レポート◉田村雄介
協力:日本サムスン株式会社/ITGマーケティング株式会社
映像業界においても様々な規格競争があるものですが、近年で言うとちょっと機材に詳しい人なら誰でも知っているのが「RAW競争」です。やれこっちのRAWが良い、あっちのRAWが素敵だ、カメラの中でRAW撮らせるのはうちの技術だぜ! うちは軽いRAWです!うちのRAWはうちの編集ソフトでしか使えないですよ! というような。
過去の例では負けた側がひっそりと消えていくものですが、2025年の今、RAW規格競争においては少々奇妙な事態が起きています。今まで違う種類のRAWを選べる機種というのは記憶する限りニコンのZ上位機が自社のN-RAWとオープンなProRes RAWを共存させていたくらい。その状況が一変したのが、オープンとはいえ自社開発のBRAWを全面に掲げるカメラシリーズの中の一機種、多くのユーザーが愛用してきたBlackmagic Pocket Cinema Camera 4KことBMPCC 4K(ポケシネ4K)がアップデートによって完全なライバル規格のApple ProRes RAWを搭載してきたことです。正直これにはひっくり返りました。そしてまさかのDaVinci ResolveのApple ProRes RAW対応までが同時発表!
なんだか最近ブラックマジックデザインとアップルは仲が良いなぁ~という蜜月感はありましたが、まさかライバル状態で編集ソフトでも互いを扱わない虎の子だったこのふたつのオープン規格が1台のカメラに入ってくるとは! もっともニコンZRはこれまた驚きのRAW3種類対応ですが、でもあれはニコンがREDを買収したので、「自社RAW&オープンRAW」です。BMPCC 4Kは「自社オープンRAW&オープンRAW」なんです。発売当時からBMPCC 4Kを使ってきた私としては奇跡のコラボ。同じ時代に生まれたライバル同士が手を組んだという激アツ展開です。
ここまで引っ張ってきましたが実は今回の主題はSSDです。カメラに繋いで使うSSDとして大人気なSamsungポータブルSSD T7 Shieldの4TBを使用してProRes RAWを止めずに撮り切ることは可能なのか。その検証を行なっていきたいと思います。
BMPCC 4KでProRes RAWが記録できるようになった
そもそもまずは見てください。このメニュー画面の1ページ目! ProRes RAWで記録できるようになっています。では実際に撮り切ることが可能なのか、検証してみたいと思います。


