“刺さる”シナリオの作り方

カツオ流3段構成

『お会計の変』




①—不穏な雰囲気で始める

スマホで見るショート動画は、ファーストカットで「ん?」と思わせなければすぐにスワイプされてしまいます。YouTubeショートのアルゴリズムには「視聴を選択したユーザーの割合」という項目があり、この視聴維持率が70%以上であれば優秀な動画と捉えられ、ショート動画においては非常に重要な要素になります。

『お会計の変』というショート作品では、貯金箱の中から大量の1円玉が一気に出てくるカットがファーストカットです。本作はこのカットのおかげで高い視聴維持率を保つことができ、80〜90%の視聴者がスワイプしませんでした。このように、不穏な雰囲気で始まる事件性が大事で、「なぜ、この人は1円玉で払うの?」と困惑する女性の違和感が有効となるような始まりにしています。


迷惑客やクレーマーなど、「あるある×炎上しそうな空気感」で違和感やモヤッと感を演出するのがポイント。




②—思いもよらない展開

次に必要なのが、思いもよらない展開です。本作の場合、変な女性客が1円玉で会計をするのかと思いきや、今度は宝くじで会計を支払おうとする展開へと発展します。すると、周りにいた他のお客さんもその女性客のもとへと集まってきて、皆で当たりくじがあるかを調べ始めます。なぜか、まともな女性店員だけがひとりぼっちになるという謎の構図になり、最終的にはその宝くじで3億円が当たってしまうという思いもよらない展開に発展していきます。このように、「何だ、この展開!?」と思わせるような展開であればあるほど、視聴者からの突っ込みどころも増え、コメントも多く集まるようになります。


見る人の想定を裏切ることで、短時間で感情を動かしていく。「何だ、この展開!?」と視聴者に思わせてしまえば勝ち。




③—ハッピーエンドで終わる

最終的には、幸せに終わらせたいという想いが僕の中にあり、「白い基地」の動画ではハッピーエンドが多いです。元々、始めた当初は「奇妙な雰囲気で終わる」というのが動画のコンセプトでした。しかし、バズった動画の傾向を見ていると、ポジティブに終わったほうが他人にも共有したくなる心理が働くのか、シェア率が高く、視聴者からの反応もいいことに気がついたんです。

本作では、最後に3億円の宝くじが当たったことで皆が笑顔で喜んで終わるような展開にしています。バッドエンドだと、何となく「いいね」を押しづらい雰囲気が残ってしまうんですが、皆が喜んでいる姿にはついつい「いいね」を押したくなる力があると思うんですよね。


「スカッと」「和解」「気づく」などポジティブな終わり方にすることで、他人に共有したくなるような作りを意識する。







「まわる場所」とは?

馴染みのある場所に変な人がいるからこそ本能的に興味を惹かれてしまう

動画のまわる場所にはある程度条件があります。学校やスーパーなど日常的に馴染みのある場所かつ、トラブルが起きるとついつい見てしまうような舞台は数字がまわりやすい傾向にあります。例えば、電車内で喧嘩している隠し撮り動画がSNSではよく流れてきますよね。ああいった動画も馴染みのある場所に変な人がいるからこそ、本能的に興味を惹かれてしまう部分があると考えています。実際、ボクシングジムのような非日常的な場所での動画は共感を得づらく、数字的に伸び悩む傾向にあります。

また、サムネイルをパッと見たときに、隠し撮りなのかフィクションなのかが一見わからないようなところも、数字がまわりやすい要因のひとつなのかなと考えています。



学校

学生に馴染深い教室で、早弁をする女生徒を教師が叱るという、まわりやすいシチュエーション。




電車

電車内で音漏れしている乗客を注意するという、よくある光景から思いもよらぬ展開に。




「キャラが立つ」演者の存在感

一瞬見ただけで惹きつけられたり「変な人だ」と伝わる個性が「白い基地」の強み

僕の運が良かったのは、「白い基地」をやる上でいろいろな知り合いを通じて、キャラクターが立っている演者さんがたくさん集まってくれたことです。

例えば、高砂ミドリさんという不思議な空気感を纏った女の子や、間島和奏さんという元ラストアイドルのスターだった女の子、伊藤雨音さんという大人気TikTokerの子や、稲垣社長という元役者の芸人さんなど、一瞬見ただけでグッと惹きつけられたり、「なんか変な人だな」とすぐに伝わるような個性の強い演者さんが本当に多く、それこそが「白い基地」の強みであるとも思っています。


