久松慎一+ 株式会社援軍
Vol. 27 クラウド動画編集でできること
近年の機材やツールの進化によって映像編集・動画制作が容易になったとはいえ、それでも編集作業にはまだある程度のハードルがあるのも事実です。
見よう見まねで作ってみたものの、どうも見栄えがしなかったり落ち着かなかったり、違和感のある仕上がりになってしまい、結局外注に出さざるを得なかった、ということも多いかと思います。外注するとやはり時間やコスト、コミュニケーションなどがかかり、社内で制作できたら、という相談をよくいただきます。そのためのツールとして映像編集ソフトウェアのインストールが不要でWEBブラウザ上で広告動画を制作することができるクラウド動画編集サービスについて解説します。今回は、クラウド動画編集サービスのビデオブレインの近藤さんにお話を伺いました。
株式会社オープンエイト 執行役員の近藤 洋司さん
聞き手:久松慎一・島田 拓(株式会社援軍)
今回解説いただくビデオブレインさんはブラウザで動画編集ができるサービスですが、以前、vol.23とvol.24で紹介したVyondもクラウド動画編集サービスのひとつで、キャラクターアニメーションを簡単に制作して動画広告やeラーニングなどに活用することができます。
今回紹介するサービスのビデオブレインは、商品写真や撮影映像から、プレゼンテーションソフトでスライドを作るように広告動画を制作することができます。
▲Vyondについて掲載は2022年8月号と9月号に掲載
ビジネス動画編集クラウドVideo BRAINとは?
「ビジネス動画編集クラウド」と銘打たれているように、広告動画以外にも社内教育用、オンボーディング、採用、サイネージなどビジネスで動画を活用する際に、さまざまな場面にむけた動画を制作できるサービスです。
多数のテンプレートと機械学習を活用したサポートツールが特徴です。ビデオブレインを展開する株式会社オープンエイト執行役員の近藤さんに、サービスについて伺いました。
ビデオブレインは誰のための何を解決するサービスなのか?
ビデオブレインとは、インターネット環境とWEBブラウザがあれば、ソフトウェアをインストールすることなしに、どこにいても動画を制作することができる動画編集クラウドサービスです。
デザイナーやクリエイターがターゲットではありません。Adobeのツールを使える方にとってはやはり機能が足りないと感じます。むしろ、普段WordやExcel、Power Pointといったビジネスソフトウェアを利用している一般のビジネスパーソンがメインターゲットです。
マーケティング部門のSNS運用担当者に利用いただいているケースがとても多いですね。そして人事部門で教育・研修・採用を担当している方や横串でいろいろな部門の方に動画の活用を推進するDX(デジタルトランスフォーメーション/ITの浸透)推進を担当している方の利用も増えています。
あくまでビジネスでの動画活用を前提としており、それ以外の一般ユースでの利用は想定していません。
企業様単位でご提案をし、制作が簡単であることもあり、クラウドソーシングに依頼してビデオブレインを使って動画を作る、というようなこともほとんどありません。カスタマーサービス部門が(後述の)計測やPDCAといった制作後のアドバイス・コンサルティングをさせていることも関係していると思います。
一般的に動画編集クラウドというとテンプレートが用意されていて、そのテンプレートにテキストやロゴ、商品画像を入れたら簡単に動画ができあがる、というのが一般的ですが、その特徴を踏まえつつ、Power Pointのような自由度の高い編集、規格にとらわれない創作活動ができるのが大きな特徴です。最後に微調整し、自分のメッセージを伝えやすい動画を作ることができます。
Power Pointを取り込み編集する機能もある
国内初、Power Pointを取り込んで再編集できる機能をリリースしました。
既存のリソースから用意されているテンプレートを用いなくても簡単・スピーディーに動画の制作が可能です。そして、これらを支えているのが自社開発のAIです。
AIがゼロからいきなり最終形の動画を作るというわけではありません。例えば、編集のたたき台を作る、ストーリー構成を作るなど、テキストとグラフィックのマッチングを考えるとクリエイティブの補助をしてくれるのが一点。そして文字興し、テロップ制作といった手間のかかる作業の代行をしてくれるのが一点。これらにより慣れていない方でも動画制作が可能になり、4、5時間掛かっていた作業が30分程度でできるようになりました。
ビデオブレインは動画の用途を広く想定しています。元々はマーケティングや広告目的の動画制作といった用途が前提でしたが、社内教育、サイネージ、採用活動など顧客からのフィードバックの中でさまざまな要望をいただき、想定される用途を広げてきました。
ーー採用活動に向けた動画制作というのはどういう使われ方でしょうか?
