ABEMAで今年の1月から放送されていた「警視庁麻薬取締課 MOGURA」。警察官がラッパーとして潜入捜査を行なったという実話を基に制作され、主演をラッパーの般若が務めたほか、Jin Dogg、RED EYE、jinmenusagiなどの実力派のラッパーたちが俳優として多く出演したことでも話題を呼んだ。今回は、このドラマで3~5話の監督を務めた南 虎我さんに作品の舞台裏についてお話を伺った。

取材・文●編集部 岡部

【プロフィール】
南 虎我

熊本県出身。俳優を志し、18歳で上京。26歳で本格的に映像制作をスタート。MVを中心に約6年のキャリアで、約300本以上の作品を手がける。今回の「警視庁麻薬取締課 MOGURA」がドラマ初監督作品となる。

HIPHOPのリアルとエンターテインメント、そのふたつを意識していました

――まずは監督としてのオファーがあった経緯を教えてください。

今回のドラマを制作したBABEL LABELの代表の山田久人さんが、僕がドラマや映画を撮りたいんだということを知ってくださっていて、その中で今回こういった鈴木おさむさん企画で、ラッパーの漢a.k.a.GAMIさん原案のドラマをやるから、セカンドとして携わってくれないかということでお声がけいただき、2023年の10月ごろからこのプロジェクトに参加しました。

――その時点では般若さんなどラッパーの方が出演されるということは決まっていたんですか。

般若さんに主演をしてもらいたんだというところは決まっていましたね。僕が入った段階では、ほかのキャスティングは、2.3割ほどしか決まっていなかったと思います。

――今回のドラマではリアルなHIPHOPの文脈が物語の根底に流れていると思います。作品を作るにあたり、心がけていたことを教えてください。

ずっと僕や山田さん、チーフの志真監督が言っていたのは、「HIPHOPのリアルな要素だったりとか、ストリートの生臭い雰囲気だったりを入れていこう」ということでした。もうひとつは、やはりエンターテインメントをしっかりやらなきゃいけないよねというところも意識していましたね。

――HIPHOPのリアルとエンターテインメント。ふたつのバランスをとるというのは、チャレンジングな試みですよね。

はい。その点において難しかったのは、パッと思いつくだけでふたつあって、ひとつは、「ラップをどう演出するのか」ということです。まずは、本物のラッパーの方以外は、絶対に登場人物はラップをしないというルールをつくりました。役者の方々のお芝居はもちろん素晴らしいのですが、やっぱりラッパーの方にラップをやってもらいたいという思いはずっとありましたね。ただそれでもドラマの中でラップをするということは、まだ見慣れない部分でもあると思うんですよ。一般の方もそうだし、僕もHIPHOPのアーティストたちのMVを撮っているけれど、ストーリーの中で必然性があってラップをする、その「必然性の演出」みたいなことがほんとに難しかったですね。Mummy-Dさんがストーリーテリングをラップでしてくださるんですけれど、あそこの演出もかなり試行錯誤をしながらやっていましたね。

作品内のラップ表現はリリックライターを置きつつも、ラッパーそれぞれが自身で考えてアレンジしていった。ラップはリップシンクではなく、現場にスピーカーを置き生歌で撮られており、リアルなラップシーンが作られていった

あと、もうひとつは作中で出てくる「大麻」ですね。ジョイント(大麻を紙で巻いたもの)ひとつとっても美術としてどうするのか、第5話に大麻畑が出てくるんですけれど、それをどうするのかもとても難しかったです。美術チームの方とどうしようかと話し合いながら進めました。それこそラッパーの方に意見をもらいながら、本物は使えないので、より似ているものをベースに作り上げていったという形です。大麻畑に関しては、「本物でやりたい!」って最初言ったんです(笑)。見る人が見れば、本物じゃないとすぐバレてしまうこともあり、「大麻畑を探す」というのが、物語の筋になっている作品なので、そこを大事にしたいと話したら「それは誰かが捕まるから」と言われ…。さすがに本物は無理だねということになって、大麻にとても似ている植物を美術部さんが育ててくれて作り上げてきました。

物語のキーとなる「大麻畑」。美術チームと相談してできる限りのリアルを追求した

――南監督は以前から今回、出演されている般若さんやRED EYEさんをはじめラッパーのMVをたくさん撮られていらっしゃいますが、普段のMVとドラマでの違う点などありましたか。

一番は「連続性」ですね。MVも「連続性」を持って考えてないかというとそんなことはないんですけれど、より「点」ではなくて、話ごとの「線」で考えるというようなこのシーンからこのシーンはどのようなテーマがあるのかな、どう見せたいのかという繊細な部分に対して違いを感じました。

――ラッパーの方に演出をつけるということで俳優の方と違いがありましたか。

ラッパーの方々がどういった気持ちでやっていたかはそれぞれあると思うんですけど、やっぱり本業ではないので、だからこそかなり素直に僕らが演出をすることを聞いてくれていたように思います。そんなに難しいなとは思わなかったですし、とても新鮮で面白かったです。「この役だったらこうしていると思うんですよね」というような役者に近い意見を素直におっしゃっていただくことも多く、すごくやりやすかったですね。

――ラッパーの方をすでに知っているファンの目線で見ても面白い作品ですよね。

そうですね。それぞれの過去をベースにかなり演技がやりやすいように当て書きもしているので、いい意味であまり作り込まずにみなさん役を演じてくださったかなと思います。だから、特にそのラッパーの方を知っている方は見やすくなっていると思います。

