ワンマンオペレーションのビデオグラファーやYouTuberの間で名機として人気を博したLUMIX GH5。前モデルからおよそ4年の時を経て登場した後継機は2機種に分岐。今回は、先立って発売となるLUMIX GH5 IIを持ち出し、1本の単焦点レンズで、なおかつ三を使わず作品を制作。全編AFで撮り切った。作品制作を通じて感じた同機のインプレッションをGHシリーズを愛用してきたビデオグラファーの照山 明さんに語ってもらった。

映像●照山 明(ガイプロモーション)
文●高柳 圭
取材・構成●編集部・萩原
協力●パナソニック株式会社


照山 明 Akira Teruyama
日大芸術学部映画学科在学中、映像と演劇の融合を目指し発足した「ガイプロジェクト」に参加、以降、舞台映像、舞台撮影を中心に活動。一時ポスプロに在籍するが、1年後に退社しフリーに転身。2006年に株式会社ガイプロジェクトを設立。舞台制作と平行して企業VPを中心に映像制作を請け負う。2010年に社名変更。現在、株式会社ガイプロモーションの代表として多種の映像制作を請け負う。

 

『TSUKUBA BREWERY』

茨城県つくば市にあるクラフトビール醸造所「つくばブルワリー」。店主の延時崇幸さんはビデオグラファーとして映像制作会社を営む傍ら、地域活性化のためにビール醸造所をオープン。映像は延時さんのビールづくりの工程とともに、そこにかける思いや映像作りとの違いなどについてのインタビューで紡がれる。

 

 

パナソニック LUMIX GH5Ⅱ

GH5の性能を踏襲しつつも操作性が大幅に向上

6月25日に発売となるGH5の後継機。従来機をベースとしつつも4K/60p 10bit の内部記録やV-Log Lを標準搭載。さらにはUIや映像処理エンジンも 刷新され、カラーサイエンスなども見直されている。スマートデバイスとの無線ライブ配信機能も装備 。

オープン価格
https://panasonic.jp/dc/products/g_series/gh5m2.html

 

 

──照山さんはご自身の仕事のなかでもLUMIX GHシリーズを使用されています。GHシリーズ使い始めたきっかけは何だったのでしょうか?

私は普段、企業のPR映像をはじめ、舞台撮影など長時間の映像制作も多いため、仕事で使う機材では映像のクオリティーはもちろん、撮影時のトラブルが少ない信頼性の高い機種を重視しています。GHシリーズを使うことになったきっかけは、海外での撮影の経験からでした。

タイで撮影した時に、別のメーカーのカメラを使っていて、現地の気温の影響で熱停止が起こってしまい、インタビュー中だったので大変な思いをしました。その後、熱への対策を始め、耐久性に優れた機種を調べるなかで、当時のGH1に出会います。最初はマイクロフォーサーズのセンサーがコンパクトであることが心配でしたが、単焦点のレンズと組み合わせた時の映像の雰囲気もとても良く、GH2を使い始めました。並行して同じくパナソニックのシネマカメラで、個人的に名機だと思っているAG-AF105を使ったりして、レンズも揃えて、マイクロフォーサーズのファンになっていきました。また、その後にGH4で舞台を撮影した時に、3時間近い作品を4K/30pで、バッテリー1本で撮影できたこともGHシリーズへの信頼感を確固たるものにした経験です。

 

──今回の撮影ではビールづくりの工程から物撮り、インタビューなどで新しいGH5 Ⅱを試してもらいましたが、使ってみての感想を教えてください。

最近は、フルサイズのLUMIX S5も使っていて、マイクロフォーサーズのGH5 Ⅱがどの程度のクオリティーで画づくりができるかに注目していました。私がS5でエモくて気に入っているカラーフィルム風の「L.クラシックネオ」を始め、以前のGH5にはなかったフォトスタイルが搭載されている点は魅力だと思います。シネマルックな「シネライクD2」や「シネライクV2」、モノクロのポートレートにも向く「L.モノクロームS」の他、個人的には自然だけど柔らかい雰囲気のある「フラット」もおすすめしたいです。撮って出しの映像がすでに完成品レベルで仕上がっているのは、これから映像制作を始める人にもやさしいですよね。

