海外・国内作品のアプローチの違い

海外はテーマに寄り添い 国内は情緒的にストーリーへと落とし込んでいく

ブランデッドムービーへのアプローチ方法にも、海外と国内でそれぞれ異なる特徴があります。海外作品については、ブランドが伝えたいメッセージと相性のいい社会問題などを探して、そこからストーリーを作り上げて商品やブランドの見せ方を落とし込んでいく傾向が強いです。その結果、テーマに寄り添ったイメージからストーリーができあがるので、サービスへの憧れや興味を表現するのがうまい印象があります。

一方、国内作品については最初に商品やブランドをいかによく見せるか、映し出せるかという部分が土台にあって、それらをいかに視聴者へと情緒的、感情的に訴えていくかという傾向があります。プライベートやパーソナルに関わるものを見せて、ストーリーに落とし込んでいく印象です。


過去の受賞作品例

『Note』(2017年・インターナショナル部門受賞)

2017年に受賞したトロントの文具店のブランデッドムービー。手書きのメモだけでストーリーが進行するアイデアが秀逸、かつメッセージ性の高い作品として評価された。店主と常連客の会話から生まれたアイデアで、亡くなった祖父からもらった手紙を捨てられないという会話から手書きの言葉の重要性を伝えたいという話になり、本作が作られた。



homepage ● https://brandedshorts.jp/award/

『Me, My Autism & I』(2023年・インターナショナル部門受賞)

2023年に受賞したイギリスの洗剤会社と、自閉症の若者を支援する慈善団体がコラボした作品。衣服がかけがえのない存在である自閉症の少女と、衣服を長持ちさせるための洗剤というふたつの要素によりストーリーが生まれた結果、ブランドのエンゲージメント向上に繋がった。監督は映画『英国王のスピーチ』でアカデミー賞を受賞したトム・フーパー氏。



BRANDED SHORTSに必要な要素

視聴者と広告主がお互いにWinWinとなる関係が大切

BRANDED SHORTSの今後の展望としては、まず広告ではないところからのアプローチがより必要になってくるのかなと考えています。映像を見る環境が近年だいぶ変化してきていて、今まででは家でテレビを見ていればCMが流れてくる時代でした。今はスマートフォンやPCから、どんな状況でも映像を視聴できる環境へと変動しています。

また、視聴者も広告を見る、見ないという選択ができるようになりました。そういった状況で、企業のブランドやメッセージを、エンタメの中に落とし込んだブランデッドムービーがより強みを発揮し、今後さらに可能性を感じられるように思います。

もうひとつ重要になるのが、コンテンツとしての力強さです。ブランデッドムービーは、視聴者だけでなく広告主にとってもお互いにWinWinとなる関係が大切だと考えています。コンテンツに力強さがあることで、視聴者にとっては満足感のある視聴体験が得られますし、企業にとっても自然な形でブランドやサービスを伝えることができて、より好意を抱いてもらいやすくなります。

そして、メディアに依存しないフォーマットも必要不可欠だと考えています。様々な環境で映像に触れられる時代になったからこそ、尺などのフォーマットに縛られず、柔軟に対応できるのもブランデッドムービーの強さのひとつなのかなと思いますね。




『The Izakaya Dialogue』制作解説

『The Izakaya Dialogue』

あらすじ:日本に留学中のスウェーデン出身のマーク。マークは、同調性の強い日本人にネガティブなイメージを抱えていた。そんな中、赤坂の風情ある居酒屋で働くユウカと出会う。「あなたにとっての幸せのイメージはなんですか?」 ユウカが問いかけた一言がきっかけで、ふたりのちょっぴり変わった試みが始まる。

出演者:村雨 辰剛、鳴海 唯、神保 悟志

監督:道上 寿人

制作期間:2022年8月〜2023年5月


制作の経緯

“ホッピー”をテーマに4作品制作

『The Izakaya Dialogue』という作品は、居酒屋などで楽しむ“ホッピー”をテーマとして、ホッピービバレッジさんと制作したショートフィルムになります。また、ホッピービバレッジさんとは、本作を含む計4作品のショートフィルムを制作しています。

今回の『The Izakaya Dialogue』制作の経緯としては、まず2021年に「ホッピーハッピーアワード」という賞をSSFF & ASIAの中で設立したところが起点になっています。映画祭に集まった作品の中からホッピービバレッジさんの掲げたテーマを最も体現した作品にアワードが与えられ、見事受賞に輝いた作品の監督には副賞として、翌年の映画祭で上映される作品を監督していただくという形式を取っています。制作した作品は「ホッピーハッピーシアター」というオンラインの映画館で見られるようになっており、ここまでをひとつのパッケージとした企画になっています。

本作は、ホッピービバレッジ本社のある東京の赤坂がメインの舞台となっており、劇中で登場する様々な居酒屋さんも全て赤坂に実在するお店になっています。作中ではおいしいホッピーの飲み方や、少し変わったホッピーの飲み方なども、ストーリーの中で自然と知ることができる内容になっているので、そちらに注目しながら見ていただくのも面白いかなと思います。  本作は、私たちが持つ映画祭という特徴を活かしたブランデッドムービーとなっております。

