“ミドルレンジ”といわれるビデオ制作者たちがいる。企業VP、CATV、ブライダル、ミュージックビデオ、イベント映像、デジタルサイネージ映像など、映画・TV番組、TVCM以外の多くのビデオコンテンツを制作しているプロ制作者たちのことだ。2010年4月より、このミドルレンジのプロビデオ制作者の有志たちがあつまり、ビデオ映像機器関連の情報を、自主的に発信するネット放送番組を立ち上げた。それが『月刊HD Users』だ。
 この配信システムの高画質配信を支える要の機材として、ブラックマジックデザインの製品が多数使われている。徐々にファン層を拡げ、業界認知も広がりビューワー数を増やしている『月刊HD Users』の主要メンバーにお話を伺った。
月刊 HD Users
岡 英史 氏(VIDEONETWORK)
井上 晃 氏(MAXiMEDIA)
猿田守一氏(ALPHA VISION)


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プロ機材によるライブストリーミング配信


普段は首都圏各地の自分の地元で、個々に映像を仕事として活動しているミドルレンジのプロビデオ制作者たちが、毎月末に神奈川県厚木市にあるスタジオに集合、自分たちの所有するプロ機材を駆使して、インターネット上のライブストリーミング(生中継放送)サービス“USTREAM”による、高画質ハイクオリティのコミュニティチャンネルを放送している。放送内容は、映像制作機材の新製品レビューや映像関連技術の話などを中心に、専門性は高いが映像制作者にとって有益なニッチ情報をユーザーの目線で伝えるものだ。
 日本ではいまや一般の素人がiPhoneからでも気軽に放送できるライブストリーミングサービスとしても利用されるUSTREAMだが、彼らHD Usersの構成メンバーは、全員がその道のプロフェッショナル。普段から“ミドルレンジ”という幅広い映像コンテンツを制作しているメンバーが専門機材を解説していくことで、内容もひじょうに具体的で判りやすいものになっている。またネット番組でありながら、放送クオリティの映像配信を心がけており、高画質で観やすいことも評判だ。
 月刊HD Usersのメイン構成員は現在6名。放送開始当初は「HDカメラ座談会」として開始し、徐々に参加する人脈も増えている。主要のメンバーを除いては、毎回スタッフが入れ替わりでカメラやスイッチングなどを担当している。元々は各人とも違うフィールドで活動していたが、映像制作者達が集うSNS(ソーシャルネットワークサービス)を通じて知り合い、この活動母体が生まれた。
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DeckLink SDIなどキャプチャーボードを多用


毎回の配信には、毎回違った様々な機材がテストも兼ねて使用されているが、業務用の機材によるインターネット放送のため、必ずHD-SDIやHDMIといった信号変換を行わなければならない。そんな時、DeckLink ProやIntensity Proといった機材が活躍している。
岡「現在HD Usersでは視聴者側のネットワークインフラを考えて、HD高画質で高いビットレートの第1チャンネルと、回線速度が遅い環境でも視聴可能なSD低ビットレートの第2チャンネルの、2つのチャンネルで配信しています。それを各々のPCから配信しているのですが、1台はWindowsマシンで、そこにはDeckLink SDIが、もう1台はMacPro(OSはWindows7で稼働)でこれにはIntensyity Proを挿入しており、スイッチャーからの信号をPCで受けるためのキャプチャーボードとしての使用が、主な使用目的となっています」
井上「Intensity ProとDeckLink SDIは猿田氏が所有しているもので、配信マシンに装填して毎回使わせて頂いています。僕が所有するBroadcast Converterは、スイッチャーやマルチカムなどセッティングが複雑になったときに使用しています。インターネット放送とはいえ、HD画質で配信するにはこれらのボード類は外せません。このHD Usersの高画質を支えているのは、まさにブラックマジックデザイン製品だと言えますね」
 配信時は、業務用ビデオカメラが2、3台と、製品紹介用に要所をアップで撮影するための小型デジタルHDカメラ(「まめカムHD」)など複数のデジタルHDカメラが使用されている。特にまめカムHDカメラや民生用HDカメラからのHDMI出力をHD-SDIに変換するためには、mini converterのHDMI to SDIなどが使用されている。
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常にユーザー目線で分析する豊富な機材情報


