映像制作者のためのプラットフォームサービスVookが1月27日〜29日の間、長野県小布施町で開催したNext Filmmakers Summit。イベントには事前審査を通過したビデオグラファー約40名が参加し、3日間で多数のトークセッションが行われた。ここでは初日に行われたトークセッション「Next Filmmakerとはに何か?」の模様をレポートする。

 

伊納(敬称略)
今日はVookのコンテンツ責任者でもあり、ハリウッドで実際インディーズで映像をやっている鎌田啓生さんに来ていただきました。拍手でお願いします。よろしくおねがいします。

 

鎌田
おねがいします。

 

伊納
今日は「Next Filmmakers Summit」というイベントとなんですけども、「Next」というところにフォーカスしようと思っていまして、事前のアンケートでもみなさん、一人で撮影・編集・ディレクションもやっている方が多いようでした。キヤノンEOS 5D MarkⅡが出て、被写界深度の浅い綺麗な映像が撮れるようになり、WEB動画の需要も増えて、そういうスタイルで映像制作を行う人が増えてきてここまで来ました。では「次にどういった可能性があるのか?」という話が見えてきたらいいなと思っているんですね。まず、そんな話をする前に、鎌田さんが今どんな活動をされているのか、ちょっと自己紹介をお願いします。

 

▲写真左からイベントを主催したビデオグラファーの伊納達也氏、岸田浩和氏、登壇者の鎌田啓生氏。

 

鎌田
僕は高校を卒業して、1年東京でいろいろ映像の事を学び、アメリカのロサンゼルスに渡って、向こうの短大で2年勉強した後に、映像の制作会社を設立しました。それから向こうでおよそ6年ぐらい映像制作を続けています。

伊納
ちなみに、ご出身の南カリフォルニア大学って世界一有名な映画学科があるところですよね?

鎌田
一応すごく有名な映画学校で、僕が出たのは理論学部といって制作ではなく、どちらかというと映画の歴史だったり、実際に映画を見る力を養う学部だったんですけど、そこを出て、今は向こうで制作を続けている感じです。

伊納
どういう感じの映像を作ってたんですか?

鎌田
基本的には制作会社なので、コマーシャルだったりとかミュージックビデオ、向こうの長編映画の制作に関わったり。今、ちょうどやっているのは、向こうの長編映画の制作の下請けで、うちが完全にやっています。

伊納
もし可能なら、一本映像を見せてもらってもいいですか?

鎌田
今日の話が今後のビデオグラファーがどういう風にフィルムメーカーになっていくかっていう話だったので、僕が向こうで制作会社で映像の仕事をしながら、合間を縫って作った自主制作の作品を上映できたらと思います。去年の5月にアメリカで活躍する日本人のアーティストが集まって作った、着物の歴史についての作品です。2分くらいなので、ぜひご覧ください。

 

 

伊納
ありがとうございます。ただ、着物の歴史を紹介するだけじゃなくて、未来の提案みたいなのも入っていましたけど、ファッションアーティストとかと一緒に組んでやったりしたということですか?

 

鎌田
もともと向こうにいる押元末子先生というアメリカで唯一着付け師の国家資格を授与出来る着付け師の先生で、その方は衣装デザイナーとしても活躍されていて、日本人で初めてファッションフィルム国際映画祭で最優秀衣装デザイン賞も受賞されています。その方が今後の着物についてのイメージを格好よく伝えたいという所から始まったプロジェクトでした。

 

今後コンテンツが飽和状態になった時、どう動くのか?

伊納
ありがとうございます。そんな鎌田さんに加わっていただいて、「ビデオグラファーの次のステップにはどんな可能性があるか?」という話をしたいと思います。ざっくばらんな質問になっちゃうんですけど、どんな可能性があると思いますか?

鎌田
おおまかな枠組みの話をすると、やっぱりWEB動画が出てきて、新しい流通が生まれて、今そこにビデオグラファーという方がパーっと入ってきてて、そのコンテンツが足りていない中で、色々な方が一人でもオペレートできるような機材を使って、制作する形がメインだと思うんですけど、これから数年後には、「コンテンツが溢れてきて飽和状態になった時に、どう生き残っていくのか?」という所が焦点になるのかなと思っています。

伊納
それは作っているものの種類を変えたら良い話なのか、立ち位置を変えたらいい話なのか、色々な考え方があると思うんですけど。

鎌田
例えばコマーシャルを作るとなった時に、テレビコマーシャルだと撮影の規模を大きくしていかないといけない。そうなった時に、今までずっと一人でやってきて、どういうふうにシフトできるかとなった時に限界があると思うんです。それは「技術的な面なのか」、「コンテンツ的な面なのか」、それとも両方なのか。

