「スプリングスティーン 孤独のハイウェイ」は、ありがちなミュージシャンの伝記映画ではない。“ボス”の愛称で知られるスーパースターの誕生から今までのキャリアを追うのではなく、彼の人生の最も暗い時期に焦点を当てるものだ。

それは、スプリングスティーンが、アルバム「ネブラスカ」を作ろうとしていた頃。スター街道を上り始めた彼が、あえてこんな静かでアナログなサウンドを持つアルバムを出すことに、周囲は大反対した。だが、過去のトラウマ、有名になることへの葛藤と直面していたスプリングスティーンは、アーティストとして正直な表現をしたかったのだ。それを支え、彼のために闘ったのは、現在も彼のマネージャーを務めるジョン・ランダウ。スプリングスティーンとランダウの美しい友情も、この映画の核のひとつだ。

原作はウォーレン・ゼインズが書いたノンフィクション本「Deliver Me From Nowhere」。監督、脚色は、「クレイジーハート」「ブラック・スキャンダル」のスコット・クーパー監督が手がけた。撮影監督は、クーパーが最も信頼する日本人の高柳雅暢氏。アルバム「ネブラスカ」をそのままスクリーンに映し出すような映像を実現した背景について、クーパー監督に話を聞いた。

スコット・クーパー監督
©2025 20th Century Studios

アメリカの映画監督、脚本家、プロデューサー。元俳優としても知られ、『クレイジー・ハート』(2009年)、 『アウト・オブ・ザ・ファーナス』 (2013年)、『ブラック・マス』(2015年)、『ホスタイルズ』(2017年)、『アントラーズ』 (2021年)などの脚本と監督を手掛けている。

“内面”と“時代”を表現するために用いられた撮影手法

――撮影監督を務めた高柳雅暢さんとは、もう4度か5度組まれていると思います️。なぜ彼はあなたのパートナーにふさわしいのでしょうか?

 僕が作る映画はいつも肉体的に非常に負担が大きいのですが、マサは決して文句を言いません。何より彼は、撮影監督として最高の目を持っています。彼は細かいところまでこだわりますし、(映像を通じて)すばらしいストーリーを語ります。

 マサと僕は、今や親友。彼は僕の右腕です。より良くストーリーを語るため、どこにカメラを置き、どう動かすべきかについて話し合い、お互いをプッシュし合います。

©2025 20th Century Studios

――あなたたちふたりはこの映画にどんなビジュアルを求めたのですか? モノクロとカラーを使い分けてもいますが。

 子供時代のフラッシュバックである1957年のシーンはモノクロ写真の雰囲気で撮りたいと決めていました。ブルースが「あの頃のことはモノクロで覚えている」と言ったからです。人はそんなふうに過去を記録するものです。それに、「ネブラスカ」のアルバムカバーやライナーノートもモノクロですし。ミニマリストでかっちりした感じにしたいとも思いました。あと、手を加えていない、素のままのような感じにも。映画『狩人の夜』などを参考にしています。

 一方、現代にあたる80年代のシーンはカラーにしつつ、当時のガレージロックの雰囲気を求めました。そうすることで対比させたかったのです。これらのシーンではカメラを固定せず、あの頃のニュージャージー、ニューヨークの荒っぽさを表現しました。

©2025 20th Century Studios

――80年代のシーンでは役者さんたちの顔のアップも多く、そこでも手持ちカメラが効果的に使われています。

 この頃のブルースは心が揺れており、安定していませんでした。それを映像に映し出したかったのです。顔のクローズアップが多いのは、「ネブラスカ」がとても親密で、内面の脆さを露呈するアルバムだから。そこにも表れていたブルースの心境を反映したいと思ったのです。そのすぐ後に広角のショットにすることで、ブルースが小さく見えるようにもしました。彼の孤独さを強調するために。

©2025 20th Century Studios

 テクニカル面ではそのような工夫をしましたが、何よりも優れたキャストがすばらしいことをやってみせてくれました。ブルース役のジェレミー・アレン・ホワイト、ジョン役のジェレミー・ストロング、ブルースの父を演じるスティーブン・グレアムらは、脚本に書かれたキャラクターに、見事に息吹を与えてくれたのです。

「とにかく僕は俳優たちが大好きだから」

――子供時代のブルースを演じるマシュー・ペリカーノ・Jr.も良い仕事をしています。彼からどう最高のものを引き出したのでしょうか?

 コツは“子役”を雇わないこと。僕はいつも、プロの子役でない子供を選ぶようにしています。パパやママ、演技コーチの言う通りにしない子。悪い癖のついていない、普通の子であることが、良い演技をしてもらう上で重要だと信じているので。あの子が映画に出たのは、これが初めてです。

――グレアム演じる父から虐待を受けるシーンもありますが、撮影は難しかったのでは。

 僕たちはとても気を遣ってあれらのシーンを撮影しました。僕が「カット」をかけると、スティーブンは彼に駆け寄り、しっかりとハグをしてあげていました。あれは実際に起きていることではなく、お芝居。それでいてシーンの中に入っていけるよう、スティーブンは彼を導いてくれました。

©2025 20th Century Studios

――あなた自身、俳優の出身です。その経験は、監督をする上で役立っていると思いますか?

 たしかに、プラスになっていると思います️。俳優がどう仕事に挑むのか知っていますからね。役への入って行き方は役者さんによってそれぞれ違うのですが、僕は役者さんたちが好きで、彼らを尊敬しています。演技という芸術に、個人的な深い思い入れを持ってもいます。

 演技の経験がある監督には、経験のない監督が引き出せないものを引き出せる力があると、僕は思っています。もちろん、それはすべての映画監督に通じることではありませんが、とにかく僕は俳優たちが大好きなのです。

©2025 20th Century Studios

『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』

11月14日(金) 全国ロードショー

監督 :スコット・クーパー『クレイジー・ハート』 
出演 :ジェレミー・アレン・ホワイト「一流シェフのファミリーレストラン」、 ジェレミー・ストロング『アプレンティス』、
ポール・ウォルター・ハウザー「ブラック・バード」、 スティーヴン・グレアム「アドレセンス」、 オデッサ・ヤング『帰らない日曜日』 
プロデューサー:スコット・クーパー、 エレン・ゴールドスミス=ヴァイン、 エリック・ロビンソン、スコット・ステューバー 
製作総指揮: トレイシー・ランドン、ジョン・ヴァイン、ウォーレン・ゼインズ



■公式HPhttps://www.20thcenturystudios.jp/movies/springsteen

■予告映像