図。コンセプトアートはそれぞれ別の発注先に依頼した。

物語の舞台となる5つの王国のアセット

始まりの国「シュゴッダム」のアセットは中世欧州をイメージしてつくられた街並みが特徴
テクノロジーの国「ンコソパ」のアセットは近未来的なイメージ
華やかで美しい医療と美の国「イシャバーナ」のアセット
農業の国トウフのアセットは和がモチーフになっている
氷雪の国「ゴッカン」のアセットには天秤のモチーフの城がそびえたつ

監督自らもUnreal Engineを操作

大賀 通常の案件ではホットスポットという撮影に使う場所を限定して、それ以外の部分はなるべく軽めにするのですが、東映さん側で制作したアセットのデータをはじめて見た時に、今まで見たことのないような広さで、すべてが高クオリティに作り込まれていたんです。なので、どうしてもマシンパワーがアセットの重さに耐えられなくて、最初はLEDウォールにまったく出力できませんでした。

そういったこともあり、今回はいつも以上に事前の準備の段階から監督と常にやりとりを重ね、なるべくCGクオリティを落とさずにデータを軽くする方向をいろいろ試してきました。いろんな現場に入ってきましたが、Unreal Engineを触り出す監督って僕は見たことないですよ、ソニーPCLでも伝説になっています。

上堀内 それはたまたま、過去の作品でちょっとだけ触ったことがあったのと半年という期間があったので。アセット内の細かいライティングは好みでもあるから、自分で触ったほうが早いという面もありました。

大賀 たしかに直接触って実際に動かしてるところを見たことで、監督が気になる部分や演出の傾向を感じ取ることができました。あとはUnreal Engineを理解されているので、僕らもお互いの会話がしやすいし、現場での進め方がどんどん効率化していくのを感じました。

上堀内 僕は何かをお願いしたとき「何とかしてみます」と諦めずに寄り添ってくれるのに驚きました。システム的な問題となると、よくも悪くも作業される方の中にできることとできないことの線引きがはっきりある場合が多いので。

大賀 こちらも、何か現場でうまくいかないときに、プランBがあって違う形でできるのがとても心強かったです。

上堀内 一番心配だったのは、LEDウォールをインカメラVFXからクロマキーにチェンジするのに、どれだけ時間がかかるか。1分を無駄にするとピリピリし始めるくらい時間が惜しいのがドラマなんですよ。正直僕は20分は覚悟してたんですよ。でも実際には長くても2分くらしかかからなくて、それがわかったときは本当に感動しました。

今回、東映側もソニーPCL側も寄り添い合いながらそれぞれが培ってきたものをいい形で現場で組み合わせることができて、お互いのノウハウがどんどん蓄積されて撮影効率がすごくあがっています。

現場で使い分けられた3つの撮影方法

①インカメラVFX

LEDウォールに3DCGを映し出し、位置センサーを付けたカメラの動きと連動。映像をリアルタイムに変化させることで、リアルな奥行き表現をもつ映像の撮影が可能。

②全天球素材スクリーンプロセス

360度で撮影した天球動画をLEDウォールに出力し、任意の方向に背景を回転させて撮影する。

③クロマキーでのLED合成

LEDウォールをグリーンバックにし、リアルタイム合成をする手法。現場での通称は「ライブ合成=L合」。

現場ではリハーサルでの演者の動きを見ながら、撮影方法を臨機応変に決めていった。撮りたいアングルに制限が出なくなるのが利点だという。

 

試行錯誤の末にたどりついたクオリティ

床部分はLEDウォールでないことがポイント。床に映る自然な影がなじみをよく見せるために作用する。LEDウォールは上部にもあり、真下からはトラッキングの位置が映らないので煽りのシーンも撮影可能。
バーチャルプロダクションの作業スペースからの眺め。東映のバーチャルプロダクション部が撮影に使うアセット作成を主に行う一方で、ソニーPCL側は現場でのアセット運用のオペレーションを担当している。

インカメラVFXの強み

上堀内 先ほど説明した撮影方法を比較すると、インカメラVFXは撮影現場でのスピード感が違います。クロマキーはどうしても映り込みの軽減で照明の調整に時間をとるんですけど、インカメラはLEDウォールの光を直に受けて、うまくいけばノーライトで撮るのも可能だと思います。

あとは、うちのアセットで言うとゴッカンのようなきらびやかな世界はクロマキーよりやっぱりインカメラVFXでLEDウォールを使ったほうがものすごい映えるなと。

奥行きを意識すると本当にその空間にいるように見せられるのがポイントです。雪のシーンはセットで泡をとばして、LEDウォールとカメラの間にレイヤーを作っています。ほかには、岩などをカメラの前に置くといった工夫もしています。

大森 あとは、夕景を多くしましたね。脚本家から原稿をもらったらすぐに各シーンの時間帯を台本に書き込んでチェックしていました。意識しているのは、一番見せたいシーンは、なるべく夕景や夜明けで撮ることです。

大賀 LEDがすごく明るいので、リアル照明が負けてしまって一気に明るさに差が出てしまうんです。なので、LEDを使った手法で、一番なじみがいいのが逆光です。LED側に太陽があって人物がいたら、セットでは照明を入れずに済みます。だから今おっしゃった朝焼けとか夕焼けは、非常に相性がいいんです。

キングオージャーはヘルメットの反射など映り込みの多い要素があるので、作品としてもインカメラVFXとの相性がすごくいいと思います。

「奥行き」を意識することで本当にその空間にいるようようなシーンが作れる

雪のシーンの撮影の様子
撮影された映像

雪のシーンはスノーマシーンを使用して、セットに雪を降らせている。そうすることでLEDウォールとカメラの間に人物や雪といったレイヤーができて、画面に奥行きが生まれる。

