レポート 林 和哉
序論:撮影用カートは要るのか(要るに決まってるが、まずは疑う)
撮影現場というものは、ときどき不思議な場所である。
ハイエンドなカメラ、精密なレンズ、匠の技術、そして──なぜか「地面」で作業する文化が根強い。
レンズ交換? 地面で作業。
ジンバル調整? 地面で作業。
ちょっとカメラを仮置き? 地面。
弁当? 地面(これは人としてギリギリ)。
もちろん、シネサドルやらケースやらで対処している人もいる。だが土埃は全員に平等に降り注ぐ。
そして腰も平等に壊れる。
そこで生まれる疑問。
撮影用カートって、ほんとに必要なの?
答えは簡単だ。必要かどうかを考える前に、腰が先に「必要だ」と叫び始める。
本論:検証したのはBOULDERカートである
カートも色々なメーカーから発売されていて、皆が撮影用のカートとしてイメージするのは、マグライナーだろう。カートといわずにマグライナー=カートとなっているくらい、クリネックス=箱ティッシュと同じ固有名詞化している。
カートも群雄割拠の中で、とあるメーカーが新機軸を打ち出してきてくれました。
今回検証するカートはTILTAの BOULDERカート。
TILTAは、ひとことで言うと 「撮影現場の“あったらいいな”を金属で実現する会社」である。
リグ、ケージ、フォローフォーカス、モニター周り…とにかく手が伸びる範囲の不満を、ネジ穴とアルミと発想力で黙らせに来る。
しかも偉いのが、ガチ勢向けの本気仕様なのに、どこか現場で遊べる余白を残してくるところ。
気づけば機材箱の中にTILTAが増えていて、「また増えた…まあ便利だし…」となる。そういうギーク魂をくすぐるメーカーだ。
そんなTILTAのカート、BOULDER は「現場のレゴブロック」とでも言えるだろう。
- モジュール性: 拡張性に優れ、様々なアクセサリーを後付けできる。まるで撮影機材の組み換えを楽しむように、カート自体もカスタムできる柔軟性がある。
- デザイン: 良くも悪くも洗練されすぎている。現場に馴染むというより、現場に「おしゃれなガジェット」を持ち込んだ雰囲気を醸し出す。
ざっくり言えば「撮影現場に持ち込める可搬式・要塞型ワークステーション」だ。
見た目はカートというより、「現場で急に支給された基地」である。
これがあると、撮影隊は“野営”から“駐屯”へ進化する。
まずは本体のカートについて。
良いところ:このカート、現場で人権を取り戻してくる
1) 機構がシンプルで、底面積が広い
折りたたみ式ではない。組み立て式だ。しっかりポールから何からバラしてモノリスになる。
ポールは着脱式、しかも締め込み式ロック。つまり「壊れる要素が少ない」。
折りたたみ機構って便利そうに見えて、現場ではだいたい“ガタ”の温床になる。
BOULDERはそこを捨てて、広い・低い・安定に振り切っている。潔い。


2) とにかく丈夫。たわむ気配がゼロ
裏面に筋交いの補強。
「たわみ」という概念がまったくない。
体重をかけても、気持ちが沈むだけで天板は沈まない。


3) 手前のウォールが開いてDITカート化する
ここが実に“わかってる”。
現場でモニターを見たい瞬間は多い。DIT的な作業もしたい。
手前ウォールが開くことで、カートが「魅せる」モードに変形する。
カートに人格が芽生える瞬間である。
BOULDERのエンブレムの入ったウォール。

裏側にピンがあって外すと、

開きます。

裏にマグネットが付いているので、ピタッと収まります。

開口部は広いです。

DITカートモードとして運用中

コンパクトにまとまる。

4) ねじ穴だらけで、なんでも固定できる
あちこちに 1/4インチ、3/8インチのネジ穴。アームもレシーバーも何でもねじ込める。
しかも Arriピンのホールが当然のように効くように開けてある。
「当然」という言葉を、このカートは裏切らない。現場のスタッフが一番好きなやつだ。




5) ウォールのプレートが外れて、ケーブル穴にもなる
ネジ穴プレートが取り外し可能。四隅の黒いネジを回せば取れる。
ケーブル通しのホールとしても使える。
つまり、見た目の秩序が保たれる。
撮影現場で秩序が保たれると、人は優しくなれる。

天板にもケーブルホールが付いている。
DITカートとして考えたときに、とても重要な部分だ。

良くないところ:欠点は欠点として存在する(ただし致命傷ではない)
1) 搬送のハコがでかくて重い
でかい。重い。
でもこれはもう、頑丈さと引き換えの宿命。
「要塞を持ち運ぶ」なら、そりゃ箱も要塞級になる。


2) 頑丈な分、基本重量が重い
重い。だがタイヤが軽快に動くので、現場では不思議と気にならない。
たぶんこれは、タイヤが優秀なのと、作業が楽になって体力に余裕が出るせいだ。
人間は余裕があると重さに寛容になる。
レゴな部分
さて、ここからはレゴな部分を見ていこう。
筆者の使用しているBOULDERは、オプションてんこ盛りにしてある。
ざっとあげると、





というオプション群だ。
全部くっつけた状態がこちら。


実際にくみ上げてもガタもなくしっかりとした塊感で、安心して運用できる。
ステディーカムドックについて
筆者はステディーカムを運用していないため、使い道としてライトスタンドピンとして簡易に照明を付ける場所として運用している。ステディーカムオペレーターを招聘したときは、とても便利に使っていただけると信じている。