見ただけで違和感を感じさせる演技をする高砂ミドリさん。



稲垣社長を起用したネタは40〜60代の世代に刺さりやすい。







これから企画を考える人に向けて

今持っている情報をこねくり回して求められる企画に変える調理術を持っているか

アイデアの源泉は世の中にしか落ちていないので、企画を考えるのが苦手だという人は、まず他人を真似てでも何かを書いてみることが大事だと思います。考えることが苦手な人って、まだ自分の中でやり方すら分かっていない状態だと思うんですよ。これは演技も同じで、「どうしたら演技がうまくなれますか?」とよく聞かれるんですが、僕は「真似でいい」といつも答えています。企画の考え方が分からないなら、「この企画はどうやってできているんだ?」と、分解して考えていくしかないんですよね。

「企画くらい考えられるよ」という人の場合、あとはアイデア勝負です。自分の中で今持っている情報をこねくり回して、いかに求められている企画に変えられるか、その調理術を持っているかどうかに尽きると思います。

ショートドラマに関しては、今回の記事で僕が言ったようなことがある種の答えだと思うので、その部分をどう突き詰めていくかが重要なんじゃないかと思います。何度も言いますが、全てにおいて、「なんだこれ?」「やられた!」という展開を作らなければダメなんです。もちろん、戦略的に一度ウケたネタを他のバージョンにリメイクして使うこともありますが、常に何かしらの仕掛けを考え続け、生み続けることができる人はやはり強いですよね。



初期プロットと撮影稿の違い

面白くなるなら人のアイデアだってどんどん使う

僕は、面白くなるなら人のアイデアもどんどん使うのが作家のあるべき姿と考えているので、思いついたものを台本にして竹中監督にぶつけ、「こうしたほうが面白くなる」という監督のアイデアを取り入れて、撮影稿に直していくというのが、台本作りの基本的な流れです。



『ラブカレー』

カレーライスを注文するもルーだけを出され、怒る女性客。しかし、店員からは、「他の席の男性に話しかけてライスをもらってください」と言われてしまう。





本作の台本比較。「セリフについては、長いセリフや説明っぽくなるセリフだと間延びしてしまい、ハマりが良くなかったり、視聴者が離脱してしまうポイントになると考えているので、基本的には複数人の短いセリフのやり取りで展開していくような台本を意識しています」とカツオさん。







最新作はショートホラーコメディー!? 竹中貞人監督インタビュー&撮影現場に密着

竹中 貞人  Sadato Takenaka

監督・脚本家。1993年7月27日生まれ。三重県出身。東京藝術大学大学院編集領域卒業後、YouTuber水溜りボンドの企画構成作家を担当。TSUTAYA CREATOR’S PROGRAM 2022 にてグランプリを授賞し、現在長編映画を制作中。現在、ショートドラマ「ビンビンビーン」(脚本・監督)・「白い基地」(監督)が好評配信中。



YouTubeと映画という両極端な側面を反復横跳びしていたことが自分の軸になった



——竹中さんは、なぜ監督を志そうと思ったんでしょうか?

元々、高校生の頃から何か書いたりすることが好きだったので、映画や演出の仕事に就きたいと思っていました。そうしたら学校の先生が、「大阪芸大の舞台芸術学科に演技演出コースというのがあるよ」と見つけてくれたんです。でも、いざ入ってみたら演出を学びたかったのに俳優を目指すコースだったんですよね。発声練習やバレエの授業みたいなものばかりで、「4月に美女と野獣のミュージカルをやるので、あなたはパン屋を演じてください」みたいなことを言われて。「僕はパン屋をやるためにこんなに高い学費を払ってもらっているんじゃない」と思ったことを覚えています。

それで、結果的に2年生から映像学科に転学科しました。映像学科には、今公開中の『この夏の星を見る』の山元 環さんなんかも1個上の世代にいて、今でも活躍しているような方々の後輩として過ごせたのはとても刺激的でした。

卒業後は、東京藝大の大学院で映画のイロハを改めて1から学び直し、2年のモラトリアムの間に撮りたい方向性や世界観も何となく固まっていきました。

——その後、「白い基地」にも関わりの深い「水溜りボンド」の編集や企画構成などもされていましたよね?

