2026年2月26日(木)から3月1日(日)までの4日間、パシフィコ横浜で開催された「CP+2026」。本記事では、そこで行われた玄光社のVIDEO SALONとCommercial Photoがプロデュースしたイベント企画「CREATORS EDGE Spring Edition」の高井哲朗さんによるセミナーの模様をお届けする。2月27日(金)18:00-18:40にステージBで行われたこのセッションでは、『コマーシャルフォト』で長年連載を続けてきた高井さんが、「ブツ撮り」の考え方を伝授する。光そのものではなく反射をどう作るか、被写体に合わせてどこを整え、どこで個性を入れるか。作例の解説やステージ上での実演を交えながら、背景づくりや質感の出し方、画を成立させる手順までを解説した。綺麗に撮るだけで終わらせず、写真に物語を作るための判断軸が語られる。



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今日は、雑誌『コマーシャルフォト』で長年続けている僕の連載の流れからお話しします。

連載は「ブツ撮り=広告写真のスチールライティング」をテーマに、スタジオでライティングして撮ることを軸にして、全部で60回、5年続けてきました。

この連載は毎回、ゲストの方を招いて、まず撮影テーマを決めて撮ってもらい、それに対して僕も同じ被写体を撮影して応えるという形です。技術記事としてライティング解説も入れつつ、文章も含めて一つの企画として成立させています。





今日はその連載の延長として、ステージ上で実演しながら、ブツ撮りの考え方と「どう組み立てていくか」を見せていきます。時間は限られているので、手を動かしながらテンポよく進めます。



「普通に綺麗な写真」で終わらせない




まず紹介したいのが、日野拳吾さんと一緒に作ったページです。日野さんのリクエストで、すずのおちょこを撮ることになりました。

日野さんは若いフォトグラファーで、作品制作もされていて、プロとして独立されています。

そもそも日野さんに声をかけたのは、日本広告写真家協会が主催するAPAアワードの特選賞を取ったことがきっかけでした。

人物写真を撮ることが多い方なのですが、日野さんが、素敵なおちょこを持っているというから、「じゃあそれを被写体に撮ってみようか」という流れで始まりました。

日野さんが持ってきたのは金色のおちょこでした。金色って、なかなか綺麗に色が出ない。普通に撮ったら、ただ綺麗な写真で終わってしまう。

だから「それだけじゃ面白くないよね」というところから、深みを入れる方向に振ります。





はじめに日野さんが撮影したセッティングをご紹介します。

黒い布の上に水槽を置いて、中に水を張ります。そして石の上におちょこを置きました。

おちょこの中にはライトを映り込ませて、月が写り込むような表現を作ります。

ちなみにスポットライトは、おちょこに直接当てません。後ろに濃紺のペーパーを垂らして、そこに当てた光が反射して「夜の青」を表現してくれる。

この反射が入ると月見酒みたいなストーリーが生まれて、ただの商品写真から一段奥に入っていく感じがしますよね。





深みを作る最後のひと押し(揺らぎ+スモーク)

今のままでも十分綺麗ですが、もう一捻り欲しい。

そこでスモークとブロアーで、水を揺らす動きを取り入れました。

同じ被写体でも揺らぎが入ると、奥行きがまるで変わる。そこに誰かがいるような気配が出る。写真を見る人が「これは何だろう」と考え始める入り口ができるんです。

ただ美しいだけだとそれで終わるけれど、その先のストーリー、想像するきっかけを作るために波や水や揺らぎを入れる、という発想です。



高井さんの答え:液体の粘度で表情を変える




次は僕の番。瑠璃のおちょこがあったので、僕はそれを使いました。

日野くんはお酒を入れましたが、液体にぬめりを持たせたいので、僕はみりんを入れました。

みりんの滑らかな揺らぎを入れつつ、そこにハイライトを作って次の物語に移す、という狙いです。

同じブロアーで揺らしても、中の揺れ方が微妙に変わります。サラッとした感じとコテコテした深い感じ。

その質感の違いを液体の粘度で作る、というやり方です。





背景・土台は一部だけ使うと絵になる

土台は黒い漆器盆を使いました。ただし漆器盆の全部は写しません。

金箔絵の部分におちょこを置いて、影や縁が上下に入るように切る。

すると、影と縁の入り方で、掛け軸みたいな絵になると思いませんか?

