なぜ“プロデューサー”という仕事は説明しにくいのか?
プロデューサーの業種によって目指すべきゴールとその数が違う
作品づくりが主なゴールになることが多い映画、番組、音楽、ゲーム、MVのプロデューサー。一方で広告系プロデューサーは、作品づくりとは別のゴールが存在する、と前田さんは指摘。ワクワクしながら制作物を作った先に、クライアントが求めているゴールがある、というのが理想。もし、制作物としてのゴールがクライアントのゴールとズレている場合、プロデューサーが板挟みになってしまう。

広告系プロデューサーはゴールがふたつあることで2倍楽しい
そもそもプロデューサーの仕事って説明しにくいんですよね。僕自身もたまに思いますし、周りから「ディレクターとプロデューサーの違いは何ですか?」と聞かれることもよくあります。
自分なりの整理の仕方を説明すると、まず業種による違いがあると思います。ひと口に映像関連のプロデューサーと言っても映画、TV番組、MV、CM…と、業種の違うさまざまなプロデューサーがいて、これを混同するとプロデューサーの仕事が分かりにくくなります。もう少しひも解くと、業種ごとに“作品づくり”をどう捉えるかがポイントです。例えば、映画や番組のプロデューサーは基本的に作品づくりが真ん中にあって、スタッフ一同みんなが団結して作品の完成を目指します。一方で、CMやWEB動画など広告系プロデューサーの場合、事情が少し違います。現場の人たちの主目的は作品づくりだったりもするんですけど、クライアントにとって制作物はあくまで媒体のようなもので、商品やサービスの売上や認知の向上こそが目的になります。つまり、映像関連の中でも広告系のプロデューサーにはゴールがふたつあるということです。
広告系プロデューサーはルールの異なるふたつのゲームで試合をしているようなものです。この前提をおさえておかないと、プロデューサーが何をしているのか分からない人に見えてしまうのも当然でしょう。ちなみに、「広告系のプロデューサーはゴールがふたつあることで2倍楽しい」というのが僕の持論です。制作物としてのゴールと、クライアントが思い描くゴール、それぞれの構造を理解して、どうつなぐのかを考えることに面白さがあると思います。
前田さんのプロデューサー発想─プロデューサーは何を考えているのか?
プロデューサー特有の能力“逆算クリエイティブ”とは?
進行しながら最適化する「逆算クリエイティブ」
1:完成前に無数の完パケをイメージ
2:完成イメージを察知して時間とお金を計算
3:時間とお金が成立する最適解を調整
4:「だったらこうしません!?」という軌道修正
プロデューサーはオリエンを受けながら企画を複数考えて、それぞれの企画に合わせて撮影のパターンを複数想定、さらに各撮影パターンから複数の編集手法を考えて…と、完成形を無限にイメージ。そこから時間とお金を計算して、成立するための最適解を導く、あるいはゴールからブレないように軌道修正するのが大きな役割。

ムダが嫌いなプロデューサーにとってはオリエンが9割?
不正解をなるべく減らしてクリエイティブの精度を上げる
プロジェクトを進めているときに、プロデューサーは何を考えているのか。ここでは、僕が意識している「逆算クリエイティブ」「オリエンが9割」「実現力について」「視点と役割の違い」の4つを紹介したいと思います。
逆算クリエイティブは、アウトプットから逆算しながら物事を考えるということです。プロデューサーは常に無数の完パケをイメージしていて、たぶんこれになるなという完成イメージを察知したら、頭の中で時間とお金も計算します。この企画が動き出しても大丈夫なのか、その判断はプロデューサーにしかできない部分ですから。
だからこそ窓口になるプロデューサーは、「オリエンが9割」と言えるほどスタートの情報整理が重要です。その先のクリエイティブに全集中するためにも、しっかりとヒアリングを重ねないといけません。オリエンは「ホントにそうなのかな」「こういう認識で合ってますか?」という疑問をつぶしていく深掘り期間。正解を定めてクリエイティブの自由度を減らすのではなく、不正解を減らしてクリエイティブの精度を上げるために、なるべく時間をかけたいですね。

プロデューサーの土台になる実現力は3つのバランスが重要
スケジュール力、クリエイティブ力、見積・予算力
前田さんがプロジェクトを実現するために必須な力として挙げるのが、「クリエイティブ力」「スケジュール力」「見積・予算力」。この3つの力は、制作時代に豊富な経験を積むことによって自然と身について精度が高まっていくと言い、プロデューサーの土台になるそうだ。

