テスト・文●吉田泰行(アルマダス)
本日DJIから新型カメラZenmuse X7が発表された。従来のX5シリーズがマイクロフォーサーズ規格であったのに対し、X7は大型のSuper 35mmサイズのセンサーを搭載している。これによりX7のセンサーは業務用シネマカメラと同等クラスまで一挙にグレードアップし、動画の最大収録解像度は6K/30pと、フラッグシップのシネマカメラを凌駕する性能を有している。またダイナミックレンジは14ストップとX5Sより1ストップ以上改善している。
DJIが本格的なRAWカメラを発表したのは2015年のこと。それからわずか2年でDJI製カメラの性能は大幅に向上し、ハイエンドのシネマカメラをも射程に入れるカメラの開発に成功したことになる。
Super 35mmセンサーを搭載し、最大6K/30p撮影に対応
まず気になるX7のスペックであるがX5Sに比べ大きな進歩を遂げている。センサーサイズはX5Sのマイクロフォーサーズ規格からSuper 35mmサイズに進化し、面積はX5Sと比べ60%以上大型化している。これにより夜間での撮影ノイズが減少し、より柔軟性の高い運用が可能だ。
動画の最大収録解像度は6K (6016×3200=1925万画素)に達し、一眼レフで撮影した静止画とほぼ変わらない画質での動画撮影が可能だ。静止画の解像度は2400万画素とフルサイズの一眼レフには多少劣るものの、X5Sに比べ10%以上向上しており、ソニー α6500などミドルクラスのAPS-Cセンサー搭載機と比べても遜色がなく、業務を行う上で必要充分な性能を確保している。
気になるX7のダイナミックレンジは14ストップとX5Sから1ストップ程向上している。14ストップというと地上用のカメラではソニーFS-7やCanon C300 MKII (Canon log 3撮影時)などのカメラと同等である。X5Rの登場からわずか2年でここまでのスペックのカメラを作り出したのは驚異的だ。
なおX5R、X5S共にシャドウ部分の回復力が非常に強く、体感的なダイナミックレンジはメーカー公称値の12.8ストップ以上であった。今回はX7のスペックが更に向上したため、REDのフラッグシップモデルのWeapon 8Kを比較対象に検証を行った。(後述)
X5S |
X7 |
|
センサーサイズ |
17.3x13mm(4/3MFT) |
23.5 x15.7mm(APS-C) 23.5 x12.5mm (S35モード) |
動画 |
5.2K RAW 12bit 30fps 4K RAW 10bit 60fps 5.2K/4K ProRes 30fps |
6K RAW 12bit 30fps 4K RAW 10bit 60fps 4K ProRes 30fps |
静止画 |
2080万画素 |
2400万画素 |
ダイナミックレンジ |
12.8ストップ |
14ストップ |
DJI DLマウントを採用。4本の新レンズも登場
X7はX5Sと比べ構造的に変化している部分も数多くある。以下X5Sから変化した特徴を押さえておきたい。
・レンズマウントはDJI DLマウントを採用。(従来のMFTレンズとは互換性なし)
・レンズはDLマウントに対応した16mm、24mm、35mm、50mmの4種類がラインナップ。(どのレンズもF2.8通しの単焦点)
・レンズはカーボンファイバー製で180g前後と軽量
・フランジ距離を短く設計し、X5Sとほぼ変わらないサイズを実現
・D-GamutRGBカラースペースを採用しより幅広い色域に対応
・Cinecoreが2.0から2.1にアップグレードされ新しく設計されたD-logを搭載
スペックなどの比較はこれまでとして、早速気になる描写力を検証映像・画像を通じて紹介していこう。
RED Weapon 8Kと検証環境
検証撮影として、ダイナミックレンジが試される直射日光の照り返しが強い海岸と、屋内から屋外の撮影を行った。X7は三脚に固定し、X7とWeapon 8Kの画角を極力一致させるように撮影している。また同一濃度のNDを装着し、F値、シャッタースピードなども同一になるようにしている。
検証1(屋外でのRAW撮影)
最初の検証は朝8時の逆光の照り返しが激しい城ヶ崎海岸で行った。肉眼でも目がくらむほどの環境である。最初にWeapon 8Kのテストを行い、照度が変わらないように1分以内にX7の撮影を行なった。