ブツ撮りって、追い込んでいくと自分の中で禅問答みたいになるんですけど、色や匂いみたいなものを感じる表現を、モノ自体が教えてくれるような感覚が出てきます。

そうやって普通の写真じゃないところまで入っていきます。



普通の化粧品写真から、あえて外す




次はいわゆる化粧品、ディオールのカラーパレットの作例です。

登場してくれるのは、大阪と東京を行き来しながら活動している加藤幸秀さんです。

加藤さんの場合は、SNSで写真を見て「いい写真だな」と思って、僕からDMを送ったのが出発点です。

ただ、化粧品って普通に撮ると「はい綺麗ですね」で終わりやすいので「それだと面白くないから、なんか普通じゃないことやってよ」と、加藤さんにプレッシャーをかけたんです。 その結果、この写真が生まれました。





合成なしの一発撮りで組む

この写真は、合成やCGを入れずに一発撮りで作っています。

パレットの下には、ラメ入りのペーパーを敷いて、それを十字にクロスにするように位置を調整しました。

光はLEDライトとストロボの組み合わせ。さらに撮影の瞬間にライトカッターを商品の上にかざす動作を入れています。

要するに、きっちりした商品写真の枠にいながら、光の動きを取り入れた設計です。





さらに長時間露光で、シャッターが開いている間にズームアウト動作も入れました。

ズームレンズを動かすことで、そこに残っていたハイライトの動きを残します。

つまり、右の写真はレンズをシャッと動かした軌跡がハイライトとして写っている、という原理です。

ここがポイントで、定常光が当たっている部分に対しては、影をかざしているので、ストロボの光だけが生きて、止めたい部分がきちんと止まる。

その上で、定常光が当たっているラメの光の部分だけが触れる。

「止める」と「動かす」を分けてコントロールしている、ということです。



高井さんの答え:立体的な動きを作る




ここからが僕の番です。

加藤さんが作ってくれたものが平面的だったので、それに対して僕はモノを立体的に全部作っていきます。





蓋を開けて、さらに開けた時の動きみたいなものも表現する。

広告写真なので、ディオールのロゴ自体をぶらすのはNGで、商品はきちんとピントを合わせる。

そこは守った上で、写真としての入り口を作るために、構造の作り方を変える、という考え方です。



ステージ上で実演撮影




まず、スタジオで撮る写真は最初に光を入れても、被写体が存在しないと光自体は写りません。光はモノに反射して初めて写ります。

だから「光を当てる」より先に、「どこで反射させるか」「何を反射させるか」を 考えることがブツ撮りの出発点になります。

そして、写真で一番大事なのは被写体です。被写体を選ぶことで写真の本質が出るし、何を撮るかで写真の重さも差が出てきます。

実演もこの前提の上で、反射をコントロールしながら画を作っていきます。





まずは一灯で形を出します。ここで狙うのは「写る状態」を作ることです。

ピントをしっかりと合わせてから、形が出たところで次へ進みます。





次に前面からライトを追加して、商品としての最低限の見栄えを成立させます。

ブツ撮り、広報写真は商品ラベルが肝心なので、今回の場合は特に金の質感がどう出るかを見ながら進めます。





続いて背景はLEDの定常光で色を切り替えます。

商品に対して何色が合うかを探り、明るさも調整します。ストロボと同時に使っても背景だけ色を変えられるので、見え方が一瞬で変わります。





最後に右側面からリードライトを入れて、ボトルの透明感とハイライトを決めます。

キラッとした質感を作り、全体を締めていきます。

アクセントとして、背後にライトバーも入れてみましょう。シャッタースピードを遅くした状態でライトバーを動かしながら、写り方を探っていきます。



カタログで終わらせず「入り口」を作る




綺麗に撮るだけなら、それで終わります。でもそこから先、見る人が想像を始める「入り口」を作る。

反射の設計、揺らぎやスモーク、粘度、切り取り、偶然、ブレやぼけ。

そういう要素を、どこに入れるかを判断しながら、ブツ撮りを豊かにしていきます。

ブツ撮りはある意味デッサンみたいなものなので、そのデッサンを繰り返すことで自分の世界ができてくる。

時間がある限り、光のデッサンとしてのブツ撮りをしっかりやっていくことをおすすめします。

やればやるほど蓄積していくし、そこにいろんなストーリーが入る方向にもできる。

だからこれから他の写真を撮る時にも、きっと参考になると思います。



CP+ 2026