第36回 ヒマスタ高円寺のレンズを M.ZUIKO PROにアップグレード!
写真・文◉川井拓也(ヒマナイヌ)
映画の切り返し手法を使ってバーカウンターでの 対談を配信!
4カメの自動スイッチングを使って無人で高品質な対談ライブを配信するというコンセプトではじまったのがヒマナイヌスタジオことヒマスタです。2017年に雑居ビルの一室を手作りのセットで装飾してヒマスタ神田を作り、対談コンテンツの制作をスタートしました。
対談コンテンツのカメラポジションで一貫しているのが映画の切り返し手法です。AさんとBさんが対面して話しているシーンを1カメがAさんの前ボケでBさんの表情を捉え、2カメがBさんの前ボケでAさんの表情を捉えるという具合です。
この手法は35mm換算で100mm以上のレンズを使うことが多くカメラポジションと共にレンズの性能が大切になります。撮影専用に設計したヒマスタ神田はこの1.2カメが被写体から近かったのでシグマの単焦点120mmでした。
一方ヒマスタ高円寺は居抜きの飲食店を改装してスタジオ化して観客も入れられるように設計したため被写体からカメラがかなり離れてしまったんですね。120mmでは満足いく画角にならず70-200mmの180mm付近を使っていたのですが、それでも物足りない感じがしていました。そこで今回思い切ってレンズをパナソニックからオリンパスに変えることにしました。
レンズごとに メーカーを変えるか? 全部入れ替えるか?
今回の主目的は1.2カメのセットレンズであるLUMIX G X VARIO 35-100mm / F2.8 II / POWER O.I.S.をM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROに変更することです。
この変更により35mm換算70-200mmから80-300mmと望遠寄りにシフトすることになります。アングルに自由度が出ること、そして三脚座リングがついているのでカメラの固定が安定するというメリットがあります。
ヒマスタは大きな三脚など演者にとって威圧感のある映像機材を極力使わず、バーの雰囲気を壊さないようにしています。クリップ三脚や小さくて華奢なテーブル三脚をあえて使っているので大きな望遠レンズの重量バランスがセンターにくるのは安定感の向上になります。
ここで問題になるのがその他の3、4カメはパナソニックのままにするか? オリンパスに変えるか? ということです。色の傾向が違うふたつのメーカーのレンズをライブスイッチングする場合は厳密な色調整が必要になります。今回はこの手間を省くために全レンズをオリンパスに変えることにしました。
▲M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROを装着したGH2。
対談用のオリンパスレンズ 4本のセレクトに悩む!
メインのセットレンズ2本のセレクトは最初から決まっていましたが他の2本は悩みました。まず全景ショットの4カメですがここは試行錯誤した経緯があります。24mmでは遠近感が出すぎて奥の人物がひっこんでしまい、40mmを試すも画面の密度がしっくりこなくて30mm(LEICA DG SUMMILUX 15mm / F1.7 ASPH.)に落ち着いた経緯がありました。
ところがこの30mmはオリンパスにはない焦点距離なんですね。そこでもっとも近いM.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROにすることに。35mm換算で34mmになるので演者のカウンター座り位置をカメラからそれぞれこれまでより10cmほど離して画角に収まるようにしました。
開放はF1.7からF1.2になったのでより大きなボケが作れるようになり引きのショットながら質感高いものになりました。3カメはゲストの横顔のアングルでこれまでは50mmと120mmを使い分けていました。ふたりの対談の場合は50mmで、3人の鼎談の場合は奥のゲストを120mmでという割当です。
ここにはM.ZUIKO DIGITAL ED 25 mm F1.2 PROとM.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PROにして35mm換算で50mmと90mmにしました。ヒマスタ高円寺のカメラボディはISO感度が3200までしかないGH2なのでF1.2レンズはこれまでより感度が稼げるようになりました。
▲M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO、M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO、M.ZUIKO DIGITAL ED 25 mm F1.2 PRO、M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PROを購入。
M.ZUIKO PROは シャープネスが 圧倒的に素晴らしい!
同じセットと照明環境でレンズを変えての印象ですがシャープネスの向上は目を見張るものがありました。特にマニュアルフォーカスでピントを探っているときのビシッと合う感じは気持ちがいいものがあります。ズームレンズの粘りの質感も素晴らしくこのあたりは高級レンズならではの作り込みを感じます。AFからMFへの切替えをショットガンのようにリングをカチッと引く「MFクラッチ機構」はオリンパスレンズのお家芸。GH2のAFはHDMIスルー信号を使っている時は実質使えないのでお預けになりますが、いずれボディを最新機種にアップグレードした時が楽しみです。マルチカメラシステムをマイクロフォーサーズでこれから組む場合はボディ「GH5Ⅱ」にレンズ「M.ZUIKO PRO」の組み合せがオススメです!
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次回はポッドキャスト用「ZOOM PodTrak P8」は配信ミキサーとして使えるか?をお届けします。
PROレンズで撮影した映像
●VIDEO SALON2021年9月号より転載