伊納
鎌田さんと事前の打ち合わせを何回かさせてもらっていた時に、「コンテンツを作る力」と「映像を作る人の技術の力」をきちんと分けて考えなければいけないという話をされて、確かにそうだなと思ったんですね。今、一緒くたにしちゃっているけど、能力をきちんと両面に使っていく、もしくはどちらかに振っていくみたいなことって、すごい大事な事なんですよね。
鎌田
今後のコンテンツが飽和してきて、一人でできる幅に限界が出てきた時に、結局「自分がコンテンツの企画をして制作は他に発注するか」、「企画をして制作する立ち位置になるか」、それとも「技術職として撮影や編集のプロになるか」とかいろんな道筋があると思うんです。

 

伊納
より大きなサイズの映像制作をやろうとしていくと、チームというか分業が必要になってきて、そうなってきた時に、企画をする側なのか、ものを実際に画を動かして作る側なのか、分かれる時が来るってことですよね。

 

鎌田
だと思っています。

 

伊納
「その時、自分はどっちであるのか?」というのが次のステップとして出てくる話だと。

 

鎌田
新しい仕事とか大きい仕事を受ける時に、それを受けられる受け皿を作るか、元々の受け皿の中で働くのかっていうことだと思うんですけど、今後仕事が大きくなっていくとか、予算を大きくして仕事を取っていきたいという時に、どういう風に仕事を受けられる体制を整えていくかという時に、自分は技術屋だから制作会社と関わってチームでやっていきたいとか、どちらかというと自分はコンテンツの企画側に立って新しい魅力を提供できるようなコンテンツを作るクリエイター側になるのかっていうのを決めて、どういう風にチームワークで形を作っていけるか。

WEB動画が出てきたり、デジタル一眼とか機材の値段が安くなったっていうことも重なって、ジャンクメディアじゃないですけど、誰でも簡単に発信できるメディアが増えてるんで、そこからバックキックしていけるように自分の立ち位置を見極めていければいいのかな、そういう感じですかね。

「メジャー」と「インディペンデント」の意味合い

伊納
みなさん、色々なバックグラウンドがあって、今の状態にあると思うんですけど、僕の場合はCM制作会社で制作進行をやっていて、ディレクターを目指していました。現状CM業界だとディレクターの層も厚いし、会社の中では年功序列的なところもあって、なかなか厳しいなと思うところもあって。自分で作ってみて、自分の能力を試してみようと思った部分はあったんですね。

日本の場合は大きな仕事をしていくためには、業界の中に入って下積みして始めるとか、ある意味ルートが決まっているかなと思うんですけど。ぜひ聞いてみたいのは、アメリカなんかの例でよくインディペンデント・フィルム、インディーズ映画が盛んだと聞くんですけれども、その辺って例えばクリエイターが、ゼロから有名になるとか、企画を作る側になる、演出をする側になるために、どういう仕組みやルートがあるんでしょうか?

 

鎌田
アメリカの場合、メジャーは自分で配給やセールスをやってしまうこと。インディペンデントはそれ以外というだけで、日本はメジャーっていうとテレビや映画館で流れているもの。インディペンデントやインディーズっていうとアマチュア。そういうイメージがあるんですけど、向こうはインディペンデントもアマじゃなくてプロレベルという認識があって、スタジオとか大手から引き抜かれるために自主制作を続けていくという形がシステムとして整っているので、自主制作をすること自体に価値がいくつもついてくるんです。もっと大きい作品の仕事に関われるように発掘してもらうチャンスに繋げられるというのも、作る事自体へのモチベーションが高くなっていると思うんですけど、日本の場合はどうですか、逆に?

