サイバーエージェントが所有する「極AIお台場スタジオ」は、グループ会社の株式会社Cyber AI Productions(CAI)との連携の元、AIや3DCG、バーチャルプロダクション技術を駆使したデジタル広告制作の拠点として注目を集めている。スタジオの成り立ちや現状、体制などについて、CAIのプロデューサーの下平さん、CG Dir / UEスペシャリストの立花さん、LEDスーパーバイザーの齋さんにお話を伺った。

取材・文・構成●編集部 萩原

写真左からCyber AI Productions プロデューサーの下平 優さん、LEDスーパーバイザ—の齋 裕幸さん、CG Dir / UEスペシャリストの立花 悠さん。


極AIお台場スタジオとは

公式サイト
https://www.kiwami-ai-odaiba-studio.jp/


■3台の特徴の異なるLEDウォール

幅15m×高さ3.5mのシリンドリカル型LEDウォール。インカメラ VFX などの撮影に使用される。
左は背面・左側面・床面に LEDウォールを配したXR Studio。右は高精細かつ可動式LEDウォール。


■モーションコントロールボリュメトリックキャプチャーにも対応

スタジオにはモーションコントロールカメラ(Bolt Jr+)があり、モーションコントロール撮影にも対応するほか、約160台のカメラでボディとフェイスを1度に撮影可能とする3Dスキャンシステム、モーションキャプチャーシステムもスタジオ内に完備。ボリュメトリック撮影を可能にする4Dキャプチャーにも対応。


■スタジオ内に編集・MAルームも完備

スタジオには「Flame」を導入。カラーグレーディングにも対応する編集室や複数人の収録も可能なスペースを有したMAルームも完備。



テクノロジーで広告制作を革新する

——まず、御社とみなさんについて教えてください。

下平 >Cyber AI Productions (CAI)は 、サイバーエージェント100%子会社の制作プロダクションです。 AIやバーチャルプロダクションを代表とするようなテクノロジーの活用で、広告制作のつくり方を常にアップデートしていこうという信念を持っています。

立花 >私は元々同じ広告業界でCGアーティストとして働いていて、現在は LED 撮影のディレクターとして、撮影データの管理や背景の投影などを担当しています。

>私はLEDスーパーバイザーという役割で、撮影や照明、美術、編集などの各スタッフとの連携など撮影における技術的な監修をしています。

下平 >当社には、デジタル領域の動画広告制作に特化したチーム、生成 AIを中心としたクリエイティブ制作に特化したチーム、 企業のYouTubeチャンネルの企画・制作・運用を行なっているチーム、グラフィックデザインに特化したチーム、「極AIお台場スタジオ」を軸に新たな制作手法の開発を推進するエンジニアが所属するチームなど、多くのクリエイターやエンジニアが所属しています。


広告効果にこだわるLEDスタジオ

——極お台場スタジオの特徴について教えてください。

下平 >極AIお台場スタジオの特徴は、「広告効果の最大化に特化した クリエイティブ制作スタジオ」になります。 広告効果を最大化させるためには多くの動画本数を制作する必要があります。当スタジオでは、LEDウォールを活用して効率的に様々なシチュエーションやシーンを撮影することができます。このLEDウォールと「極予測AI※」というサイバーエージェント独自の効果予測システムを活用して、広告効果を予測しながら、より効果の高いクリエイティブの提供を実現しています。また、編集室や収録室も完備しているので、編集から納品までをスタジオ内で完結できる環境が整っています。案件によっては撮影当日に納品、配信まで対応することも可能です。

>実際、アングルを変えたり、演者の性別、服の色ひとつでも広告効果は変わってきます。「極予測AI」で効果を予測しながら、より広告効果の高いクリエイティブを制作できるよう撮影現場で活用しています。

※極予測AI:サイバーエージェントが開発した、「効果予測AI」を用いて広告効果の高いクリエイティブを予測しながら制作するクリエイティブ制作支援システム


様々な広告クリエイティブに対応するVP・xRスタジオ

——スタジオの構成について教えてください。

立花 >極AIお台場スタジオには3つのLEDウォールがあります。幅15mのシリンドリカル型LEDウォール、画素ピッチが細かくパネルが可動タイプのLEDウォール、そして床面も含めた3面のLEDウォールがあります。前者ふたつは LEDウォールに投影した背景とカメラの画角を連動させるインカメラVFX にも対応しています。カメラトラッキングシステムは Redspyです。

>カメラは RED V-RAPTORやVENICE などのシネマカメラはもちろん、 iPhoneなどでもインカメラVFX ができる仕組みを作っています。

下平 >コンテンツライクな作品は、 iPhoneを活用して撮影したり、演者さんに自撮りしてもらうこともあります。制作のスタッフが10分だけスタジオに来て、ちょっとだけ撮るみたいな、そういった簡易的な使い方もできるんです。本格的な撮影からライトな撮影まで用途に合わせて誰でも使えるっていうところは、他とは違う使い方をしているのかなと思いますし、メディアに合わせて最適なクリエイティブを制作するために撮影手法もフレキシブルに対応できるようにしています。

——LEDウォールに投影する映像について教えてください。

立花 >背景映像は2D画像や3DCGなど用途に応じて使い分けており、Unreal EngineのnDisplayを使ってプロジェクトを同期させて複数のパネルにリアルタイムレンダリングで送出しています。3DCGの背景は現在、100パターン以上を用意しており、この1年半で作ったアセットをベースに組み合わせることで、新しい背景を効率的に作れるようになりました。 細やかな調整がしやすいので、 撮影本番中に背景や色を変えてみたりということが簡単にできます。また、最近では生成AIで作った画像をレイヤー的に組み合わせて使ったりもしています。