映画祭で知り合ったプロデューサーから「人気YouTuberの編集マンを探している」と水溜りボンドを紹介されたんです。今思えば、そこでカンタさんに出会えたのが自分の人生における大きな転機でした。最初のうちは編集のお手伝いをしていたんですが、そのうち企画構成をやるような間柄になり、カンタさんにお世話になりながらその傍らで自主映画を撮り続け、「ndjc(若手映画作家育成プロジェクト)」に応募したりもしていました。YouTubeというSNSの側面と、映画という芸術を捉える側面とを常に反復横跳びしているような状態が続いたので、その部分が自分の今の軸になっている気がします。

——そこからどうやって「白い基地」に誘われたんですか?

Arksを通じて声をかけられたんです。僕としては自分が映画の監督業を頑張れば頑張るほど、今まで一緒にいたカンタさんを中心としたArksのメンバーたちとだんだん関われなくなってしまうのを寂しく思っていたので、「白い基地」に誘われたときは「まだまだ皆と一緒に面白いことをしていられるんだ!」という喜びが強かったですね。カツオさんとは、水溜りボンドとの繋がりはお互いにあったものの、知り合ったのは「白い基地」に誘われてからで、ショートドラマを作るのも「白い基地」が初めてでした。


最新作の台本の一部。元はカツオさんが横書きの台本として叩きのアイデアを作り、竹中監督が縦仕様に直したものを現場で使用している。




「人って、こういうものが見たいよね」という部分を「白い基地」に溶け込ませている

——ショートのアイデアはどのように決まるのでしょうか?

基本的にはオンラインで「ここは無駄なやりとりじゃないか」「こうしたほうがぶっ飛ぶ」など、カツオさんとミーティングしながら決めています。僕は水溜りボンドの企画に関わっていた頃から、「人って、こういうものが見たいよね」という部分を考えることが好きだったので、そういう気持ちを白い基地に溶け込ませるようにしています。

いかんせん、「白い基地」が特殊なのはカツオさんがただの脚本家ではないところです。元々、僕はカツオさんの作ってきた番組を見ながら育ってきたので、自分が面白いと思ったものを作った人と仕事ができる環境がとても幸せです。ただ、上がってきた台本がテレビのバラエティ台本のように横書きだったことには、最初は戸惑いました。それをカツオさんに伝えたら「縦だと何も浮かんでこなくなる」と言われてしまって(笑)。そんなやりとりをしながら毎回本打ちは爆笑しています。


この日は”まわる場所”であるコンビニスタジオでの撮影に密着した。朝から夕方までで全部で6つの作品がテンポよく撮影されていた。最新作ではホラー要素の強い作品にも挑戦しているという。







人間の潜在的に見たい欲求を叶えるショットを入れることがショートでは重要

——脚本作りにあたり、意識している点はありますか?

「白い基地」では定番の「おいおいおい!」というセリフのように、人物が怒っている関係性にすることが多いです。ただ、人物が怒る顔の寄りから始めてしまうと、迫力が出る反面、スワイプされやすいことが判明したんです。これは視聴者が怒られている感覚になってしまい、ストレス値が高くなってスワイプしてしまうのかなと考えています。なので、ここは少しだけ工夫を施しています。

以前、駅でおじさんが駅員さんにブチ切れている場面に遭遇したことがあって、僕はそのときおじさんの背にいて、僕にとっての正面側に駅員さんがいたんです。そのときに、「これ、ずっと見ていられるな」と思ったんです。「ここは、おじさんの目に触れることがないまま、怒られている人を見たいという人間の潜在的な願望を叶えられるカメラポジションだ」と思って。

それ以降、怒られる側を面に捉えてルーズショットを切るようになりました。そういった、人間の潜在的に見たい欲求を叶えるショットを入れることも、ショートドラマの場合は重要なのかなと考えています。

——縦型動画ならではの演出などもあるんでしょうか?

