第1回「YouTube 360/VRシンポジウム開催とJUMPシステム国内初披露」
写真・文●染瀬直人

写真家、映像作家、360度VRコンテンツ・クリエイター。日本大学芸術学部写真学科卒。360度作品や、シネマグラフ、タイムラプス、ギガピクセルイメージ作品を発表。VR未来塾を主宰し、360度動画の制作ワークショップなどを開催。Kolor GoPro社認定エキスパート・Autopano Video Pro公認トレーナーYouTube Space Tokyo 360度VR動画インストラクター。http://www.naotosomese.com/

※この連載はビデオSALON2016年11月号より転載
VR元年と言われる今日。毎日のようにVRの話題が巷を賑わせています。今月からスタートするこの連載では360度動画を中心に数多の情報の中から重要なトピックスを時にはトリビアを交えて、お届けしていきたいと思います。

VRプロジェクトに積極的なYouTube

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さて、この9月2日に東京・港区の六本木ヒルズにあるYouTube Space Tokyoで「YouTube 360/VRシンポジウム」が開催されました。
YouTubeは昨年3月から360度動画のインタラクティブな視聴を可能としており、そのYouTubeを10年前に買収した親会社のグーグルは、Google Cardboard(ダンボール等で作られた簡易的なVR映像視聴用ゴーグル)や、Expeditions Pioneer Program(VRによる擬似社会科見学)、Day Dream(次期Android端末でVRを提供するプラットフォーム)などVRのプロジェクトの展開にとても積極的です。
YouTube Space Tokyoは2013年に誕生。ユーチューバーを対象にプロ用のカメラ・編集機材を貸与したり、セミナー・イベントなどを行い、彼らのスキルアップや交流を図るためのスペースです。東京の他、ロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドン、サンパウロ、トロント、ムンバイと世界の7都市にあり、専用の編集室やメイクルーム、トレーニングルームなどが完備され、スタジオは進行中のプロジェクトに合わせてセットが作られます。2016年10月現在はホラープログラム用の和室旅館のセットが組まれています。

初お披露目となったVR撮影用リグOdyssey

筆者もこのYouTube Spaceで360度動画の制作を指導するインストラクターとして、頻繁にワークショップを開催しており、この日もシンポジウム内でステッチング用ソフトウェアのトークセッションを行いました。今回のシンポジウムのハイライトに、グーグルが提唱するVRコンテンツ作成システム「JUMP」が日本初披露されたことがあげられます。
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▲GoProが開発しているJUMPシステム向けVR撮影リグOdyssey。
私は今年の4月に米・ラスベガスで開催されたNABのGoProブースでひと足先にVRカメラOMNIの横に並ぶ、JUMPシステム用の撮影リグOdysseyの実機を初めて見ることができました。JUMPシステムでは専用にファームアップされたGoPro HERO4ブラックエディションを16台円周状に配備したOdysseyというリグで3Dの360度VR撮影を可能にします。これらのカメラはプライマリーカメラから設定やスタートを操作でき、ゲンロックで完全に同期がなされています。各カメラの映像をステッチ(つなぎ合わせ)して一つの映像に統合するのはAssemblerという専用のクラウドになります。16台のカメラから得られた30分のフッテージを合成処理するにはクラウドの混み具合によりますが約1日かかり、エンコードされる映像は最大で8K×8K/30pとなります。
その処理内容は従来の立体視の理論(右目左目用のカメラを設定)とは異なるOptical Flow Based View Interpolation(任意視点補間)というアルゴリズムによるもので、GoPro16台で合わせて計8000台の仮想カメラで撮影したという想定の演算処理を用いて全方位でシームレスな立体視の360度VRを作り出すというものです。
やはり、「シネマティックVR」を謳う360度動画カメラシステムのJauntもJaunt Cloudにデータをアップロードして、360度3DVR動画を生成するソリューションなので、共通する点がありますね。JUMPがカバーする範囲は3D効果の苦手とする天地はなく、円筒状の360度VR動画となります。リグのセットにはGPモバイルのSwitronixの外部バッテリーが2つ同梱されていて、常時Odysseyへ給電していく仕様です。
前号の特集「仕事でも使える360度VR動画入門」でもご紹介した通り、今、ひじょうにたくさんのVRカメラが出現している中でJUMPは価格も15,000ドル、およそ150万円とハイエンド・クラスですが、現在日本はもとよりアジアに存在するのはまだこの一台のみとなっています。
このようにJUMPシステムは実用的というよりは、次世代に向けたチャレンジングなプロジェクトですが、映画創世記の発明家のビジョンを思い起こさせる興味深いプロジェクトと言えるでしょう。
JUMPはGoProとのコラボレーションにより実現しましたが、開発者向けイベント「Google I/O 2016」で、グーグルはIMAX社とYIテクノロジー社と共に360度VRカメラを開発すると発表していますから他社製のJUMPリグがお目見えする日も遠くないかも知れません。

シンポジウムでは他社展示やトークセッションも

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▲パナソニックが開発を進めるPHAROSというVRカメラシステムのプロトタイプ。
パナソニックは4つのレンズを配したカメラユニットとステッチング・プロセッサを内蔵したベースユニットから成るプロジェクトPHAROSという新VRカメラシステムの試作機を展示していました。PHAROSはリアルタイム・ステッチング(4K/30pを出力) に加え、自動視差補正、4眼同期のゲンロックなどを搭載。ライブ配信とアーカイブ用の撮影に優位な手動性を残した仕様になるようです。
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▲韓国製Mooovrリグ。
また360度VRライブ配信のプレゼンをしたイドーガのブースには韓国製のMooovrリグにデモ用としてソニーα7S Ⅱが搭載されていました。
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グーグルのテクノロジー・プログラム・マネージャーであるトム・スモール氏。
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▲トークセッションの模様。
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▲Google CardboardでVR動画を視聴する参加者。
シンポジウムではVRや360度動画の概要に触れるトークセッションや、この4月から対応した360度ライブ配信YouTube Live、空間音声の解説などのプログラムも用意され、ニューヨークからJUMPシステムを携えて来日したグーグルのテクノロジー・プログラム・マネージャーのトム・スモール氏は、「360/VR動画制作ベストプラクティス」のセッションのなかで、VRの映像の作り方や360度動画とVR動画の違い、主観映像こそVRであるといった独自のメソッドを披露しました。
欧米などでは従来の映画の話法とは異なる360度VR動画におけるストーリーテリングについて既に語られ始めています。ライブ配信や空間音声、そしてストーリーテリングについての話題は、また別の機会にじっくり取り上げていきたいと思いますので、これからの連載をどうぞお楽しみに!

◆この記事はビデオSALON2016年11月号より転載
http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1599.html