TBS系金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』(2026年4月期)――岡田将生と染谷将太がダブル主演を務めるこのクライムサスペンスの映像を支えているのが、DZOFILMのアナモルフィックプライムレンズ「PAVO 2x Anamorphic」だ。メインのPAVOに加え、合成シーンではスフェリカルプライム「ARLES PRIME(アルルプライム)」、マクロ撮影では「X-TRACT(エクストラクト)」と、DZOFILMのレンズ群がドラマ全編を通じて活躍している。撮影監督を務めるのは、映画『ある男』『すばらしき世界』『ゴールド・ボーイ』など数々の劇場作品に照明技師として参加してきた宗賢次郎さん。連続ドラマで初めて「撮影監督」として画全体を統括するスタイルに挑んだ宗さんに、DZOFILMのレンズを選んだ理由と、照明と撮影を横断する画作りのプロセスを聞いた。
取材・文●編集部 萩原
TBS系金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』
出演: 岡田将生 染谷将太 中条あやみ 宮近海斗(Travis Japan)
和田正人 飯尾和樹(ずん) 長江英和 / 山中崇、仙道敦子 / 井川遥、 岸谷五朗 ほか
脚本: 渡辺 啓 演出: 山本剛義、坂上卓哉、川口 結 撮影監督: 宗賢次郎 プロデュース: 新井順子 製作: TBSスパークル/TBS
Netflixのワークショップが転機になった
――まずは宗さんが照明技師として長年キャリアを積まれてきた中で、撮影監督として画全体を統括するスタイルに移行されたきっかけを教えてください。
宗 Netflixのワークショップがきっかけでした。当時、デヴィッド・フィンチャーのカメラマンであるエリック・メッサーシュミットが来日して、40代・50代くらいのカメラマンと照明技師を集めて行うものでした。僕がその窓口というか、エリックと打ち合わせをする役割だったんですが、彼が忙しすぎてメールを送っても返ってこないし、オンラインで1回打ち合わせしただけの状態で始まったんです。それで「僕の考えでライティングするから、何かあったら言ってください」とエリックに伝えたら、終わった後に「なんでDPをやらないの? あなたDPやれるんじゃないか。ライティングに関して言うことが何もなかった。やりたいこと全部できていた」と言われたんですよ。
――それは大きな一言ですね。
宗 エリック自身もガファー(照明技師)出身なんです。『ゴーン・ガール』で照明をやっていて、その後『マインドハンター』でフィンチャーのカメラマンになった。そのエピソードもワークショップの中で聞いて、僕もできるんじゃないかと思っていたところに、『#拡散』(2026年2月公開)という映画の企画を聞いたんです。ただ予算が少なくて「照明は呼べないかも」という話になった。それでプロデューサーに「逆だよ。カメラマンを外して俺を呼べば両方できる」と言ったんです。監督もプロデューサーもその話に乗ってくれて、企画段階から携わることができた。それが一番のきっかけですね。
照明技師と撮影監督、何が変わるのか
――照明技師としての仕事と撮影監督では、現場での関わり方はどう変わるのでしょうか?
宗 準備段階の携わり方は本当に何も変わらないんです。台本を読んで、自分が思った照明プランを監督やプロデューサーにプレゼンをしていくというのは同じ。ただ、ロケハンの時に「こっち向きの光が好きだ」とか「この場所だったら3時から5時の太陽が傾いた時間に撮りたい」といった提案ができる。発言力というか発言権が出てくるんですよね。照明技師の場合ももちろん言ってはいるんですけど、通らない時が多い。「引きはこっちから撮りますよ」と決まっているけど、「光はこっちからのほうがいいのにな」ということがある。今回はそれを自分で決められるという利点がありました。
――過去に照明技師として組まれた監督たちとの経験は、撮影監督としてのアプローチにどう活きていますか。
宗 石川 慶監督の作品『遠い山なみの光』(2025年公開)では、ポーランド人の撮影監督ピョートル・ニエミイスキと一緒にやってきました。彼は海外スタイルでライティングまでする人なんですが、日本のスタイルに合わせてくれて、僕が作った光の世界を彼が撮るという関係でした。彼にも「撮影監督やってみたいんだよね」と相談したら「もうできるよ。海外だとライティングする人が現場を仕切るのが一番いい」と背中を押してくれた。石川さんにも西川美和監督にも話したところ応援してくれて。『田鎖ブラザーズ』の撮影の時もおふたりが現場に来てくださって、保護者のように見守ってくれていました(笑)
山本剛義監督との再会と、TBSへの挑戦
――どのような経緯で今回の『田鎖ブラザーズ』に撮影監督としての参加が決まったのでしょうか? 演出の山本剛義さんとはどんなやり取りをされていましたか?
