多くのドローンユーザーがその発売を待ち望んでいたDJIのFPVドローン「Avata」が登場した! 残念ながら2022年に発売された初代機は電波法の関係で国内では発売されず、苦虫を噛み潰した方も多いのではないだろうか? 著者の稲田悠樹さんもそんなひとり。この記事ではついに日本でも発売されたAvata 2の魅力を前・後編にわたって解説する。前編はAvata 2のスペックをはじめ、室内での飛行にフォーカスしてお届けする。
レポート●稲田悠樹(コマンドディー)
1台で空撮機、マイクロドローン、FPVドローンのような映像が撮れる!
導入
DJI Avata 2がやっっっと発売されました! 個人的にめちゃくちゃ待ち望んでいました。というのも日本では初代Avataが販売されていなかったので、念願の発売となりました。
マイクロドローンやFPVドローンは、これまで初心者が導入するにはなかなかハードルが高いものがありました。なぜ私がAvata 2の登場を待ち望んでいたかというと、このAvata 2が登場したことでそのハードルを大幅に下げることができるからです。そのハードルとは、「基本的に機体は自作する必要があること」と、「電波法に関する複雑な手続きが必要なこと」でした。
Avata 2はこれらの問題をクリアしており、通常のDJIの空撮用ドローンと同様の運用で、今まで自作するしかなかったマイクロドローンやFPVドローンを使った映像を撮影できます。もちろん、通常の空撮機や自作ドローンの利点もそれぞれあります。そこは使い分けになってくるので、その点も織り交ぜながら解説していきたいと思います。
2021年に発売されたDJI FPVという製品もマニュアルモード(アクロモード。各種センサーの補助がなく、機体の水平を維持しないフルマニュアルの飛行モード)を備えていましたが、機体重量795gと、それなりに大きな機体サイズで、なおかつ最高時速100km/hの飛行速度を持つ機体で、飛行できる場所が限られていました。ところが、小型でプロペラガード一体型のAvata 2が登場したことで、ゴーグルを装着してカメラ映像を見ながら屋内を飛ばせるマイクロドローンとしての使い方と、縦横無尽にアクロバティックな飛行を楽しめるFPVドローンとしての使い方の両方が楽しめることは画期的です。
この記事を執筆している4月15日現在、ゴーグルを装着した状態での屋外飛行は、目視外飛行として航空法に基づく申請が必要になり、国交省の許可申請の承認が降りるのを待っている状態です。そのため前編となる今回は、室内飛行に関するところまで。後日後編で野外およびマニュアルモードの飛行などについて解説したいと思います。
1台で空撮機とマイクロドローン、FPVドローンのような映像を撮れる
Avata 2の特徴の前に、昨今増えてきた自作のマイクロドローンやFPVドローン、そして、DJIの空撮機との違いについて触れておきます。私自身、これらを使い分けしているのですが、ざっくり言うと空撮機は野外で安定した飛行をするためのもの、自作マイクロドローンは室内専用、自作FPVは野外でより迫力のある俊敏でなおかつ重力を無視したアクロバティックな映像をするもの、といった使い分けをしています。
DJIの空撮機は、みなさんご存知のようにGPSや気圧センサー、障害物検出センサーなどを搭載しているため、高度な安全飛行性能とホバリングが可能です。これにより安定した映像を撮影できますが、FPVのように機体の姿勢制御を崩すような飛行はできませんし、室内で飛行するには些か大きすぎます。さらに、機体を安定させるためのセンサーが逆に足枷となり、機敏な動きには対応してくれません。
カメラで例えると、感覚的にはオートフォーカスとマニュアルフォーカスのようなもので、私自身は慣れてしまえばマニュアルで飛行できる自作機が飛ばしやすいと感じています。空撮機では撮影できない映像を撮るためにマイクロドローンやFPVドローンを自作しています。前述の通り、そこに初心者導入のハードルがあります。はんだ付けや配線など自作のためのスキルであったり、フライトコントローラーが正常に動作するように設定するための知識も必要です。さらには、FPVゴーグルで映像を見るために使用する機体のカメラからゴーグルに映像を飛ばすためのVTXに使用する電波は、電波法の規定をクリアしたものを選ぶ必要がありますし、この電波を使うためには業務では陸上特殊無線技士、趣味ではアマチュア無線の免許を取得した上で、機器と合わせて開局申請の手続きが必要になります。