火薬役のJin Doggさんと会話をする南監督

観客の感情が完結しきる前に次のシーンにいきたい

――短い尺のドラマでありながらも、スピード感のある物語が魅力な作品でした。演出、編集をするにあたってそのあたりで考えていたことはありますか。

脚本の段階から、「視聴者を飽きさせない」ということをかなり考えてつくられていました。編集でも、特にそこに気を使って時間をかけたかなと。編集の磯部さんとチーフ監督の志真さんとともにかなりそこに注力したと思います。映画やほかのドラマだと、もう少し登場人物の表情をしっかり見せたりするようなシーンでも、観客の感情が完結しきる前に次のシーンにポン!といってしまう。それをずっと持続させて観客の気持ちが終わらないようにするということを編集ではやっていました。

――「間」のようなものより展開のスピードを今回は重視したということですね。

はい。ただ、僕自身は、そういった映画などの間もとても好きなので、かなりそこの折り合いの付け方は難しかったです。基本的には撮った全てのシーンを削りたくはない、撮ったシーンは全部使いたいというスタンスなんですが、撮ってみて本当に必要かなというシーンが出てきてしまって…。そのシーンに関してはなくなく削ったりもしましたね。その点に関して、最後の着地点がもっと見えていたら削らなくてもよかったかもしれないですし、現場での演出も変わったなって思いますね。例えば、この話はサスペンスの話という着地点を明確に持っていたら、コミカルなシーンを削ったりせずに、話全体の整合性の中で、そのコミカルなワンシーンをフィットさせるように演出するというようなことをもっとやれたなと思います。

――先ほどのお話にもあったストーリテラーとしてMummy-Dさんがするラップも印象的でした。話を重ねることで、Mummy-Dさん自身も登場人物のひとりと分かる仕掛けがありますね。Mummy-Dさんの出てくるシーンはどのようにしてできあがったのでしょうか。

それこそ、自分が演出をした3話あたりから、Mummy-Dさんがただのストーリーテラーではなく、カタビラという今は亡くなっているキャラクターだったということが分かります。Mummy-Dさんはかなり今回の作品に力を入れてくださっていて、レコーディングやリリックなど、僕らも含めて一緒に考えてくださいました。基本的にはMummy-Dさんが考えてくださるんですけれど、このシーンのラップには、このような内容を入れてほしいというリクエストを少しだけさせていただき、それをMummy-Dさんがとてもよくまとめてくださいました。レコーディングにも一度行ったんですが、そこでも僕らの話を聞いてくださったし、かなり今回の作品に寄り添ってくださいましたね。1、2話では本当にストーリテリングに徹していると思うんですけれど、3、4話ではカタビラとしてその場に存在をしていて、ラップをするということを僕は演出では意識していて、特に4話の安藤(風間俊介さん演じる市長)が悪いやつだったと分かるシーンのラップとかも、Mummy-Dさんの目つきとかほかのシーンと全く違うんです。「安藤に対して怒りを持ってみてほしい」というのを僕は演出しましたね。

――では本当にMummy-Dさんが作ったリリックが使われているということですね。

そうなんです。本当にアルバムできるんじゃないかというくらい作ってくれていますね…。とても大変だったんじゃないかなと思っています。リリックをMummy-Dさんが最後まで考えてくれていますし、それだけ今回の作品と向き合ってくださいました。

ナビゲーターとして物語の背景をラップで紹介しつつ、ストーリーの核となるカタビラというキャラクターを演じたMummy-Dさん

今回の作品で、少しはHIPHOPに恩返しできたかなと

――3.4.5話と今回、南監督が監督され、1.2.6話は志真監督が監督されたとのことですが、作品のトーンなどについて、志真監督、また全体のスタッフの方とどのような会話がありましたか。

特に志真監督とはたくさん話はしていて、ただもちろん違う人間なのでかなり大変ではありましたね。特に編集の時に、トーンを合わせるということが、かなり難しかったなとは思いますね。僕が思うに1.2話は観客をガッと掴むためにエンターテインメント、3話で少し落ち着いて、般若さん演じる伊弉諾(いざなぎ)がラッパーの本質に触れるというポイントがあって、4.5話で完全にトーンが変わったのち、6話で完結するという流れだったと思います。僕はその点において、志真さんと編集の磯部さんに助けられてそのトーンの部分の統一はしていたなと思いますね。

――最後に、今回の作品を踏まえて、今後、南監督がつくっていきたい作品について教えてください。

ラッパーの方々の姿は変わらず撮っていきたいと思っていますね。ラップ、HIPHOPに助けられた人間のひとりではあるので、今回の作品でどれだけ(HIPHOPシーンに)返せれたかは、分からないですけれど、HIPHOPが僕は好きなので今後も撮っていきたいですし、ドラマ、映画も撮りたいなと思っています。いつかまたラッパーの方々がたくさん出るようなドラマや映画に挑戦したいなと思いますね。ただ、映像監督としてでいうと役者を生業にしている方だけでやる映画も撮っていきたいと思います。おばあちゃんしか出てこないめちゃくちゃ穏やかな作品とかも撮りたいなと思います(笑)。

現場スチール撮影=興梠真穂

「警視庁麻薬取締課 MOGURA」はABEMAプレミアムほか、3月13日からNETFLIXでも配信中。