スマホで手軽に個人売買ができる「メルカリ」。爆発的にユーザーが増え、今やフリマアプリ最大手だ。ベンチャー気質あふれる同社は、動画コンテンツが必要となった際の動きもすばやく、すぐに社内に動画制作部門を起ち上げた。本格稼働を始めたばかりのインハウス動画制作の状況を聞かせてもらった。

取材・文・構成●矢野裕彦

株式会社メルカリ
https://about.mercari.com

▲ インハウス動画制作を担当するビデオグラファーの熊田勇真さん(左)と、ディレクターの稲川亮輔さん(右)。動画制作の即戦力としてメルカリ社内のデザインチームに参加した。社内から届く山のような動画制作依頼を分析し、用途に合わせて制作内容をハンドリングする役目も担っている。

 

ベンチャー気質を生かしたスピード感のある動画部門設置

2013年に登場し、またたく間に最大級の個人売買サービスとなったフリーマーケットアプリ「メルカリ」。読者の中にも利用経験者がいるのではないだろうか。ご存じない方のために説明しておくと、メルカリはネット上でさまざまなグッズを個人売買できるサービスで、スマホを使って気軽に販売/購入できるところが女性や年配などのライト層にもうけ、ユーザー数を伸ばしている。現在は、グローバル化に向けて海外展開を進めており、急激に成長を遂げている。

メルカリの中心は、スマホアプリだ。社内のデザインチームは、アプリのUIのデザインを行う、言わば開発の本丸と言える存在だが、インハウスの動画部門は、そのデザインチーム内に設置されている。ビデオグラファーの熊田勇真さんは、動画制作部門の起ち上げに際してメルカリに入社した。メルカリとしては新しいトライだったため、動画制作のノウハウを持った経験者が必要だった。

「ベンチャー気質ですから、とにかくスピード感がすごいのがメルカリの特色です。私はもともとフリーのビデオグラファーだったのですが、動画制作部門で人を探しているという話をSNSで見かけて連絡したら、12時間後にはメルカリに来ていて、その場で社員になりませんか、というオファーがあったくらいですから(笑)」

ディレクターを務める稲川亮輔さんは、熊田さんの入社から半年後にメルカリに加わった。前職の映像プロダクションでの経験を生かして、動画制作部門の窓口的役割を担当している。

「立場はプランナー兼ディレクターですが、場合によっては撮影も編集もこなす何でも屋です(笑)」

 

◉社内教育やCSRの動画アプリ内のアニメーションも制作

動画制作部門が担当する案件は多岐にわたる。社員総会などで見せる社内向けのコンテンツから、CSR活動をまとめた広報用の動画、メインストリームであるスマホアプリに埋め込むアニメーションも制作する。また、伸び盛りのメルカリは毎月入社してくる社員も多く、社内啓発や教育のための動画も制作している。

【シリコンバレーオフィスローンチパーティー】

▲ グローバル展開の橋頭堡となるシリコンバレーオフィスのオープンを、サンフランシスコまで撮影に。

メルカリアスリーツ

▲ メルカリのスポーツ支援活動として車椅子バスケットボールを紹介。

投資家向けのIR動画

▲ 投資家向けにメルカリのサービス内容を紹介する動画を制作。

 

「とりあえずやってみよう!」で動画部門の設置を開始

社内の動画制作の内容は多岐にわたるが、大きく分けると、社内向けと、社外向けの動画がある。社内向けは、社員研修の際に見せる啓発用の動画や、社員同士を知るための部署紹介の動画、社内イベントやパーティーで流す“盛り上げ用”の動画など。社外向けには、いわゆる会社案内の動画やCSRの活動の記録、サービス紹介やHOW TOなどのユーザー向けのサポート動画、バナー広告、さらにはアプリに組み込まれるアニメーションまで制作している。

「もともと社内に動画制作部門がなかったので、外注して制作するCMなどのほかは、動画コンテンツは作っていなかったんですね。例えば、会社紹介の動画や社内研修用の動画など、企業であればあってもおかしくない基本的な動画コンテンツがない状態でした」(稲川)

インハウスの動画制作部門の設置に際しては、当初からハッキリとした目的があったわけではなかった。

「最初は、イベントで登壇する人から、冒頭から口頭で説明するのではなくて、イベント参加者にまず1分くらいの映像を見てもらってから登壇して話をしたいという相談がありました。じゃあ、それ僕が作りましょうか、みたいな感じで話が進みました。そもそも最初は一人部門だったし、動画が作れる人を社内に置いてみて何が起きるのか進めてみるという一面はあったと思います。『とりあえずやってみよう!』というのは、メルカリの基本的なスタンスですね」(熊田)

その後に稲川さんも加わり、本格稼働が始まった。部門設置からまだ間もないため、現在は制作しながらその稼働範囲を探っている段階だ。しかし、いざ稼働させてみると、社内に動画を必要としている場面が多々あることがわかった。