ミドルレンジのプロビデオ制作者たちがもっとも特徴的なのは、映像機材を個人所有しているというところだ。TVや映画、またはプロダクションといった日本の映像プロフェッショナルは、あまり個人や制作会社では機材を持たない。とくにカメラマンは高額なプロ機材を自身で所有するというのは不可能なのだが、このミドルレンジの人たちは、みなが個人でカメラやPCなどの編集システム、周辺機材などを購買し、所有している。そのため全員が機材の仕様に詳しく、またジャンルも多岐に渡るため、メーカーが持ち得ないような様々な情報も持っている。
猿田「僕が1年ほど前にソニーの新しいファイルベースカメラを買ったときに、みんなで集まって検証しよう!といったことをきっかけに、この放送が始まりました。みな活動するジャンルは違うのですが、同じ機材についてそれぞれ知りたいことがあるんです。そこで皆で集まって検証しつつ、さらにそれをライブストリーミングで広めてここまで来れない人でも、ツイッターで質問等を貰いながら交流することできたのは、僕たちのようなジャンルの映像制作者には大切だと思います。これを始めたことでまだ自分の仕事が大きく変わったということはないですが、少なくとも最新技術にいち早く触れる事ができるのは有益ですね」
岡「僕自身はこれまで12年ほど、映像機材に関する情報のライター業もしてきて、専門誌などに機材のレビュー記事などを書いていました。出版社さんと知り合うまでは普通のユーザーだったのですが、新製品のレビュー記事などを発売前にテストさせて頂いたりしてきたので、機材に関して多くの情報を知ることができたのですが、SNSで知り合った同じ世界の人たちはそれを知る術がなく、やはり同じような情報を欲しがっている。そこで、じゃあみんなで新製品を検証してそれを公開しよう!ということになった。誌面で伝えられることもありますがスペースも限られている。ネット放送だとより具体的にその情報を自分の言葉で伝えることができるのがいいですね。これまで番組には大手メーカーの方など様々な方をゲストに呼んで、開発秘話や業界動向などのお話をして頂いています。特にこの放送を始めたことでメーカーの方と直接コンタクトを取れるようになり、様々な意見交換ができるようになったことは、現業の仕事をやる上でもひじょうに役立っています」

番組で使用するスイッチャーの選択について


実際のHD Usersの放送はマルチカメラによるものなので、スイッチャーが必須だ。そこで最近選ばれたのがブラックマジックデザインのATEM 1M/E Production Switcherである。
岡「HD Usersの立ち上げ後は各メーカーに協力して貰い、さまざまHD-SDIスイッチャーを試用させていただいたのですが、やはり最終的にはスイッチング撮影がメインな撮影形態ではないためにコストを優先せざるを得ません。実は他社のスイッチャーを導入しようとしていたのですが、そこにNAB2011で、ブラックマジックデザインから衝撃的なスイッチャーが登場してきました。私は現地でその性能を目の当たりにしていたので、帰国しすぐにデモ機を申請して、テスト運用した後に購入に踏み切りました」
(実際はメンバーである井上晃氏の個人購入を使用している)
「衝撃的といのはまず価格です。まさにミドルレンジという枠の中で個人購入するならこれしかないと言う値段設定でしょう。PCからのコントロールをするからと言ってもソフトウェアスイッチャーではなくインターフェイスのみ。映像処理はハードウェアに頼っているところも現場での信用が持てるところです。そしてその性能は価格以上のパフォーマンスを発揮してくれます」
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▲上がスイッチャーの本体。下はPC画面に表示されるソフトウェアパネル

ATEM 1M/E Production Switcherの使い勝手はどうか?


岡「基本的に全てのコントロールはPCからすべてできます。ただ、PCで直接映像信号を取り扱ってるわけではないので一昔前のノートPCでも充分運用することができます。条件としてはモニター解像度が横幅1440以上あるのが望ましいというだけです。1280程度だとパネル部分が全部描画できずに若干使いにくくなります。ハードウェアのスイッチャーに慣れている人は、やはり別売のコントロールパネルがほしくなるでしょう。たとえばPinPの時に小画面の大きさ、位置、エッジ等を決めるには、コンパネが有る無しでは一手間も二手間も違ってきます。もし予算があるのであれば、コンパネとソフトウェアの両方での運用をお勧めしたいと思います」
ミドルレンジのプロビデオユーザーであっても、スイッチャーを使いこなしている人はそう多くないはず。またUSTREAMをきっかけに映像の世界に入ってきた人にとって、スイッチャーというのはずいぶん敷居が高く感じるものだ。
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岡「私自身、それほどスイッチャーに詳しいわけではありません。過去に数回でもスイッチャーを触ったことが在る方なら2時間位の練習で大体一通りの使い方はできるようになります。そしてIPコントロールでPCからもアクセスできるということは、同じスイッチャーに数台のPCをハブで接続することにより操作の共有ができます。最後に本体にアクセスした命令系統が優先されるので、若手スイッチャーマンをベテランがフォローして修正するということも可能ですし、ネット配信系なら、出演者自らのPCに仕込むことにより自分中心の考えでスイッチングするようなオペレートも可能になります」
このATEM 1M/E Procuction Switcherにより、従来の映像制作とはちょっと違った現場での使い方が生まれてきそうだ。なによりもライブ配信における機材的な敷居がかなり下がったと言えるだろう。
井上「映像業界は今までパッケージメディアの制作が主でしたが、Ustreamなどのライブ配信は今後映像制作の一分野として大きく伸びていくものと思われます。実際『月刊HD Users』でも業務として、ライブ配信の依頼が多くなってきていますしね。このライブ配信を支える一つの要素としてブラックマジックデザインの製品は欠かすことができないし、その製品の使いこなしのノウハウを積むことは大切なこととなっています。こういった映像関連製品を毎月検証しながら、先端のノウハウを積んでいくことが出来ているのは『月刊HD Users』をやっていて一番よかったことだと思いますね」
月刊HDUsers
ブラックマジックデザイン
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