久松慎一+ 株式会社援軍

 

 

Vol.11 動画広告のPDCAを回す(クリエイティブ編)

動画を閲覧している方は、さまざまな興味関心を持っています。動画広告のどの部分に興味を持ったのかという観点でPDCAを回す方法について考えてみましょう。

前回までは、広告の成果「KGI」や、関連する「KPI」について説明しました。これらは広告運用するための下準備ですが、今回はいよいよ広告運用について解説します。

 

広告運用の目的は今よりも広告の成果を上げること

改めて、なぜ広告運用を行うのかというと、広告による成果をあげるためです。広告運用の基本的な考えではPDCA(①Plan/計画、Do/実行、Check/②評価、​③Action/改善)というものがあり、広告配信後、実績をもとに課題を見つけて改善し、再度広告配信して検証する流れです。改善は大きく広告側の改善とクリエイティブ側の改善のふたつがあります。

今回はクリエイティブ(広告の文言や画像・動画などの素材)側の改善について解説します。

①Plan・Do/計画・実行

複数のクリエイティブを用意、他要素は同じにして広告配信

検証するためには、単独のクリエイティブでは判断することが難しく、必ず複数のクリエイティブを稼働して判断します。クリエイティブ作成上での注意点は、訴求軸以外の部分は同じ内容すること。一度に複数の変更がおこなわれると結果がどの要素の影響なのか判断しづらくなります。これは正しく検証していくには重要な視点となり、訴求軸以外に成果変動につながる要素が含まれていると、誤った判断につながることがあり、効果検証を阻害することになります。

どの訴求軸でも共通で入れるコンテンツは同じものにする。画像でいうところの商品説明とエンディング部分を指す。

 

②Check/評価

2-1最も興味を持たれたクリエイティブはどれか

配信後、閲覧したユーザーが最も興味を持ったポイントは、広告管理画面内にあるAnalytics(ログ解析)から確認することができます。では、視聴維持率の線の動きを見てみましょう。グラフではわかりやすくするために、2本の視聴維持率を合わせて表示しています。

これは縦軸に視聴者維持率、横軸に閲覧時間を表したグラフとなります。左の図は広告流入時の動きを表しており、広告は5秒間スキップできない時間がふくまれており、視聴者維持率5秒後から急激に視聴率が下がる動きを見せています。ⒶⒷⒸ各動画別に確認して最も興味を持たれているクリエイティブ(視聴者維持率の低下が少ない)について確認します。

 

2-2.その動画は成果に繋がっているか

興味を持たれているそのクリエイティブが閲覧後、成果につながったかを確認します。興味を持たれていたとしても成果につながらないと意味がありません。テストしているクリエイティブのなかで「勝ちクリエイティブ」が見てきます。

コンバージョン率とは、広告を閲覧した訪問者が目標としているアクションを起こした率を指す。広告管理画面内に入り、「動画>Analytics(ログ解析)」をクリックすると確認・分析することができる。

 

2-3.どれだけ興味を持たれたか

前回さまざまな指標について説明しましたが、動画の質という部分で評価するとしたら、見ていくべきは「平均視聴時間」「総再生時間(時間)」です。これはどれだけ興味を持ってくれたかを評価するのに適した指標となります。ブランディングを目的とする場合は、よりこの指標が重要です。

2-4.興味を持つポイントはどこか

クリエイティブについてさらに細かく分析するために、オーガニックデータ(例えばGoogleで検索すると上位に表示される広告表示を除いた検索結果からのトラフィックのこと)での成果も併せて確認します。オーガニックデータには、広告が関係しない通常の配信における視聴者維持率が表示されます。広告に限らず興味を持った方が見た数字となるため、動画に対して素の反応を確認することができます。

例えば、下記は広告管理画面から確認したオーガニックデータを分析したグラフ。グラフの山の部分は、多くの視聴者が動画のこの部分を何度も視聴したか、またはこの部分を共有する視聴者が多かったことを示しています。この山の部分の内容こそがユーザーが興味を持つポイントです。


▲視聴維持率の線の側にある山は何度も視聴された部分。この山を検証していくことで、維持率の増加について分析することができる。

 

2-5.動画の視聴者維持率の見方

もう少し動画視聴維持率について見てみたいともいます。動画視聴維持率はさまざまな波形を描きます。その波形からユーザーがどこに興味を持ち、どこで興味を失ったかを確認できます。