あとは今回のモデルからGH5では未対応だったカラーサイエンスが搭載されたことで、例えばS5のサブカメラとしてGH5 Ⅱ使う場合、撮影データの色が合わせやすいというのも撮って出しの現場では助かります。

 

GH5 Ⅱに新たに加わったフォトスタイル

GH5Ⅱには新たに6つのフォトスタイルが採用された。今回からS1HやS5と同じカラーサイエンスとなったことで、GH5をサブカメラとして組み合わせた場合に困っていた色合わせが格段にしやすくなった。また前モデルではオプションとなっていたV-Log Lが標準搭載される。

CineLike D2
CineLike V2
フラット
L.モノクロームS
L.クラシックネオ
V-Log L

 

── 最近ではライトユーザーが求める映像のクオリティーも高くなって、Log撮影のデータから編集・カラーグレーディングするケースも一般的になってきています。

GH5ではオプションだった「V-Log L」も最初から搭載されているのもうれしいですね。GH5では4K/60pの記録モードは8bitになってしまっていたため、他のフレームレートで撮影した10bit素材と組み合わせて使う際に、グレーディング耐性が弱く、ジレンマに感じていたのですが、GH5 Ⅱではそこが解消されたことが大きいです。

今回の作品は4K/24pで仕上げています。インタビューカット以外のBロールはすべて4K/60pで撮影し、あとから編集ソフトで24pのタイムラインに載せて、2.5倍スローにしています。それを無制限記録できるのもうれしいポイントです。

加えてLog記録の映像に向けた無償のLUT「VARICAM LUT LIBRARY」もWEBサイトで提供されていて、Log記録の映像にLUTを当てて、簡単に様々な色や世界観を作り出すことができるので、グレーディングの初心者にも安心です。今回の作品もLUTを当てて、簡易的にコントラスト調整などを行なっただけで仕上げています。

またGH5 ⅡでV-Log撮影時、LUTを適用した後の映像をファインダーやモニターに表示する「V-Logビューアシスト機能」があるので、完成形をイメージしながら撮影できるのは現場の作業の効率化にもつながります。

 

VARICAM LUT LIBRARY

▲今回はV-Log Lで収録を行い、カラーグレーディングではパナソニックで無償提供しているVARICAM LUT LIBRARY(36種類を収録)から「Fashion2」というLUTを使用した。
URL●http://bit.ly/varicam-lut-libary

 

 

──機能面で言えば、撮影時に照山さんが「これは助かる!」と口にしながらGH5 Ⅱで初登場の様々な機能を試していたのも印象的でした。

映像制作者にとっては、映像のクオリティーが高いのは当然ですが、同時にいかに機能的で、スムーズに撮影できるかということも重要です。

例えば、AF機能は人物などのリアルタイム認識性能が向上していて、後ろ姿やマスクをした状態でも認識してくれるようになり、今回の作品では全編危なげなくAFで撮り切ることができました。さらにカスタムダイヤルにはAF速度や追従性を変えたプリセットを用意して割り当てて使いました。こうすることで撮影対象に合わせて即座に切り替えられます。

そして、コントロールパネルは最上位モデルのS1Hを踏襲した設計になっていて、各種設定が一覧しやすい。また、波形モニターはGH5でも表示できましたが、設定を変える瞬間表示が消えてしまっていたんです。GH5 Ⅱは常に表示されるようになりました。細かい部分ですが、こうした操作性に関わる部分がきめ細やかに改善されていて、より撮影に集中できるようになった感覚があります。