また、自作機は通常の空撮機よりも操縦が難しいことも、初心者が導入する障壁になっているのも事実です。基本的にはジャイロセンサーのみを用い、すべての操作がマニュアルです。ホバリングも手動で舵を入れて高度を調整します。自作ゆえに機体のサイズや性能のバランスを自由に設計でき、姿勢制御を崩すアクロモード(マニュアルモード)時も、自分好みの飛び味になるように自由に飛行角度の調整をカスタマイズできるものの、初心者にはハードルが高いと感じてしまう要因になっています。
改めて「マイクロドローン」と「FPVドローン」の分類(FPVと一括りにされがちですが)を説明しておきたいと思います。いずれもゴーグルを使用し、カメラ映像を見ながら飛ばすという点は共通しています。マイクロドローンは主に室内飛行を目的とした小型機ですが、屋外で使用する人もいます。昨今の航空法改正による重量の制限をクリアしようと、U99(100g未満)と呼ばれるマイクロドローンも登場しています。一方、私が言う「FPVドローン」は5インチ機と呼ばれる野外でのアクロバットな飛行を目的とした中型サイズの機体のことを指しています。
そしてAvata 2は、DJIの空撮機とマイクロドローン、FPVドローンのこれまで使い分けていた3つのパターンの映像を1台で撮影でき、これまで苦労してきた自作の必要もありません。そして、電波法もクリアしていて、アマチュア無線や陸上特殊無線技士の資格も必要ありません。今までの涙ぐましいユーザーの手間が削減された夢のようなドローンなのです。
Avata 2のセット内容について
Avata 2本体、DJI Goggles 3、RC Motion3、バッテリー1本のセットが143,000円。これにバッテリー2本、2WAY充電ハブ、スリングバッグが追加されたものが174,900円となっています。私は、これに加えてDJI FPV送信機3とNDフィルターを購入しました。
2WAY充電ハブは、USB-C接続で充電(急速充電には65Wが必要)が可能です。3本のバッテリーのうち残量が多いものから先に充電される仕様になっています。「2WAY」というのは、Avata 2のバッテリーの充電のほか、このハブ自体にアウトプットがついていて、バッテリー残量を統合して別のデバイスへの給電可能になっています。充電の際には、先に説明したゴーグルと送信機も充電の必要がありますので、上写真のようにUSB-Cケーブルが3本必要になります。
スリングバッグしっかりと全部入るように設計されています。強いていうと、後述する2種類の送信機を入れるには少しスペースが足りずに、バッテリーの上にモーションコントローラーを置いている形です。
Avata 2の機体性能について
まずはこちらの室内を飛行した映像をご覧ください。購入した初日のバッテリー1本目で撮影した映像です。
▲設定はブレ補正RockSteady 3.0、画角を超広角、4K/60p、露出等はオート。D-LogMで撮影し、DJIから公開されているAvata 2 DJI D-Log M to Rec.709のLUTを使用。
私自身、自作のマイクロドローンで室内飛行に慣れていたとはいえ、いきなりこれだけ安定した映像が撮れました。自作機に比べると「センサー入ってます」感があり、カーブの動きに部分にぎこちなさがありますが、この機体の操作に慣れればある程度解決できると思います。
まず室内での飛行については、航空法の適用が除外されますので、気軽に体験することが可能になります。上の映像のようにそれなりの広さや、コースがあれば飛ばして遊べます。またプロペラガードが一体となっている構造のため多少接触してもそのまま飛行し続けることが可能ですし、室内を傷つける可能性も低い点でも安心できます。
もちろん自作のマイクロドローンの方がクイックな動きや、加速減速の調整など動きの自由度が高いですが、慣れていない状況で、なめらかに安定して室内飛行をしやすいのは明らかにAvata 2に軍配が上がります。
安定した挙動を可能にしているのは、本体の下部に搭載されたビジョンポジショニングセンサーで、スペックシートには高精度ホバリング範囲:0.3〜10 mと記載されています。逆にいうと地表面から10mを超えると不安定になるので注意が必要です。今回はGPSが入る室内なのでこの挙動ができていますが、GPSが入らない環境でどの程度の挙動なのかは、検証の余地があります。
重量は約377gと、サイズ感としてもDJIのドローンの中で最も小さいサイズになりますので、荷物を減らしたい、狭い場所をくぐりたいというニーズにも対応できます。とはいえ、昨今の自作のマイクロドローンと比較すると少し大きめです。狭いところをくぐったりするので、あればルートを慎重に選ぶ必要があると思います。