「動画部門が何となく形になって、『動画制作できる人が入りました』という告知を社内で行なったところ、『だったらこういう動画が作りたい!』というリクエストや相談が、ドバーッと来ちゃいまして(笑)。ただ、確かに数は多かったんですけど、戦略がハッキリしていないものもありました。社内にまだ動画コンテンツの扱いに関するリテラシーが足りてない状態だったんですね」(稲川)

そのため、どこで上映するのか、目的は何なのかといった話をヒアリングして、効果的な方法の提案から始めることが多い。単なる動画の受注ではなくコンサルティングを兼ねた内容だ。その際には、デザインチーム内に部門があることが強みとなる。

「内容に合わせて動画の方向性を決めたり、動画に向かない内容であれば別の方法を提案したりすることもあります。デザインチームの中にいるので、グラフィックデザイナーとの連携や、立体物のデザインも可能なので、例えばプロダクトデザインを絡めた企画であっても対応することができるんです」(稲川)

国内のデザインチームは14名。熊田さんと稲川さんのほか、モーショングラフィックに強いデザイナーなど動画を担当しているのは4〜5名という規模だ。

 

◉デザインチーム内に動画中心の部門を編成

▲ 動画制作にメインで関わるのは、ビデオグラファー、ディレクター、モーショングラフィックデザイナーなど、4〜5名。撮影からディレクション、アニメーションまで手広く扱えるメンバーを配置しており、最適な手法を選択してアウトプットできる。アプリのUIなどを制作するデザインチーム内に編成されているので、制作物に応じてほかのグラフィックデザイナーなどと有機的に連動できる体制だ。

 

コミュニケーションツールとしてグローバル化でも力を発揮

動画部門として動き始めると、インハウスならではのメリットも徐々に現れてきたという。

「まずは、とにかく制作する動画の数が多いので、それだけのニーズが掘り起こされたことは意味があったと思います。打ち合わせで動画の話がたくさん出てくるようになったし、相談の件数も増えています」(熊田)

外注では気軽にできない“お試し”の制作が、インハウスではクイックに行える点も大きいという。

「特にWeb用のバナー動画などを作る場合、手軽にABテストを行えます。外注となると、1回作って試したあとに、結果を吟味して、また別バターンを発注することになり、制作コストが上がるし時間もかかってしまいます。インハウスであれば、パターン出しや微調整なども手軽にできますし、何より自分たちの判断をすぐに反映することが可能です」(稲川)

メルカリは現在、グローバル化を押し進めている最中だ。人材集めもその方向で進めているが、その点でも動画コンテンツは有効のようだ。

「日本のオフィス内にも外国籍の社員がたくさんいるので、彼らに協力してもらって海外向けのリクルート用動画を制作したり、逆に米国でのローンチなど、海外に行って撮影し、グローバル展開の様子を紹介する動画を作ったりもしました。グローバル化を視野に入れた場合、映像は多くを説明しなくても内容が伝わるので、コミュニケーションツールとしても力を発揮してくれます」(熊田)

当初は役割があまり明確でなかったインハウスの動画制作部門だが、短期間のうちにここまで動けるようになった理由は何なのだろうか?

「社内に動画制作部門を設置するとなると、人も採用することになるし、一般的な企業であれば、目的が明確になってからでないと実施できないと思います。しかしメルカリの場合、そこがあまり明確ではないまま『まずは動画制作ができる人を社内に入れてみよう』というところから始められたわけです。その結果、動画部門がフレキシブルに動けていて、社内のさまざまなニーズに応えられる体制ができたのだと思います」(稲川)

メルカリの動画制作部門の活躍の秘訣は、「とりあえずやってみよう!」という同社のスタンスにあったようだ。

 

◉撮影には一眼レフを使用しスチル撮影にも対応

【カメラ&レンズ】

▪ソニー α7S Ⅱ、α7Ⅱ ▪ソニー FE 70-200mm F4 G OSS ▪ソニー FE 85mm F1.8 ▪ソニー Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS ▪シグマ 24-105mm F4 DG HSM ▪カールツァイス Loxia 2/50 ▪Laowa 15mm f / 2 FE Zero-D

【マイク】

▪ソニー ECM-XM1 ▪RODE VideoMic Pro ▪XLR-K2M(α用XLRアダプター)

三脚

▪マンフロット befree live MVKBFR LIVE ▪マンフロット 536 MPRO(三脚) ▪マンフロットMVHN8AH(雲台) ▪ベルボン QRA-635LⅡ(クイックシュー)

【照明】

▪Neewer NL660(LEDライト)×3台 ▪Neewer RL-18 LED(リングライト)

編集機材

▪アップル iMac Pro ▪アップル MacBook Pro ▪Adobe Creative Cloud ▪G-Technology G-RAID with Thunderbolt 3

一眼ならリラックスした雰囲気で撮影可能

▲ カメラはソニーのα7シリーズ。機材のチョイスは「担当者の好み」とのことだが、社内撮影の際に大がかりな機材ではなく一眼を使用することで、被写体となる社員が構えずリラックスしてくれるメリットがあるとのこと。

 

ビデオSALON2018年10月号より転載