(編集部・佐山)

映画評論家・前田有一氏によるビデオサロンの連載「それが映画を〇〇にする」を加筆・修正して1冊にまとめた本が3月10日に発売されます! 連載当初から4年分をまとめた「それが映画をダメにする」の続編となり、今回収録したのは、2017年2月号から2021年1月号までに掲載した計48本。

タイトルは「どうしてそれではダメなのか。~日米中の映画と映画ビジネス分析で、見える世界が変わる」。連載タイトルから大きく変更されましたが、これは内容をより正確に反映させたため。キャッチコピーにも注目です。

「分断から和解へ」連帯するハリウッド、
躍進するユーフォーテーブル(『鬼滅の刃』)、
潜伏するチャイナマネー……
日・米・中の40作品以上を通じてポストトランプ時代を読み解く。

連載を愛読されている方ならご存じかと思いますが、前田氏の映画評論は単なる映画批評ではありません。時代を反映するといわれる「映画」を題材に分析することで見えてくる、文化や政治・ビジネスシーンを鋭く展望。いま世界で何が起きて、起きようとしているかを見抜き、正しく生き抜くヒントを与えてくれます。

どうしてそれではダメなのか。
~日米中の映画と映画ビジネス分析で、見える世界が変わる

2021年3月10日発売
四六変型判 224ページ
定価:本体1,500円+税
ISBN 9784768314593

Amazonで予約できます!

 

 

 

本の「まえがき」を全文掲載します。興味を持たれた方はぜひ、ご一読ください。

まえがき

前田有一

●ここ数年、世の中では奇妙な出来事ばかりが起きている。

ケース1 大統領選に敗れたトランプ米大統領(当時)が「不正選挙」などと騒いだところ、熱狂的な支持者が暴走して連邦議会に乱入、死者まで出てしまった
ケース2 無関係なはずの日本でも「不正選挙の証拠」(実際はデマ)を拡散する保守系文化人が続出、多くの人々が信じてしまった
ケース3 新型コロナウイルス感染症について、世界トップクラスの医療技術を持つはずの日本が、周辺アジア諸国の中でワーストに近い感染状況に陥った

じつはこの3つのケースはどれも、権力側が流したプロパガンダを無邪気な大衆が信じた結果起きた被害の実例だったりする。

ケース1と2では、トランプ氏側がいう「不正の証拠」について、当局や大手メディアが逐一ファクトチェックして、彼らの誤りを正す報道をしていたにも関わらず、狂信的な支持者の耳には届かなかった。まともな反論よりも、デマの拡散起点となった怪しげな文化人、著名人のいうことを無批判に受け入れる者が多かった。

プロパガンダには、常に発信源と拡散者が存在する。日米ともに、拡散者となった文化人たちは日ごろから「にっくき中国の傀儡バイデンが、愛国者トランプに成敗される」などという漫画的ストーリーを語り、支持者たちを喜ばせてきた。そのほうが著書が売れるからだが、支持者たちには、彼らがビジネスのためについている嘘を見抜く力がなかった。つまり、情報リテラシーが不足していた。

ケース3では、20年初頭の第一波流行の頃に「PCR検査を増やせば医療崩壊する」「PCR検査は精度が悪く使い物にならない」「4日間は自宅で様子見すべき」などのデマ・間違いを、同じような顔ぶれの人たちが拡散、信じた結果、感染症対策の基本である「早期発見、早期隔離」のコンセンサスが全国民的に取れなかったことが何よりも大きい。

以来、人口当たりのPCR検査数で、日本はいまだ先進国ダントツの最下位だが、あのときの不毛な議論がその背景としてあることは疑いようがないだろう。これも、最低限のトンデモ情報を見抜く目を大衆が持っていれば防げたのではないだろうか。

●いつでも権力側は、プロパガンダを流す動機を持っている。権力を失いたくないとか(トランプ氏の場合は多くの疑惑や訴訟を抱えており、落選すれば逮捕される恐れもあった)、初期対応を誤り市中感染を広めた責任を追及されたくないとか、そういう理由だ。

政治の世界ではそういう時、国民を分断・対立させてコントロールするのが効果的といわれる。「分割統治」といって、かつては植民地経営において実践され、その後も世界中で応用されてきた政治手法だ。残念ながら、こうした行動原理を改めさせることは難しい。

それならば……情報を受け取る側がスキルアップし、簡単に騙されないようにしなくてはならない。そのためにはこの動画時代、「映像の読み解き方」をまず身につけなくてはいけない。先述のデマの多くも、ネットなどの動画コンテンツによって広がったのだ。

「映像の読み解き方」ならば、私の専門分野である。映画を見るプロは、どんな視点から映像を見て、どう分析しているのか。その実例を伝えることで、それぞれのリテラシー向上に役立つのではないか。情報リテラシーが向上すれば、これまでとは世界の見え方が違ってくる。それは非常にエキサイティングな体験になるはずだ──。そんな思いを込めて、私はこの本をまとめた。

●私はこれまで17年間以上、政治記者・キャスターを続けつつ映画批評家として映画・映像分析を生業としてきた。かなり特殊な立ち位置にいる人間である。毎月のように国会議員の話を聞きに行って、タテマエだらけの話の中から本音を探り、情報交換したりしている。

一方で、年間数百本の新作映画を分析し、批評活動を行なっている。テレビやラジオ、新聞や雑誌などマスメディア上だけでも、デビュー以来、年間平均200本以上、そうした映画情報を届けてきた。

このような境遇が功を奏して、メディアリテラシーについては相当な実戦経験を積んでいると自負している。

本著では、ヒットした映画や有名作品から新しめのものを選んで分析し、ケーススタディとして「映像読解力」を自然に身に着けられるよう心がけた。映画の話はとっつきやすいし、何より実践的だ。

こんな見方があるのかと驚きながら一冊読み終えるころには、間違いなくあなたの映像読解力はレベルアップしているだろう。その能力は普遍的なものだから、映画だけでなく日々のニュースの裏側を考察することにも応用できる。なによりこの力は、映像・SNS時代に、ヨタ情報に惑わされず、ブレずに生き抜くためには必須のスキルである。

情報発信力が桁違いと言われたトランプ&安倍政権にも私は一切騙されなかったし、インチキ文化人のミスリードも常にかいくぐってきた。いわば歴戦の猛者みたいなものだ。その着眼点や発想を知っていただくことで、必ず皆さんにも役立つものと信じている。

どうしてそれではダメなのか。
~日米中の映画と映画ビジネス分析で、見える世界が変わる

2021年3月10日発売
四六変型判 224ページ
定価:本体1,500円+税
ISBN 9784768314593

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