液晶モニターは輝度が6段階で設定できて、高輝度設定ならば屋外でも視認性が高く、フードがいらないくらいなので、様々な場所で撮影しやすくなるのも良いですね。

それから映像処理エンジンがBGH1などの最新世代のものに進化して、処理速度が向上したことで前述の4K/60pの10bit記録ができるようになったのはもちろんなのですが、撮影素材のプレビューでHDMIで外部モニターなどにつないで出力する時、サムネイルの一覧表示がとても早くなってストレスがないことに感動しました。

 

メニュー画面がS1Hベースに改良され、操作性が向上

AFのプリセットを作ってカスタムダイヤルに登録



▲今回は全編AFで撮影。「AFカスタム設定」でAFの速度と感度を設定。「カスタムモード登録」で任意の名前をつけて、カメラのモードダイヤルに割り当てている。今回は主にC1「AF Interview(写真2枚目)」とC2「AF Documentary(写真3枚目)」を使用。

 

1本のレンズでもふたつの画角を選べる


▲6K相当のCMOSセンサーを備えるGH5 Ⅱは、全画素を読み出すFULLと等倍表示のPIXEL/PIXEL(画角はクロップ。クロップ倍率は選択した解像度によって異なる)を切り替えて使える。照山さんはレンズ横のカスタムボタンにこの機能を割り当てて、即座に切り替えて使えるように設定していた。

 

見やすいコントロールパネル

▲S1Hと同様のコントロールパネルを採用。露出・録画モード・オーディオレベルなどが非常に見やすくなった。

 

AF性能が向上。逆REC防止の赤枠表示も

▲S5と同じ最新のAFアルゴリズムを採用し、後ろ向きの状態でもAFが追従した。人体認識や動物認識にも対応でき、AF精度が高まった。また、S1HやS5同様に録画ボタンを押すと液晶画面に赤枠が表示される逆REC防止の機能も。

 

前モデルよりもモニターが明るく見やすくなった


▲モニター輝度はオートの他、±3で調整可能。同じレンズを取り付け、同じ露出設定にした前モデルと並べてみると、かなり明るいことがわかる。

 

アスペクト比のガイド表示も拡充

▲今回、主にC4K 4:2: 2 10bit 23.98pで録画したが、最終の仕上げはシネスコのアスペクトにした。ガイド表示は前モデルから搭載されていたが、ガイド枠の色や不透明度を選べるようになった。

 

FIXショットでは手ブレ補正ブーストを活用


▲GH5Ⅱは6.5段の手ブレ補正を搭載。FIXでのブレ補正に向く手ブレ補正ブーストを使用すれば、三脚なしとは思えない安定した映像を手持ちでも撮影できる。

 

マニュアルレンズの登録数が増えた

▲電子接点を持たないレンズを使う場合には「レンズ情報」の登録をしておくとより精度の高い手ブレ補正が可能になる。前モデルは3つまでだったが、GH5Ⅱでは12のレンズを名前をつけて登録しておくことができる。

 

映像エンジンの刷新でサムネイル表示も高速に


▲撮影素材のプレビュー。前モデルでは再生モード時のサムネイル表示がもたついていたが、映像エンジンが刷新され、瞬時にプレビューできたのには驚いた。外部モニターに「LUTビューアシスト」で任意のLUTを当てて表示することもできる。

 

 

バッテリー容量が向上

▲バッテリーが新しくなり、容量が約18%アップ。S5と共用することもできる。また、前モデルのバッテリーをGH5Ⅱで使うこともできる。

 

 

──今回は25mm/F1.7レンズ1本で、三脚を使わずに撮影されていました。

マイクロフォーサーズのコンパクトさ、AF機能や強力な手ブレ補正を活かした撮影をしたいと考えました。レンズも初心者が買い求めやすいものを選びましたが、描写も豊かで満足いく撮影ができました。GH5 Ⅱは動画の撮影範囲を6Kの全部の画素を読み出すFULLと等倍表示のPIXEL/PIXELを切り替えながら撮影できるので、レンズ1本でも画角を変えることができます。AF設定もインタビューとBロールで使い分けつつ、さらに強化された手ブレ補正によって、フットワーク軽く、安定した撮影ができたと思います。

LUMIX G 25mm/F1.7 ASPH.