宗 山本監督も僕も高校時代は野球部出身だったという共通点があって、定期的にゴルフに一緒に行っていたんです。その席で仕事の話をしていて、僕が「映画で撮影監督をやることになった」と話したら、「撮影監督ならTBSのドラマもやってくれますか」と言ってくれた。山本さんもテレビドラマと映画の映像トーンの違いは照明だと感じていて、「カメラは最近シネマカメラでドラマを撮っているのに、やっぱり映像のトーンに差がある。照明が変わったらテレビドラマのトーンが変わるんじゃないか」とおっしゃっていたんです。
――それで撮影監督としてなら、と。
宗 はい。「映画っぽい、ドラマっぽいは僕にはちょっとわからないけど、今までの僕のトーンは作れると思います」と話しました。TBSドラマ的にはかなりチャレンジだったと思いますよ。まだ『#拡散』も公開する前で、僕が撮った映像を誰も見ていない状態でしたから。それにジャッジしてくれた新井順子プロデューサーと山本さんの、大きな賭けだったんじゃないかなと思います。
時間軸を光で描き分ける

――クライムサスペンスとしての『田鎖ブラザーズ』の映像トーン(ルック)は、どのように設計されていったのですか?
宗 連続ドラマは映画と違って、最初の段階では途中までしか台本がないんですよね。1話から10話まで全部あるわけじゃない。映画だったら2時間分のペース配分を考えて、トーンがこう変わっていって、最後こういう明かりに持っていきたいとイメージできるんですけど、ドラマではそれが最初からはできなかった。
ただ、『田鎖ブラザーズ』は子供時代のシーンも多い作品です。昨今どの作品でも問題になりますが、子役の撮影時間は夜8時までで、夜のシーンが撮りにくい。そこで、映画『遠い山なみの光』で経験した「デイ・フォー・ナイト(昼間に撮影して夜のシーンに見せる手法)」をドラマでもやろうと提案しました。ドラマであまり見たことのない、ちょっと違和感のある夜のような青く暗いトーンです。山本さんも新井さんもその提案に乗ってくれて、見たことがないはずなのに信頼して委ねてくれた。映像に関してはかなり思い切ったことができましたね。
――過去・現代・幼少期と、時間軸ごとにルックを変えているとのことですが。
宗 DITの山口武志さんと相談して、現代はイエローグリーン強め、過去はブルーのトーン。さらにもうひとつ出てくる過去のパートは少しだけ色が抜けた感じにしてほしいと提案したところ、山口さんがLUTを何パターンも作ってくれて、その中からチョイスしていきました。
テレビドラマ初のアナモフィックレンズ

――今回使用したカメラとレンズについて教えてください。
宗 最近のカメラはどれも本当に優秀で、ソニーVENICE 2でもRED V-RAPTORでもARRI ALEXAでも、同じレンズで並べて撮ったら見比べないとわからない。僕の中ではカメラはどれも優秀なんです。だから今回はレンズに比重を置きました。TBSにあるVENICE 2を使う代わりに、レンズだけは自分で選ばせてほしいと提案したんです。
――そこでアナモフィックレンズを選ばれた。
宗 前の作品もアナモフィックレンズで撮っていて、僕はアナモが好きなんです。テレビドラマで誰もチャレンジしていないわけですから、何かしらのデメリットがあるからみんな使っていないのかなと思って、いろいろ考えました。でも実際にカメラテストをしてみて、デメリットよりメリットのほうが大きいと判断しました。ひとつの理由として正直に言うと、誰もやっていないからです。TBSで誰も使ったことがないレンズで撮る、その挑戦自体にメリットがあると思った。いつもと違うTBSドラマの撮影を求められて僕は呼ばれていると思っていたので、それに応えるにはカメラよりもレンズにこだわりたかったんです。TBSにあるカメラを使う代わりに、好きなレンズを使わせてくれと。
アナモフィックの持ち味はシネスコサイズで最大限生かされるんですが、テレビドラマは16:9なのでサイドをカットしてしまう。それで山本監督と話したら、「せっかくアナモを使うなら本当はシネスコサイズでやりたいんですよね」と言ったところ、「テレビドラマでもシネスコ使えますよ。全編は厳しいかもしれないけど、例えば過去のシーンは全部シネスコでやったらどうだろう」とおっしゃってくれました。それで過去のシーンはシネスコ・24コマ、現代は16:9・30コマで撮影することにしました。
――具体的にどのレンズを選ばれたのでしょうか?
