今年のNABで最大の話題といえばやはりパナソニックのAG-DVX200だろう。
カメラの型番は、フォーマットが変わるとどのメーカーもハイフンの前のシリーズがかわったり、番号の前が変わったりするものだが、今回のDVX200は、シネライクガンマと24pで一世を風靡したAG-DVX100の後継機であることを強烈に意識した型番だ。
▲5月12日開催されたパナソニックのNAB国内展示会において、DVX200のモックアップが展示された。残念ながら画質は見ることができなかったが、レンズの3連リングは回転し、液晶パネルが引き出せるなど可動する部分もあるモック。レンズも実際のレンズが組み込まれ、持ったときのバランスは実機に近い感じだったが、電源は入らない。
実は、これまでパナソニックのビデオカメラの歴史の中でも、DVX100の後継的存在といわれたカメラはあった。
P2カードを記録メディアに採用したHVX200もHD時代のDVXということだったし、
HD化して全体にカメラが重くなってしまったのに対して、HMC155というSDカードに記録するカメラは、より小型軽量でDVX100のプロポーションに近いものだった。
HMC155が出たときは、これこそDVX100の後継、といった言われ方をしていたものだった。
しかし、あのエポックメイキングなDVX100を超える話題は提供できなかった。
そこにきて今回のDVX200である。
キャッチフレーズはTHE DVX 4K。
「DVX」といえば、かつてのユーザーや業界の人たちはDVX100を連想する。
4K時代の「DVX」というわけだ。
ただDVX100というのは2000年代初頭のカメラ。その神通力は私のようにDVXに衝撃を受け、いまだにDVXくらいのカメラがいいよなあと思っている人には通用するが、果たして今のユーザーに響くのかどうかは、正直、よく分からない。
DVX100のころとは時代が違うからだ。
あの当時はDSLRで動画を撮る文化というのはまったく存在しなかった。被写界深度の浅い映像というのはビデオユーザーは誰も手に入れられなかったし、望むことすらできなかった。
しかし今はDSLRがある。
パナソニックは、AG-DVX200の開発コンセプトとして、
「DSLRの表現力」と「レンズ一体型カムコーダーの操作感」の融合だという。
DSLRは大判センサーにより、高感度、高解像度、ダイナミックレンジの高い、素性のいい映像を簡単に手に入れることができる。またレンズ交換により、感度を補ったり画角表現のバリエーションも自由自在だ。一方で動画撮影では使いにくい部分もあるよね、とずっと言われてきて、それを解消する機能やリグなども発展してきたが、それでもオートフォーカス性能やズームなどのレンズ関連、機動力などでは、ビデオカメラにはかなわない。
だから、画質と操作性をこのカメラで融合させるというのがコンセプトなのだろう。
当然、これからのカメラなのだから、4Kが撮れなければならない。
しかもビデオカメラなのだから、4Kは30pではなく、60pでなくてはならない。
DVX200で注目なのは、4/3インチサイズのセンサーで、4K/60pをこのサイズで実現したというところだろう。
4K/60p撮影時は、2スロットのデュアル記録はできず、またHDMIからの4K出力もできないという(30p時は可能。4K/30pならフルHDとのデュアル記録もできるという)。
当然ボディも新規設計になる。4/3型センサーと13倍ズームレンズを一体化し、広角28~360mmのズームレンズをこのサイズに収めたというのは大変なことだ。このところのパナソニックのハンドヘルドはズーム倍率があがったこともあるが、フィルター径が80mmを超えるカメラがざらだったが、DVX200は72mmに押さえている。やはりフィルターなどを考えると、できるだけ汎用のものに合わせたほうがメリットがある。
バッテリーは後部に挿入するタイプ。ボディ後部は大きく開き、バッテリーは横にして突っ込むかたち。バッテリーのスロット内は余裕があり、さらに大容量のバッテリーも用意される予定だという。大容量のバッテリーであっても、後ろに伸びるのではなく、ボディの中に収まる。筐体は全長の半分以上がレンズ(センサーも組み込まれた)になり、カードスロットのすぐ後ろは、バッテリースペースになる。
メイン基板はグリップの内側に前後方向に立てられており、その横に空冷ファンを入れ前からの吸気を後ろに排気することで熱を逃がしている。
液晶パネルは、4.3インチとこれまでよりも大型化された。4Kのシビアなフォーカスを確認するには、これくらいのサイズは必要ということか。
レンズはメカニカルなズーム機構はもちろん、アイリス、フォーカスともに業務用ズームレンズの操作性に近いもの。モックアップであったが、フォーカス、ズームリングとも感触はよく、この部分にはこだわりたいという意識は感じられた。
この数年でもっとも進化したのは、レンズの設計なのかもしれない。ちょっと前までは、4/3型センサー用の13倍ズームレンズをこのサイズに収める(しかも前玉は繰り出さない)ということは想像もできなかった。しかし現在は、非球面レンズの活用やズーム機構の工夫により、それが実現できるようになっている。しかもボディ側で周辺の歪や収差を補正するという技術も向上している。
しかし、一方でユーザーとしては、なんでレンズ交換式でなかったの?という意見もあるだろう。たとえばマイクロフォーサーズマウントにして、動画用のズームレンズを別に開発してくれればいいんじゃないという気持ちもある(ソニーのEマウントズームのように)。大半のケースではそのズームレンズを使用しながら、場合によっては、超広角や単焦点レンズを使いたいということはあるだろう。最近マイクロフォーサーズマウントのレンズが充実してきているから、なおさらそういう気持ちも募る。
それに対して、パナソニックの宮城邦彦プロフェッショナルAVビジネスユニット長(写真下)は、
「そういう声があることもわかりますが、この商品が実際に出てからお答えしたい」という。
「フォーカスアシストや手ブレ補正など、4Kではさらに精度を上げなければならないことが分かってきて、それはレンズ一体型設計でないときちんとした性能は出しにくい」と言うのだ。
実機の4K画質を見てもらえれば、パナソニックの判断が正しいことが分かるでしょう、ということだ。レンズ交換式にしてしまうのは簡単なことだが、それでは4K本来の性能とビデオカメラの操作性は両立できないということなのだろう。
パナソニックには、AG-AF105というマイクロフォーサーズマウントを採用したレンズ交換式のビデオカメラも存在したが、その後継機は存在せず、今のところ噂もきかない。
レンズ一体型のDVX200とは別の路線で、レンズ交換型があってもいいのではないか?
と宮城BU長に水を向けてみたが、現状、そういったモデルが予定されているような感触は得られなかった。
レンズ交換式としては、すでにDSLRのGH4が存在している。単焦点や超ワイド、超望遠が欲しいようなケースでは、GH4を活用すればいいということだろうか。
すでにGH4ユーザーはかなり多いし、カメラ自体も安い。DVX200とGH4を用途に合わせて使い分けるというユーザーは、この秋から増えるかもしれない。
たしかにDVX200のファイル形式はMXFではなく、MOV/MP4。つまりGH4系と同じ。4KはIntraではなく、150MbpsのLong GOPで、これは同社家庭用ビデオカメラのX1000と同じ仕様だ。パナソニックが放送系で推進しているAVC-ULTRAではなく、よりクリエイター向けのPCで扱いやすいフォーマットを採用している。
価格はUSドルで5000ドル以下。日本円だと60万円前後だろろうか。国内での価格は別途発表するとしている。発売は2015年秋。
4K/60pが撮れるビデオカメラとしては、スペック的には決定版に近い。まずは4K、HDの画質を見てみたい。