⚫︎テスター:SHINYA SATO

「動画も写真もこれ一台」を高いレベルで体現する意欲作
マンフロットより新たな三脚を中核としたシステムとして「Manfrotto ONE」が登場した。このONEという名前に込められた想いは、写真撮影と動画撮影のいずれにおいても一つの三脚で対応できることを高次元で可能とすることである。ミラーレスカメラの使用を中心にいわゆるワンオペでの撮影機会が多いソロクリエイターを主なターゲットとしており、機材の削減や現場でのセッティング時間の短縮による効率性の向上を狙っている。
筆者が以前より活用させていただいている同社のmoveも、ミラーレスカメラでの動画撮影時のセッティング変更をスピーディに行えるようにするためのエコシステムであったが、今回のManfrotto ONEではさらに写真撮影時の利便性も追求したハイブリッド化がどのように実現されているか詳しく見ていきたい。
サイズ感とデザイン
この製品を手にした時に最初に目を引くのは、やはりスッキリとした脚部を中心にスリムにまとめられた全体のデザインではないだろうか。今回試用したアルミ製の脚部と500Xフルード雲台のキットでは、格納高81cmに対し全体重量が4.77Kg(三脚3.55Kg+雲台1.22Kg / カーボンモデルの三脚は3.15Kg)とスリムな見た目よりはややずっしりした印象を受けたが、三脚部分の最大耐荷重は15Kgにまで対応し全体の剛性感も非常にしっかりとしていて、後述する各部の機能とギミックをこのサイズ感にまとめていることが素晴らしいと感じる仕上がりである。


新開発のXTENDロックを備えた脚部
特徴的な脚部には最近増えてきている非円形のチューブ形状を採用している。これは写真用三脚で重要な曲げ剛性の安定感に加え、動画撮影のパン操作で発生するねじれへの耐性を兼ね備えることを目的とした設計であるが、同時にセンターポールを内蔵しながら収納時のスリムさをも実現している。
脚部の構造は3段式で伸長時の最大高は140.2cm(センターポールを使用しない場合)と中型クラスの高さを持つ三脚である。2段目のパイプ上部に新開発のXTENDロックを備えておりワンアクションで3段すべての解放と固定を行えるため、非常にスピーディなセットアップを可能としている。レバーを解放した際の脚の動きは非常にスムーズで自重で自然に伸びていくため、すべてのレバーを解放し雲台を持って持ち上げるだけで任意の高さに簡単に調整できる。
XTENDロックはレバー式で迷うことなく簡単に解放と固定が可能だが、初期状態では操作がやや固く指を挟まないよう少し慣れが必要だった(底部のネジで固さの調整も可能)。またロック時の勢いによる衝撃や音が気になる場合に、レバーの裏面に貼り付けることで低減できるウレタンパッドも同梱されている。
構造的にはSachtlerやVintenのビデオ三脚に採用されているFlowtechに近い機構だが、レバーが2段目の上部にあるためやや屈んで操作する必要はあるものの、この三脚の上部にある様々な機構と干渉させずに全体をコンパクトにまとめることに貢献しているのではないかと思う。




各脚の付け根には開脚角度調整用のロックがあり解除することで50°/85°まで脚を広げることができ、かなりのローアングル撮影にまで対応できる(センターポールの取り外しが必要)。




ハイブリッド機能が満載のセンターポール周辺
コンパクトにまとまっている三脚上部にはこのManfrotto ONEが写真と動画の真のハイブリッド運用を目指していることがうかがえる様々な機能が凝縮されている。
センターコラムの軸受には動画用の雲台で水平を出す際に必要となるレベルリング機構が搭載されており、側面の「LVL」と書かれた小型のレバーで簡単にロック操作できる。従来品ではハーフボールの下に手を伸ばしてグリップをひねる必要があり一気に解放されて不用意に大きく傾かないように力の入れ具合が難しかったが、この方式であればカメラを支えながら自然に操作できるのでシンプルながらも非常に使い勝手が良い。ハーフボール周囲には回転可能な水準器も備えられており、三脚のどの方向から見ても水平出しが容易にできるなど細かい配慮も行き届いている。


そしてレベリング機構を備えた三脚としては珍しいエレベーター機能が搭載されていることも特長の一つである。エレベーターとして利用できるセンターポールの長さは約30cmあり、全伸高を170.5cmまで上げることができる。かなり伸ばした状態でも標準ズームレンズ程度までであれば写真撮影に必要な剛性を確保しているが、動画用としてもあと少し高さを変えて構図を調整したい場合やどうしても高さが必要な緊急時にはありがたい装備である。センターポールは分割式となっていて下部を外すことで前述の開脚機構と合わせてローアングル撮影を実現している。


さらにこの軸受け部分にはManfrottoの写真用三脚190シリーズなどに採用されている90°センターポール機構まで搭載している。一番上まで引き出してポール下端のスイッチを押すことでセンターポールを任意の長さで水平に固定でき、重量バランスを考慮して比較的小型の雲台を使用すれば俯瞰撮影にも対応できる。またこのセンターポールは抜き出して下面からも差し込めるようになっており、広い開脚場所が取れない場合などに三脚の脚の間にカメラを吊り下げる形でのローアングル撮影も可能で、この製品一つで非常に汎用性の高い運用が可能となっている。
また周辺部には三脚を安定させるための重しを吊るすフックや、マジックアームなどを固定できるARRIピンロックに対応した3/8インチネジのマウントも装備している。




