今回のリニューアルオープンに合わせて制作されたLEDウォールの待機画面は、パラメトリックデザインを取り入れ、角度によって立体物のように見える。

ボリュメトリックキャプチャスタジオの開設や、バーチャルプロダクションスタジオ機能の拡張など、進化を続ける「清澄白河BASE」。9月20日にソニーPCLがメディア向けに実施したスタジオ見学の様子をレポートする。

取材・文●編集部 伊藤

バーチャルプロダクションの制作実績

グラフは2023 年9月までの集計結果。開設当初はCMやWEB CMでの需要が多かったが、最近ではテレビドラマのレギュラー撮影や、一般企業のPR案件といったイベント活用の事例も 増えてきているという。

テレビドラマのレギュラー撮影の事例として挙げられたのが、現在も放送中の『王様戦隊キングオージャー』。

「清澄白河BASE」内バーチャルプロダクションスタジオのアップグレード内容

  • メインLEDウォールを拡張し、既存の約2倍のサイズとなる解像度17,280 x 3,456ピクセル(横27.36m x 高さ5.47m)に。撮影エリアを広げ、より自由なカメラアングルでの撮影を実現。
  • 新しく可搬式LEDと、ソニー独自開発のシステム”クイックキャリブ”を導入し、天井LEDの効率的な昇降が可能に。複数のLEDを活用した多面的な照明効果により、自然な環境光や被写体への豊かな反射表現を実現。
  • 常設のXRシステムとして「SMODE」を導入。既存のMo-Sys StarTrackerに加えオプションのトラッキングシステムとして、OptiTrack PrimeX41、OptiTrack PrimeX22を設置。これにより、ARキャラクターやプロップ、モーションコントロールなどを用いた演出やマルチカメラでの撮影も可能に。
  • バーチャルプロダクション向け『VENICE』シリーズ対応のソフトウェア「Virtual Production Tool Set」のトライアル運用が可能に。カラー調整やモアレの回避アラートなどの機能で、プリプロダクションから撮影時までバーチャルプロダクションのワークフローがより効率的に。
  • オンラインミーティングの実施やストーリーボードの作成を目指した、ソニーPCL独自開発の「清澄白河BASE」制作シミュレーター(プロトタイプ)のトライアル運用も開始。
XRシステム「SMODE」により背景を拡張することができる。画面中央付近から右側は拡張された背景。

 

LEDウォール上部の青く光るセンサーが新たに追加されたトラッキングシステム。20台ほど設置している。

 

「清澄白河BASE」制作シミュレーター(仮称)のデモの様子。右側がLEDウォールに背景を映しだした際のスタジオ、左側がカメラで撮影できる映像。画面内の車のように実際の撮影でLEDウォールの前に配置する被写体をオブジェクトとしてシミュレーター内にも再現することができ、スクリーンショットを撮影することで、CGの知識がないスタッフでも簡単に絵コンテを制作できるようになっている。

 

シミュレーターのバーチャルモードを使用すると、画像のようにLEDの背景アセットの内に人を配置し、どの部分をLED上に表示するのかを確認できる。

 

アセット内の人物はmocopiを装着することで動きを連動させることができる。

 

さまざまな活用方法

窓に差し込む光の加減を自由に調整することができ、実際の天候や太陽の位置に左右されず撮影を進めることができる。アセット内の書籍などは位置を変更することができるため、思い通りのレイアウトに作ることができる。

図書館の背景アセットを使用したインカメラVFXによるデモで撮影された映像。トラッキングシステムにより、カメラの動きとアセット背景がリアルタイムで合成され、パース感のあった映像が撮影される。

 

ボリュメトリックスタジオでスーツアクターの動きをキャプチャリングしたキャラクターの3D CGをアセット内に読み込んでLEDウォールに投影しているデモ時の様子。アセットと同様、キャラクターもUnreal Engineで制作しており、配置する数やスケジュールを自由にカスタマイズできるため、群衆シーンへの応用が可能。

実際の車道を走行して撮影した背景を映し出している。

360度カメラカーによって撮影した素材をもとにしたスクリーンプロセスのデモも実演。カメラが車の中に入り込んで、車の中から運転席や助手席、窓の外などを撮影できる。撮影許可がおりない場所を舞台にした撮影や、ロケ撮影の場合移動時間などを考慮しなければいけない場所の複数撮影などが可能になる。

素材の撮影に使用したソニーPCLオリジナルの車体。車高は低く、独自開発した防振装置を搭載している。さらにカメラの撮影位置は高さをフレキシブルに動かすことができる。

 

カメラ部分。

そのほかに、インカメラVFXの手法によって駐車場や街中、SF空間といったさまざまなシチュエーションのデモを実演した。

駐車場のアセットを使用した映像。カメラが車の後方から真横に回り込むといった、実写ではなかなか難しいシーンを安全に撮影できる。

街中のアセットを使用した実演の様子。天井のLEDにも背景を投影できるため、車の上部の空や太陽光の映り込みも自然に表現できる。

最後に実演したのはSF的な空間のアセットを使用したデモ。拡大したLEDウォールによって映り込みの表現が美しく再現されている。

 

ボリュメトリックキャプチャスタジオ

カメラはスタジオの上段、中段、下段、天井に隙間なく配置されている。

ボリュメトリックキャプチャ技術は、スタジオを取り囲む100台以上のカメラで撮影した実在の人物や物体を、3次元のデジタルデータに変換し、任意の方向から見た3D映像として高画質に再現できる技術。

スタジオは直径9メートル弱で、その内側の直径6メートルの円の中にあるものを3Dキャプチャーすることができる。高さは3メートルまで対応可能。技術的にスタジオは小さいほどキャプチャのクオリティは上がるが、スタジオが小さすぎるとキャプチャできる物や人の範囲に制限がかかりすぎてしまい、使用シーンが限られてしまう。そのためクオリティを維持したまま、さまざまな映像表現に対応できる現在の設計でスタジオを作ったそうだ。

ボリュメトリックキャプチャスタジオは国内に複数あり、ソニーPCLのスタジオは大きさとしては中規模クラスに相当するという。

モデリング→レンダリングという順序で作業を進め、レンダリング作業の一環としてカメラワークをつけるため、カメラワークに起因するNGがなく、演者や撮影スタッフの負担を軽くすることができる。さらに、通常の撮影では複数人同時で撮影を進行しなければいけない場合でも、ボリュメトリックキャプチャを使用すれば、後から合成可能なため、スケジュール調整の手間を省くこともできるという。

ボリュメトリックキャプチャ技術により制作される3Dデータは、XRやメタバースといった3D空間での使用が本命だと言われてるものの、現状では2Dの映像制作で使用する場面が多く、直近では映画やドラマでの映像制作に注力しているそう。

説明を担当したソニーPCLの池田さんは「ボリュメトリックキャプチャーの価値は“実写である”という点にある。そこに存在するものを3Dでありのままに再現することが核だと考えている。スポーツや伝統芸能のように、その人でなければいけないものをデータ化できることが、バーチャルヒューマンやほかの3D技術との違い」と説明した。

ボリュメトリックキャプチャスタジオの説明を担当したソニーPCLの池田さん。

 

ソニーPCL株式会社
https://www.sonypcl.jp/