MVのようにドラマを描く

MVでやってきたことをドラマの演出・撮影に置き換える

Netflixシリーズ『グラスハート』(以下、グラスハート)では、本編の監督&撮影監督に加えて、タイトルデザインとキーアートのクリエイティブディレクション、そしてグラフィックのスチル撮影も自分で担当しました。本編については、後藤孝太郎さんが全10話のうち4話の監督を務めていらっしゃいますが、それら4話の撮影も僕が担当させてもらいました。本作のようなシリーズものの制作体制として、海外では「ショーランナー」というポジションがありますが、『グラスハート』では、僕がクリエイティブ面の現場責任者を務めた感じです。

原作小説で描かれている孤高の天才ミュージシャンが仲間を集めてインディーズからメジャーへとのし上がっていく。その過程で困難や葛藤、そしてラブストーリーが描かれていきますが、そうしたものを実写化する上ではMVなどの音楽に沿った映像表現の知見を活かそうと考えました。具体的には全編ではありませんが、日常シーンでもMVのようにテンポ良く展開して、イメージカットなども入ってくるといった具合に、通常の実写ドラマとはひと味違った演出や撮り方を積極的に取り入れました。


Netflixシリーズ『グラスハート』は、柿本氏のキャリア史上これまでで最も大きな規模で、監督と撮影監督の両方に取り組むことになった。



本作では、MV的な画づくりのシーンが随所に登場する。







撮影スタイル

カメラワークによって役者たちとお芝居をする

僕にとっても役者さんたちにとっても難しかったのは、できるだけリアルに演奏する/撮ることと、ドラマとしてのお芝居の両立でした。ただ、上手に演奏すればOKというわけではなく、その中で感情表現を行う必要があったので、撮影前にリハーサルの時間を多く設けました。一般的な映画やドラマの現場では「ドライ(・リハーサル)」と呼ばれる、カメラなしの状態で一連の芝居を行い、位置関係や段取りを決めていきます。

ですが、『グラスハート』では、カメラも役者のひとりとして例えば、「朱音(宮﨑 優)がこの感情にいくためには、坂本(志尊 淳)がこういうリアクションをしなければいけない。だから自分はこの位置から、こんなアングル、こんなカメラワークで撮るから」といったことをリハーサルの中で決めていました。そのシーンで、それぞれの感情のゴール地点を決めた後に、キャストの方々がどのような道をたどればそこへ到達できるのかといったことを考えながら画づくりを行いました。

僕はカメラの動きや、そのシーンのルックによって、役者さんの感情を拡張できると思っています。そして『グラスハート』で一番大事にしていたのは“光”でした。例えばライブシーンでは、本来は観客がステージ上のアーティストの姿を見えやすいように正面からアーティストを照らすものですが、この作品の場合、8割ぐらいのシーンは逆光で撮っています。また、通常のライブ演出では強い光を当てますが、フィルライトやリムライトを追加して、できるだけやわらかくしていました。


照明監督の森寺テツ氏とモニターをチェックする柿本氏。「何を見せて、何を見せないのか。どのように魅せて、どのように魅せないのか」といった会話を重ねながら画づくりを行なったという。




照明効果とオールドレンズによる様式美

柿本氏がドイツのメーカーに特注したフィルタを用いて撮影したカット。独特のフレアが創り出された。



カスタムチューンが施されたBLACKWINGレンズで撮ったカット。円形で独特のザラつきをもったフレアが創り出された。







アートディレクション

イメージボード「真崎桐哉(菅田将暉)の自宅」



ラティチュードの色見本「桐哉の自宅」



ラティチュードの色見本「桐哉の自宅」



時間帯による変化を描いたアートの例(藤谷の自宅)。(上図)デイシーン/(下図)ナイトシーン




具体的なイメージとしてアイデアを共有して、発展させる

光の設計をしっかりと行なった後、各シーンで使う色数についても綿密に設計しました。ムードボードを作成して、メインカラーを決めたら、その色に合う3〜4色ぐらいのラティチュード(色幅)で色を作って、その中で見せたいものに光を与える、差し色を添えるといったかたちで決めていきました。あとは、そのシーン内で画面を占める面積が大きなものは意図的な色にしています。例えば、日比谷野外音楽堂の廊下のシーン(ep2)では青い絨毯を、Zepp羽田のシーン(ep5)では赤い絨毯を敷きました。

美術についても「このシーンは、こういうイメージで」といった大まかな方向性をまとめたリファレンス資料を用意して、それを基にプロダクションデザイナー(美術監督)の延賀(亮)さんに具体化していただきました。美術チームには同じシーンでも時間帯ごとのルックを確認するためのアートも数多く描いてもらっています。






