ジャパンブロードキャストソリューションズ株式会社は、6月27日と28日の2日間、Blackmagic Cloudの「Cloud Storage」を用いたクラウドワークフローについてのセミナーと実機展示を行なった。

REPORT◉編集部 一柳

1)Blackmagic Cloud

ブラックマジックデザインのクラウドサービスであるBlackmagic Cloud の各種アプリケーションとCloud Dockシリーズを始めとするNAS製品の連携方法を紹介。DENDEN社が自社の映像制作サービスで運用中の収録から編集までのファイル共有を効率化するワークフローを実際の現場事例を踏まえて紹介した。

また、Read/Writeの両方で安定した高速を発揮するSamsung SSD / SD Cardを用いることで、SD Cardに収録した素材のアップロード高速化、NASへの保存時のメリットを、実例や動作検証の結果を交えて紹介していた。

2)DaVinci Resolve Replay

今年のNABで発表されたDaVinci Resolve Replayの小型セットアップを展示した。DENDEN社が開発したブラックマジックデザイン製品専用の10インチサーバーラックにReplayシステムに必要なすべての機能をコンパクトに納めている。Hyperdeck Studio HD PlusやCloud Dock 2などのハーフサイズの小型機器を用いた現場スタッフがより簡単に運搬できる最新のセットアップとなっている。中継を小さな機材でコンパクトに、安価に実現する方法を提案した。

今回のシステムとワークフローについて説明するDENDEN株式会社の清本俊彦氏。

カメラからアップロードする方法

ブラックマジックデザインの対応カメラであれば、スマホと接続して、収録ファイルはインターネット経由で自動アップロードされる。

アップロード中の画面。

他社製品のカメラではBlackmagic Cloud Storageに対応していないため、カメラから直接アップロードすることはできないが、ブラックマジックデザインのNAS製品である「Cloud Pod」を用いることで、収録現場からオフィスや自宅に戻った後に円滑なファイルアップロードを行うことができるという。

このCloud PodにはUSB Type-C端子が2つ搭載されており、そこにUSBハブとSDカードリーダーを増設することで、メディア内の素材をアップロードすることが可能。あらかじめ素材のアップロード先を設定しておき、このカードリーダーのスロットにSDカードを挿せば自動的にクラウドストレージにアップロードが開始される。

また、使用するSDカードのメーカーが純正で発売しているSDカードリーダーを用いなければ、転送速度が大幅に低下し、いくら高速なインターネットで接続していたとしても、この転送速度がボトルネックとなりアップロード完了までの時間が長くなってしまうという。そのため、DENDEN社ではサードパーティー製のSDカードリーダーを用いるのではなく、Samsung社製のUHS-I対応SDXCカード「PRO Ultimate」と専用カードリーダーを組み合わせている。こうすることで高速オフロードが可能になる。

ATEM Miniシリーズからクラウドへ収録ファイルをアップロードする方法を紹介

実は最近のアップデートによりATEM MiniシリーズがBlackmagic Cloud Storageへのアップロード機能に対応した。ATEMのソフトウェアコントローラーの収録設定メニューを見ると、ログインIDとパスワードを入力できる画面が表示されており、そこから予め契約したCloud Storageにつなぐことができる。ATEM MiniにSSDを接続して録画できるようにしておけば、録画の停止ボタンが押されると同時に収録ファイルが自動的にアップロードされる仕組みを簡単に構築することができる。

ATEM Mini Pro ISOにサムスンSSD T9を接続してこちらで録画。

デモンストレーションでは、ATEM Mini Pro ISOにサムスンSSD T9を接続し録画。RECのSTOPボタンを押すと、Cloud Storageにアップロードする機能がATEM Miniシリーズの最新アップデートで追加された。また、清本氏によると収録後の動画編集を急ぎで行う必要がある場合、ATEM Miniの場合は軽量な動画ファイルを収録できるので、その収録ファイルを遠隔地の編集スタッフに短時間で共有しているという。収録現場のカメラやHyperDeckシリーズで収録したProResやBlackmagic RAWなどの重たい収録ファイルは高画質ではあるものの、どんなに高速な回線を用いたとしても収録後の撤収作業が終わるまでの間にアップロード作業が終わらないという。そのため、比較的軽量なATEMの収録ファイルを先行して遠隔地の編集スタッフに向けてアップロードするという。

このような収録の翌営業日にはアーカイブ動画を配信する必要のあるイベント配信の案件では、納期に間に合わせるためにアップロード時間が短いATEMの収録ファイルを用いるほうが好都合というケースもある。