 

今回の撮影の裏側

インタビュー以外はC4K 60p 10bitで撮影

今回はGH5 Ⅱを導入した初心者を想定して、全編AFで撮影。三脚もあえて使用せず、手持ちで行なった。撮影に使用したのは上のレンズ1本のみ。実売2万円ほどで購入できる単焦点レンズだが、リッチな描写の映像を楽しめる。従来機では4K/60p撮影は8bitとなっていて、グレーディング時に苦労していたが、GH5 Ⅱでは10bitの内部記録に対応し、これが解消されたもの大きなポイントとなった。





 

──GH5 Ⅱは撮影の機能性に加え、5G対応端末等と連携したライブ配信機能も備えています。

今から動画制作を始めようとしている人の多くが、YouTubeを始めとする動画配信を意識した機材選びをしていると思います。私も定期的にライブ配信をしているので、この機能は気になりました。以前のGH5ではカメラからキャプチャーボードでパソコンにつないで配信する必要がありましたが、GH5 Ⅱはスマートフォンと連携し、そのまま配信できるようになっていて、スマホの電波の届く場所であればどこでも一眼画質で配信できます。スマホアプリは公開前だったので、今回はPC用ソフトのLUMIX Network Setting SoftwareでSDカードに配信設定を書き出して、Wi-Fi設定でiPhoneのテザリングの電波を指定して、車のなかや路上でテスト配信してみました。事前に設定を済ませておけば、スマホとカメラだけで手軽にライブ配信できるのは魅力的ですね。

 

──GH5 Ⅱはプロから初心者、幅広い層のニーズを満たすカメラと言えますね。

マイクロフォーサーズの特長を活かしながら、4K/60p 10bit記録やC4Kモードの撮影が可能で、S1HやS5などで培われた撮影機能やUIを採り入れながら、本体やレンズの価格帯が抑えられているのはすごいと思います。クリエイターの自由度を高めながら、求める世界観を表現するためのカメラとして、多くの人に使ってほしい1台です。

 

 

注目の新機能はライブ配信機能

配信の方法は2種類
スマホと組み合わせたライブ配信

▲カメラとスマホをBluetoothでペアリングし、「LUMIX Sync」アプリで配信設定を行い、ライブ配信。同じチャンネルであれば、YouTube※とFacebookは初回のみログインするだけで配信可能。ストリームキーを使ったRTMPによる配信方式も選択でき、Vimeo等のプラットフォームにも配信できる。

 

SDカードに設定を書き出して配信

▲「LUMIX Network Setting Software」で配信設定をSDカードに書き出し、SDカードをカメラに挿して、カメラ側でアクセスポイントを指定。右の手順で配信ができる。

 

LUMIX Network Setting Softwareでの配信設定の手順

▲LUMIX Network Setting Software」を立ち上げ、YouTube等の配信先で取得したストリームURLとストリームキーを入力、「次へ」。

▲SDカードへの配信設定の書き出し画面。

▲SDカードのデータにはSTREAMの設定ファイルが書き出されている。

▲SDカードをカメラに挿して、「Wi-Fi設定」で、まずはWi-Fi接続先設定をする。アクセスポイントを探し、初回のみパスワードを設定すれば、以後そのアクセスポイントは本体に記録される。

▲ここで、SDカードからさきほどのストリーム設定を呼び込む。

▲「配信先アドレス」にはストリームURLがきちんと設定されていた。

▲「ストリーミング機能」をONにすると、配信スタンバイ状態になる。

▲GH5Ⅱのシャッターボタンを押すことで、配信開始。モニターに青枠のフレームが点灯していれば、無事配信できている状態。

 

 

屋外での配信テストも

GH5 Ⅱでのライブ配信テストの模様は照山さんのYouTubeで。

 

6月18日に実施したYouTubeLiveのアーカイブ

 

VIDEO SALON2021年7月号より転載