自動字幕の使いこなし方

字幕付けを簡単にする文字起こしとテキストベースの編集




文字起こしをしたいクリップを右クリックし、自動文字起こしを選択。自動でしゃべり声がテキスト化される。文字起こしが完了したらタイムラインのメニューでオーディオから字幕を作成を選択。1行あたりの文字数などを設定し、Createボタンを押せば、タイムラインに字幕が自動で作成される。









文字起こしの精度は完璧ではないが、簡単に字幕が付けられるのがメリット。誤字や文節の不自然さはビデオ項目のキャプションから修正できるが、字幕のデータを「.srt」の形式で書き出すことも可能。そのファイルをテキストエディタで一括編集し、DaVinci Resolveのタイムラインに戻すこともできるので作業が効率化できるだけでなく、誤字・脱字チェックの分業化、翻訳字幕テキストへの差し替えも簡単に行える。



テキストエディターで修正・調整







Magic Maskですぐに仮マスクを作る

仮のマスクでも精度が高くないと実用的ではない

カラーページのMagic Maskをクリック、「オブジェクト」と「人物」のモードがあるが、今回は人物を選択した。あとは人物の上に線を描いて検出させ、トラッキングボタンを押すだけ。映像によって精度に差は出るが、トータルで1分もかからないので、手動でマスクを切る作業と比べると、圧倒的に時間短縮になる。





人物モードで線を一本描いただけでMagic Maskを試してみたデモ映像。地面のタイルとシャツの色、背景の樹木の葉と髪の毛の色が少し似ているため、輪郭が甘くなってしまった箇所もあるが、仮マスクとしては充分な精度だった。





人物の部位ごとに選択できる機能も

Magic Maskの人物モードにはさらに細かい部位の設定がある。下の映像は顔、髪、衣服(上)のみ選択してMagic Maskをかけた例。それぞれの部位で線一本でしかなぞっていないが、トラッキングをかけてみると、そこそこの精度で認識されていた。





試行錯誤する時間をいかに確保するか

作業をAIに任せて自分はクリエイティブなことに時間を使う、という今回のテーマにピッタリなのが、Magic Maskの機能だと思います。

じつは急ぎのマスク作業というのがよく発生するのですが、例えば、自分が編集している横でディレクターの方が見ていて、「いま映っている人物だけ明るさをアップしたものを一度チェックしたい」とリクエストされた場合。これまでは人物のマスクを切るのにすごく時間がかかっていました。というのも、“仮”のマスクであってもある程度の精度がないと完成形がイメージできず、必然的に本番に近いぐらいの精度が求められているからです。

仮マスクで人物の明るさ調整などを試してみた結果、「やっぱりナシだね」となることもあります。でも、それはクリエイティブな試行なのでいいことなんです。その「やっぱりナシだね」を何回できるか、その試行に至るまでの時間や労力をいかに軽減できるか、が大切だと思います。



Magic Maskでより精度の高いマスクを作るためには?

下の映像はオブジェクトモードで人物の輪郭をざっくりとなぞった場合。今回のデモ映像ではこちらのやり方のほうが精度高くマスクを切ることができた。人物モードや線一本でなぞってうまくいかないときは、一度試してみてほしい。





Magic Maskで作成したマスクが少し粗い場合でも、パラメーターの調整で多少はカバーすることが可能だ。マスクを作成した後に、ブラー範囲で輪郭をボカしたり、内/外比率で少し内側に食い込ませることで、より精度の高いマスクを作ることができる。





まずは一部の機能から試してみてほしい

広告系の仕事で特に使うことが多いのがパッチリプレイサーによる肌補正です。具体的にはニキビやシミ、ホクロなどの“消し”の作業ですね。パッチリプレイサーとは、明るさの違う箇所の肌であっても、自然な形で引用元からコピー&ペーストできるような機能です。

ここにIntelliTrackによるトラッキングを組み合わせるのがおすすめです。人物の顔であれば口角や目尻の箇所に十字を合わせるだけ。通常のトラッキングでは検索範囲や検出範囲のボックスを細かく設定する必要がありましたが、IntelliTrackは感覚的に十字を置くだけなので、かなりお手軽です。あとはパッチリプレイサーの位置や大きさなど、キーフレームを打ちながら微調整すれば、消し作業の負担が軽減されます。プライマリーのホイールやカラーバーなどは触らなくても、かなりの精度で消し作業できますし、Fusionに移動する必要もなく、すべてカラーページで完結する点もうれしいポイントです。

