毎年4~11月の間、メニュー開発のために休業するミシュラン常連のスペイン北部のレストラン「ムガリッツ」。その革新的な料理の誕生プロセスをとらえたドキュメンタリー映画『ムガリッツ』が現在シネスイッチ銀座ほかで公開中です。本作のパコ・プラザ監督に、ドキュメンタリーの制作過程や、「ムガリッツ」の料理が持つ創造性についてお話を伺いました。

パコ・プラサ監督
©2024 TELEFONICA AUDIOVISUAL DIGITAL, S.L.U.

1973 年、バレンシア⽣まれ。スペインにおけるジャンル映画を代表する監督の⼀⼈。バレンシア⼤学で情報科学の学位を取得し、マドリッド映画学校(ECAM)で映画制作を学んだ。数々の短編映画を監督し、 『Abuelitos(原題) 』は国内外の数々の映画祭に出品され、ブリュッセル・ファンタスティック国際映画祭の Canal+賞、サン・セバスチャン・ファンタジー国際映画祭の Canal+短編プロジェクト賞など、数々の賞を受賞。また、『Puzzles(原題) 』は、スペイン語版最優秀実験短編映画(TVE)INJUVE 賞など、数々の賞を受賞した。2002 年には、ラムジー・キャンベルの⼩説を原作に、フェルナンド・マリアスと共同脚本を⼿がけた⻑編映画『ダーク・チャイルド ⾎塗られた系譜』を監督した。この作品は、シッチェス映画祭で最優秀ヨーロッパ⻑編映画賞であるメリエス賞を受賞した。同年、ジャウマ・バラゲロと共にドキュメンタリー映画『O.T. La Película(原題) 』を監督した。その後、 『ガリシアの獣』 (2004 年)と『Stories to stay awake(原題) 』のエピソード『A Christmas Tale(原題) 』を監督した。映画以上に好きなことは、食べることだけ。

単一化していく世界の中にあるが独特な存在として

――今回の映画の制作の経緯についてお聞かせください。

スペインのあるプラットホームから、創造性に富んだドキュメンタリーを作れないかということで、スペインの中での唯一の場所「ムガリッツ」を撮らないかというオファーがあり、それを引き受けました。

――監督自身が思う、お店としての「ムガリッツ」の魅力はどのようなところにあると思われますか。

世界が単一化してモノトーンになっていく中で、独特な場所というのが「ムガリッツ」だと思います。なかなか見つけられない場所で、さまざまなレストランが「ムガリッツ」のようになりたいと思ってもなれない場所でもあります。

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現場では「飛行機のブラックボックス」のようにありたい

――撮影はどのような体制でどのような期間撮影がされたのでしょうか。

期間は、2年かかりました。1年目はひとりで行って、ずっと彼らがどのように「ムガリッツ」の中で動いているのかということを、観察しました。そして2年目は、カメラと録音を担当するスタッフと3人で行って、なるべく邪魔にならないように、シェフたちが私たちの方を向かないように、まるで忍者のように、天井の蜘蛛のような感じで撮影をしていきましたね。

――では私たちが映画で観ているのは、2年目の姿ということですね。具体的にどのような点に注意されながら撮影をされてましたか。

できるだけ自分たち制作者側の意図などを入れないように撮影をしました。「ムガリッツ」のシェフであるアンドニに私が言ったのは、自分たちは飛行機のブラックボックスのようでありたいと話しました。つまりは、「何も介入しないし、起こっていることを記録する」ということに徹していました。

――撮影はどのような機材で行いましたか?

撮影は、基本的に「Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K」で行いました。BMPCC4Kは、軽いのと存在感がないのが特徴で、ほとんどスマホと変わらない感じで撮影ができましたね。

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映画制作にも通ずる「ムガリッツ」の創造性

――普段、監督が撮られるストーリーがあるドラマ作品と今回のようなドキュメンタリー作品の撮影ではどのような点において、違いがありましたか。

ドキュメンタリー映画を撮るということは、非常に長いプロセスがありました。撮影したフッテージも100時間くらいあったので、脚本で前もって、どのようなシーンが必要か分かっているフィクションの作品と比べて、ドキュメンタリーは魚釣りのようで、何が釣れるか分からないというところから制作が始まります。その釣れたものをどのように意味あるものに構築していくかということは、編集作業をしている際に考えました。

ただ、ひとつ良いところは、撮りはじめた時には、予見できなかった映像もたくさんあったということです。レゴを掛け合わせて、ひとつの形あるものを作っていくような作業でしたね。

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――作中では、「ムガリッツ」での料理の制作過程には、“創造性”が必要というお話が出てきます。この“創造性”はある種、監督の映画制作にも通づるものなのでしょうか。

そうですね。プロセスは非常に似ていると思います。根底にはどちらも「やる“意義”があるもの」、「新しいもの」、そして「(食したり観たりした人が)楽しめるもの」ということがあると思います。自分たちが制作する側において、どうやったら、スタッフがより良い調和をもって、仕事ができるかや、結果をみんなでわかりあい、喜べるかというところが、非常に私の映画制作とも共通しているなと感じています。

そして、どんな場面でも「挑戦する」というところも、自分たちの映画制作と似ていますし、(何もない)真っ白なところから作りはじめるというところも非常に似たところだと思います。

――最後に、観客へのメッセージがあればお願いします。

日本でこの作品が公開されることに、非常にワクワクしています。アンドニも日本と関係が深いですし、日本料理からも多大な影響を受けています。そのため、彼の感受性と日本の観客の人々の感受性が合致すると私は思うので、そういったところにとても関心があります。どちらにせよ、スペイン北部の小さな村で作った作品が、遥々と海を超えて日本で上映されることをとても嬉しく思います。

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ムガリッツ

9月19日(金)よりシネスイッチ銀座ほか順次ロードショー

■CAST&STAFF
監督:パコ・プラサ 脚本:パコ・プラサ、マパ・パストール
提供:ティー ワイ リミテッド 配給:ギャガ/原題:『MUGARITZ. NO BREAD NO DESSERT』/2024年/スペイン/カラー/96分/字幕翻訳:比嘉世津子    

■公式HPhttps://gaga.ne.jp/mugaritzmovie/  

■公式Xmugaritz_jp

■公式サイト