結論からいうと、まったく止まりませんでした。容量いっぱいまで録り切れるかどうかということに重点を置くと、超長時間録画の検証になってしまいますが、ProRes RAW HQとProRes RAWは可変ビットレートなので、動きものを撮影するとビットレートがあがって止まってしまうかもしれません。ということで、ほぼ撮影対象が動かない状態と、動いている状態とで実撮影時間を計測してみました。
4K DCI ISO400 FPS 59.94 ほぼ撮影対象が動かない静止状態(exFAT)
| モード | 待機表示時間 | 実撮影時間 |
|---|---|---|
ProRes RAW HQ | 3:08:22 | 4:25:48:25 |
ProRes RAW | 4:42:32 | 7:28:25:39 |
ProRes HQ | 4:42:22 | 4:42:05:49 |
ProRes 422 | 7:03:22 | 7:02:58:49 |
4K DCI ISO400 FPS 59.94 TV画面を撮影(exFAT)
| モード | 待機表示時間 | 実撮影時間 |
|---|---|---|
ProRes RAW HQ | 3:08:22 | 4:24:44:01 |
ProRes RAW | 4:42:32 | 7:35:46:46 |
BRAW 3:1 | 4:06:55 | 7:50:05:24 |
Mac OS Extended(参考)4K DCI ISO400 TV画面撮影
| モード | 待機表示時間 | 実撮影時間 |
|---|---|---|
ProResRAW HQ | 3:08:22 | 4:28:29:21 |
このような結果になりました。
一応今回の検証環境をご報告すると
・約25℃前後に保たれた室内
・TILTAのケージとVバッテリーユニットとSmallRigのSSDホルダーとIDXのDUO-C198を使用
・RECを押して即放置
・運良くSSD Fullになった瞬間を見られたらクールダウンせずそのまま即次の検証に、止まる瞬間を見られなくても大容量バッテリーにまかせてカメラは立ち上げっぱなしで熱は帯びたまま即再開してホットスワップでVバッテリーをチェンジ
この待機表示時間と実撮影時間の差異、これはProResは規格上ほぼ固定ビットレートでの記録をしているので待機表示時間とほぼ同等の実撮影時間になるのに対して、前段でも少々触れましたがProRes RAWは可変ビットレートを採用していることにあります。
・ProRes RAW HQはおおよそProRes 4444の最高ビットレートからProRes422HQの最高ビットレートの間の可変ビットレート
・ProRes RAWはおおよそProRes 422HQの最高ビットレートからProRes422の2/3ほどの間での可変ビットレート
・ちなみにBlackmagicRAWは固定ビットレート(Constant Bitrate)であっても特定のデータレートを超えないように可変するビットレート
今回の検証では上記の理由で待機表示に対して大幅に記録時間が変動しています。なので普通の撮影で回した場合には待機表示時間は最低限これだけは回るという目安にしてください。上記の検証結果をみて「7時間以上回るんだ!やった」ということで、延々と波飛沫や木々のざわめきなんかを撮り続けられたらそれは絶対に7時間回ることはないはずです。この辺の解説は外部にお任せするとして、以下の4つのリンクが非常に参考になるはずです。今回改めて再確認という意味でいい勉強になりました。
Apple ProResについて
https://support.apple.com/ja-jp/102207
Apple ProRes RAW について
https://support.apple.com/ja-jp/102124
Apple ProRes RAW White Paper(PDF)
https://www.apple.com/final-cut-pro/docs/Apple_ProRes_RAW_White_Paper.pdf
BlackmagicRAW固定ビットレートまたは固定クオリティのエンコーディングで完全なコントロールを実現(ページ内中腹)
BMPCC 4KにおいてBRAWとProRes RAWの違いとは
さて、ではBMPCC 4KでProRes RAWが撮影できるようになったわけですが、BRAWとの画質的な違いはどういったところに現れるのでしょうか?
まず最初に言いたいのはBMPCC4Kであっても過去世界中で検証されたProResRAW vs BRAWの比較例にはすっぽり当てはまり、明らかにカメラ内部でセンサーからのデータを処理しているBRAWと、そのまま出しているProRes RAW、というような結果が見られたことです。特に顕著なのはディテールとノイズ処理でしょう。
以下データは撮ったままタイムラインに乗せBlackmagicのGen5 Film to Videoを適用しただけのデータになります。

↓ISO400 ProRes RAW HQ(全体から部分を拡大)

↓ISO400 BRAW 3:1(全体から部分を拡大)

↓ISO3200 ProRes RAW HQ(全体から部分を拡大)

↓ISO3200 BRAW 3:1(全体から部分を拡大)

もともとDaVinciで取り扱えないデータだったこともあり、あまりProRes RAWには興味を持たずここまできましたが、ノイズ処理さえしっかりやればかなりシャッキリしたデータが得られるということは分かりました。今後の利用に興味が湧いてきたところです。
ところが同一機種内で撮れるRAW同士ではあるものの使い勝手が少々異なる部分があります。
調整項目に関してはやはりネイティブであるBRAWが圧倒的に多いということです。
↓ProRes RAWのカメラRAWパネル

↓BRAWのカメラRAWパネル

ProRes RAWはまぁ最低限調整できればいいかという程度の調整パラメーターのみが並びます。露出調整は+-1ずつだし色温度の調整幅も2500~10000と少々控えめです。が、しかしISOに関する項目を見たところであれっ? となります。BMPCC 4KのBRAWの場合はデュアルネイティブISOのロー側で撮った場合は100から1000、ハイ側で撮った場合は1250から6400までの調整幅なのですが、ProRes RAWのISO調整幅はハイローどちらでも関係なくなんと50から25600です。これを良しとするか悪しとするかは使う人の考え方次第ですが…わかりやすく現象を説明すると、ノイズ感がISO6400のままのISO50設定みたいな妙なことになるので注意したほうがいいでしょう。この辺の挙動は今後のDaVinciのアップデートで変わってくるかもしれません。
T7 Shieldのレビューとだけはやっぱりいかなかったのですが、本題の検証としては、今回もT7 Shieldにはなんの問題も起きませんでした。ProRes RAW HQでテレビ画面を撮影してみましたが、もしかしたら、非常に難しい被写体でビットレートが上に振れる可能性があるかもしれません。その場合であってもきちんと収録できるのかどうかという確認はできなかったのが残念なので、もし機会があれば追加検証も考えたいと思います。


Samsung Portable SSD T7 Shield(4TB)
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