ショートドラマのトップランナー、ごっこ倶楽部。ごっこ倶楽部がつくったショートドラマ専門のスタジオについては2025年4月号の特集「縦型動画を究める!」でレポートしたが、そのお台場のスタジオの目と鼻の先にあるのが、サイバーエージェントがAI・CGを活用して広告効果最大化の追求に特化したクリエイティブ制作スタジオ「極(きわみ)AIお台場スタジオ」だ。ここで両社がコラボレーションして、ショートドラマを作成してみるということで、その現場を取材した。(レポート:編集部 一柳)

ごっこ倶楽部はポップコーンなどの話課金コンテンツでは中長編のコンテンツを制作しているが、今後は生成AIやテクノロジーを活用し、世界に向けたコンテンツを作っていきたいという。今回は、まさに生成AIを使った実験となる。
一方サイバーエージェントは、ショートドラマのタイアップ広告プロデュースに特化した専門組織 「縦ドラ」を2024年12月に新設。ショートドラマ制作会社各社と協業し、同社の広告効果最大化の追求に特化したクリエイティブ制作スタジオ「極AIお台場スタジオ」を活用することで、ショートドラマの表現の幅を拡げるとともに、撮影の効率化、また同社の強みである広告効果の最大化の実現を、制作会社および広告主企業に提供するとしている。

今回はそのプロジェクトの一環としての取り組みとなる。
サイバーエージェントの安藤達也さんによると「縦ドラ」のポイントは4つ。
- 縦型ドラマの総合プロデュース組織
- ショートドラマのブランド導入を促進するため、ブランドらしい表現力と効果実証がコンセプト
- お台場を活用したスピーディー&高品質なアウトプットをローコストに提供し、AIとLEDスクリーンの活用によりさらに効果を高めていく
- データに基づくコンテンツ運用力が強み
始まる前に、株式会社Cyber AI Prodcutionsの吉田 真さんにお話を伺った。このスタジオは、LEDウォールや4Dスキャンなど最先端設備を備えており、インターネット広告事業を手掛けるサイバーエージェントと、AIや3DCG、バーチャルプロダクションなど最先端技術を活用した広告クリエイティブの企画・制作を行う子会社である株式会社Cyber AI Productionsとが連携して、スタジオのアセットおよびAIを活用して広告クリエイティブを制作する「極予測AI」(※1)を最大限活用することで、より効果的な広告クリエイティブの撮影から制作・納品まで一気通貫で行うことができるスタジオであり、テクノロジー開発も行なっていくという。
※1 「極予測AI」とは、事前に広告配信効果を予測する「効果予測AI」を活用し、革新的な制作プロセスで広告クリエイティブを制作。また、配信中で最も効果が出ている既存クリエイティブに対し新クリエイティブの効果予測値を競わせ、AIによる効果予測値が既存1位よりも上回った新クリエイティブのみを広告主に納品・広告配信を行い、広告効果がでた時のみクリエイティブ制作費を成功報酬型で提供するもの。詳細はこちらから。
「ショートドラマ界隈の方々ともいろいろコネクションがあるのですが、タイアップをご一緒にやっていくことを想定して、このスタジオを利用して、ごっこ倶楽部さんとショートドラマを作ってみようということをテスト的に行なってきまして、今回は2回目になります。前回はLEDウォールを背景として利用したのですが、今回は生成AIも活用しながらバーチャルプロダクション撮影でショートドラマを作ってみるということをやってみようということになりました」
「今日は8つのシーンのある脚本を持ってきてもらって、午前中に生成AIで背景画像を作成し、午後から撮影を開始して6時か7時には終わろうというスケジュールになります」
「極AIお台場スタジオと生成AIを活用することで、撮影におけるコスト(時間・スタッフ・工数・費用)を50%削減し、企業タイアップにおけるローコストな制作が実現できるようになります。さらに、CGや合成でしか実現できなかった映像表現が可能となり、視聴者にさらに魅力的なコンテンツを届けることができます。今日はそれを実証してみようということです」
脚本をもとに生成AIでLEDウォールに投影する背景画像を作り、Premiere Proでシーンに合わせて画像調整する
撮影当日の午前中、ごっこ倶楽部側からは監督や撮影など何人かのスタッフが入って準備を開始。極AIお台場スタジオ側のスタッフが、監督から脚本を受け取り、背景のシーンを生成AIプログラムのMidjourneyを利用して作成していく。もちろん、一発でイメージ通りのものはできあがらないので、監督とも相談しながら、プロンプトを入れていき、修正をかけていく。


