マイクロドローンで通常のドローンでは飛ばせない、狭い空間を通り抜けたり、アクロバットな飛行を空撮映像に取り込みたい人々に向けて、映像撮影用の「CineWhoop」をテーマに毎回気になる動向を紹介していく。

文●青山祐介/構成●編集部

 

 

vol.1 CineWhoop(シネフープ)ってなんだ?

 

CineWhoopとはダクト(プロペラガード)のついた、プロペラサイズ3インチのドローンにGoProを載せたドローンのことをさしていたが、BETAfpvを中心とするマイクロドローンメーカーもGoProの外装を剥いで軽量化したものを「CineWhoop」の製品ラインナップとして発表している。最近ではHD、4K撮影に対応するマイクロドローンもCineWhoopと呼ばれることが多くなっている。

 

 

マイクロドローンの歴史と最新事情をお伝えしてきた本連載。前号(2020年6月号)ではそのなかで「CineWhoop(シネフープ)」という言葉を使いました。今回からは装いも新たに、このCineWhoopについてもう少し詳しく紹介していきたいと思います。

CineWhoopとは、もともとはダクト(プロペラガード)が付いた3インチのプロペラサイズの機体に、GoProを載せてギリギリ飛べるペイロードをもったドローンのことです。このCineWhoopのベースとなる3インチ機は、ドローンレースで使われるプロペラサイズ5インチのドローンに比べてペイロードがとても小さく、飛行する様はまさに“一生懸命飛んでいる感じ”。

スロットルワークに対する機体の挙動が緩やかで、操縦感覚がレース機とはかなり違うため、GoPro搭載の3インチ機を上手に飛ばすには、慣れるまで練習が必要です。しかし、この機体で撮影した映像はステディカムで撮ったような映像となり、まさにシネマティックな映像が撮れることから、マイクロドローンの源流でもある“TinyWhoop”をもじってCineWhoopと呼ぶようになりました。

こうしたCineWhoopの3インチ機に限らず、撮影を目的にしたドローンのフレームは、設計がレース機とはやや異なります。というのもレースでは、コースのコーナーをすばやく旋回して通過するために、ロール方向の運動性を重視して、左右のローターの幅を狭くする設計となっています。

一方、撮影向けのドローンでは、飛行の美しさを求める“フリースタイル”機と同じように、ローターの前後方向よりも左右方向の幅を広くして、ロール方向の安定性を求める傾向があるようです。こうした機体のスタイルの違いは、顕著に3インチのCineWhoop機に見てとることができます。

 

FPVカメラ側で映像を記録する マイクロHDドローンの登場

さて、こうしたレースで速さを競うのではなく撮影のために飛ばしたいというニーズは、マイクロドローンのユーザーの間でも2018年頃から高まってきました。

ただし、マイクロドローンの場合、ペイロードの制限からFPVカメラと別にGoProのような撮影用カメラを搭載することは不可能です。だからといってゴーグルで受信したFPVの映像はアナログで解像度も低く、とても映像作品の素材としては使えません。

そんな状況を一転させたのは、RunCamやCaddxといったFPVカメラのメーカーから登場した、フルHD映像を機体側で記録できるカメラモジュールです。これらのカメラはFPV用の映像をVTXに出力するのと同時に、カメラの基板に挿したマイクロSDカードにFHDの映像を記録することが可能になりました。

その上、従来のFPV用カメラモジュールとほとんど変わらない構成であるためマイクロドローンにも搭載が可能で、これらのカメラを積んで撮影を楽しむユーザーが一気に増えることになりました。

さらに、2019年に入るとパッケージ化されたマイクロ機として人気を博していたBetaFPVが、こうした映像記録可能なFPVカメラを搭載したBeta85X HDをリリース。

そして、4K映像の記録が可能なBeta85X 4K、より小型のBeta75X HD、加えて65サイズ機でFHD撮影を可能にしたBeta65X HDと、CineWhoopカテゴリのモデルを充実させていきます。それまで、キットやパーツを集めて撮影向けの機体を作らなければならなかったものが、誰でもこうしたドローンを買ってすぐに撮影ができるようになったのです。

 

必要最低限まで“剥いだ” GoProをマイクロ機に搭載

2020年に入ると、FPVカメラの映像に飽き足らないユーザーの間で、GoProを分解してカメラや基板を取り出し、撮影に必要なパーツのみをマイクロドローンに搭載するムーブメントが起こります。

日本では“剥ぎPro”、海外では“Naked Camera”などと呼ばれ、85〜95クラスのマイクロ機にマウントを介してバッテリーや液晶ディスプレイなどをそぎ落としたGoProを搭載。撮影できる映像はGoProそのものと、ある意味で本来のCineWhoopに先祖返りしたと言えなくもありません。

さらに、BetaFPVは、なんとこの“剥ぎPro”を“GoPro Lite”として自社で製作し、Beta95Xに搭載したモデルを試験的にリリース。現在はBeta85/95X for Nakedとして、ユーザーが自作した剥ぎProを搭載できるようにしたモデルを販売しています(HERO 6・7に対応)。

ただし、GoProを分解して販売しているマウントに取り付けるのはユーザーが行うことになります。壊さないように分解する技術が必要です。ハードルが高いことは理解しておきましょう。

 

