取材・文/編集部 一柳

重田 瞬さん
https://www.youtube.com/@shunshigeta


ストーリー性を入れることを考える

山口県柳井市で生まれ育った重田 瞬さんは福岡には憧れがあった。山口市の大学在学中に旅行が好きになってVlogを始め、福岡の企業に就職してからは副業として週末ビデオグラファーとして活動していたが、数年前に映像制作専業になり、福岡を中心にビデオグラファーとして活動している。

「副業でやっていた時は、当時流行していたInstagramリールなどのいわゆるショート動画です。いろいろやっていくうちに、個人ではなくて企業やショップなどの思いを汲んで、その価値を届けられるプロモーション映像を作ることに個人的にやりがいを感じるようになりました。やっていて楽しかったんです。独立してからはプロモーション映像が中心になっています」

重田さんの場合、単に依頼されて撮影と編集を担当するだけでなく、どういう映像を作ったら価値を伝えられるかという企画の部分から関わることが多いそうだ。

「企画から関わると、自分の中にいろいろな選択肢や引き出しがないと、映像クリエイターとして埋もれていってしまいます。自分の場合は、どんな動画でも、いわゆるストーリーテリングを重視して、動画の中に緩急というかストーリー性を入れることを考えます。ただ単にきれいな映像や決まりきったインタビューとBロールのインサートというパターンでは、他のプロモーション映像に埋もれて誰が作ったか分からないものになってしまいます。そのあたりを一番意識しています」

Oro-Gio『想いを受け継ぐその日まで』
 
 
 
 
 
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福岡の腕統計ショップの縦型プロモーション映像。「子どもが生まれたときに機械時計を買い、将来子どもに渡したい」という人生のエピソードを60秒ループ映像にした。人物ではなく「時計の視点」で人生を描いていく演出も。


ブリコラージュ手法のドキュメンタリー

たとえば加熱寿司のプロモーション映像では、店側の思いを直接伝えるのではなく、利用した妊娠中の夫婦が会話をする映像で構成されている。妊娠中は生ものが食べられないが、そんな人でも安心して食べられるのが加熱寿司。妊娠期間という夫婦にとって特別で繊細な時間をテーマに会話をしてもらい、手紙というプチサプライズを入れることで、リアルな感情を引き出している。

加熱寿司『新しい命が教えてくれた、夫婦のかたち。共に歩む、家族の物語』

妊娠期間という夫婦にとって特別で繊細な時間をテーマに、「言葉にしきれなかった感謝」や「当たり前になっている我慢」を、映像と会話を通して可視化していき、サプライズを入れることで感情の流れを作るドキュメンタリー形式の作品。商品紹介ではなく、感情の物語として加熱寿司が登場する構成。

「ドキュメンタリーが好きで、撮影前からすべてを決め切るのではなく、現場で生まれる言葉や沈黙、表情の揺れを素材として拾い上げ、編集で意味を編み直していくブリコラージュ制作法を採用しました。夫婦の関係性そのものが映像の骨格になり、 “商品”ではなく“体験”として価値が伝わります」

地域で短編映画を作る

最近取り組んだのが企業プロモーションとしての短編映画制作だ。小豆島にある車の販売会社から依頼を受けた。地域にとっては車がなければ生活がなりたたない。まさにインフラを支えているのがカーショップ。それを店長やユーザーのインタビューによる直接的な表現ではなく、娘が初めて自分の車を父と一緒に買いに行く一日を描いた物語として表現したほうが、価値が伝わるのではないかと考えた。

「そのカーショップが地域で担っている役割を、映画のなかで言葉で説明するのではなく、場面のなかで自然に滲み出るように設計しました」

地域の一企業のプロモーションで短編映画というとコスト的に見合わないのではと思ってしまうが、重田さんは「ワンオペでもクオリティの高い映像が撮れる機材が揃った今、ロケ撮影の自由度も高い地方は充分可能性があります。縦型ショートの消費される映像ではなく、横型であれば関係性を描けます。完成後にその地域で上映会を開催するという選択肢もあり、SNSで作りにくい体験を生み出せます」

プロモーションでありながらも作品性が高い短編映画がどんどん生み出されていく時代になると面白い。

短編映画『きみの車』の現場。カメラはソニーBURANOを使用。ふだんはFX3を使っているが、「映画」であれば16bit X-OCNを活かす価値があると考えた。AFや電子可変ND、ボタン配置はワンオペも考慮されている。
短編映画『きみの車』

小豆島にあるカーショップ、セブンティーオートからプロモーション映像を依頼されて制作した短編映画。セブンティーオートが地域で担っている役割を、車を買いに行く娘と父の関係を描くことで物語として表現することで記憶に残すことを目指した。


VIDEO SALON 2026年3月号より転載