コロナ禍において、就活生が企業のオフィスに来社することが難しい状況が増えました。採用面接やセミナーをオンラインで行うケースが増えており、その中で会社の雰囲気や先輩社員のメッセージなどを限られた時間で伝えることができます。例えばオフィスツアーをしたり、スマートフォンで動画撮影して自分のナレーション、テロップを付けたりするだけでも生っぽく伝わると思います。また内定者へ「○○さん入社をお待ちしてます」といったエモーショナルなパーソナルメッセージを伝えることで承諾率を上げることもされています。
ーーどれくらいの素材があれば、動画を制作できる?
スマホで撮影した写真が数点あれば制作できます。
複数のストックフォトサービスと提携しており、素材がない場合は数百万のライセンスフリー素材の中から画像・動画・音声を選んで使えます。夏っぽい風景の中でスマートフォンを操作しているとか、公園で誰かが遊んでいる画像など検索をすることでイメージに近い素材を見つけることができます。
実際、制作する企業さんが(必要以上に)制作のハードルを上げてしまっていると思います。我々のサービスは4Kで出力して大型ディスプレイで見る、というような用途は想定していません。あくまでWEBブラウザなどでスマホ・PCで見る映像を想定しており、フルHD画質までを主眼に置いています。身近な車内の風景やスマートフォンで撮影した商品画像などでも立派な素材になります。我々のカスタマーサクセスチームが顧客の伴走支援を通して、素材に対する考え方や準備の仕方を伝え、ハードルを下げる助言をしています。
素材の準備だけでなくストーリー構築やシーン構成もハードルが高いと感じられています。今までスライドで説明していたことを30秒や15秒、もしくは1分、2分に収めないといけないとなると急に難しく感じてしまわれるんです。
ビデオブレインではテンプレートを用意することでこれを解決しています。今だと約3100種類のテンプレートを用意し、訴求内容やイメージ、テンポ感などから検索して利用できるようになっています。テンプレートには起承転結みたいなストーリーが組み込まれており、テンプレートに素材やテキストを当てはめていくと、たたき台としてなんとなくストーリーが組み上がります。
これだと(なんか違うな)と感じると思いますので、そこが制作の原点。ブラッシュアップしていけば、ご自身のものとしてできあがります。
ここまでハードルを下げることで、今まで静止画でやっていたことが動画でもできるようになってきました。
多くのテンプレートが用意され、シーンごとにも使うことができる
ーー静止画を動画にする、というのはどういうメリットがあるのでしょうか?
静止画の広告を必ずしも動画に置き換える必要はないと考えていて、共存すべきだと考えています。
例えば、既によく知られているブランドのロゴと商品写真、何%OFFなどの訴求なら静止画で充分ですが、動画には以下のようなメリットがあると考えています。
❶ 出稿できるメディアの場所を広げる
❷ 誰でも知っているようなメディア以外であれば、情報密度を高められる動画のほうが訴求力が高いであろう
❸ 同じスペースで同じ時間(秒数)を閲覧者からいただくのであれば、動画の方が表現力が高い
❹ ❸は同じ秒数をいただくという前提だったが、そもそも閲覧者が広告を注視してくれる時間を増やす
ーーWEB用の動画としてはどういう場面で使われる?