ゴーグルとコントローラーの使用感
Avata 2には、通常のDJI空撮機と違う点がいくつかあります。ゴーグルを装着して映像を確認する点と、機体を操縦するコントローラー(送信機)が2種類あるという点です。
▲DJI公式の初めてAvata 2を使用する人のためのガイド動画。DJI Goggles 3とDJI RC Motion 3の使い方について解説している。
視力補正も可能なDJI Goggles 3に感動
正直ゴーグルに感動しました。VRゴーグルが賑わってきている昨今、設定や視力の補正や装着の快適性など、気になる点が多い中、ソフトとハード両面がよく考えられており、初期設定の途中で感動しっぱなしでした。装着感については、小型で軽量(バッテリー含め470g)なためフィット感もよく、ドローンの飛行の際に邪魔に感じることはありませんでした。バッテリーも内蔵されており、3時間駆動します。充電が足りない場合は、USB-Cからモバイルバッテリーで給電することも可能です。
また、ゴーグル正面にはふたつのカメラが搭載されており、ゴーグルを外すことなく、簡単に周囲の状況を見ることができ、ドローンのカメラ映像へと切り替えができます。私はメガネを日頃利用しているのですが、メガネを外してゴーグルを装着する必要があります。そして、視力の補正が可能なのですが、デジタルとアナログ両方が融合したUIになっており感動しました。ゴーグル下のツマミをひねると視力が調整されると同時に、モニター内に視力補正のパラメータが表示されます。しかも右目と左目独立して視力補正が可能です。
各種設定の変更などは、ゴーグルの右上についているスイッチやモーションコントローラーで、VRゴーグルを使っているかのような操作感で、ゴーグルを装着したまま動かすことができ、スムーズに変更できます。またゴーグルとiPhoneをUSB-Cで接続し、DJI FLYアプリを接続すると、映像をモニターすることも可能です。アップデートや航空法のリモートIDのインポートなどもこの方法で行います。
コントローラー(送信機)は2種類から選べる
Avata 2の送信機には「DJI RC Motion 3」と「DJI送信機3」の2種類があります。初めての方が気軽に飛ばすのであればDJI RC Motion 3、ドローンとして様々な動きをしたいのであれば、今までのようにスティックのあるDJI送信機3を利用するのが良いでしょう。ただし、同梱されているのは、DJI RC Motion 3で、DJI送信機3は別売りとなっています。また、FPVのような動きをするマニュアルモードに関しては、DJI送信機3のみ対応していますので、そこも注意です(マニュアルモードについては後編で解説します)。
DJI RC Motion 3は、片手で直感的な操作ができます。イメージとしては、飛行機の操縦桿に近いように思いました。左右に方向を変えるには、人差し指でアクセルのトリガーを引いて、スティックを左右にふって操縦します。スティックを上下に降ると高度が上がったり下がったりします。ただし、通常のドローンと違って真上ではなく、斜めに前進しながら上昇していくことになります。通常のドローンのように真上と左右に動かす場合は、ジョイスティックで操作します。
DJI送信機3は、通常のドローンのコントローラーです。マニュアルモードで飛行する場合には必須になります。アンテナが埋め込み式になっていますので非常にすっきりしたデザインになっています。こちらは慣れ親しんだ操作が可能で、側面のトルグでカメラ角度を変えたり、スイッチでノーマルモードとスポーツモードなどの切り替えが可能など、今でのDJIドローンに慣れた方であればそのままの感覚で操作可能です。
カメラの性能と画角
実はカメラ性能については、スペック表からわかるようにDJIから発売されているOsmo Action 4とセンサーサイズやフォーマット、カラーモードなどほぼ同一の性能となっています。また、通常の空撮機のようにブレ補正のために3軸ジンバルが搭載されているわけではなく、Avata 2はカメラ角度調整の1軸のみで、ブレ補正に関しては電子式(RockSteady 3.0+、HorizonSteady)となります。なので、空飛ぶOsmo Action 4という認識で良いかと思います。
