取材素材を小まめにエクストリーム900にコピー
そのデータをMacBook Proで直接編集していく

Report◉岸田浩和
協力◉サンディスク株式会社

 

先の読めない、ドキュメンタリー撮影の現場

ナイジェリアラゴスのサッカースタジアム。スタンド席から地元リーグのトーナメント戦を撮影していると、スタンド席から試合を観戦していた敗退チームの少年が、好奇心いっぱいの表情で私を指さしている。「うぉー、ビデオカメラを持った外国人がなんか撮ってるぞ!」  歓声が上がり、瞬く間に少年達が集まってきた。カメラ側面から飛び出したモニターを見ようと、屈託ない表情の少年たちが押し寄せる。好奇心の塊と化した無数の腕がモニターめがけて伸びてきて、気がついた瞬間にはモニターのヒンジがあらぬ方向に折れ曲がっていた。

そんな騒ぎを静めようと、スタンドにいた警備員が走り寄って来る。ようやく、少年たちが席に引き上げると、警備員が私に向かって声を上げた。「君は誰に許可を取って、撮影しているんだ?」「撮影を止めて、メディアを出しなさい」と、高圧的な言葉を投げかけられた。

スタジアムには事前に撮影の話しを通していたのだが、警備員は伝わっていなかったようだ。垂れ下がってブラックアウトしたままのモニターに愕然とする中、警備員とのすったもんだの交渉で、この日はデータを没収されたり消去されずに済んだが、こうしたトラブルは日常茶飯事だ。

今夏はミャンマーで、過激な政治発言が物議を醸していた、ある僧侶の密着取材を試みていた。僧侶の了解を得て地方の説法に同行したのだが、外国人が滅多に来ない村々に入ったため、行く先々で地元の顔役や官憲たちとカメラや撮影巡って、きわどい交渉を行うことになった。

こうした取材で、撮影データを守るためにできることはただ一つ。記録したカードの映像データをできるだけこまめに外部ディスクにコピーし、複数に分けて保管することだ。万が一、SDカードが没収されても、コピーがあれば大部分のデータの消失は免れる。こうして、ナイジェリアやミャンマーに限らず海外の取材では、昼食の合間や移動時間など、撮影が一区切りつくごとに、SDカードのデータをバックアップするようになった。

数時間の撮影で、200カット以上の素材を撮影することもある。移動中や昼食時間を使ったバックアップに費やせる時間はわずかしかない。そんなとき、コピーのスピードは非常に重要で、データ保全の心のよりどころとなっている。

 

撮影装備の軽量化とストレージ

現在、私は撮影案件の内容に合わせて、パナソニックのGH5かキヤノン  EOS C100 Mark IIを使用している。いずれの場合も、同じカメラを2台使用することが多い。 特に、VICE Japanやヤフーニュース特集の映像取材では、ナレーションを用いない「ノーナレ編集」を行うため、インタビューが重要な構成要素となる。ジャンプカットを避けるため、インタビューはアングルや画角を変えた2カメでの撮影を行う。機材は、カメラ・レンズと三脚が2式にワイヤレスマイク、LED照明が基本構成となる。さらにスライダーを持参することもある。

ナイジェリアやミャンマーなど辺境地の取材では、こうした撮影をワンマンで行うことも少なくない。特に安い航空券や小型旅客機を利用する場合、機内持ち込みが7kgで預かり荷物も23kgに制限されることもある。割高な超過料金を避けるためには、極限まで無駄な機材は省き、Tシャツや下着の枚数さえも厳しく管理する。

サンディスクのエクストリーム900を導入する以前は、MacBook Pro15(2014年)とThunderbolt接続が可能なウエスタンデジタル社製のMy Passport Pro 4TBの組み合わせで使用していた。My Passport Proの堅牢なアルミ筐体は放熱性も高く信頼感も高かったが、USB接続のポータブルHDD3台分ぐらいの大きさと重量がネックであった。

現在は、インターフェイスがUSB-Cに集約されたMacBook Pro15(2017年)を導入し、エクストリーム900(1.92TB)との組み合わせで使用している。軽さとスピードを兼ね備えた、唯一無比の選択肢となった。


▲メインカメラはキヤノンEOS C100 Mark II(写真)とパナソニックGH5。それぞれ2台所有し、同じカメラを2台使用することが多い。

 

SDカードの運用と編集

ロケでは、バックアップが終わったSDカードも、初期化せずに保管するようにしている。事務所に戻って、母艦として使用しているRAIDを組んだHDDにデータをコピーした上で、編集が終わるまで、データは消さずに残しておく。以前はこの母艦のRAIDストレージを編集用の元データにしていたが、エクストリーム900を導入してからは、このポータブルSSD上のデータを直接編集することが多くなった。転送速度が速く、外付けのポータブルストレージでもストレスなく編集できるので可能になったフローだ。

外出時やロケ先ではMacBook Pro15(2017)とエクストリーム900だけで編集を行い、事務所では34インチのワイドモニターを繋いで編集を行なっている。本来は、編集用にiMac27インチがあるのだが、実写のカット編集がメインなので、ノートPCでそのまま編集まで行うことが多くなった。

当初は、ロケ用のポータブルストレージとして導入したエクストリーム900だったが、スピードとコンパクト性の恩恵が想像以上に大きく、結果的には外出先から編集中まで常用するようになった。2年間ほど使用しているが、今のところ一度もトラブルもなく、過酷なドキュメンタリー撮影の頼もしい相棒となっている。


▲外出時やロケ先ではMacBook Pro15(2017)とエクストリーム900だけで編集を行う。編集ソフトは、外部のスタッフとの連携やクライアントの指定がある場合は、Premiere Proを使うが、指定がなければFinal Cut Pro Xを使って編集することが多い。データの取り込み時に、取材案件ごとのライブラリを作成し、撮影日や内容ごとに素材を分けて整理する。母艦のRAIDストレージにも同じライブラリを保管しておき、XMLデータのやり取りで行き来できるようにしている。

 

◉岸田浩和(きしだひろかず)
フリーランスライター時代に、撮り始めた短編ドキュメンタリー作「缶闘記」(2012年)が、5ヶ国8箇所の映画祭にノミネートしたことをきっかけに映像制作に転身した。京都の有名料亭の閉店を追いかけた「Sakurada,Zen Chef」は、2016年のニューヨーク・フード映画祭で最優秀短編賞と観客賞を受賞。株式会社ドキュメンタリー4を設立し、シネマカメラやミラーレスカメラを使った少人数撮影と、ノーナレーション方式の編集を特徴に、VICE、Yahoo!ニュースなど、Webニュースメディア向けのドキュメンタリー取材を行う。現在は、ドキュメンタリー取材のノウハウを活かし、Google、妙心寺退蔵院など企業や法人のプロモーション映像制作にも携わっている。www.kishidahirokazu.com

 

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