NHK放送技術研究所(技研)は、独自の作製手法によって、世界で初めて厚さ0.01mmの薄くて曲げられるシリコンイメージセンサーを開発し、湾曲させて動作させることで横方向のぼやけを大幅に改善した映像の撮影に成功したことを発表した。

イメージセンサーは、レンズを通った光を電気信号に変換する素子。従来の平面構造のイメージセンサーでは撮像面と結像面にずれ(収差)が発生し、映像の周辺部でぼやけが生じる。また、撮影の視野を広げるほど、収差の影響は大きくなる。

通常は、多数のレンズを組み合わせて光を複数回屈折させることによりこの収差を補正しているが、カメラが大きくなってしまう。これに対し、イメージセンサーを結像面に合わせて湾曲させることで、少ないレンズ枚数で収差を補正できる本方式では、広視野撮影での高画質化や、カメラの小型・軽量化が可能となる(図1)。


図1 湾曲したシリコンイメージセンサーによる収差補正の原理



通常のイメージセンサーは硬くて厚いシリコン基板を使っているため曲げることができない。今回、シリコン基板とシリコンデバイス層の間に薄い酸化膜を挿入した特殊な構造を用いることで、厚いシリコン基板を化学反応によって取り除くことができ、厚さがわずか0.01mmの薄いシリコンイメージセンサー(320×240画素)を作製することに成功したという(図2)。

最大で曲率半径10mmの円筒状まで湾曲させても撮影でき、また、湾曲していない平面構造のイメージセンサーと比較して横方向の収差が大幅に改善することを確認したとしている(図3)。


図2 イメージセンサーの構造(左)と開発したイメージセンサー(右)


図3 開発したイメージセンサーによる出力映像
左:平面構造(湾曲前)のイメージセンサーによる映像
右:円筒状(曲率半径20 mm)に湾曲したイメージセンサーによる映像



同研究成果は、神戸で開催されたIEEE SENSORS 2024 (10月20~23日)で発表された。今後は、カラー化を進めるとともに、縦横両方向の収差改善に向けて凹面状に湾曲したイメージセンサーの作製技術を確立し、2030年頃までに小型・軽量で高画質な広視野カメラの実用化を目指すとしている。