RED Weapon 8Kは公称16.5ストップ+のダイナミックレンジがあり、現在流通しているカメラの中では最もダイナミックレンジが高いカメラの1つである。
RED Touchディスプレイの波形モニターを見たが、ハイライトとシャドウ部分に警告灯が点灯するギリギリの厳しい環境であった。しかしながら何とか厳しい環境にも持ちこたえ、グレーディング後では潰れているように見えた岩肌部分も色が戻ってきた。
【RED Weapon 8KのBefore(上写真)/After(下写真)】
撮影環境が肉眼でも視認困難な程厳しくRED Weapon 8Kのダイナミックレンジを使い切った状態であったため、X7に関しては厳しい結果を想像していた。少しでも良い結果を残そうとハイライト部分を飛ばさないように特に注意しながら6K Cinema DNG RAWで撮影を行った。
編集して驚いたことに、X7でもREDとほぼ同等の仕上がりになった。特にX5R/X5Sと比べ顕著に向上したのはハイライトの戻り具合である。従来ではハイライト部分が少しでも飛んでしまうと、色が戻ってくる事は期待できなかった。今回太陽の反射が一番強く、色が飛び気味の水面でも階調が戻ってきた。空撮の場合、雲と太陽の反射によりダイナミックレンジが要求される現場が多いのだが、X7の登場により色飛びは大幅に軽減されるのではないではないか。
【Zenmuse X7のBefore(上写真)/After(下写真)】
▼シャドウも回復力が非常に強く、ハイライトからシャドウ部分まで階調を幅広く残している。
検証2(D-logも従来からさらに進化)
今回新しく設計されたD-logも並行して使用しテストを行なった。従来のD-logはノイズが出やすいなど使いにくい面もあったが、新しいD-logではノイズも少なく適正なホワイトバランス撮影した場合、コントラストと彩度の微調整だけでも非常に美しく仕上げる事ができる。
今回テストで撮影した素材はDaVinci Resolve 14とMini Panelを使い編集を行なったが1分以内にある程度の色合いに仕上げる事が出来た。一新されたD-logは色合いが美しく、使い勝手が良くなっている。
【D-Log撮影素材のグレーディング前/後】
検証3(明暗差の大きな屋内でテスト)
屋内の検証として伊東市の東海館1階から明るい屋外の撮影を行なった。業務用のシネマカメラでも非常に厳しい環境であるが、X7は高ダイナミックレンジを遺憾無く発揮し、色飛びを抑える事が出来た。RED Weapon 8Kの検証データと比較しても大差がない仕上がりにする事が出来た。
【X7のBefore/After】
【RED Weapon 8KのBefore/After】
検証4(直射日光が注ぎ込む暗い洞窟内でのテスト)
最後に検証を行ったのは明暗差がこれまでで最大になる、直射日光が降り注ぐ洞窟である。通常このような現場ではハイライトかシャドウどちらかを選び、一方の階調は捨てる必要があった。実際に現場に船で向かい、あまりにも撮影条件が悪かったためX7/RED共にハイライトの階調を優先するように撮影を行い、シャドウ部分を捨てたが結果は驚きであった。
洞窟の開口部分に露出を合わせたため、当然ながら洞窟の大部分は大幅な露出アンダーになっている。そこで露出を無理やり4.3ストップ引っ張った所、ノイズをそれほど出さずに階調を戻す事に成功した。通常どのカメラでも2-3ストップ前後引っ張ってしまうとデータが壊れ出すのであるが今回の検証結果はある意味嬉しい誤算であった。
まとめ
X7はセンサーが大型化し着実にカメラとして進化している。1日の短い検証であり、ラボでの厳密なテストではないため技術的な検証はできなかったが、X7を使ってみてハイライト部分の破綻がより少なくなり、全般的なダイナミックレンジも顕著に向上していると感じた。RED Weapon 8Kと比べてもダイナミックレンジの差はそれほど感じず、他のシネマカメラと絵をマッチングさせるのは容易になったのではないか。
Inspire 2は小型で機動性も高く、非常に小回りが効く設計になっている。今までは高画質を追求する場合、大型のドローンにシネマカメラを載せていたが、バッテリーを含めシステム全体が大型で機動性に欠け、Inspire 2と比べると撮影できる回数も格段に少なくなってしまう。X7の登場により今後映画やCMのような高画質が求められる現場でもDJIのカメラがメインで使われる時代が来るのではないだろうか。
●DJI Zenmuse X7製品情報