画角が「超広角」、「広角」、「ノーマル」の3種類。手ブレ補正が「なし」、「Rock Steady 3.0+」、「Horizon Steady」の3種あります。 画角がどの程度クロップされるのか、歪みがどうなるのかを以下比較しました。先の映像のように超広角で、Rock steadyの状態で撮影しておいて、編集で歪みを補正するかどうかを選択するというのが、運用上融通が効いていいのかなと思いました。
DJIの技術どうなってるねん! 室内でも映像が途切れず見られた
今回、室内で飛行テストしてみましたが、FPV映像の途切れなさ具合に驚きました。これまでの自作マイクロドローンでは考えられないくらい快適にゴーグルで映像を見られました。下のスペックシートにも記載してあるように、電波に干渉する壁や扉などの障害物がどの程度あるのかによって、機体から送信された映像がゴーグルに届く距離が変わります(弱い干渉と建物などの障害物がある場合:約0〜0.5 km)。
これまで自作マイクロドローンを使ってきた経験からすると、自分自身の立ち位置やいかに障害物の影響を受けない飛行ルートを選ぶかなど、しっかりロケハンなどでチェックしながら運用する必要がありました。とはいえ、先程のテスト映像を撮影した際には、FPVの映像は一瞬たりとも乱れることなく飛行できたので、「DJIの技術どうなってるねん!」と思ってしまいました。
また室内の場合、GPS(これも電波)が入らない環境だったりするので、操縦用の電波が途切れた際のフェールセーフの設定を、RTH(リターントゥホーム。離陸地点に戻ること)にしてしまっていると、上昇して天井に衝突という事態になってしまいます。よってホバリングもしくは着陸のいずれかにしておくと安心です。
以上、前編では主に機体や送信機、ゴーグルの使用感や室内飛行での操作感について解説しましたが、今までの自作マイクロドローンやFPVドローンでは撮影が困難だったものが、Avata 2が登場したことで気軽に撮影できるようになったことは間違いありません。 後日掲載予定の後編では、野外での飛行とFPVドローンとしてのアクロバットな動きについて解説します。
SPECIFICATIONS
機体性能 | 詳細 |
離陸重量 | 約377 g |
サイズ | 185×212×64 mm (長さ×幅×高さ) |
最大飛行時間 | 約23分 (無風環境で、21.6 kphで飛行時) |
最大風圧 | 10.7 m/s (スケール5) |
最大水平飛行速度 | 8 m/s(ノーマルモード) 16 m/s(スポーツモード) 27 m/s(マニュアル モード) |
内部ストレージ | 46 GB |
映像伝送システム | O4 映像伝送システム, 1080p@30/50/60/100fps のライブビュー品質 |
最大伝送距離(障害物、電波干渉のない場合) | 日本仕様 MIC: 10 km (障害物なし、干渉なし) |
最大伝送距離(障害物があり、電波干渉がある場合)※1 | 弱い干渉と建物などの障害物がある場合:約0〜0.5 km 弱い干渉と木々などの障害物がある場合:約0.5〜3 km |
充電時間 | チャージングハブ使用時 (最大60W): 約45分で0から100%、約30分で10%から90% |
下方検知 | ToF有効検知高度:10 m 高精度ホバリング範囲:0.3〜10 m 測定範囲:0.3〜20 m FOV:水平 78°、垂直 78° |
後方検知 | 測定範囲:0.5〜20 m FOV:水平 78°、垂直 78° |
※FCCに準拠し、一般的な弱い干渉の環境下で測定。このデータはあくまで参照用の値であり、実際の伝送距離を保証するものではありません。
カメラ性能 | 詳細 |
イメージセンサー | 1/1.3インチセンサー |
有効画素数 | 1200万画素 |
焦点距離 | 12 mm |
絞り | f/2.8 |
ISO感度 | 自動: 100-25600、手動: 100-25600 |
シャッター速度 | 動画: 1/8000~1/30秒、写真: 1/8000~1/50秒 |
動画解像度 | 4K (4:3): 3840×2880@30/50/60fps、4K (16:9): 3840×2160@30/50/60fps等 |
動画フォーマット | MP4 (H.264/H.265) |
最大動画ビットレート | 130 Mbps |
カラーモード | 標準、D-Log M |
EIS | RockSteady 3.0+、HorizonSteady (安定化機能はオフにもできる) |
ジンバルの安定化機能 | 1軸メカニカルジンバル(チルト) |
●DJI Avata 2の製品情報