宗 友人の撮影監督である近藤龍人さんたちに「アナモフィックレンズってちょっと高いですよね」と相談していたら、「今はDZOFILMのPAVO(パヴォ)というのがあって、値段も手頃でクオリティも担保できるよ」と教えてもらったんです。PAVOは2倍スクイーズのアナモフィックプライムレンズで、28mmから180mmまでのラインナップがある。直接販売代理店のHORIZONに連絡して一度見せてもらったら、初見ですぐ気に入りました。高価なアナモフィックレンズと比べても遜色ない。TBSに「買ってください」と言ったくらいです。

――PAVOのどんなところが気に入ったのでしょうか?
宗 いい意味で癖が強いんですよ。最近はキレのいいレンズが多いと思うんですけど、PAVOはそういうキレッキレの描写ではなくて、オールドレンズのような味わいがあるんです。柔らかいというか、ボケ感がとにかくいい。毎回撮っていてその「味」が出てくるんです。癖がないレンズとはちょっと違う感覚があって、その癖が作品のトーンと合っていた。
特にクライムサスペンスのような剛性のある作品だと、CGの合成でアナモフィックの歪みがきつくて嫌がられることもあるんですが、PAVOはそのあたりも扱いやすかった。癖が強いのに使いやすいという、ちょっと不思議なレンズですね。
アナモフィックの“サイドをカットしても意味がある”

――16:9にカットするのにアナモルフィックを使う意味はあるのか、という疑問もあったかと思います。
宗 本当にいろんな人に「サイドをカットするのにアナモを使うんですか?」と言われました。みんな、サイドをカットすることで一番歪んでいる味のあるところがなくなるんじゃないかと。確かにアナモルフィックで一番わかりやすいのは画面の両端ですよね。天井がちょっと歪んでいたり、まっすぐなものがまっすぐじゃなかったり。それを気持ち悪いと思う人と味だと思う人に分かれると思うんですけど、僕は今回その一番わかりやすい部分をカットして使っている。それをデメリットと思う人もいますが、僕はメリットだと思っています。
なぜかというと、クローズアップを撮ってもアナモ感は出ているんですよ。これは本当に見比べないとわからないかもしれないけど、僕の感覚では、表情に立体感があるというか、スフェリカルレンズとはちょっと違う。寄りを撮っている時に、奥の光源のボケが楕円形になるとか、コントラストがちょっとつく感じがあったり。それはライティングの効果もあるんですけど、毎回、寄りでも引きでも「アナモにしてよかったな」と思いながら撮っていました。周りの人は「寄りを撮っているのにアナモで良かったなって、この人何言ってるんだろう」と思っていたかもしれませんけど(笑)、本当にそう感じていたんです。
――フォーカスの送り方にも違いがあると。
宗 シャープなレンズだとフォーカスを送った時にパキッと移る感じがあるんですが、PAVOだとじわっと送られるんですよね。フォーカスマンの腕もあるかもしれないけど、そのフォーカス送りの幅というか、じわっとした感覚がすごくいい。
あと背景のボケ方もPAVOの好きなところです。今は開放で撮って後ろをボカす画が多いと思うんですけど、ボケすぎるのも嫌なんですよね。PAVOは開放T2.1なんですが、ボケすぎず、ちょっとボカしたい。PAVOのボケ感はまさにそこにフィットしていた。言っていることが矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、要は「いいボケ味」と「いい歪み」があるレンズが好きで、それがPAVOだったんです。
DZOFILM PAVO――40mm基準の画作り
――今回のPAVOでは、具体的にどの焦点距離をよく使われましたか?