プロデューサーの視点と役割の違い
ブランディングプロデューサー
制作物の前に、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)、FBI(ファクト・ベネフィット・イメージ)を用いて整理し、ブランドの構築から関わる。
クリエイティブプロデューサー
オリエンから企画、制作まで全般を担当。クリエイティブディレクター、アートディレクター、クライアントの相談役。企画と表現の広範囲の知見を必要とする。
制作プロデューサー
制作物、スケジュール管理、予算管理の最適化。プロデューサーとしての基本業務。

自分に何が求められているのか役割の違いを明確にする
次は実現力について。企画を理解して優先順位を決める「クリエイティブ力」、先々まで読んで時間配分をする「スケジュール力」、最適な予算配分をしてときには交渉する「見積・予算力」、この3つのバランスがプロデューサーの実現力になってくると考えています。
企画のアイデアが面白くても納期や予算が足らない、では成立しません。また、面白さ100点の企画を無理やり通しても仕上がりが50点になる可能性があるのであれば、面白さは少し減っても確実に80点は取れる企画のほうがいい。制作途中で誰かに迷惑をかけたり、過度な負担をさせないためにも実現力は必須です。
視点と役割の違いにも目を向けてほしいと思います。「代理店やクライアントは分かっていない」という声を現場で聞いたことがあるかもしれません。ただ、それは違うゲームをしているだけであると認識する必要があります。
ゲームが違うというのはプロデューサーにも同じことが言えます。制作プロデューサーは撮影〜編集〜完成のスケジュールや予算を管理して最適化することが基本業務です。クリエイティブプロデューサーの場合はもう少し広い範囲で企画と制作物を見ないといけません。ブランディングプロデューサーはより上流からプロジェクトに関わってきます。
自分の役割はどのプロデューサーなのか、その場でどの視点が求められているのか。ここを明確していくことで、プロデューサーとしてのやりがいも質も高くなっていくと考えています。
実例紹介─全過程に納得しながら積み上げた「クリンスイ」CM
過程1:初年度は改めて自己紹介とベネフィットを伝える(2022年)

クリンスイの自己紹介をする新聞広告
「もう一度、水道水を飲もう。」というコピーで展開したクリンスイの自己紹介&メッセージの広告。アートディレクション/グラフィックデザインは、前田さんが尊敬する佐藤 卓さんが手がけた。

3つのベネフィットを伝えるWEB動画
ペットボトルのミネラルウォーターと比較して浄水器のメリットを伝えたWEB動画。「ミネラルが豊富」「安心・安全」「環境の良い」を軸にした3パターンを制作した。

お題から生まれた疑問と実際に手がけた制作物
僕がここまで話してきたような発想のきっかけになったのが、家庭用浄水器のブランド、三菱ケミカル・クリンスイの仕事です。2022年に友人のブランディングディレクターから声をかけてもらって、制作プロデューサーとして参加することになりました。浄水器のカートリッジを交換してもらうことが売上につながるので、お題は「カートリッジ交換を促すWEB動画」だったんです。
ヒアリングをしていくなかで一番最初に頭に浮かんだのは「ホントかな…」でした。もちろんカートリッジの交換率を上げることができればベストなんでしょうけど、そもそもみんな浄水器のことを詳しく知らないんじゃないか、と。なので、まずは浄水器を導入することのメリットを伝えるような新聞広告とWEB動画を作ることを提案したんです。
翌年はもう少しクリエイティブプロデューサー的なポジションから始まって、CMなど何か広告の手法で認知度・売上を伸ばしたいというお題をもらいました。ただ、ここでも「ホントかな…」があって、TV CMによるプロモーション強化は果たして費用対効果があるのか疑問だったんです。結果的には関西エリアで1カ月CMをオンエアして、効果を測定しようという形になりました。
マス広告の効果をしっかり実感することができたので、翌年は全国CMに着手します。それが水川あさみさんを“水博士”として起用したシリーズです。
過程2:CMのプロモーション効果測定、メディアプランを構築(2023年)

広告の効果を実証するために関西エリアのみで放送されたTV CM
いきなり全国放送のCMを打つのはリスクが高いため、この年は関西エリアでCMを1カ月オンエア。検索数を上げるというKPIを設定し、効果測定を目的にしたため、クリエイティブでは奇をてらわないシンプルで上質な内容にすることを意識した。CM放送後は実際に検索数が上がり、営業支援にもなったという。


過程3:クリンスイに関わる全部署にヒアリングして制作した全国CM(2024年)