生成された画像をアドビPremiere Proに読み込む。モーションのトランスフォームで位置を調整したり、クロップしたりして表示サイズを調整する。シーンに合わせて画像の左右反転などももちろんここで可能。

LEDウォールに投影する際は、表示位置を調整しやすいOBS(別のPC)で行う。

撮影シーンに合わせて、色温度や明るさなど微妙なところを調整するのはPremiere ProのLumetriカラーで行う。修正したものはLEDウォールでリアルタイムに確認できる。

生成AIが現時点で弱いのが文字部分。定食屋のメニューなどはよく見ると意味不明の文字になってしまっているが、映像の背景としてフォーカスアウトしてボケるので、ここは問題にならない。

寄りのカットで背景が大きくボケるような場合は、表示される背景画像のほうでぼかしてしまう。もちろんぼかす量もPremiere Proでの操作なので自在に調整できる。

プリセットで簡単に照明パターンを切り替えるだけでなく、細かく調整して追い込んでいくことも可能
この極AIお台場スタジオの特徴が照明。照明機材を持ち込まなくてもすでにスタジオに設置されていて、ライティングのシステムと連動してパターンが作られている。タブレットに表示された照明のパターンを選択するだけで、シーンに合わせた照明にすることができる。専門知識がない人でも最低限の照明にすることは可能だ。

ただし今回はプロの照明技師を入れて、Mad Mapperを利用してシーンに合わせて細かく照明を調整していた。ライトの強さ、色温度、角度など、カメラマンと相談しながら、そのシーンの照明を決めていく。切り返しなどで照明の位置を逆にしたい場合も簡単にできてしまう。ライティングが圧倒的に早いだけでなく、これだけの規模の照明がスタッフひとりでできてしまうというのが驚きだ。

アクセサリーにもう少しキラッと光を入れたいという細かい要望にもアプリ操作で応えることができる。

寄りのカットでは、人物のすぐ後ろにバックライトを入れるなどフレキシブルに対応していた。

2カメを同時に回すのがごっこ倶楽部の撮影スタイル
撮影周りの装備も紹介しておきたい。カメラやモニター類などの撮影周りのシステムはごっこ倶楽部側が持ち込んでいる。2カメを同時に回すのがごっこ倶楽部の撮影スタイル。
まず特徴的なのが縦位置2カメを表示できるPortkeysのモニター。各カメラからDJI transmissionで飛ばし、監督の前のモニターで受信して2カメ分をAカメ、Bカメとして並べて表示。この2カメ同時表示の画面は、背景画像を生成するスタジオスタッフ、照明技師、大型ディスプレイに同時に表示されていた。

今回のカメラはFX3。FALCAMのケージを利用して縦位置で撮影しやすいようにリグが組まれていた。



画角を決めて、照明を作っていく段階では三脚に乗せているが、

実際の撮影本番では手持ちで。


圧倒的なスピードとスタッフの少なさが画期的
今回現場に立ち会って驚いたのが、まずスピードだ。これだけ場所と時間帯などシチュエーションが大きく変わるシーンの撮影であっても、事前に背景画像を用意するだけで、あとはパース感だったり、照明だったり、カメラの高さを検討するだけで、すぐにカメラを回せる段階に入れてしまうこと。しかもその背景画像はその日に脚本をもとに、監督と相談しながら午前中に作っていったものなのだから、本当に当日1日でさまざまなシチュエーションのショートドラマが複数話撮影できてしまうことになる。今回は3DCGをカメラの動きに連動して動かすというものではなかったが、それでも照明と組み合わせることで、そのシーンの雰囲気を出せていた。ロケ撮影では移動と待ち時間、時間帯や天気など、さまざまな条件に左右されるが、生成AIとLEDウォールを組み合わせた極AIお台場スタジオの撮影では、そういった移動や待ち時間が一切なくなる。
そして何よりもスタッフの少なさ。バーチャルプロダクションというとかなりのスタッフ数が必要というケースは多いが、極AIお台場スタジオでの今回の撮影の場合、スタジオ側のスタッフは生成AI担当、LEDウォール担当、そして照明技師の3名のみ。ごっこ倶楽部側も技術スタッフはカメラマン2名、音声1名。この少人数で実験的な制作でありながらも、香盤表から遅れるどころか、かなり早めのペースで進行していていた。
生成AIとLEDウォールを組み合わせた撮影は、単に制作の効率を上げるだけでなく、これまでは予算や時間的にまったく発想するできなかったシチュエーションを生み出せるわけで、これまでにない動画作品が爆発的に生まれる可能性がある。
この日撮影された作品
『運命のあなたへ』
『罪の影』