宗 僕はいつも40mmを基準に考えているんです。まず40mmで構えてみて、「もうちょい広く」「もうちょい詰めて」と判断していく。40mmの画が自分の見た目に一番近いと感じていて、『田鎖ブラザーズ』でもまず40mmを持ってきてと言うことが多かった。
寄りはもう75mm。だからこの40mmと75mmの2本には本当にお世話になりました。PAVOはシリーズを通じてフロント径95mmで統一されていて、重さも1.2〜1.6kgと軽量。ドラマの長丁場の現場では、この取り回しの良さも助かりましたね。
それから65mmマクロも結構使いました。PAVOの65mmマクロは最短撮影距離が0.366mと短くて、アナモルフィックの質感を保ったまま被写体にぐっと寄れるんです。ドラマの中で証拠品や書類のクローズアップを撮るシーンが多かったので、毎回のように出動していました。通常のアナモルフィックレンズだと寄りに弱いのが悩みどころですが、PAVOの65mmマクロはそこを解決してくれた。T2.8と少し暗くなりますが、寄りのカットだから問題にはならなかったですね。
――PAVOの開放値T2.1というのは、アナモフィックとしてはかなり明るいですよね。
宗 そうなんです、開放値がT2.1というのもすごくいい。アナモルフィックでT2.1は明るいですから。僕は現場で陰影をしっかり作るスタイルなので、レンズが明るいというのはライティングの自由度に直結するんです。
DZOFILM ARLES――合成シーンのクオリティを上げるために

――合成のシーンではレンズを変えたとお聞きしました。
宗 車の走行シーンは合成で撮っているんですが、前の作品でCGチームがアナモフィックをすごく嫌がったんですよね。工程がひとつ増えると言われて。テレビドラマの車の走行シーンで合成がうまくいっていないものを結構見てきたので、とにかく合成のクオリティを上げたかった。それで合成シーンだけはアナモをやめて、DZOFILMのARLES PRIMEで撮りました。
――ARLES PRIMEを選んだ理由は?
宗 ARLES PRIMEはアナモフィックではないスフェリカルのプライムレンズですが、やっぱりキレッキレではなくて、PAVOと通じる味がある。フルフレーム対応でT1.4と明るく、16枚絞り羽根のボケもきれいなんですよ。実は映画でもARLES PRIMEを使っていて、その時は予算の問題ではなく、もっと高いレンズも選べたんですが、ARLES PRIMEがいいなと思って選んでいるんです。mm数のラインナップも25mmから100mmまで細かくあって、作品によって使い分けやすい。
予告映像と車の合成シーンはARLES PRIMEで撮っていて、1話に出てくる車窓のシーンも外の素材はARLES PRIMEです。アナモフィックの画角ではない16:9のシーンなので、わざわざアナモで撮る必要がない。そこは合理的に判断しました。アナモフィックのシーンとの切り替わりでも、映像のトーンが大きく崩れることなく繋がったのは、同じDZOFILMのレンズ同士の色味やコントラストの親和性があったからだと思います。
DZOFILM X-TRACT――撮影の引き出しを広げるマクロレンズ

――DZOFILMのX-TRACT(エクストラクト)マクロレンズも使われたとか。
宗 ああいうマクロレンズは本当に使いやすかったです。あれがないと撮れないカットがいっぱいあった。撮影監督として「こういうカットを撮りたい」と提案する時に、引き出しがひとつ増えるんですよね。撮影の引き出しが増えるという感覚で、武器をひとつもらったと思っています。
作品ごとにレンズを選ぶということ
――今後もDZOFILMのレンズを使いたいと思われますか?
宗 また使いたいですね、本当に。もちろん予算を度外視できるならLeicaやCookeも使ってみたいですけど、毎回その作品ごとで選んでいきたいという気持ちは変わらない。アナモフィックが合う作品が来ればまたPAVOを選ぶと思いますし、ARLES PRIMEだなと思う作品が来ればARLES PRIMEを選ぶ。PAVOに関して言うと、僕のライティングのスタイルとの相性がすごく良かったんですよね。開放T2.1の明るさ、柔らかいボケ感、オールドレンズ的な味。それが光で作った陰影をいい具合に受け止めてくれる。レンズとライティングは切り離せないものだと改めて感じた現場でした。いいレンズですよ、本当に。レンズマニアがよだれを垂らすやつです(笑)
カメラテストに岡田将生を呼んだ理由

――岡田将生さん、染谷将太さんをカメラ・照明の観点からどのように撮られていますか?
宗 映画『すばらしき世界』の西川美和監督の現場で、役所広司さんがカメラテストに来られたんですよ。主人公のアパートの実際のセットでテストをやれた。その経験があって、カメラテストには主役に絶対来てほしいと思っていたんです。肌のトーン、スキントーンを見てルックを全部作りたいと。TBSのプロデューサーの方たちは「カメラテストに呼ぶんですか??」とざわついていましたけど(笑)、岡田くんは本当に来てくれて、スキントーンもルックも全部決められました。
――おふたりの撮り分けで意識されたことはあったりしますか?