Xchangeクイックリリースシステム
Manfrotto ONEのもう一つの大きなポイントが新開発のXchangeクイックリリースシステムの搭載である。Xchangeは3/8インチのネジがついたやや大きめの円形プレートとベース部分から構成されており、どの方向からでも上から押さえつけるだけで確実に固定される。外す際はベース部分の周辺部を左回転方向に90°ほど捻るとプレートが浮き上がって解除される仕組みだ(不意に触って解除されてしまうことを防ぐロックスイッチも装備)。
操作はシンプルだが剛性感や信頼性も高く、一台の三脚で写真用と動画用の雲台やスライダー等への載せ替えが非常にスムーズかつ迅速に行えるようになるだけでなく、固定時の方向も自由に選べるので、例えば三脚を動かさずにスライダーの向きだけを変えたい時などには便利だ。
なお本製品ではセンターポールにベース部分が直結されており、Xchangeを活用しての運用が前提となっている(手持ちの雲台等が活用できるようクイックリリースプレートもひとつ付属)。








500X フルード雲台
では次にONEシリーズ三脚との組合わせを前提にキットとしても販売されている500Xフルード雲台を見ていこう。まず基本的な部分としては、この雲台はミラーレスカメラでの使用を想定したサイズ感で高さ11.8cm、重量1.22Kg、最大耐荷重は5Kgまでとなっている。パンとチルトの両方にフルードを備え、0kgまたは2.4Kg固定(重心高55mm時)切り替え式のカウンターバランス機構も搭載されている。カメラプレートには501PLを採用し上から押し込むだけでロックでき、手前のボタンを押しながらレバーを引くだけで解除が可能だ。
この500X雲台特有の特長は2点あり、一つはベース部分自体がXchange対応となっているためプレートなしで高さや重量を増やすことなくONEシリーズの三脚にそのまま搭載できる(3/8インチネジ穴もあり付属の60mmフラットベースアダプター併用で通常の三脚でも使用可能)。
もう一つは動画用雲台ながら縦位置への切替を可能としている点で、雲台の上部が分割されたヒンジ構造になっており手前左にあるプッシュボタンを押すことでカメラのみを90°左に倒すことができるようになっている。プレートの付替えなしに素早くその場で縦動画を撮影できるようになるだけでなく、三脚側のレベリング機構との連携でこの雲台だけで写真撮影にも充分対応できると感じた。






Manfrotto moveシステムとの比較
参考までに筆者が以前から使用している同社のmoveシステムとの比較を行なってみよう。システムの中核となるクイックリリースについてはどちらも上から押し込んでロック、ベース部分をひねって解除という構造は同じである。
両者の違いはmoveがカメラやジンバル等にも活用できる汎用的なクイックリリースとして1/4ネジ(付属アダプタで3/8にも対応)のプレートを基本としているのに対し、Xchangeはベース/プレートともに一回り直径が大きく3/8インチネジのみの対応となっており、三脚での運用を基本とした撮影における雲台等の交換の迅速性や装着時の安定性を重視した製品であることがわかる。また細かな違いとしてXchangeのプレートは下部がフラットであるため、外した雲台などを自立させておける点は運用時に安心感があった。


三脚については635 FASTシングルビデオカーボン三脚との比較となるが、どちらもワンアクションで各脚の長さを調整可能であり高さの変更が行いやすい設計は共通している。FASTについてはビデオ用三脚として20Kgの最大耐荷重や155cmまでの全伸高でより大型のカメラにも使用可能だが、ONEの方は一般的なミラーレスカメラでの使用を前提としたもので、非円形パイプによる非常にスリムな収納サイズやエレベーター、俯瞰撮影などの機能を実現しており携帯性と機能面のバランスに優れている。


使用感とまとめ
今回短時間ではあったが実際の撮影でも使用してみたところ、筆者のようにミラーレスカメラのみを使用して写真と動画を同じ程度撮影するスタイルであれば、三脚にはとりあえずこのONEだけ持っていけば大丈夫だと感じることができた。
以前よりトラベル三脚を中心に写真/動画兼用の製品は存在していたが、多くは写真用の三脚に簡易的なパン/チルトやレベリング機構を備えた雲台をセットしたものであり、安定性や操作感といった面ではしっかりした動画撮影には向いておらず、これまでManfrotto ONEのような製品はほとんどなかったのではないかと思う。重量が2〜3Kg程度までのカメラセットであれば充分に実用的であり、エレベーターや90°センターポール搭載のおかげで写真と動画をシームレスに行き来しながら現場でひらめいた様々なアイデアを実現するための各ギミックを活かしていく楽しさもある。
全体としてクイックリリースや雲台まで含めたハイブリッド三脚としての機能とパッケージングのバランスが素晴らしく、三脚にもまだまだ進化できるところがあると感じられる製品である。機材のコンパクト化を検討する際にはぜひ試してみることをお勧めしたい。
◉Manfrotto ONE 製品ページ
https://www.manfrotto.com/jp-ja/collections/supports/manfrotto-one/
機材協力:ヴィデンダムメディアソリューションズ株式会社
◉関連記事(Manfrotto moveレビュー)
第1回:ミラーレス&ワンオペ撮影の機動性を向上させるエコシステム Manfrotto moveを使ってみた
https://videosalon.jp/pickup/manfrotto-move01/
第2回:Manfrotto moveをワンオペの ポートレートムービー撮影で有効性を検証する
https://videosalon.jp/report/manfrotto-move2/