CineWhoop映像を撮影する目的で設計

一般的なドローンは4つのプロペラが均等な角度で配置される「TrueX」タイプのフレームを採用している。各モーターの中心からの垂直が距離等しく、ロール・ピッチ・ヨーすべての軸で同じレベルの安定性を持つ。CineWhoopは「フリースタイル」と呼ばれる飛行の美しさを競うドローン競技で使われるもので、GoProなどのアクションカメラを搭載するスペースを確保するため「Wide X」を採用するものが多い。Wide Xはロール軸の安定性が向上し、スピードを求めない飛行に向いたフレーム構造。また、レース機では「Scratch X」を使うユーザーもいる。これはロール方向の回転がしやすく、レーシングコースのコーナリングがしやすいという特性がある。

空撮用とレース用はフレームの角度が違う

 

RunCamやCaddxからフルHD・4K撮影対応のカメラモジュールが登場

▲Caddx Tarsier 4K

▲RunCam Split 2

 

 

 

代表的な市販されているCineWhoop

Shendrones Squirt V2

2018年12月発売/96.99ドル(GetFPV販売価格)

人に近づいて撮影するために開発された機体。この機体からCineWhoopという言葉が生まれたといっても過言ではない。フレームのみでの販売となり自分で組み立てる必要がある。

【SPEC】プロペラ軸間:160mm/プロペラ:3インチ/重さ:約240g(バッテリーなし)/バッテリー:3S-4S

 

 

iFlight BumbleBee HD V2

2019年12月発売/409.99ドル(メーカー直販価格)

iFlight Megabeeの進化版となる。DJIのデジタルFPVシステムを搭載しており、日本では業務用として運用が可能なBNF(コントローラーなしの単体販売)機体となる。

【SPEC】プロペラ軸間:146mm/プロペラ:3インチ/重量:約256g(バッテリーなし)/バッテリー:3S、6S

 

 

Diatone MXC TAYCAN

2019年12月発売/199.99ドル~(メーカー直販価格)

Bumblebee同様にプロペラガード部分にウレタンが巻いてあり周囲への安全性と自身の耐損傷性を備える。こちらはアナログカメラ搭載機なので、アマチュア無線での運用ができるBNF。

【SPEC】プロペラ軸間:158mm/プロペラ:3インチ/重さ:約295g(バッテリーなし)/バッテリー:4S 、6S

 

 

BETAfpv Beta85X for GoPro

2020年6月発売/169.99ドル(メーカー直販価格)

Beta85Xの機体をベースに設計。GoProの外装を剥いで軽量化したGoPro Lite Cameraを搭載して使う。GoPro Lite CameraはGo Pro HERO6をベースとしており手ブレ補正は非搭載。Beta95Xのモデルも併売されているが、技適の問題で日本では使用できない。

【SPEC】プロペラ軸間:85mm/プロペラ:2インチ/重量:約67g(GoPro Lite Camera・バッテリーなし)/バッテリー:4S

▲別売のGoPro Lite C amera(199.99ドル)

 

BETAfpv Beta85X 4K

2019年6月発売/259.99ドル(メーカー直販価格)

マイクロドローンとして初めて4Kに対応。カメラはCaddx Tarsier 4Kを搭載。当初はカメラ設定に使うWi-Fiの技適が通っていなかったが、その後日本でも使用可能に。85XにはHD版もある。

【SPEC】プロペラ軸間:85mm/プロペラ:2インチ/重量:約88g(バッテリーなし)/バッテリー:4S

 

 

BETAfpv Beta65X HD

2020年3月発売/169.99ドル(メーカー直販価格)

BetaFPVの最軽量機65XシリーズもHDカメラを搭載。これまでこのクラスのマイクロドローンでは録画ができず、主に練習用として使われてきたが、HD撮影が可能になり、人気を集めている。

【SPEC】プロペラ軸間:65mm/プロペラ:31mm/重量:約30g(バッテリーなし)/バッテリー:2S

 

 

CineWhoopのTechネタ

この連載を監修してくれているドローンエンジニアの田川さんがCineWhoopでキレイな映像を撮るためにメカニカル的な観点でワンポイントアドバイス!

監修 田川哲也

ドローンにも使われている、アイペックスコネクターの設計を本職とするドローンエンジニア。Facebookグループ「 U199 ドローンクラブ」の発起人、管理人。現在 DMM RAIDEN RACIN G チーム エンジニア。

 

映像を見る人が映像酔いしないようにする飛ばし方とは?

機体の揺れが映像酔いの原因になる

まず右の2つの映像を見比べてみてください。これらは同じ5インチのレース用ドローンにGoProを積んで飛行した映像です。1つは3軸ジンバルに載せたGoPro HERO 6(手ブレ補正機能は非対応)、もうひとつは手ブレ補正機能を搭載したGoPro HERO 7を機体に直接固定しました。

撮影時はFPVゴーグルで見ながら自分で操縦して飛んでいるので、撮影者自身が映像酔いすることはありません。しかし、後から自宅の画面で見比べるとHERO7のソフトウェアによる手ブレ補正はレース用ドローンのような激しい動きの際、不自然な揺り戻しが起こり、映像酔いしてしまいます。

CineWhoopにはペイロードの関係で3軸ジンバルを搭載できません。CineWhoopの操縦自体は、練習すれば誰でも飛ばせるようになると思います。しかし、映像を見せるための飛ばし方という意味では、機体の揺れの少ない操縦をして映像酔いを避けることを意識する必要がありそうです。

 

GoPro HERO 6

CineWhoopよりも大型のASTRO X5というレース用ドローンにフェイユーテックのジンバルWG2を搭載。GoPro HERO 6で撮影したテスト映像。

 

GoPro HERO 7

同じASTRO X5という機体に手ブレ補正機能を搭載したGoPro HERO 7を載せて撮影したテスト映像。

 

 

VIDEOSALON 2020年8月号より転載