第17回 PAを使う公開収録型の対談に適した マイクの選び方

写真・文◉川井拓也(ヒマナイヌ)

 

 

検証動画・対談に適したマイクはなにか?

バウンダリーマイク、グースネットマイク、ヘッドセットマイク、それぞれの特徴とメリット・デメリットの解説を交えながら、実際にどんな音が録れるのかを解説。

 

 

ライブ配信と収録に PAが加わると マイク選びが変わってくる!

ヒマスタでは対談を15人から20人の来場者が聞くという公開収録型のイベントも増えてきました。番組出演者の生声をそのまま聞けないこともないのですが、PAを使ってスピーカーから出してあげたほうが来場者の満足度も上がります。

しかし、ライブ配信と収録に使っていたマイクをそのままPA用にも使うと、いろいろと問題が出てきます。

まず一つが「ディレイ(画と音のズレ)」の問題です。カジュアルな価格帯のスイッチャーは必ずディレイが発生します。映像の処理に数フレーム分の時間を使うので、音声のほうが早くなってしまうのです。これがリップズレの原因となります。

そのために、音声を数フレームディレイさせて映像と音を違和感なくするわけです。このディレイ量というのはカメラからの遅延、コンバーターの遅延、スイッチャー本体の遅延など複数の要素があるので機材によって変わってきます。

ヒマスタ高円寺店の場合はテストした結果、VR-60HDのディレイ量は7.7フレームが最適値ということがわかりました。このディレイさせている音声を会場のPAスピーカーから出してしまうと自分がしゃべっている声が微妙に遅れて耳に入ってくるので、気持ち悪くなり出演者の方がしゃべれなくなってしまうのです。

 

前段にPA用の ミキサーを入れて ディレイする前の音を スピーカーから出す!

そこでスイッチャーより前段にPA用ミキサーを入れ、ディレイしていない音声を会場のスピーカーシステムから出すことにしました。スイッチャーにはそのPA用ミキサーの音をライン入力で入れてディレイをかけます。

次に問題になってくるのが、「ハウリング」です。バウンダリーマイクのような無指向性のマイクを使用するとスピーカーから出ている声をマイクが再度拾ってしまい、ハウリングの原因となります。そのため、ヒマスタでは単一指向性のマイクを使っています。今回はバウンダリーマイク、グースネックマイク、ヘッドセットマイクの3種類を比較テストしてみました。

 

無指向性で 周囲の音を拾いやすい バウンダリーマイク

今回使用したバウンダリーマイクは、オーディオテクニカのAT841UG。机に置いて設置するので、飲み物などグラスを置いたりする音をよく拾ってしまいます。そして、無指向性ということで周囲の環境音も含めてまんべんなく録音されます。

「平面型なので設置しても画のなかで目立たない」、「出演者が頻繁に入れ替わるような配信に向いている」「ゲイン調整が比較的簡単」という特徴がある一方で、これはメリットでもデメリットでもありますが、感度が良すぎるため、車の通過音や後ろで人が笑っているとその笑い声も入ります。環境音を生かした配信には向いていると言えるでしょう。

 

設置の簡単な単一指向性の グースネックマイク

タスカムのTM-95GNはネット配信などに向けて作られたコンデンサー型のグースネックマイクです。会議室などでよく見るタイプのフォルムで根本と先の2箇所が自由に曲げられます。

このタイプのマイクは出演者の口元に近づけやすくかつ設置も置くだけなので簡単です。設置のコツは出演者の口元からマイクまでこぶしひとつ分くらいあけること。そして正面すぎるとポップガードのスポンジがあっても吹かれてしまうので少し下から出します。

単一指向性なので正面の声だけを拾います。飲食店型のヒマスタは外の環七を通るクルマの音などがよく聞こえるのですが、グースネックを使うとうまく周辺ノイズを抑えてくれます。

 

話者が動いても マイクの位置が変わらない ヘッドセットマイク

シュアーのWH20XLRはヘッドセット型のダイナミックマイクです。スポーツインストラクターが使うようなスタイルで耳にかけて口元にマイクを配置します。ヘッドホントは異なり、髪の毛のスタイルを壊さない構造なので女性にも装着しやすいマイクです。マイク部分はダイナミック型なので大きめですがどんなに動いても口とマイクの距離が変わりません。絵的にはいかにもセミナー講師というものになりますし飲食しながらの対談などには向いていません。パワーポイントやキーノートをめくりながらの対談などビジネス系にはフィットします。音質はコンデンサー型に比べると細い感じになりますが声はクリアに集音できます。

単一指向性のグースネックとヘッドセットが両方あると状況に応じて適したものを選べるのでPAを使う公開収録型にも柔軟に対応できるようになりました。

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次回は背景幕を使ったスタジオ構築についてお送りします。

 

 

テストで使用したマイク

・バウンダリーマイク


オーディオテクニカ
AT841UG
1万円前後(生産完了品)

 

 

・グースネックマイク


タスカム
TM-95GN
オープン(11,000円前後)

 

・ヘッドセットマイク

シュア
WH20XLR
8,778円

 

 

ビデオSALON2019年12月号より転載