編集スタッフのリモートワーク環境を紹介

Blackmagic Cloud StorageとCloud Podを利用することで、遠隔地の編集スタッフに迅速に収録ファイルを送り、動画編集を進めてもらうことができるようになった。数年前までは、ProResやBlackmagic RAWなどのオリジナルファイルで編集をしようとするとかなりの容量になってしまうため、そのオリジナルファイルをもとに手動でプロキシファイルをつくり、それを毎回PCのWEBブラウザー経由で各種クラウドストレージサービスに手動でアップロードし、編集スタッフに共有するという、とても非効率で時間のかかるやり方をしていたという。

そこで、DENDEN社では、ブラックマジックデザインのNAS製品であるCloud Podを各編集スタッフの自宅に設置し、「プロキシファイルのみ同期」機能を利用することにした。オリジナルのファイルはクラウドにありながら、東京のオフィスで一括生成されたプロキシファイルのみが編集スタッフの自宅に自動でダウンロードされる。このように、Cloud Podとそこに接続するSSD(この場合はサムスンT7 Shield)があれば、軽量なプロキシファイルのみを自動でダウンロードされる仕組みを作ることができるので、すべての編集スタッフに4TB〜8TBの高額なSSDを配布する必要がなくなるためコストパフォーマンスが大幅に向上したという。

さらにプロキシファイルであれば、PCとダビンチへの負荷も少なく済むので、GPUが搭載されているような高額な動画編集用途向けのPCでなくても作業が円滑に行えるようになった。

それこそ数年前のMacBook Airでも編集作業が快適にできるというメリットがある。

独自開発の10インチサーバーラックとBlackmagic Replay システム

Blackmagic Replayを利用する場合、最新のDaVinci Resolve 19がインストールされたPCとHyperDeck、Blackmagic DesignのNAS製品、UltraStudio 4K Miniの4つのハードウェアを10Gのネットワークハブを介してイーサーネットで接続することで、HyperDeckの録画をとめることなくDaVinci Resolve上で映像を再生できるというシステムである。

DaVinci Resolveのバージョン19の新機能として追加されたBlackmagic Replayを使うことで、例えばスポーツイベントでのスロー再生や巻き戻し再生、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)などのシステムが比較的低コストで構築できる。また、HyperDeckの台数を増やすことで、簡単に収録チャンネルを増やすことが可能。

DENDEN社がデモンストレーション時に組んだのが、ブラックマジックデザインの機材を組み合わせた、10インチラックに入れたリプレイシステム。いくらシンプルに複雑なシステムを構築できるとはいえ、収録現場で一から各機材を開封し設置して配線するとなると現場スタッフの業務負荷が多くなってしまうため、あらかじめコンパクトなラックに各機材を入れておき、配線済みのセットアップを持ち込むことで現場業務が大幅に簡素化される。そのためにDENDEN社が開発したのが「10インチサーバーラック」である。

デモンストレーションでは、HyperDeck Studio HD PlusとCloud Dock 2、UltraStudio 4K Miniをコンパクトなラック内に格納していた。そのCloud Dock 2に挿入されているのがサムスンの870 EVOの4TB。また、Cloud StoreやCloud Store Miniシリーズ(SSD内蔵型)を用いることもできるが、Cloud Dockシリーズでは収録後にSSDをユーザー自身で取り外すことができるため、オペレーターからディレクターまでの収録後のスムーズなメディアの受け渡しが可能。ちなみにサムスンの870 QVOは製品の仕様上により、動画収録時にキャッシュ切れが発生するため、870 EVOの方が動画収録用途にはオススメだという。

また、Cloud Store Mini 16TBのバックアップ(Cloud Store Mini 16TBもバックアップ用途)として T5 EVOを接続していた。

10インチ相当のハーフサイズ機器専用に設計された10インチサーバーラック。
HyperDeck Studio HD PlusはSDカードやUSB Type-C接続のポータブルSSDに直接記録できるが、ネットワーク上にあるNAS製品(ここではCloud Dock 2)およびSSD(ここでは870 EVO)に記録することができる。

このラックはブラックマジックデザイン製品専用に設計された棚板と汎用タイプの2種類の棚板が用意されており、合計10U分の機器を格納することができる。EIA規格19インチサーバーラックの寸法をもとに横幅を10インチ相当に設計されており、さらに背面パネルにはデータセンターグレードの高性能な静音ファンを搭載することで、特に発熱が顕著なHyperDeckシリーズの故障や収録停止を防ぐための常時冷却が可能。

デモンストレーションでは、DaVinci Resolve Replay Editor(2024年6月時点では未発売)のプロトタイプを特別に展示。リプレイおよびマルチカム編集の機能を結合したハードウェアコントロールパネル。現状、DaVinci Resolve 19のパブリックベータの状態で使用できていた。

