2026年2月26日(木)から3月1日(日)までの4日間、パシフィコ横浜で開催された「CP+2026」。本記事では、そこで行われた玄光社のVIDEO SALONとCommercial Photoがプロデュースしたイベント企画「CREATORS EDGE Spring Edition」の根本飛鳥さんによるセミナーの模様をお届けする。2月26日(木)17:40-18:20にステージAで行われたこのセッションでは、映画・ドラマの現場録音を担う根本さんが「録音」の考え方を整理する。マイクごとの役割分担を整理しながら、実際に手がけた作品の実例を交えて、どの音を狙って何を足すのか、フレームに対してマイクをどう配置していくのかまで踏み込んで紹介。後処理に頼り切らず、現場で素材を増やすための判断軸を提示した。

●撮影/文 奥山貴嗣(ミルフォトワークス)



根本 飛鳥(ねもと あすか)

録音技師。1989年生まれ、埼玉県出身。多摩美術大学在学中から活動を始め、インディーズから商業大作まで幅広く参加。近年の主な参加作品は『余命10年』(2022年/監督:藤井道人)、『最後まで行く』(2023年/監督:藤井道人)、『ちひろさん』(2023年/監督:今泉力哉)、『アンダーカレント』(2023年/監督:今泉力哉)、『パレード』(2024年/監督:藤井道人)、『青春18×2 君へと続く道』(2024年/監督:藤井道人)、『近畿地方のある場所について』(2025年/監督:白石晃士)など。Netflixオリジナルシリーズ『イクサガミ』が11月13日より配信。

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音という見えない壁

今日はCPプラスというイベントに合わせて、音声さん向けというよりは、写真を最初にやっていたけど動画の需要も出てきて、「音のこともやらなきゃいけなくなってきた」みたいな方たちに向けて話します。

音は目に見えなくて理解しづらいし、勉強するのもすごく分かりづらい。ソフトを使えば録った音を視覚化して目で見える形にはできますが、現場で録っている時は目に見えないし、一緒に動いているスタッフにも理解されにくい。

なので、ビデオグラファーさんみたいにカメラにマイクを付けたりしながら、色々なことをやりつつ「自分で音を録らなきゃいけない」方向けに、「こういう考え方で音にアプローチしていけば、作品が少し豊かになるかもしれない」という切り口で話をしたいなと思っています。



「いい音」とは何を指すのか




まず、僕が思ういわゆる「いい音」とは、フレーム内の画に説得力をもたせて、フレームの写ってない外側のイメージを広げる現場の録音です。

なぜかというと、撮影とか照明とか録音を、別々に考えるべきじゃないと思っているからです。全部本質的には同じことをやっていることを最近特に強く考えています。





例えばカメラはカメラ本体があって、センサーがあって、レンズがあって、最終的にデータに変換して収録する。この工程は、録音で言えばマイクがあって、マイクプリアンプがあって、最後はレコーダーに収録するという考え方と全く一緒です。

照明も同じです。キーライトみたいな一番大きい光量のライトは、僕からすればガンマイクみたいなもの。逆からのライトはワイヤレスマイクみたいなもの。抑えのライトは、フレームの情感を撮るために立てているアンビエンス用の広めのマイクに似てる。

だから僕の考えでは、カメラと照明の関係性は全部録音と一緒なんです。





つまり、フレームを切るように考えて、光を当てるようにマイキングをしていく。この考え方で現場録音をしませんか、というのが今日伝えたいことです。



マイクには3つの役割がある




ここからは、僕が現場でどうマイクを組むか。僕は概念的にA/B/Cで分けています。

Aは一番大事で、セリフを録る。セリフが録れていない、はあり得ないです。セリフが綺麗に録れて僕らはスタートライン。ちょっとでも綺麗に録れてなかったらマイナス点。

だからまずセリフを確実に録らなければいけない。一般的にはメインのガンマイクと、役者さんの体に装着するピンマイクを使っています。

Bは空間を表現するマイク。フレーム全体の雰囲気、外側の雰囲気を捉えるために、ステレオマイクや芝居に寄せないガンマイクなどを、カメラの背後に立てて、フレーム全体の質感や雰囲気を持ち上げる。