よく使われるのがYouTubeやTwitter。そしてInstagramストーリーズやTikTokのような縦型動画も多く制作されています。ペイド広告(企業が費用を払って広告を掲載する従来型のメディアのこと)以外に、フォロワーに向けたメッセージを込めたフィード投稿の動画も多いです。
キャンパスサイズの設定では、さまざまな画角が用意されている
機械学習による動画の自動生成のメリットについて
ストーリーを考えたり、写真や動画といったアセットと文字情報のマッチングをしたりするAIというのがまずあります。これは写真や動画の中に移っているのが何なのかを判断し、訴求テキストのベースを提案するものと、逆に与えられたテキストからそれに適した素材を提案する、というものがあります。
例えばテキスト情報の中にパンダの出生記録です、とあったらパンダの映像の該当部分を切り出してを提案するといった使われ方はニュース映像を作りたいというユーザーに重宝されています。しかし、この提案はたたき台でしかないと考えています。そこに制作者の思いを乗せて、訴求力のある動画になります。
もう一方で、ナレーションの文字起こしやテロップの自動挿入、画像の背景削除といった属人でかかる作業工数を大幅に圧縮する部分にもAIを活用し、こちらの活用がとても喜ばれています。
特に文字起こしは日本語に特化してかなり工夫してチューニングしており自慢できる部分であるので、一度使用いただければ精度の高さを実感できると思います。
これからの機械学習の開発の方向性
AIについては多くの議論をしています。再生率や視聴完了率などKPI(重要業績評価指標)に対してAIが考え理想的な動画生成ができるのがひとつの理想です。
デザイン的なもの、例えば色と画像の配置、みたいな部分での活用についてはすでに検証しています。
素材に人の顔があったら顔を極力出すとか顔の上にものやテキストを被せないとか、テキストの折り返しを判断し読みやすくすることもできつつあります。
映像のタブーを避ける、という部分での機械学習は地味だけれど重要です。映像に詳しくない方が使うツールなので「べからず」に気づきません。もはや、そういう部分は当たり前になりつつあるので、AIのアシスタントがこっそり機能してレイアウト調整などをしてくれます。
AI機能にはすぐにアクセスすることができる
ーーユーザーの立場で機械学習を使いこなすコツみたいなものはあるか
現状はないと思っています。というのは、現状ユーザーごとの学習というのは提供していません。今後、ユーザーの環境や動画に合わせて個別に学習するように変わる可能性はあります。
ーー効果計測について WEB動画広告ツールして考えた場合、主たるKPI等は想定していますか?
お客様によって目的もメッセージも異なるのでKPIはバラバラです。広告としての計測はYouTubeやInstagramなどメディアの計測ツールをユーザーそれぞれが利用されています。当社サービスとしてそれらと連携した計測ツールは持っていません。ユーザーによっては、動画を作ってメディアに載せたらほっぽらかし、効果計測をほとんどしないこともあります。その場合は「何人が見てくれて、平均再生が何秒で……」などKPIをもって運用すべきですね、とアドバイスやコンサルティングをしています。
ビデオブレインでは少ない手間と時間で制作できるからこそ、動画を100本単位で制作してそれぞれのコンバージョンレートを比較する、ということができます。
契約企業様からは動画ごとのインプレッションやコンバージョンレートの数字を共有してもらいます。ユーザーの担当者と弊社のカスタマーサクセスチームでの月に一度の定例会で「次はどういうクリエイティブを作ろう」「過去の似たクリエイティブの中から結果のよかったものの共通点を見つけよう」というディスカッションをしています。これは運用型広告をされている方であれば当然の作業ですね。
クラウドツールで動画をバナーのように量産できるため、動画広告でこうした運用ができるようになりました。
計測ツールではありませんが、Insight Brainという投稿管理や競合他社の状態を自社と並べて同じダッシュボード上で確認できるツールを提供しています。静止画と動画とどちらがよいかとか、競合他社のどういう投稿がよいエンゲージメントがあるのかなど、動画に限らず次の一手のヒントとなる情報が提供できています。
ーー計測・最適化といった部分を機械学習でサポートするといったことは考えていますか?
この部分はライバルが多く大変な戦いになるので、現時点ではカスタマーサクセスチームが属人的にサポートしています。ビデオブレインはより制作の部分に軸足を置いています。
最適化は、例えばYouTubeであればGoogleの最適化エンジンに任せてもよいと思います。彼らもP-MAX(パフォーマンス最大化)キャンペーンで広告動画(素材)の自動生成を始めていますが、完成度など多くの面でビデオブレインに一日の長があります。ストーリーを考えたり自由な編集ができたりすることが強みです。
→後編へ続く
今回のまとめ!
ビデオブレインはビジネスユースがメイン。eラーニングや採用活動の動画など社内で内製して配布することにも適している。次号はより利用現場に近い内容を伺います。