宗 岡田くんはすごく肌が白いんですよ。だからふたりを並べて撮ると明るさが変わってしまう。岡田くんに合わせると染谷くんのトーンが変わっちゃうので、現場では染谷くんに合わせて撮って、グレーディングで岡田くんのスキントーンを調整する、というやり方にしました。
映画の中ではスキントーンはものすごく気にして撮るものなんですが、テレビドラマでそこまで細かくやるというのは、大きな違いだったのかもしれません。TBSの撮影部の方たちはみんなびっくりしていましたね。
現場で作るトーンが一番大事
――スキントーン以外にも、人物の撮り方で意識していることはありますか。
宗 特に気にしているのは年配の方のスキントーンですね。ほうれい線が一番皆さん気になる部分だと思うんです。テレビだとそこを消したりなじませたりしていると思うんですけど、やりすぎると浮いちゃう。「やってるな」という感じが出てしまう。僕は光を当てて消すのではなく、陰影をつけることでうまく見せるようにしています。つるっとなくすのは良くないと思っていて、いい残り方をするように、あまり後から手を加えないようにする。これは映画もドラマも関係なく、いつも意識していることです。
――ポストプロダクションとの関係はどうお考えですか?
宗 RAWで撮っているので自由度は昔より高くなっていますが、やっぱり現場で作るトーンと現場で作るコントラスト、陰影が基本だと思っています。RAWで撮ることは僕にとってお守りみたいなもの。「現場でここまでやっているから、後でここまではいける」という安心感ですね。昭和というか、アナログ世代なのかもしれませんけど、現場で作ったトーンが一番反映しやすいし、一番大事だと今でも思っています。
DITと二人三脚でグレーディングを仕込む
――DITの山口武史さんとの連携について詳しく教えてください。
宗 山口さんとは映画『遠い山なみの光』で初めて組みました。あの時はポーランドのピョートルと石川監督がデイ・フォー・ナイトをやると決めていて、日本でそれに対応できるDITを探したら山口さんが一番知識があるとなった。当時CMが多い方で映画にべったりついた経験はなかったそうですが、映画が好きで、たぶん予算を度外視してやってくれた。その時に意気投合して「俺がやる時もついてほしい」とお願いしたんです。『田鎖ブラザーズ』でも全話についてもらいました。
山口さんが普通のDITと違うのは、僕が現場で「この壁は後でちょっと落とすよ」とか「このシーンは赤みをちょっと足すよ」と言うと、時間のない中でもざっくりそれをその場で反映して見せてくれて、さらにカラリストへのレポートも全部書いてくれるんです。「宗さんはこの壁をグラデーションで落としてくれと言っていた」「ここの色を変えてと現場で言っていた」と。だからグレーディングに入った時に仕込みが早い。一からやるということがなかったですね。
――グレーディングの工程自体はどのように進められましたか?
宗 今回のカラリストは東映ラボテックの方です。僕がいつも信頼しているコーディネーターの泉 有紀さんという方を通じて、小倉さんという映画も何本もやっているカラリストの方を紹介していただきました。TBSのドラマに東映から出向するのは初めてだったらしいんですが、実現してくれました。Baselight(グレーディングソフト)で作業できるというのが、映画に慣れている僕には合っていたんです。
1話あたりのグレーディングは、僕が入るのは10時に始めて16時には監督を呼んでチェックする。他の人よりだいぶ短いと思います。現場で追い込んでいるのと、山口さんのレポートが効いているからですね。
――撮影は冬だったのに放送は春ということで、季節の処理もあったとか。
宗 去年の10月から1月いっぱいまで撮影していたんですが、オンエアは4月から6月の春。紅葉や枯葉が映り込んでいるので、まず紅葉を全部緑に変えてもらいました。あとは岡田くんのスキントーンの調整と、現場で追い込めなかったところの細かい修正。人物はほとんど触っていなくて、背景がちょっと強いなとか、背景を落とさないと人物に目がいかないなとか、そういう調整がメインでした。
複数の演出家と、一貫したトーンを守る
――連続ドラマでは演出家が各話で変わりますが、映像の統一感はどう保たれたのでしょうか?