クリンスイの新しいキャッチコピー開発
ヒアリング
直結型の浄水器以外にもポット、アンダーシンク型、ウォーターサーバーなど別の部署の要望を丁寧に聞く。

共通する“強み”を見つける
基本的に全商品に入っている“活性炭”と“中空糸膜”のダブルフィルターこそがクリンスイの強み。

方向性を決定
活性炭と中空糸膜による「ふたつのCleanでダブル洗浄」を押し出す。

完成したキャッチコピー
「Cleanと、Cleanで、クリンスイ。」
全国CMを打つ場合、より多くの部署が関わることになる。何をメッセージにするのかがキモとなったが、最終的にクリンスイ全体を表現する上記のコピーが承認された。
水川あさみさんを“水博士”として起用したTV CM
決定したコピーをもとに活性炭と中空糸膜のダブル浄水を打ち出しつつ、CMでは3つのベネフィットのうち消費者の関心が高い「ミネラルが豊富」を採用。「安心・安全」「環境の良い」はサイトで紹介することになった。




過程4:前年のプロモーションを踏襲しながらさらに多くのメディアで展開(2025年)
クリンスイ2025年版のCM(3種)
今回のCMは、より内容を深めた「PFAS篇」「隠れている篇」「純正品篇」の3パターンを制作。それを他のメディアでも横断的に展開していった。



バナーとチラシ


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議論やヒアリングを重ねて確信を持ってから制作を始める
全国TV CMのように広告にかける金額が上がっていくと、関わる部署が増えていきますし、決裁の承認が下りづらくなるのが常なんです。なので全部署への丁寧なヒアリングが欠かせませんでした。そのうえで2024年にスタートした“水博士”のシリーズは高評を受けて2025年も継続することになり、SNSの縦型動画、バナーやチラシなどより多くのメディアでの展開になりました。
僕がプロデューサーとして大切にしていたのは、毎回のお題に対して「ホントかな…」と疑問を持つことですね。オリエンでの議論やヒアリングにはいつも3カ月以上かかりましたが、「これなら理にかなっていますよね」という確信を持てるところまで理解を深めてから実際の制作をスタートさせたことで、良い結果につながったんだと思います。
どのように楽しい仕事を広げるか?─前田さんが制作時代にしていたこと
友人のアートディレクターと“押し売り”自主プレゼン&作品撮り
実現するための仕組みを知っているのがプロデューサー
僕の仕事の割合は、統計するとCMが約22%、WEB動画やプロモーション動画が約23%、MVが約19%、グラフィック制作が約23%、その他がブランディングなど。それぞれの仕事のきっかけ・入口は監督からの約25%が一番多くて、クライアント、アートディレクター、クリエイティブディレクター…と続きます。振り返ってみると大手代理店から直接仕事が入ってきたことはゼロでした。
僕はそもそも独立してから経営戦略、事業計画、売上予測などは立てたことがないんです。というか、立て方を知らないから考えないことにしました(笑)。毎年、手がけた案件を振り返りますが、全体の半分はレギュラー仕事で、それ以外の半分はまったく予想していないところからの仕事だったりします。つまり、商流よりも目の前の課題解決を優先するしかないんですよね。
…と言うと再現性がないんですけど、VIDEO SALON読者の方に参考になるかもしれないのは、僕の制作時代の動きです。友人のアートディレクターとポスターの作品撮りをして、自主プレゼンするということをよくやっていました。作品撮りなので、当然ギャラは出ませんよ。面白そうだったから、というピュアな動機です。ちなみにアートディレクターは『魁!! 男塾』の大ファンなんですけど、『魁!!男塾』が映画化されるときに勝手にポスターを作って、「お金はいらないから使ってくれ(笑)」と押し売りの営業をしたこともありましたね。
大阪の制作時代に言われた言葉がいまも印象に残っているんです。それが「企画は実現せな、クソの蓋にもならへんぞ!」です(笑)。企画はめちゃくちゃ大事、でも実現しないと意味がありません。面白いアイデアがあってやりたいと思っても「お金がなくて…」という考えになると、その企画は進まないことが多いです。その企画の納期が決まっていないものも完成しないことがほとんどです。
プロデューサーとして大切なのは、アイデア・企画はお金と時間をセットにして考えることですね。いろんなことを勘案して実現につなげていくことが、プロデューサーの仕事の基本だと思います。プロデューサーは実現するための“仕組み”を知っています。この仕組みを知っていればピザであってもプロデュースできるわけですから、僕は可能性を秘めた職業だと感じています。


上画像はサロン・HAIR DIMENSIONの広告として制作時代の前田さんたちが勝手に作ったもの。美術スタッフに依頼して毛髪を格子状に編んでもらい、それをビジュアルにした。下画像はANTE VOJNOVICの電球を使ったポスター。『ARCHIVE』というドイツの広告雑誌に投稿し、実際に掲載されたこともあるそうだ。このほかにも知り合いのアニメ制作会社・神風動画の作品が出るたびに自主ポスターを作り、経験を積んでいたという。