夕景やきらびやかなアセットが映える

豪華な内装のゴッカンのザイバーン城
第6話に使われた日没のカット演出

自由にやらないと、どんどん発想がしぼんでいってしまう

佐々木 撮影に入ってわかったのは、今回のような全編アセットの作品だと「後レンダー」といわれる差し替え作業が想像以上に膨大なこと。そこを専属で把握できるスタッフが必要でした。こういう作品を作るんだったら本来、ポスプロ、プリプロ含めてプロダクションマネージャーのスタッフィングも必要だったなというのは勉強になりましたね。

上堀内 失敗はまだたくさんありますよ。たとえば、コンセプトアートを作ったあと、アセット作りから始めたんですよ。でもあとで気づいたのは、アセットと美術を一緒にスタートさせなかればダメだったということで。

大森 アセット制作が撮影開始の半年以上前、美術部の合流が2カ月前。だから3、4カ月くらいの時間差があって。最初に美術で作ってアセットに取り込めば済んだものを、数カ月アセット制作のみをしている期間に一生懸命作業していました。同時に始めていればそういう無駄が省けましたね。

あとは上堀内監督にアセットで自由に作ってくださいよと言っていた部分が美術で再現できないとなった時に、本当はそこも考慮してやらなきゃいけなかったと後からわかったり。

上堀内 それは「自由に」って言われていたからね。

一同 (笑)

大森 自由にやらないと、どんどん発想がしぼんでいってしまうので、結果的にはそれでよかったんですよ。

上堀内 僕はもともと見切り発車が多いんですよ。それがあんまり怖くないというか。

お金とか予算とか期間とかにとらわれて、現実を見て演出のことを考えた瞬間に、ある程度の大きさの枠に発想が収まってしまっているんです。そういう画って誰が見てもおもしろくないんですよ。そこにすべてが知っているものが収まってるのは嫌いなので。

だから正直、こういうやり方をしてきて、経験値としては蓄積されたけど、お金的には無駄にしたことっていうのはあります。

アニメを参考にしたアクションシーン

上堀内 もともとアニメも好きで、いいところをかっこよく切り取れるアニメっていいなって思ってたんです。それでこういう作品やってたら、人間じゃない動きを人間で表現したいという苦しみもやっぱりあって。

今回のようなコントラストの強い世界観でやるときに、スーツを着ていたとしてもキャラクターがいつもの動きをしてたら、逆に違和感が出るだろうなって思って。だからファンタジーのCG空間に近い印象を与えるアクションをやりたいという気持ちがありました。

何年か経った後こういうアクションを見たときに、お客さんに「キングオージャーのアクションだよね」って言ってもらえるアクションを作ろうというところから始まったんですよ。

それでアクション監督の渡辺 淳さんとアニメーターの方にお話を聞きに行って。コマの使い方や、切り取るべきなのはインパクトの瞬間ではなく、その直前の肉体の動きという話を聞いて、手探りで進めていきました。編集は地獄でした。

佐々木 「とりあえずこういう風に撮ったらできるんじゃない?」から始まっていたのでね。思った通りの効果を得られて、うまくいったときは「よかった!」と思うんですよ。

「やりたい、やりたい」と言い続けて今のキングオージャーがある

上堀内 いまだに手探りですからね。よくスタッフと「この現場はホップ・ステップ・ジャンプじゃないな、離陸だな」って話しているんです。僕が(Unreal Engineの)素人であることを盾に、いろいろと「やりたい、やりたい」と言い続けてやっと、もともとみんなが思っていた現実より先に到達することができるんです。それで今のキングオージャーは、このクオリティを保てていると思っています。

「今までの経験値が溜まったからやるぞ」というよりも、「やったことないし、やれる材料はなんかある気がするね。よし、いってみよう」と進んできたからこそ、今のキングオージャーがあるし、みなさんとも出会えたのかな。

日本の制作者は死ぬまでに一回はアセットを使った作品作りをしてみたほうがいい

大森 『キングオージャー』のクオリティは日曜日の朝9時半に毎週放送できるようなものではないと思っているので、まず1話から5話を見てほしいです。

特にテレビ業界は予算がシュリンクして、実際にはあんなに豪華な美術を絶対作れないじゃないですか。だから日本の制作者は死ぬまでに一回はアセットを使った作品作りをしてみたほうがいい。その可能性がまずわかる。

できることが減っていく映像業界においては、ひとつの夢の可能性であり、日本のテレビとか映像業界が、もし認められたり、復活する可能性があるとすれば、ここにもあるような気がしています。だからあまり毛嫌いせず、上堀内監督がアセットを自分で触ったように、とにかく触れてみることをしてほしいなと思います。

特撮番組って日本では子供番組の色が濃くて汎用性がなく、テレビだけでなく映画でもあまりやろうとしないと思うんですよ。佐々木さんがこの作品を「実写アニメ」と表現したのですが、日本にはアニメを好きな人がたくさんいるし、この表現が受け入れられる環境はあると思います。この作品見てもらってこれからの映像制作に少しでも可能性を感じてもらえたらいいなと思っています。

 

『王様戦隊キングオージャー』

毎週日曜午前9:30〜10:00テレビ朝日系にて放送中。これまでの放送内容は東映特撮ファンクラブ、TELASA、Amazon Prime Videoで全話分の視聴が可能。

◉公式サイト
https://www.toei.co.jp/tv/king-ohger/index.html

 

清澄白河BASE
https://www.sonypcl.jp/kiyosumi-shirakawa/index.html

ソニーPCL
https://www.sonypcl.jp/

 

VIDEOSALON 2023年7月号より転載