制作のテーマ

「人と人とのつながり」と「居酒屋文化」というふたつのテーマが合わさった作品

ホッピービバレッジさんと制作した作品は全て”ホッピー”と、発酵麦芽飲料の”発酵”にかけた、「HAPPY/発幸」 というキーワードが大きなテーマになっています。その中で、今回の作品である『The Izakaya Dialogue』では「人と人とのつながり」、赤坂を中心とした「居酒屋文化」に焦点を当てて制作しました。

「人と人とのつながり」という部分は作中の大きなキーワードにもなっています。主人公となるスウェーデンからの留学生マークは、たまたま訪れた居酒屋で店員のユウカと出会います。対話を重ねる中で、ユウカから「あなたにとっての幸せのイメージはなんですか?」という問いかけをもらい、ふたりは「街の人にも聞いてみよう」とアクションを起こします。そうしていくうちに、マークが人と人とのつながりや、自分にとっての幸せを見つけていくという話になっています。

また、「居酒屋文化」が作品のテーマとして組み込まれているのは、コロナがだいぶ落ち着いてきたものの、居酒屋に飲みに行くようなテンション感ではまだなかった2022年が制作開始のタイミングだったこともあり、「居酒屋には行きたいけれど、行っちゃダメなのかな…」という雰囲気がある時期だったことが大きいですね。それを受けて、ホッピービバレッジさんの「たくさんの居酒屋がある赤坂という街を盛り上げたい」という想いのもと、「人と人とのつながり」と「居酒屋文化」というふたつのテーマが合わさった作品を制作することとなりました。


制作プロセス

発表から約1年かけて制作

制作のプロセスとしては、2022年6月の映画祭にて受賞作品の発表があり、8〜9月に企画を固めていきました。最初の骨子の段階でホッピービバレッジさんから、「コロナ禍が落ち着いても、居酒屋の多い街には暗い雰囲気が残ってしまっている。そうした状況や時代性を反映しつつ、それを解決するような作品にしたい」、そして「コミュニケーションが希薄になってしまったタイミングだからこそ、人と人とのつながりが大事なんだと改めて思える作品にしたい」という明確なビジョンをいただきました。その点と点を物語としてどう繋げていくか、エグゼクティブプロデューサーの別所も含めたチームで議論を重ねました。

10〜11月に行なった脚本制作では、作中でのホッピーという存在のあり方を最も意識しました。主人公となる留学生マークは、皆が右に行ったら右に行くような日本人の同調性の強さに対して「個性がない」と少しネガティブなイメージを持っています。そんなとき、ホッピーは焼酎で割るだけでなく、トマトベースやワインベースなどいろんなもので割れる飲み物だと知ります。割り物によって楽しみ方が変わるホッピーと、同じに見えて本当はそれぞれに違う物語がある日本人がリンクする脚本になっています。

脚本執筆後は、12月にロケ地・スケジュールの調整、1月にキャスティング、2月に5日間の撮影を行い、3〜4月に編集・納品、6月に映画祭の中での発表、各メディアでの配信を行うといった流れになっています。


完成後の展開

SSFF&ASIAでの発表・上映
BRANDED SHORTSで紹介
SSFF&ASIAが連携する屋外イベントでの上映
ホッピーハッピーシアターでの配信





企業がブランデッドムービーを作るメリット

ブランデッドムービーを見た後はその商品を手に取ったように感じることができる

消費者や世間に伝えたいメッセージのある企業が、商品やサービスの良さを全面的に押し出す形ではなく、その企業の持つ思想やコンセプトの部分を世の中に発信できるのがブランデッドムービーの強みであり、良さでもあります。また映画という表現手法を、企業が選んで制作すること自体、その企業のユーモアやパッションを感じられ、魅力的に映ることと思います。

ブランデッドムービーの審査基準には「視聴後の想起力」という項目がありますが、その言葉通りブランデッドムービーを見た後は、その商品を自然と手に取りたくなる感覚が得られると思います。例えば『The Izakaya Dialogue』を見て、本当に赤坂へと出向いてホッピーを飲んだとき、作品と自分がリンクする瞬間があったり、その作品の中に自分が少し登場したような気分になったりできると思うんです。ブランデッドムービーを作ることで、企業や商品への興味を訴求でき、同時に愛着を生み出すことが可能になります。

ブランデッドムービーを作る企業が増えるということは、若いディレクターの育成にもなり、制作を望むクリエイターのチャンスも増えるため、映像業界にとっても素敵なことだと思います。本記事をきっかけに、ブランデッドムービーを作る企業がより増えてくれたらうれしいですね。

ホッピーハッピーシアターとは?

「Be HAPPY with HOPPY」を掲げるホッピービバレッジとSSFF & ASIAがコラボレーションしたショートフィルム専門のオンライン映画館。


過去の制作作品

『願いのカクテル』

出演者: 國村 隼 / 制作年: 2019年


『The Supermission』

出演者: 筒井真理子 / 制作年: 2020年


『犬島犬子』

出演者: 小川紗良 / 制作年: 2022年