シーンメイキング

役者に近いカメラは自分で撮ることが基本

本編の撮影では、ARRIのALEXA 35 Xtremeをメインカメラとして使いました。足元にヨリたい、ドラム演奏をヨリで撮りたいなど、大型のシネマカメラでは入れない場所から撮る場合はソニーFX6を使ったり、ハイスピード撮影にはPhantomなど、けっこう色々なカメラを利用しています。レンズはライカのオールドレンズを主に使いました。『グラスハート』の世界観に合ったフレアを出せるのが、このレンズだったからです。特別なフレアを出したいときには、BLACKWING7 TRANSIENTなどの私物のレンズも使っています。また役者さんによって、レンズとの相性があります。この人をヨリで撮るときには60mmが、あの人は25mmが良いといった、役者さんの顔立ちやフォルムの特性によって、変わってきます。

僕が駆け出しの頃にカメラについて教えてくれた方に「30歳になるまでは、50mm以上は使うな。できるだけワイドのレンズを使って、ヨリで撮るときは被写体に近づくんだ」と教わりました。だから今でもズームはほとんど使いません。

それは『グラスハート』の撮影も同様で、カメラと被写体との間にできるだけ余計なものを排除した構図で撮った方が、役者さんやシーンの熱量を画に込められると思うからです。役者さんにとっては演技の邪魔になる恐れがあるので、リハーサルでしっかりとコミュニケーションをとってから本番に臨んでいました。


ライブシーンの撮影は基本的にマルチカムで行われた。そして役者に一番近いカメラを柿本氏自身が担当したという。「芝居について一番理解しているのは、監督である僕なので。そのシーンで中心的に描かれるキャラクターに一番近いカメラは、自分で撮るようにしています」。



本番撮影では、できるだけ自由に演技してもらうためにカメラリグも柔軟性が高いものが用いられた。「このシーンでは下位置からカメラを上に振って撮りたかったので、あえて逆向きにカメラを付けました。その分、重量の負担も大きくなって腰にきました(苦笑)」。




ライブシーンの撮影には、大型のコンサートやイベントの撮影・中継を数多く手がけている権四郎が参加。「ロングショットなど、ライブの迫力や臨場感を重視したアングルは、LIVEシーン撮影監督の森原(裕二、権四郎代表取締役社長)さんにおまかせしていました。権四郎チームは、連携が素晴らしかったです」。




日本最大の音楽フェス「ROCK ALIVE JAPAN」

ロケ地「神栖総合公園」



ロケーション設定



ep1イメージボード



ep1本編カット







ポスターグラフィック

キービジュアルとして物語のゴールを切り取る

『グラスハート』では映像だけでなく作品全体のクリエイティブディレクションも担当しました。そして、ポスター用の写真は僕自身で撮りました。右下に載せたものは、メインのポスターです。

ep10(最終話)で描かれる「ROCK ALIVE JAPAN」ライブアクトを終えたTENBLANKメンバー4人の走りきった後の高揚感を写真に収めました。ずっと格好つけていた藤谷たちが顔をクシャクシャにして喜んでいる様子が、物語のゴールであることをビジュアルで表現しました。

キービジュアルは、この作品を象徴するものでありたいと考えて、本編の撮影時に写真撮影も行いました。広報用スチルなど、さまざまな写真が撮られていますが、他の写真はシャッタースピードを上げてパシッと静止した画になっているのに対して、僕自身で撮ったポスター用のグラフィックはあえてシャッタースピードを緩くして、動き(ブレ感)を画に込めました。彼らが演奏している時間までも1枚の写真に入れたかったからです。ストロボを一瞬だけ炊いて、ブレゴマが連続する中に1枚だけ残像感はあるけど止め画としても成立しているものを狙うというアプローチで撮りました。


TENBLANKは現実世界でもワーナーミュージック・ジャパンからデビューを果たした。柿本氏が撮った写真が、大型の屋外ポスターとして貼り出されている様は実にクリエイティブだ。









TENBLANK『旋律と結晶』MV

ドラマ本編にも登場する象徴的な雨のシーンと、球体の中で演奏する幻想的なシーンで構成。




柿本監督の原点でもあるストレートなMV演出

TENBLANKのMVを監督・撮影する機会にも恵まれました。本編は16:9の画角ですが、あえて4:3を選びました。僕がMVを撮り始めた時代のロックバンドのMV的なテイストに仕上げたかったからです。撮り方も演出も、当時僕がよくやっていたものを取り入れています。それと同時に、『旋律と結晶』という楽曲には「水(雨)」というコンセプトが含まれているので、その要素も取り入れました。自分たちは小さな雨粒かもしれないけど必死にもがきながら演奏している姿を描きました。

演奏シーンのセットと衣装のデザインには、雨粒の中に閉じ込められたメンバーたちといった設定が込められています。実はセットデザインは、2023年の「ヴェネツィア・ビエンナーレ」におけるフランスパビリオンの建築フォルムからインスピレーションを得たものです。そうすることで懐かしいものではなく、現代でも通用するクロスカルチャー的なビジュアルを目指しました。