消し作業は重要で、個人的に嫌いな作業ではありませんが、あまりクリエイティブに寄与するものではありません。なので、なるべくこの作業は早く終わらせて、カラーグレーディングの詰めなどに多くの時間を割きたいところです。

僕もワンオペで撮影するケースがありますが、現場ですべてカバーできないことが多々あります。例えば、本当は人物にレフ板で光を当てて顔周りの陰影がつきすぎないようにしたかったけど、レフ板を当てられる余裕がなかった…などです。そんなときはリライト機能も使えます。

この機能を簡単に説明すると、編集時に光を当て直すことができるようなエフェクトです。映像から自動で凹凸を検出して、あたかも現場で光を追加しているようなシミュレーションができます。さまざまな制約で現場のライティングを詰められなかったときに重宝しますし、ワンオペや少人数の現場で撮影するときにこのリライト機能があることを頭に入れておけば、多少余裕が出るはずです。

もともとDaVinci Resolveを使っている方もいると思いますが、Premiere Proなど現在は別のソフトを使われている方にも、ここで紹介した機能を取り入れていってほしいな、と思っています。例えば、バレ消しだけ、肌補正だけをDaVinci Resolveで作業して、素材にしてPremiere Proに返す…というフローを組んでも、充分時間短縮やクオリティアップが見込めるので、まずは一部の機能から試してみてはいかがでしょうか。






パッチリプレイサーを使った肌補正

IntelliTrackを組み合わせてより短時間で補正が可能に

デモ映像では「シミ」の文字が乗っている頬の肌をパッチリプレイサーで補正。「シミ」の文字がないきれいな肌の部分を引用して、「シミ」の上に適用した。カラーの調整は一切行なっておらず、パッチリプレイサーの機能ですべて自動で補正されている。





パッチリプレイサーの使い方

エフェクトのメニューにあるパッチリプレイサーをオンに。ここではフェイスライン付近の肌を頬の「シミ」の上に乗せている。ふたつの箇所で明るさが違うが、自動で調整されているのが分かる。違和感を感じる場合は引用元の位置を変更するか、ディテールの項目からエッジのブラーをかけてなじませることでより自然に仕上がる。





IntelliTrackの使い方

トラッカーのFXでIntelliTrackを選択。十字が表示されるので、追跡しやすい口角などに合わせるだけで、トラッキングができる。映像を確認してバレてしまったところはキーフレームを打って調整。








リライト機能で狙った箇所をリカバーする

現場で詰めきれなかったライティングを編集時に調整




現場でレフ板を当てられず、フェイスラインから首元が少し暗くなってしまったケース。全体を調整すると背景の富士山の印象が弱まってしまうため、リライト機能を使ってピンポイントで光を調節する。まずMagic Maskで人物とその背後の壁だけのマスクを切り、エフェクトのメニューからリライトをオンに。すると映像から凹凸が検出され、新たな光源とその光の当たり方のシミレーションが行える。レフ板で当てたような角度と光量を選択すれば、自然な形でリカバーできる。





光の種類も選べる

光は「方向」「ポイント」「スポットライト」から選択できる(左画像はスポットライト)。また、ライトの特性も明るさ、距離、コントラスト、光沢など、細かなパラメーター調整ができる。





多機能化しているなかでどれを使うべきか

DaVinci Resolveならではの機能がどんどん増えてきています。本来は別のソフトやプラグインをかまさないとできなかったことも、標準搭載されるようになりました。個人的に新機能で一番使いそうなのはVoice Isolationですね。次に自動文字起こし〜字幕付け、その次がシーンカット検出のカット分割…という感じでしょうか。触れなかった機能でいうと「フィルムルック・クリエイター」や「Super Scale」も人によっては使えるケースがあるかもしれません。

ちなみに“新機能”ではなく、昔からあったものが大幅に進化した機能として「フェイス補正」があります。似たような「ビューティー」はきれいなフィルターがかかるようなイメージですが、フェイス補正は顔のトラッキングに特化していて、顔の各パーツごとに細かくパラメーターを調整できます。フェイス補正の精度は年々良くなっていて、複数人映っていても顔を検出して個別に補正できるようになりました。

「スタビライゼーション」も改善されてきていますね。レンズディストーションがあってもかなり補正されます。デジタルズームがかかるので若干画角が狭まりますが、例えば、そこに「Super Scale」を組み合わせて、解像感を回復させる…という使い方もできます。

僕もすべて把握できないほどDaVinci Resolveは多機能化しているので、今回は普段使うものを中心に紹介しました。みなさんもご自身の映像制作に関係の機能から使ってみて、クオリティをアップにつなげてほしいと思います。