Cは、フレームの内側の説得力を上げるマイクで、ざっくり言えば後で効果音で足すような音も現場で録っちゃえ、という考え方です。

全部消されて効果音に取り替わることもあるけど、僕は必ず録ります。後で効果音を使う場合でも、選択肢ができると思っています。

録音は距離ごとにマイクを置かないと後で調整ができない。遠いマイクは遠いまま。近いマイクは遠くなりません。

だから空間を表現したかったら、とにかくマイクのレンジを広げないとダメなんです。



実例を使ってマイク配置と意図を説明




ここからは具体例で話します。

今泉力哉さんが監督を務めた映画『アンダーカレント』の冒頭シーンです。

引き画の5秒ぐらいしか使われなかったカットですが、僕は「最終的にそのカットがどれぐらい使われるか」みたいなことをあまり考えていなくて、このワンカットのフレームに対してどうやってマイクを出すかを考えます。

この引き画に対して、まず上からメインのガンマイク、僕はこの時ショップスというブランドのCMC641をメインマイクで使っていました。

CMC641を助手がブームにつけてフレームの上にセットしています。

Bは、カメラの背後からアンビエンス用としてオーディオテクニカのステレオマイク。

全体の空気感、ベース音を保つためのマイクです。





ちなみに僕は生きとし生けるものすべてにワイヤレスマイクを付けます。

このシーンではポスターを剥がす動きがあったので、紙の質感がしっかり撮れたらかっこいい。フレームの中で一番近いマイクはどれだって考えたら、ワイヤレスなんです。

セリフがなくても演者にマイクを付けておけば、紙を剥がす音が至近距離で録れる。

演者に付けるワイヤレスマイクは、セリフを録るものと考えてる人が多いですが、僕は物音を録るマイク、集音器だと思ってます。

さらに、自販機の横から小さなマイクで、ポスター近くの音を録って雰囲気を狙う。

加えて、下駄箱には奥から出てくる雰囲気を上げるためにもう一本。出てきた角にもさらに一本。

実はまだあります。本番前に葉っぱが風に揺れてるなと思ったので、木の近くにマイクを一本立てています。





合計6本7チャンネル。5秒しか使われないカットのためにこれだけのマイクを立てました。

こちらの映像は、根本さんのXの投稿からご確認できます

提言:プラス1本でレンジを広げる




僕はいつも、素材を使うか使わないかを現場で判断しなくていいと思っています。

撮影を止めない限り、そのフレームに対して考えられる限りのマイキングをして、映像が豊かになるように音を撮る。それが僕の仕事に対する思いです。

それと、僕は現場で映像を見るモニターは、24インチぐらいの大きいサイズにしています。小さいモニターだとフレームのイメージが掴みにくいし、マルチカメラだと画面が分割されてさらに見えづらくなってしまうので。大きいモニターだとピンマイクとかガンマイクが見えてしまった時にもすぐ分かるし、後処理で消す作業も減る。

最近は32ビットフロートの収録方式が出てきて、現場でゲイン調整をしなくても後で調整可能と説明されることがあります。

でも僕はちょっと違う考えを持っていて、マイクは距離をちゃんと考えて置かないと、遠いマイクは遠いまま、近いマイクは近いままです。





表現をしたかったら距離ごとにマイクを置かないといけない。だから、今のシステムからプラス1本マイクを足す意識を持ちませんか、っていうのが僕の提言です。だからここにいるみなさんには、CP+ということで、「Cost Perfomance+1 MIC」という意識を持って帰っていただけたらと思います。





僕が現場で一番大事だと思っているのは、音量のダイナミックレンジじゃなくて、マイキングレンジです。手前の音から奥の音に行きたいなら、手前と奥にマイクがないと表現できない。



複数のマイクを使ってマイキングの幅を作る




そうなると、「高いマイクをいっぱい買わないといけないのか」と心配になるかもしれませんが、例えば15万円の予算があるなら、仕事次第では高いマイク1本でもいい。

ですが、映画などの演出に凝った映像を作るなら、予算15万円で5万円のマイク3本買いませんかって提案します。

ワイヤレスマイクについても触れておくと、今の時代、特に映画やドラマみたいな演出のある映像で声を録る場合、ワイヤレスマイクを必ず使います。

テレビドラマや、僕が携わっているNETFLIX配信作品におけるセリフの品質を支えているのは確実にワイヤレスマイクです。

だからお手軽なものでもいいので、ワイヤレスマイクはひとつ持っておいた方がいいですね。インタビューも、ガンマイク一本にワイヤレスをひとつ足すだけで声も出るし、届きやすくなります。





もっとこの目に見えない音というものが皆さんに伝わって、映像業界全体で音のリテラシーや、映像に対する音の理解が向上していったら良いですね。



CP+ 2026