エクスパンションモニターマウンティングブランケット+モニターマウントについて
筆者が特筆すべきと思ったオプションはこれだ。これに惚れてBOULDERを買ったと言っても過言ではない。
カート四方の4本のポールに延長する形でポールがつく。ポールの上蓋を外してねじ込む式なのでポールも頑丈だ。
そこにブランケットレールを渡らせるようにセッティング。このレールが良くできていて、あちこちにネジ穴が切ってある。

横に這わせるブランケット自体がさりげなくNATO規格になっているのが泣ける。“さりげなく”がポイントだ。
主張せず、しかし必要な場所にいる。 こういう人が現場にひとり欲しい。
NATOレールのアクセサリを使えば、さらなる拡張ができるだろう。
筆者はモニター用にVマウントバッテリーアダプタを止めている。

モニターを付けるには専用のモニターマウントを使うのだが、VESAマウントに対応しているので、モニターに付けるのは簡単だ。
このモニターマウントをブランケットレールにスライドして取り付けると、左右、真ん中など自分の見やすい位置に簡単に調整できる。上下左右の角度をある程度調整して固定できるので、視認性も高い。
さらに、このマウントは、裏のロックを外すとモニターを縦に回転することができる。
最近流行の縦型動画の確認にもしっかり対応できるのが憎い。

IGTプレートエクスパンションモジュール
IGTプレートエクスパンションモジュール、これは熱い!
移動時は畳んでおき、現場で開く。


さりげなくインチとセンチの定規が打ってあり、ちょっとしたときに助かる。


IGTとは、アイアングリルテーブルの略称で、日本キャンピング界の雄スノーピークが発案したもので、それに対応したものを嵌めかえて使えるフレーム型テーブルとユニットの規格だ。
天板裏のフックを外すと

天板を外せます。

すっぽりと穴が空くのですが、縁に引っかけるためのレール部分があり、バーナー、焼き肉鉄板、ボール、アミ、コンテナボックスなど、なんでも嵌めて活用できる。

試しにお湯を沸かしてコーヒーを飲めるセットアップをしてみた。
→ 現場の幸福度が上がる実証実験
バーナーと温かみのある竹のテーブルトップ、マグカップを配置。

メーカーのデモ映像では、撮影にとどまらず、グランピングの時にプールサイドに持ってきて、天板で具材を切って焼き上げているシーンまである。カート利用の新たな提案として、思わず膝を打った。
天板の上にあるフェルトは綺麗に外せて、

その下には清潔感溢れるアルミニウム合金が。キッチンカーとしても利用が可能だろう。

拡張日除けシェード Extended Umbrella
傘が面白い。
オープンロケ午前中や夕方の斜め日差しって、モニターの天敵である。
それをうまく切ってくれるので、視認性が上がる。
ベースのポールにステーを付けて、

そこにポールを指し、現場で傘を合体、

ハンドルを回して開くだけ。


開いた姿は壮観だ。
しかも、
- 軽いので付けたまま移動OK
- 内側に引っかけるループ付き
- 専用の暗幕で外周を全部閉じられる

これ、何が起きるかというと、
暗室にもなるし、ちょっとした着替え場所にもなる。
つまりカートが「簡易ハウス」になる。
撮影現場の文明が、ここで一段階上がる。
運用してみて:どこへ行っても「安定した作業台」がある幸福
結局ここに尽きる。
どこへ運んでも、必ず安定した作業台がある。
これは絶対的にありがたい。



- レンズ
- リグ調整
- ちょっとした書き物
- 弁当を食べる(地面卒業)
ちょっとした小袋を引っかけておけるフックもある。こうした小技がじわじわ効いてくるのだ。

下段にはレンズバック、バッテリー、モニター、チャージャー、ポタ電を置きっぱなしにできる。
オプションを使わなくても、FlowTechの三脚だったらそのまま縁に引っかけて運べる。つまり**「現場の生活圏」**が形成される。

現場では、割と一般的にキャンプ用キャリアで運んでいる人もいる。
でもレンズ交換のとき、ちょっとカメラを置きたい瞬間に、地面を使うことがあるだろう。
土埃が気になる。ジンバル調整で地面を使うと、腰が痛い。その“小さなダメージ”が積み重なるのがロケだ。
しかしカートがあると、上段天板が常にワークスペースになる。これだけで疲労度が変わる。ほんとうに変わる。
さらに、荷物がとっ散らからない。神経に優しい。カートにまとまっているので、カートが去った後に何もなければ「忘れ物がない」と分かる。忘れ物チェックが視覚的に完了するのは、現場においてかなり大きい。
結論:あったほうがよい(というより、ない生活に戻れない)
撮影用カートは要るのか。
BOULDERカートを使ってしまうと、議論は終わる。あったほうがよい。
そして正確に言えば、一回ロケで使ったら、もうカートのない生活に戻れない。
そして、コストパフォーマンスが高い(込み込み30万)
30万円そこそこで「現場の机+基地+拡張プラットフォーム」が買えると思えば安い。
しかも込み込み内容が強い。
- 新しい形のモニターブランケット
- IGT対応のオプションテーブル
- ステディーカムのレストポール
→ “置き場がない問題”に対する現場の回答
傘と傘のウォールは別途なので、もう少し予算が増えるが、現場に「机」が来る。簡易ルームが来る。
それだけで、撮影隊の文明レベルは確実に上がる。BOULDERカートは、その進化を物理的に押し進める装置である。
モデル:加藤碧衣