縦型ならではの演出で言うと、頭上のナメなんかは僕らが最初にやり始めたんじゃないかなと思います。ナメを撮るときって、被写体となる人物の手前に別の人物を配置して奥行きを出した撮影をするんですが、画面が縦の場合は下半分に人の頭を置き、上半分に撮りたい人物の顔を置くという構図になります。これは横型ではあまり見ない構図かと思いますね。

頭上をナメることで横型よりも撮りたい人物の顔を大きく捉えることができるので、これは縦型ならではの要素かなと考えています。

また、天地を逆転させる構図などもよく使っています。これは横型でも使われる手法ですが、縦型のほうが画面が縦に長い分、より強く逆向きになった雰囲気を演出することができます。こういった、縦型でしかできないような演出や構図は今後もっと増えてくるんじゃないかなと思っています。



撮影チームは、監督、カメラマン、音声のスリーマンセル。一台のカメラで、場面場面で必要なアングルをおさえていく。



パッと出てきた出会いの中でいかに甘い蜜を与えられるかが勝負の世界

——編集において、意識している点はありますか?

編集に関しては、他のショートドラマをやられている方たちの場合、「カットは1秒以内にしてください」など細かく決まっていることが多いらしいんですが、「白い基地」ではそういうことをあまり考えずに作っています。というのも、カットを細かく切り替えたからといって再生数が上がるわけではないと思っていて。それよりも、どれだけ関係性が手に取るように分かる作りになっているかのほうが重要だと思っています。

例えば、「店員と客の関係性で、客が店員にブチ切れている」「上司と部下の関係性で、上司が部下にパワハラしている」など、視聴者がすぐに関係性を把握できることのほうが大事なのかなと個人的には思います。そういったことを脚本を作る段階から意識しています。

また、横であれ縦であれ、役者さんが芝居をきちんと活かせる適正な間や尺が必ず存在するので、芝居を活かした編集をすることを基本的には心がけています。

——ショートドラマと映画の世界において、何か共通点はありますか?

ショートドラマと映画の世界は全くの別物ではないと個人的には考えています。映画では興行成績が重視されますが、SNSにおいても数字は同じように大切ですし、お金を払って大きな画面で見るか、小さな画面でタダで見るかなど、視聴方法とそれに合わせた表現が変わってくるくらいの話なのかなと捉えています。

ただ、ラブストーリーひとつとっても、映画であれば出会いがあって、発展があって、ふたりは付き合うけれど、彼女が記憶喪失になってしまい…という流れがあったりします。そういった手順を全てすっ飛ばして、記憶が戻ったときのキスをいきなり見せるのが、ショートドラマなんです。

例えば、カツオさんの記事にも出てきた『ラブカレー』の初稿の話で言えば、「彼氏が欲しい」というやりとりは別に必要ない話だと思ったんです。それよりも、「ラブカレー」というカツオさんのヤバい発想を全面に出したほうがいいと思ったので、撮影稿では不要な部分を大幅にカットしました。

つまり、「ここは想像できる」という部分においては、視聴者を信じて無駄な箇所を省く考え方というのが、ショートドラマにおいては大切なのかなと思います。

映画は長く続く映像の中で視聴者に何かを感じ取ってもらうような作りですが、ショートドラマはパッと出てきた出会いの中で、いかに甘い蜜を視聴者にたくさん与えられるかが勝負だと僕は思います。



カメラはソニーFX3。レンズはシグマとキヤノンを使用。三脚はザハトラーのACE。縦位置のためハイハットを使う場面も多く見受けられた。また、現場ではHollylandのMars 400S PROを使用し、ワイヤレス転送。竹中監督がモニタリングしながら撮影が行われた。