「人に近づいて撮れる」「狭い空間を通り抜けられる」これまでの空撮ドローンでは難しかった映像表現が可能なマイクロドローンが注目されている。この連載では初心者が導入にあたってつまづきそうなポイントを中心に解説していく。

 

文●青山祐介/構成●編集部

講師●田川哲也ドローンにも使われている、アイペックスコネクターの設計を本職とするドローンエンジニア。まだドローンを「マルチコプター」と呼んでいた6年ほど前から、空撮用ドローンを製作し始める。2014 年からレーシングドローンの製作も手掛ける。Facebookグループ「 U199 ドローンクラブ」の発起人、管理人。2016 年 ドバイ国際大会日本代表チーム エンジニア。現在 DMM RAIDEN RACING チーム エンジニア。

 

電波のこと抜きにマイクロドローンを語ることはできません。電気エネルギーを空中に輻射して信号を伝えるのが電波で、電波を送り出す送信機とそれを受け取る受信機を利用します。電波は社会生活のあらゆるところで使われていて、例えばみなさんがお持ちのスマートフォンやWi-Fiルーターも立派な送受信装置です。

日本国内で電波を利用するには、原則として電気通信を所管する総務省の総合通信局に申請をして、無線局としての免許を受ける必要があります。また、この無線局を操作するには、無線従事者の資格が必要となります。

さて、ドローンで使われる電波は主に2つ。プロポで機体を操縦するための電波と、FPVで飛行する場合にカメラで撮影した映像を機体からゴーグルに伝送するための電波です。操縦用の電波はおもにWi-Fiと同じ2.4GHz帯の周波数を使います。この電波は「小電力データ通信システム」という扱いで、無線装置が技術基準適合証明(技適)を受けていれば免許不要で利用することが可能です。

DJIの空撮用ドローンなどでは、操縦の電波にカメラが撮影した映像のデータを多重して伝送しているため、たとえFPVで飛行する場合でも、電波に関する免許は不要です。しかし、マイクロドローンに使われるフタバをはじめとしたラジコン用送受信機のシステムでは、映像を伝送することができません。

そこでマイクロドローンでは、映像伝送用にVTX(映像伝送用送信機)を搭載します。広く市販されているVTXは5.7GHz前後の周波数帯を利用しているものがほとんどで、この周波数帯が日本では5.6G Hz帯(5.650〜5.850GHz)のアマチュアバンドに該当するため、「ATV(アマチュアテレビ)」のアマチュア無線局として開局し、利用している人がほとんどです。このアマチュア無線局として運用する場合は、アマチュア無線技士の資格が必要となります。

マイクロドローンに搭載済みのVTXや、自作機で使う汎用のVTXは、当然ながら技術基準適合証明を受けていません。ただ、アマチュア無線では無線機を自作することが認められおり、VTXは“自作の無線機”という扱いで、総務省が定めた「保証」という制度を使って、アマチュア無線局として申請することができるのです。

一方、マイクロドローンを撮影などの業務目的で使う場合に、アマチュア無線局として開局したVTXを使用すると電波法違反となります。そこで日本国内では、ドローンやロボットのために2.4GHz帯と5.6GHz帯に設けられた「無人移動体画像伝送システム」の無線局として、免許を受けた専用のVTXを利用することになります。この場合は陸上特殊無線技士以上の資格が必要です。

ドローンで使用する周波数は920MHz帯、2.4GHz帯や5.6〜5.8 GHz帯といった、国際的にISM(産業科学医療用)バンドの中に含まれ、同じ周波数やすぐ隣の周波数を重要な社会インフラが利用しています。また、各国で電波の周波数割が異なります。

例えば、920M Hz帯は海外では強力な電波で使われ、通信機器はそのような強い電波があることが前提で運用されていますが、日本は強力な電波がない(いわゆるプラチナバンド)ため、ISMバンドの通信機器は微弱電波で通信が行われます。海外で使って問題がないからといって、日本で問題が起こらないとは言えないのです。

そのため技適を得てない、つまり出力や電波の質が他の機器に影響を与える恐れのある無線機を使用したり、アマチュア無線用VTXを業務利用するといった目的外通信は絶対に行わないようにしましょう。

 

ドローンで使用する主な電波の周波数帯


▲ドローンで使われる主な電波と同じ周波数帯の電波で使われているものの例。

 

操縦用電波は2.4GHz帯が主流

従来までのラジコンではその操縦に27MHz帯、40MHz帯、72MHz帯、73MHz帯が使用されてきたが、最近では2.4GHz帯を採用するものが増えている。ドローンでは2.4GHz帯を採用するものが主流となっている。機体の操縦とFPV用途の画像転送に電波が使われる。DJIなどコンシューマー向け製品は主に2.4GHz帯が採用されている。

電波の届く距離を伸ばすための装置は使用不可

海外のECサイトやラジコンショップでは技適認証のとれていないプロポや操縦電波の距離を伸ばせる「ロングレンジモジュール」が販売されているが、電波法違反となるため、日本国内での使用はできない。こうしたモジュールが採用している900MHz帯は日本ではISM帯(工業・科学・医療用)としても使われており、強力な送信出力で深刻な影響を及ぼしてしまう。

 

映像伝送には無線従事者免許と無線局免許が必要

▲趣味と業務で使用する電波、必要な資格、無線局が異なる。具体的な申請方法や手続きの流れは次回以降で解説する。

 

総務省・関東総合通信局に聞きました!不法電波の取締の実情

日本の電波行政を所管する総務省では、特に重要無線通信に混信・妨害を与える不法市民ラジオや不法パーソナル無線局のほか、不法アマチュア無線局や海外規格の無線機といった、不法無線局に対して、監視、取り締まり、指導といった対策を実施しています。

その要となるのが「DEURAS(DEtect Unlicensed Radio Stations)」と呼ばれる電波監視システムです。総合通信局の庁舎や携帯電話基地局など全国約350カ所に設置したセンサ局を使用して、不法無線局の位置を特定。さらに不法無線局探索車を不法無線局の近くに出動させて電波の発射源を突き止めます。そして発見した不法無線局には行政指導を行い、さらに悪質なものについては告発も行なっています。

DEURASは関東総合通信局のセンタ局で24時間365日、全国を監視しています。さらに、電波法80条で無線局の免許人には、不法無線局を発見した場合に総合通信局への報告を義務付けているほか、一般の国民からの申告も受け付けており、不法無線局は常時監視の下にあるといっていいでしょう。

ドローンを飛ばすうえで電波法を順守するのは当然のこと。さらにこうした監視の下にあるということもお忘れなく。

DEURASシステムにより不法電波を特定

全国約350ヶ所に不法電波を検知するアンテナを備える「センサ局」があり、「センタ局」と光回線を通じて各センサ局の情報が送られてくる。専用のDEURAS端末を使用し探索。関東総合通信局では深夜・早朝・休日も常時監視を行なっている。

不法無線局探索車

外観は至って普通のワゴン車だが、天井に不法電波を見つけるアンテナ、後部座席には各センサ局の情報を見られる端末やエンジンを止めても探索ができるように大きなバッテリーも備えられている。

 

摘発の現場

不法電波を特定したら、注意喚起を促し、それでも改善が見られない場合は、警察と共同で取締を実施する。

 

ビデオSALON2019年9月号より転載