——AIの活用についてもう少し詳しく教えてください。

下平 >極予測AI以外でも、当スタジオでは様々なAIを活用し、大量の制作本数に対応できるよう制作の効率化をはかっています。例えば、LEDウォールに投影する背景素材を生成AIで制作したり、生成AIを用いてインカメラVFX用に3DCG背景を制作したりします。

立花 >MidjourneyやStable Diffusionなど場面に応じて使い分けています。その他にも実在の場所を再現したい時には 3DGS (ガウシアンスプラッティング)で3D化したものを背景に使うこともあります。

>AIの進化の速度がとても速いですね。ゆっくりやっていると追い越されていくので、その都度良いところをチョイスしていかないと、やっていたことの意味がなくなってしまう可能性もあります。その取捨選択が必要だなと感じています。

——xRスタジオについても教えてください。

立花 >背面と向かって左側面・床面に LEDパネルを設置しています。カメラはモーションコントロール撮影に対応したBolt Jr+で操作します。カメラの画角をLEDウォールから外してみても、CGで作ったバーチャル空間が広がっています。AR表現の拡張にも対応していて、人物の手間にCGキャラクターやオブジェクトを配置することも可能です。


幅15m、国内でも最大級のLEDウォールを備えたスタジオ

インカメラVFXの撮影風景
この日はRED V-RAPTERで組んだ撮影システム。
カメラの画角をトラッキングするためのRedspyのセンサー。
LEDウォールに投影する背景映像を操作するオペレーションブース。
齋さんが現場スタッフの連携を取り、立花さんが背景映像の管理をする様子。
照明の操作はスマホ・タブレット・PCで使えるアプリTouchOSCを使うことで、簡易的にiPadで操作できるように工夫している。
照明のオペレーションブース。灯体は据え付けにしてシーンに応じたライティングのプリセットをMadMapperで作り制御。


床面も含めた3面のLEDウォールを備えたxRスタジオ

CGで制作した360度のバーチャル空間のなかを自在に撮影できる。グリーンバックや通常のLED撮影ではできない人物の前にCGオブジェクトを置くといった処理もリアルタイムで制作できる。モーションコントロールカメラ(Bolt Jr+)はゲームコントローラーで操作できるようにしている。


撮影の効率化、内製による柔軟な体制

——スタジオ開設から作ったコンテンツ数は?

下平 >実績で見ると年間で約40案件ほどですが、1回の撮影で100カット以上撮ることもあります。制作本数でいったら3000〜4000本くらいの規模です。1案件に対して作る量が結構多いので、1日でやるシチュエーションが多いんです。

>2〜4シチュエーションとか当たり前に撮っています。通常のスタジオに比べてセットチェンジも容易にできるし、天候に左右されないので、ずっと撮影できるのが大きなメリットですね。

——効率的な撮影プロセスを可能にする手法は?

>CAIでは、撮影前にバーチャル上でシミュレーションを行う「VLS(Virtual LED Studio)」を独自に開発しています。これにより、アングルやライティングなどを事前に確認した上で撮影に臨むことが可能です。さらに、照明には複数のプリセットを用意しており、現場での負荷を軽減しています。

——スタジオチームの体制はどのようになっていますか?

下平 >バーチャルプロダクションに関わるスタッフに関しては、全部内製化しています。僕らは制作のアップデートに合わせて制作効率だったり、生産性の向上をテーマに掲げているので、以前に比べて稼働人数はどんどん減ってきているのかなと思います。

——作品によってまちまちだとは思いますが、実際の作品はどんなスタッフ編成で作られているのですか?

下平 >シーン数にもよりますが、通常の制作体制だとプロデューサー、LEDスーパーバイザー、シーン数に応じてCGアーティストをひとり〜ふたり。背景を作る人、CG を担当する人として大体 5 人ぐらいが基本です。

>物量が少ない案件ならば 4 人、ミニマムでふたりでやることもありました。VLSを実施する時はエンジニアがひとり入ってきます。簡易的なものであればひとりで対応することもあります。

——美術など外部のスタッフとの連携は?

>LED背景でリアルな質感の映像を作るには照明や美術と背景の設計が大事で、デザイナーさんもスタジオ設備を理解して美術プランを考えてくれています。

下平 >現場ではじめましてのチームだと、そういったコミュニケーションが取れなくて、進行にも影響を及ぼすところがあったりします。社内でバーチャルプロダクション撮影を完結できるチームがあるのはCAIの強みだと思っています。齋他社さんの場合、やはりコミュニケーション面で課題を抱えているという声は多いです。

下平 >CAIは、CG制作をした本人が現場に来ているので、中のことは全部わかっているし、監督とのコミュニケーションも事前にできているので、その場でいろんな対応ができます。こうした社内チームの体制とスタジオの技術があるからこそ、広告制作の手法を常に進化させながら、広告効果と映像クオリティの両立を実現できるのだと思います。

VLS(Virtual LED Studio)とは?

撮影の事前シミュレーションを行うために、極AIお台場スタジオのデジタルツイン「VLS(Virtual LED Studio)」を独自開発。写真上:実際のスタジオ、写真下:VLSでのシミュレーション。




VIDEO SALON 2025年7月号より転載

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