代表的な波形は次のページにまとめた4つの図を参照ください。動画はこれらの波形を示すことが多いです。重要なポイントとしては、コンバージョンのデータを必ず一緒に見ることです。どんなに維持率が高いままだったとしても、最終目的であるコンバージョンが発生しなければ意味がありません。動画を視聴したユーザーが行動を起こしたのか、起こさなかったのかで動画の成否を判断しましょう。

 

 

③Action/改善

勝ちクリエイティブと新クリエイティブを新たにテスト

勝ちクリエイティブについては公開を継続しつつ、新たに別のクリエイティブを作成して次のテストを行います。新しいクリエイティブは項目②評価で発見したユーザーが興味関心ポイントを基に作成します。後はこれを繰り返しながら、クリエイティブをブラッシュアップし、成果を高めていきます。

 

PDCAは回し続けることが重要

一度勝ったクリエイティブであっても広告を出し続けていくと、少しずつ成果が落ちてきます。同じユーザーに出し続けることでクリエイティブ自体が飽きられたり、時期が変わることでユーザー側のニーズが変わったりと理由はさまざま。ですので、広告の運用では、常に数字を見ながら新しいクリエイティブを投下していくことが重要になってきます。走り始めると、次に次にとクリエイティブを生むことを求められますが、大変ですがやりがいのある業務とも言えますね。

▲勝ちクリエイティブや新規クリエイティブを用いて広告を稼働。再度検証してどちらが成果を出すか確認する。

 

 

今回のまとめ!

訪問者が興味ある個所を見極めて、改善を繰り返す

動画を見ている方が何に興味を持っているのか、逆に何について興味を持たないのかを、各数字から分析して新しい動画を入稿します。閲覧している方の心理を紐解くことが、広告改善の第一歩です。クリエイティブを変更し成果が出た時はとても嬉しく、広告運用の醍醐味となります

 

 

今月の事例

キュレーション記事の要約動画で訴求アップ

コーポレートサイトだけではなく、YouTubeに知ってもらいたい情報の動画をUPし、要約した動画を用意することで受動的に眺めるユーザーに情報を伝える工夫をする。

関東地方を中心に家電専門店「ノジマ」を展開する株式会社ノジマでは、インバウンドマーケティングとお客様のサポートの目的で家電の選び方や新商品情報、店舗でのサービスなどの小ネタを紹介するキュレーショ記事をコーポレートサイト上に掲載しています。記事は基本的にインハウスで執筆し、週に5本程度を目標に更新されております。

スマートニュースなど外部のニュースサイトへの記事提供なども行なっています。最低限のSEOも完了しており、オーガニック検索からのサイト来訪者の増加に大きく貢献しています。一方、テキスト主体の記事を読んでくださる方は限られているのも事実であり、若年層の来訪が少ないこと、また来訪したもののおそらくほとんど記事を読まずに離脱しているだろうと推測される滞在時間の短いアクセスが多いこともわかってきました。

そのためアクセス数の多い記事、もしくは内容的にアクセスが見込まれる記事について要約動画をYouTubeに投稿することにしました。

記事の内容の要約を登場するキャラクターのセリフの形に原稿化して紹介しています。

制作した動画は記事ページのなかにも埋め込み、テキストを読むのが面倒な方が動画内容を把握できるようにしています。

▲サクッと記事が読めるnojimaの公式サイトにある「家電小ネタ帳」

 

これにより積極的に検索エンジンを利用するような目的を持ったユーザのみでなく、なんとなくYouTubeのおすすめ動画を渡り歩いて視聴する、いわば受動的なユーザにも内容を伝えることができるようになりました。

動画の概要欄には元記事のURLを記載し、動画で興味を持ってくれたユーザーを記事ページに誘導しています。

ナレーションを先に録りそれにアニメーションを当てる形で、1分〜3分程度の尺になるように制作しています。

原稿とそれを読むナレーションを先に作ると、動画の尺が決まるので制作の見通しがつきやすいです。当初機会読み上げも検討をしたのですが試用した読み上げエンジンどれもしっくりこず、1本2本見るのであれば良いのですが複数本を見続ける場合は疲労が大きくなり、リピートの動機が低下するといった懸念から実際に人が読む形で制作をしています。

動画もコンスタントに制作することを前提に、メインとなるキャラクターを2名に絞り(ナレーションの声と対応)、puppetツールを使って映像制作になれてないメンバーでも簡単に動画を作れる体制にしています。

 

 

 

 

VIDEO SALON2021年8月号より転載