宗 最初はすごく心配していたんです。山本さんとはやったことがありましたけど、若い監督がふたりいた。セカンドの坂上卓哉さんはTBS内でやっている方で、外部の撮影監督と組めるチャンスだと立候補してきてくれた人でした。僕のやり方を見たいと言ってくれたので、こちらの提案を受け入れてくれてやりやすかった。サードの川口 結さんもずっと現場についてくれていたので、こちらのやり方に合わせてくれていたと思います。
僕は逆に楽しめましたね。みんな演出のやり方は違うけど、同じドラマなのにトーンに困ったことはなかった。最初に決めた現代・過去・幼少期のトーンは変えずにいくという方針が作品として一貫してやれていたので、監督が変わっても「この監督だから特別にこうした」ということはなかったです。
マルチカメラと照明の両立

――撮影はマルチカメラだったのでしょうか?
宗 はい、2カメで撮っています。普通は照明部がマルチカメラの挟み撮りを嫌がるんですが、そこは僕の得意分野なんです。僕はいつも「カメラは芝居を撮っている。僕らは芝居を当てている」と思っていて、わかりやすく照明するのではなく、芝居が見えるライティングをする。だから「ここを挟んでいきますよ」と自分から提案して、「ライティングはこうやれば大丈夫」と。最初はみんなびっくりしていましたけどね。
唯一のデメリットは、カットバックで深い角度に入りたい時に入れないこと。それだけです。深く入りたい時だけは同じ方向から撮って、浅くてもいい時は挟んで撮る。ストーリーのメリハリと現場のライブ感だと思っています。今この俳優の芝居を同時に撮ったほうが絶対いいという時には、同時に回す。その芝居が見えるライティングをすればいいだけなので。
「毎回かっこいい絵」より、ここぞの一枚
――宗さんが画作りの哲学として大切にしていることはなんでしょうか?
宗 めちゃくちゃかっこいい画を毎回求められているのかもしれないけど、それはバランスだと思っています。ずっと美味しいものを食べているより、たまに美味しいものを食べた方が印象に残るのと同じで、ひとつのドラマの中でずっとかっこいい画よりも、ある程度のレベルは担保しておいて、どこかでめちゃくちゃいいライティングができれば、僕はいいと思っているんですよ。すごく綺麗なシーンは、ひょっとしたら芝居ではなくて実景かもしれないし、俳優がいない画がみんなの印象に残るかもしれない。
「お芝居に目が行く映像」を目指して
――最後に、作品の見どころと撮影監督としての手応えを聞かせてください。
宗 過去・現代・幼少期でLUTを変えていて、どのトーンも気に入っているし、満足しています。正直に言うと、画を見て「映画っぽい」と思ってほしいという気持ちはあまりないんですよね。「映画っぽくしてくれ」とよく言われるんですけど、僕にはそれがよくわからなくて。
それよりも、お芝居に目が行くような映像になっていればいいと思うんです。感情移入できるという意味で。これから物語がどんどん進んでいく中で、田鎖ブラザーズのふたりに事件が起きたり、感情がいろいろ動いたりする。その表情を撮れているので、そこに目が行くような映像トーンを作っているつもりです。
見た人が「映画っぽい」と言ってくれたら嬉しいし、「いつものドラマと違う」と言ってくれれば、僕の個性が出たのかなという感じです。
最終話のラストシーンを撮った時に、山本監督が「宗さん呼んでよかった」と言ってくれたんです。ちょっとじんときましたね。初めて挑戦することはやっぱり大事だなと改めて思いましたし、照明技師だけでは経験できなかったことでした。照明でやり尽くしたということではなく、常に新しいことを探していた中で撮影監督に挑戦できた。俳優部ともいつもより密になれたし、演出部やプロデューサーとも「ここでこういうことやりたい」というやり取りが増えた。特に新井さんはなぜか全面協力してくれて、僕がやりやすいように導いてくれていました。
連続ドラマという経験を経て、映画が多かった自分にとって、ドラマという同じ映像分野でもっと勉強しなきゃいけないなと感じています。

2026年4月には、DZOFILMよりPAVOのDNAを受け継いだ新しいARCANA(アカナ)1.5Xアナモフィックレンズが登場した。価格も手に届きやすく刷新されている。日本では代理店のHORIZONでデモ機が試せるという。
宗賢次郎(そう・けんじろう) 照明技師/撮影監督。映画『すばらしき世界』(2021年/西川美和監督)、『ある男』(2022年/石川慶監督)、『ゴールド・ボーイ』(2024年/金子修介監督)などに照明技師として参加。映画『#拡散』で撮影監督に転じ、『遠い山なみの光』『レンタル・ファミリー』などを手がける。TBS金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』(2026年)では連続ドラマで初の撮影監督を務める。日本映画テレビ照明協会(J.S.L)会員。