伊納
「映画祭等で賞が獲れたらちょっと箔がつくな」くらいの感じかも知れないですね。

 

鎌田
先ほどの札幌国際短編映画祭の話で、制作者としては作品を完成させた後にそれをマネタイズしたり、そこからマネジメントがついたりとか、映画祭や配給側から「他にどういうコンテンツがあるんですか?」とか会話に繋がる場所みたいなもので、「短編を作ってハイおしまい」じゃなくて、その後のキャリアにつなげるチャンスになる仕組みを作られているのはすごいなと思いました。

今後考えられるビデオグラファーのキャリア

伊納
なるほど、実はこの話を事前に3人でしていて、到達した結論じゃないんですけど、「こういう可能性があるよね?」というのを図にまとめてみたんです。ちょっとそれを見てみると、極論なんですけど、こういう話があるなと思いまして。

 

代表して僕が説明すると、横軸の左側がマルチタスクでビデオグラファー的に少人数でいろんなことをやって作るのかで、右側は分業制度で大人数で作るのか。縦軸の下は企画があるものをどう制作するかという例えばカメラマンや美術などのプロフェッショナル。上は企画を考えたり、発信するターゲットを考えたりするコンテンツを作るプロ。今の状態はこういう風に分かれていてきているのかなと思うんですよ。

例えば、横軸の右側(大人数)で、縦軸の上側(コンテンツや企画を考える人)なら、映画のプロデューサーやディレクター、脚本家。縦軸の下側にそれを実現する制作のプロフェッショナル達がいると。これまでの映像業界は、ずっと右側だけだったのが、新しい機材がどんどん出てきたことで、マルチスキルで少人数で企業のプロモーションビデオを作ったり、従来よりも安いバジェットでコマーシャルを作ったり、そういう人たちが生まれてきていて、その一方で制作がプロフェッショナルな気質だとは思っていないけど、ちゃんとターゲットが分かっていて何したら受けるのかは分かっている、典型的なのがYouTuberだと思います。こういうふうに、軸が出てきたのかなと思っていて、次お願いします。

 


僕や岸田さんも含めて多分ここにいる大部分であろう、いわゆる「ビデオグラファー」の見られ方は、あの辺の位置にいるんじゃないかという印象がありまして、ただ企業VPを作る街のビデオ屋さんよりはクオリティは高いし、ちょっと企画的なことはやってくれるけど、かといってコンテンツとしてそれだけでバズったりすることは中々難しい状況ということで、あの辺の軸にいるんじゃないかなと現状は思っているんですよ。岸田さんはどう思われます?

 

岸田
そうですね。例えば映画とかテレビとかドラマなんかの映像業界にいる人から見ると、「あの辺でチョロチョロやっているやつがいるよね?」っていう、バカにされていると言うと語弊があるかもしれませんけど、そういう感じかもしれないですね。

でも、今、世の中の仕事がWEBに移ってきて、一個一個のバジェットが小さくなってきた時に、僕らの出番が妙に増えてきて、あの辺にいたなんかチョロチョロしていたヤツのチョロチョロ具合が大きくなってきた時に、実際は大きい仕事していた既存の映像に携わっている人から「無視はできないけど、アイツら何なんだよ?」みたいなところは出てきたのかなと思っているんですよね。

その時に、実際自分たちに何ができるのかというのをはっきり示していかないと、中途半端なヤツらだなっていうので終わりそうな予感もあるし、大きな会社がバンっと仕事を取ってきて、部分発注みたいな形でパーツを作る工場みたいな映像の仕事が増えてきているので、そこにどんどんはまっていくと未来がないのかなと思っています。この表で言うと僕たちが「次にどこに行くのか?」という方向性をそれぞれ示していかなきゃいけないのかなと思っています。

 

伊納
いくつか可能性があるなと思って出てきたのはですね、進路1、そのまま上に登るというパターンですね。作り方はある程度のマルチスキルですが、一人でやるわけではなくて、少人数…映画やテレビCMから見たら少人数のスタッフ編成で、いわゆるテーマに特化して作品化していくというパターン。ようするに写真家みたいなものですよね。

 

岸田
ここちょっと話していいですか? 僕が一番やりたいのはこの進路1のパターンなんですけど、僕は今VICEさんで仕事をさせてもらってて、例えばドキュメンタリーの企画を出して、じゃあ15分の尺で作りましょうというのを決めて、ある程度自分たちでチームを作って撮影対象と交渉して、撮影・編集して、納品します。

ただ、納品する前に媒体の世界観に合わせて作品を作り込んでいくという所は結構ノウハウがあるんですけど、そうなった時に、それをできる人ってなかなかいなくて、結局映画作っていた人とかTVの業界から移ってきた人たちが多くいて、いわゆるビデオグラファーと言われる人たちがそのドキュメンタリーコンテンツを作って、ちゃんとそれで稼いでいる人って、あんまりないんですよね。

僕からすると、カメラ一台持って、機動力に長けて、編集までできるのが僕たちのフィールドだと思っていたのに、そこにいないっていうのは結局、取材力やストーリーテーリングの部分がまだあんまりできていないのかなと思っています。

