取材のきっかけはDVCの中溝さんとの雑談だった。最近の中古ですぐに売れるのはNX30Jだというのだ。NX30Jと言われてもピンとこない。すでに生産終了になっているし、マニア受けするカメラでもない。ディレクターカメラならなんでもいいし、タレントにもたせる安いカメラということで売れてるだけでしょうという笑い話で終わった。
このカメラ。
その話が頭の片隅に残っていた。
ビデオサロン8月号(7月20日発売)で「今さらビデオカメラ特集号」というのをやろうということになり、もう少しビデオカメラというものを客観的に多角的に見てみようとしたときに思い出したのがNX30Jだった。
よくよくスペックをみると、最大の特徴は、空間光学手ブレ補正(通称:ギョロ目)が入っていること。家庭用のPJ760Vと基本スペックは同じでその業務用版。着脱式のハンドルとガンマイク、キャノン端子がつく。短いながらもハンドルがついている。LEDライトもあって、そこをふさがないような不恰好なフードが特徴的だ。
NX30Jがテレビの番組制作でどう使われてるか話が聞きたいと中溝さんに相談したら、オールミックスというレンタル会社を紹介していただいた。
赤坂にある株式会社オールミックス(aLL MiX)の江川智之社長にお話を伺った。
ーーオールミックスさんはいつからやられているんですか?
今年で10年目ですね。最初は虎ノ門のほうで始めて、4年前に赤坂に移ってきました。
ーーお客さんはどういう方が多いんですか?
メインは制作会社。次に技術会社。もともとぼくが技術をやっていたのでその繋がりで利用してもらっているところもあります。お仕事としてはやはりテレビ関係が多く、最近では、Abema TVとかLINEなどの配信系の制作会社も増えてきました。
ーーそれはもともとテレビをやっていた制作会社が配信に移っている感じですか?
今までテレビをやっているところがテレビ半分、配信半分みたいに移行しているような感じは見受けられます。新規に配信だけやっているという会社も増えてます。
ーーレンタルというのは配達、引き取りをやってるんですか?
そうです。この赤坂近辺を中心に港区を走り回っていますね。お台場でも世田谷でも行きますが。借りにいらっしゃるお客さんもいますが、基本的には会社に届けて、終わったら引き取る。それが圧倒的に多いです。もっとも今すぐ借りたいという人はここに来ますけど。
ーー制作会社は機材を持たない?
持っているんですけど、管理ができないんです。人が変わっていってしまったり、制作会社から局の常駐になってしまったりしますから。デスクを立てて管理できればいいのですが、やれてないところが多いですね。そうすると、パーツがなくなったり、バッテリーがなくなったりしてどうしようもなくなってしまいます。
オールミックスの窓口で。これから出荷する機材が床に並べられていた。
ーーオールミックスさんのようなレンタル会社に管理含めて任せたほうが効率的だと。
テレビのロケは、むかしはENGカメラで1カメでということが多くて、サブカメラというのはほぼなかった。ところがメインがデジ(ハンドヘルドタイプ)になってしまうと、借りる単価が安くなります。そうすると、じゃあ、もっと台数を増やして撮ろうという感じになります。ところが制作会社としては、いくら安いとはいえ、5台も6台も持てない。必要に応じて必要な台数を借りるほうがいいということでしょうね。
ーー今、カメラではどんなものが出ますか?
かつてはPD170とZ5Jくらいだったのが、ここ数年はいろいろなカメラが出るようになりました。バリエーションが増えてます。今はNX5Rがメインですが、指定でNX3とかNX5Jというリクエストも多いですね。古いものから離れないという業界ではあるんで、HDVのZ5Jもいまだに使われています。今日なんかもZ5Jが10台くらい出ていますし。お昼の某情報番組がZ5Jを好んで使っているので。
ーーZ5Jはテープで記録されているんですか?
テープですね。技術会社さんとしてはテープ記録だけでは怖いので、MRC1というバックアップのCFカードユニットをつけて使っていますね。テープだとさすがにドロップアウトとかタイムコードが飛んだりとか。ああいうのが多すぎて、最近ではテープはやめてほしいという傾向はあります。でも、Z5Jは10年以上いまだに君臨しているので、この業界では名機ですね。
オールミックスの店内で、スタッフが貸し出し機材をチェックしているところ。
ーー最新のNX5Rはどうですか?
最近ではNX5Rが主流になりつつありますが、2世代前のNX5Jを指定されることも結構多いんです。NX5Jはその当時はENGカメラのサブカメラとして使われれていましたが、今また出始めましたね。というのも、タイムコードがスレーブできたり、バックアップ用のHDDが横につけられるので。
ーーあ、それはNX5Rではできないんでしたっけ?
できないんです。その機能がなくなったから、NX5Jのほうをあえて技術会社が選ぶケースが多いですね。
ーーバックアップということでは、メモリーカードのディアルスロットがありますが?
デュアルスロットは使い手としてはリレーにするか同時記録するかですが、テレビの現場では圧倒的にリレーを使う人が多いです。たまに心配性で同時記録する人もいますが。リレーだとバックアップがとれないので、技術会社のほうが、HDDをつけたがります。というのもSDカードもレンタルで、多くのところはソニー純正のカードを使っていないので、何かあっても原因の究明をソニーではやってくれない。したがって保険をとる意味でもHDDを装着することが多いようです。ということもあって、NX5Jが残っているんです。
ーーさて、今回の主役のNX30Jなのですが。これもすでに生産終了ですが、人気ありますか?
NX30Jはメインカメラじゃなくてサブカメラですね。タレントさんに持たせるというケースも多いので。ソニーの民生用としてはAX700とかがありますけど、あのサイズじゃないんですよね。番組によってはタレントさんに持たせてということが多いので、あれではちょっと大きすぎる。このサイズがいいんです。機能もシンプルで。
ただ、一番多いのは音声収録用です。小さいんだけど、タイムコードも入れられて、音も入れたいということで、サブカメラのほうに音を入れてしまうわけです。
それから5D系など一眼がメインカメラのときに音だけNX30Jに入れるという用途もあります。つまり画は使わないけど音だけこちらのものを使うということですね。
カメラとしては、空間光学の手ブレが入っていて、ガンマイクがつけられるものはほかにはない。ここにさらにワイコンを使いたいという人もいるのですが、中の玉が動いて、時々ケラれることもあって、たまにクレームではないんですが、周辺に黒いものが写っているということを言われることがありますね。
それから、カメラについているプロジェクター機能を使う人もいますね。ロケ終わりで、演者さんと一緒にどこかに投射してみんなで見るとか。もう少し大きくできればなあという声もありますけど(笑)。
ーープロジェクター機能は家庭用カメラの機能だったんですけど、そんな風に使われているんでね。NX30Jも生産完了だし、すでにプロジェクター機能付きのカメラもなくなってしまいそうだし、ソニーは現場の声がわかってないですね(笑)。
ーーこの10年でみると、カメラのバリエーションは増えていますよね。
かつては、Z5J、PD170を用意しておけばよかったのですが、今はカメラにしてもカードもHDVもありますし、種類が多くなりすぎて、なにを増やせばいいのか判断が難しいですね。小型カメラにしもて、最初からZ90を出してくれればいいのに、よく知っている人はX70を指定してくることもあって。だから全般持っていてご要望にお応えしていく感じです。ただこの業界の場合は、台数集めることもが重要なので、ビデオカメラに関してはほとんどがソニーになっているのが実情です。
ーー同じ映像制作業界といっても、界隈によって選ばれる機材が違うということがよくわかりました。お忙しいところありがとうございました。