Blackmagic ReplayシステムとBlackmagic Cloudを組み合わせて運用するメリットを紹介

さて、こういったシステムを利用してどういったワークフローができるのだろうか。

例えば、スポーツイベントの中継現場では、Blackmagic Replayの操作を担当するスタッフが1名で試合中の見どころでスローや巻き戻し再生(例えばホームランやゴールの瞬間など)を行う。この映像はPCに接続されているUltraStudio 4K MiniとSDIを経由して、現場に設置されているメインのATEMスイッチャーに送出される想定(以下の図表中では省略)。

その後、リプレイ操作終了後に、リプレイ時の動画が記録されたタイムラインがDaVinci Resolve上で自動的に生成されるため、同じプロジェクトファイルにBlackmagic Cloud経由で参加している別のスタッフ(試合の内容を熟知しているディレクター)が試合の休憩中や解説中に流すためのダイジェスト動画に必要な素材選定を行う。

さらに、放送中に流すダイジェスト動画を必要な尺に合わせて仕上げる編集スタッフが現場にいる。

これらの一連の操作を3名体制で試合が終了するまでリアルタイムで行うことになる。

一方で、昨今のスポーツイベントはSNSとの連動が視聴者の体験価値向上には重要なため、例えばテロップやBGMなどのよりリッチな演出を加えた縦型動画コンテンツを試合終了後にできる限り早いタイミングで公開する必要がある。

この動画編集を試合後の撤収作業で忙しい現場スタッフが行うことができないため、撤収作業を行なっている裏側で収録ファイルを遠隔地にいる編集スタッフまで共有する必要がある。

ここで活躍するのがCloud Dockのクラウドストレージ同期機能である。Cloud DockおよびブラックマジックデザインのNAS製品では、収録されたファイルをあらかじめ設定画面で指定したクラウドストレージに自動でアップロードする機能が搭載されている。

これにより、現場スタッフが試合終了後にHyperDeckの録画停止ボタンを押すだけで、Blackmagic Cloud Storageへの自動アップロードが始まり、また、クラウドにアップロードされたファイルは順次の編集スタッフの自宅に設置されているCloud Podにも自動ダウンロードされる仕組みを構築している。

しかしながら、HyperDeckで収録されたProResファイルは膨大なファイル容量になりアップロードにかなりの時間がかかるため、試合終了後に別のノートPCで稼働しているプロキシジェネレーターにて、NAS内のオリジナルファイルのプロキシを自動生成し、その後NAS内に書き出されたプロキシファイルのみが自動アップロードされる仕組みになっている。

この一連の素材のアップロードとダウンロード、変換などの作業は、初期設定を除くと完全に自動化されており、ITやネットワーク機器に詳しくないスタッフでもそれを意識せずにクラウドワークフローの恩恵を受けることができる。

Blackmagic Cloudによるポストプロダクションワークフローの変革

このように、Blackmagic Cloudの各種機能を利用することによって、従来のローカル環境のみのポストプロダクションワークフローよりもファイル共有や協同編集などを効率化することができる。

制作会社のディレクターからフリーランスのエディターに外注した場合、従来であれば作業工程の難易度を問わず、あらゆる作業に対応できるマルチロールなエディターにすべての作業を依頼する必要があった。また、関わる編集スタッフが増えるごとにディレクターが行うファイル共有業務や素材管理(フォルダー整理、素材のバージョン管理など)の手間も増えるため、そのディレクターの稼働や管理コストを考慮すると、離れた場所にいる編集スタッフ同士で作業を分担して行うということは現実的ではなかった。

一方で、Blackmagic Cloudでは、「Cloud Storage」や「Project Server」で素材も編集ファイルもクラウド上で管理し、さらにCloud PodをはじめとするブラックマジックデザインのNAS製品を用いることで各スタッフのローカル環境に常に最新の素材ファイルが同期されるため、従来ディレクターが行なっていた手動によるアナログな事務作業がなくなった。

これにより、ディレクターの事務作業負荷を最小限に抑えつつも、離れた場所にいるスタッフ同士で作業工程を円滑に分業することができるようになり、例えば、カット編集、エフェクト追加、字幕作成、カラー調整、さらに書き出し作業さえも分業することができるようになった。

また、これだけ多くのスタッフが関わるとその管理も従来のワークフローに比べると大変になりそうだが、DENDEN社では、制作中のコミュニケーションをはじめ、より細かな経理処理、発注から見積書、請求書のやりとりから、振り込みまでをデータ連携して自動化する統合ワークフロー「DENDEN  Advanced Cloud(ACS)」を構築、運用しているという。