ちょうど一年前に登場したJVCのレンズ交換式ビデオカメラ、GY-LS300CH。スーパー35センサーにマイクロフォーサーズマウントを採用し、VSM(バリアブルスキャンマッピング)という独自機能で、レンズに合わせて撮像面積をフレキシブルに変えられるというのが、技術的には面白い話題だった。
ジャンルとしては、JVC初の「制作用」のカメラということで、その半年後には、J-Log(ログガンマ)も採用。Logについては、もともと計画されていたが、発売の段階に間に合わなかったということだった。ログが採用されたことで、より制作系カメラという路線が強くなったように見える。
ただ、このカメラ、具体的にどんなシーンで力を発揮するのか、いまいち見えてこなかったのも事実。いわゆるレンズ交換式の大判センサービデオカメラでは、同価格帯で、キヤノンやソニーにも存在する。特に昨年末に登場したソニーFS5などはヒットしている。ライバルは強力だ。
センサーの素性は悪くないと思う。あとMFTにはいいレンズも揃っているわけだから、ソニーE、キヤノンEFに対抗して、MFTマウント採用のビデオカメラとして、パナソニックのAF105の後継が出る前に地歩を築くという方向もなくはない。ただ2社に対して、キットレンズがないのは痛い。LS300CHのキットレンズをあれこれ検討して選んでみようかと、GW中にLS300CHをJVCからお借りすることにした。
と、そんなとき、某メーカーのセミナーで辻智彦さんにお会いした。辻さんにはビデオサロンで短期連載を書いていただたこともある。映画やテレビで活躍されているドキュメンタリーのカメラマンである。なぜ某メーカーのカメラのセミナーに出ていたのかというと、この4月以降、番組制作で4K撮影を打診されることが急激に増えたのだという。そこで自社で導入する手頃な4Kカメラを検討していたのだった。そのセミナーで見たカメラも候補のひとつだったが、やはりドキュメンタリーには向いていないということで、次にJVCのLS300に興味があるのだと言う。
「LS300なら今、ちょうど編集部で借りたところですよ。試してみます?」
「ぜひぜひ!」
と、他社のセミナー会場でこんなことを話しているのも申し訳ないのだが、
わたしが検証するよりも辻さんが現場投入を前提として検討したほうがいいに決まっているので、会社に帰って、すぐに機材を発送した(もちろん、メーカーさんにも許可をとって)。
辻さんがLS300に興味を持ったのは、まずマイクロフォーサーズマウントだということ。HDであれば1/3インチの3板でも充分に番組制作のメインカメラになるが、4Kだと現場では感度の面で不足する。画質の点でも物足りない。またドキュメンタリーにおいてスーパー35センサーではピントを合わせ切れないし、そもそも担げるサイズの高倍率のズームレンズは不可能。かつて16㎜カメラと高倍率ズームレンズで密着ドキュメンタリーの方法論が確立されたように、ちょうど1型から4/3型くらいの撮像面である程度のズームレンズを使って、密着ドキュメンタリーが可能なのではないか、という。LS300であれば、VSM機能で4/3型くらいの撮像面積での4K収録ができ、ちょうどいいのではないかと思っていたのだという。
また今の番組の作り方として、フットワークも求められるし、再現ドラマ的なシーンも多い。またグリーンバッグでの撮影も多い(できれば10ビットでカメラから出力してほしい)。つまりENG用カメラか、制作用カメラかという選択ではなく、両方の要素が求められているのだという。また、4Kだからといって、機材費を乗せられるわけでもないので、これまでのHDと同じくらいのコストのカメラが求められる。
現状、まだテスト段階だが、いくつかの不満点、改良してほしい部分もあり、JVCの開発陣と情報交換をする場を設けることになった。
テスト段階で辻さんが組んだシステムは、まずオリンパスのズームレンズ、12-40㎜だったのだが、これはレンズ側に手ブレ補正機能がなく、画質は十分なのだが、手持ちでの撮影が難しい。
次に、キヤノンのENGレンズをB4マウントからPLに変換するAbelCineのHD×2という変換アダプターを使って装着(PLからMFT変換も必要)。このアダプターだと、エクステンダーを入れずM4/3よりやや画角の広いVSM”86%”4Kの画角で撮影可能だという。また、AbelCine HD x35というアダプターを使えばスーパー35相当での撮像も可能になるはずだ。
こうなると肩に載せるしかないので、手持ちのショルダーパッド(池上製)やレンズサポートなどでリグを組むような感じになる。肩に乗せるとファインダー、LCDパネルは当然使えない位置になるので、定番のCineroidを適切な位置にもってきた。かなり前後長はあるが、それでも通常のショルダーカムコーダーよりも短い。
使っていて気になったのは、NDフィルターが触りやすい位置にあって、しかも回転しやすいので、気が付かないうちに動いてしまっていること。ここはもう少し硬めにしてほしいという要望が出た。たしかにショルダーカムコーダーでは、触りやすいこの位置ではなく、手がふれない上のほうにある。アイリスのダイヤルはENGレンズの場合は、レンズ側のリングで操作するが、オリンパスのレンズなど一眼のレンズは本体で絞りを操作するわけで、もっと大きめにしてほしい、でも不用意に回ってしまわない配慮もほしいというリクエストも出た。辻さんは、パナソニックのAF105も使ってきたが、これは無骨だが、かなり考えられているという。たしかにアイリスのダイヤルは巨大ながら、ちょうど左手を置くところなので、不用意に回らないように大きめのガードがついている。
スタイルとしては、AF105の後継でもいいが、JVCでのHDVの業務用機、HD100というショルダーカメラがあった。辻さんはこれを愛用していたという。たしかにHD100はカメラマンにとって使いやすいカメラということでオペレート面を中心にひじょうに評価は高かった。ただ記録が720pまでだった(HDVテープ)であり、しかも30pだったので、残念ながらそのスペックがネックになって選ばれることはなく、存在感がなくなってしまった。JVCのセミショルダースタイルとしては、GY-HM850というラインでHD100のスピリットは残っているので、そこを4K化し(もちろんセンサーを4/3か1型くらいする必要はあるが)、フジノンあたりにMFTマウントでの高倍率ズームを作ってもらうのはどうかという案も出た。
これからズームレンズにまた注目が集まるかもしれない。くしくもキヤノンもまた、EFマウントのシネズームをNABで発表した。
ワークフローの面では、4Kでの番組制作となるとまたオフライン編集の発想を復活させないと対応できないのではないかという。そのためには、4Kと同時に軽いデータを記録できるようにならないか、という要望も出た。4KとHDではなく、さらに軽いデータにして、海外や地方ロケで、軽いデータだけをサーバーにアップしたり、データ共有サービスで送ることで、先にオフライン編集を進めてもらうことができる。
画質、とくにJ-Logについて具体的な話も出たが、そのあたりは、実際に現場投入をしたレポートをいつかビデオサロン誌面でお伝えできればと思う。
いずれにしても、LS300はこれからの4K番組制作用のカメラとして潜在能力のあるカメラであり、期待は大きい。ただいわゆる「つるし」の状態では使えないのも事実である。カメラ周りのシステムを構築し、ワークフローなどを検討し、技術的に確立した後で、現場投入していくことになるだろう。乞うご期待。