 

伊納
やっぱりテーマですよね。どんなジャーナリストも写真家もひとつ専門のテーマがあるじゃないですか?それをどれだけ追いかけられるかというのが、強みにどんどん繋がっていくという。

 

岸田
そういうことです。Yahoo! ニュースでも、今後、映像コンテンツに力を注いで、そういう人のためのフィールドを作っていて、ぜひ挑戦してくださいという話もあるようので、「むちゃくちゃいいな!」と思った反面、まだすぐに動き出せる人たちは実は少ないと思うんで、それを今後どういう風にやっていくのかが課題だなと思います。

 

伊納
2つ目の進路としては、先ほど鎌田さんがおっしゃったように今の状態で映像を作って、そこから面白いものが作れれば企画能力や演出能力が認められて、より大きな現場であったり、アメリカで言うとメジャーに行けるみたいな可能性があるんですよね。ビデオグラファーからも目指せるものだと思いますか?

 

鎌田
もちろん目指せると思っています。ここで言う映画・テレビ・ドラマは制作規模の話で、そこがメジャーとインディで分かれているから、話が複雑になっている気がするんですけど、大きい撮影になればなるほど、自分がやらないといけない仕事がどんどん専門的になってきて、ジェネラリストであるビデオグラファーから専門職のカメラマンやエディターなどのプロフェッショナルにシフトしないといけない局面もあると思います。もしくは自分で制作会社を作って、そこでコンテンツを作っていけるような人になっていかないといけないのかなと思っています。

Vookのようなプラットフォームがこれからインディーズでやっているビデオグラファーがどんどんコンテンツを作って、そこから発掘されるきっかけ作りになる場所になると思うので、実際にそこの中で戦っていく人たちがどういう風に作家性や技術力を高めたり、具体的にどういうもので勝負をしていけばいいのかという話が、多分明日以降のセッションで出てくると思うんですけど。

 

伊納
そういう可能性が一つあるという事ですね。最後の3つ目に関しては一番動きは少ないんですけど、いわゆるビデオグラファー的に今求められている仕事をきちんとシステム化していくという事なのかなと思っています。今と近い位置にいるとしてもこのままフリーランスで行くと、チームじゃないから仕事として安定させることができない部分もあるので、ビデオグラファー同士がチームを作ったり、よりシステム化していかなきゃいけないというのは、あるかなっているのは僕は思っているんですけど。
岸田
これは今やっている手法を、より高度にしていくと意味で「ミニプロダクション」化という事ですか?

伊納
より仕事として確実にするために組織としてシステム化していくっていうのはあるのかなと思います。

 

鎌田
今ビデオグラファーというニーズが湧いてきて、その業界の形が全体じゃなくて、ある意味外枠のところが少し崩れたというか揺らいでいる時に、これから東京オリンピックまで例えば2018年くらいまでにある程度また固まっていくと思うんですよね。その時に少数精鋭で地方でやっていきたいとなった時に、「この地方で一番強い制作会社と言えば自分のところ」というような形作りで制作チームが増えていけば良いなと思いますね。

 


伊納
僕も元のCM制作会社からかなり言われるんですよ。最近、企業が求めている広告の値段が下がりすぎていて。「これまでのテレビコマーシャルを作っていた完全分業制の制作体制だと成り立たないから、何とかしてくれ」って言われるんですけど、そういう需要は増えているので、きちんと仕組み作りをして、「後はこちらでおまかせです」という形にしたら、今の時点ではいろんなところで仕事にはなると思うんです。

ということで、そんな3つの方向性があるのかなという話を僕がしたくて、無理やりぶち込んだセッションなんですけど(笑)。

 

岸田
一言で言うと、僕が思っているのは、まだ僕達の立ち位置って一人一人がまだ作家となるには難しいところがあって、撮影と編集ができるカメラオペレーターなんですよね。ここから本当に制作者として、「フィルムメーカーです。作家です」と言えるようになろうとすると、ストーリーテリング、与えられた仕事の中で、たとえば2分の企業プロモーションでもいいですし、30分のドキュメンタリーでも良いですし、ちゃんと何を映像に込めてストーリーテリングをして、メッセージを伝えられるものを作っていくかというのを、それぞれみんなが自分の色を持って出来るように、それをたぶんもうやっている人はいるんじゃないかと思うんですが、個人的にはそこを学んでいきたいなってのはありますね。

 

伊納
ということで今日はありがとうございました。

 

 

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●Next Filmmaker’s Summit